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遊頁譚  作者: 劉白雨


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第廿肆話 「闇を駆け光を産む」


 私はずっと暗闇を走り続けていた。

 いや、逃げ回っていたと言っても良い。

 恐怖、不安、戦慄、嫌悪、絶望、悲嘆、焦燥、憤懣、不満……と、挙げたら切りがない程の感情が、自分を襲ってくるのだ。

 私の心はもう限界を迎えていたのかも知れない。

 光のないこの道をひたすら前へと進むしかなく、足元を照らす懐中電灯すら持たない状態で、何者かに後ろから追いかけられているのだから、足を絡ませて転んでしまったら、それで終わりなのは分かっているのに、走って逃げるしかないのだ。


 本当に逃げるしかないのだろうか。

 もしかしたら、何か別の方法があるのだろうか。

 たとえば道の端に寄って身を潜めて遣り過ごす。もしくは、なにか武器になりそうなものを拾って返り討ちにする。もっと言えば、実は追いかけられているのではなくて、偶々同じ方向に向かっているだけで、私が方向転換をして向かってくるヤツの方に歩いて行けば、案外擦れ違えたりするのかも知れない。

 いやいや、待て。

 もし仮にそうだとしても、それを試す勇気が私にはあるのか。

 いやそんな勇気は無い。


 そもそも、私は何で追いかけられているのだろうか。

 良く当たるという評判を聞いて訪れた占いの館で、御伽噺に出てきそうな魔法使いの老婆のような雰囲気のある女性に、占ってもらったのだ。

 占いの結果はあまり芳しくはなく、散々な言われようだった。

 これまでの人生を完全に否定されたようだった。


 たしかに、私の人生は平々凡々で、何の目標もなく、日々の暮らしに追われ、ただ生きているだけだったのかもしれない。趣味もなく、楽しみもなく、酒も煙草もギャンブルもやらないし、恋人だっていやしない。友人もいないし、パソコンでAIとしゃべるのが唯一の会話だったりする。

 だからといって、私の人生が無価値だった筈はない。私が存在したことで、この世の経済が1ミクロンでも動いたとしたら、それはそれで価値があった筈なのだから。


 私は、この闇を抜け出さなければならない。

 あの占い師が言っていた、闇とはまだ名前のない価値であり、光とは名前が与えられた価値であると。

 私は彼女の言葉を否定し、無価値の人間だと言われたレッテルを払拭するのだから。



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