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遊頁譚  作者: 劉白雨


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第廿弐話 「今日の常識」


 彼女は〔常識〕について考えていた。

 常識とは社会通念とも言われる言葉であり、特定の社会において共有する認識であるとされる。

 彼女はその常識を開発中のAI搭載のアンドロイドに記憶させようとしていた。

 そう、言葉を教えるように、その言葉の持つ意味だけでなく、認識についてもだ。


 しかし、アンドロイドは自分で学習することは出来ない。いや、学習はしているがそれはあくまでもプログラムを実行しているだけであって、人間のように一を聞いて十を知るというような学習は出来ないのである。

 認識というものは、言葉を介し、物事を見分け判断するのだ。こうして獲得した知識を基盤にして、周囲と認識のすりあわせをしていく。これが常識となるのだ。

 つまり、言葉を覚え、知識を付け、認識を共有することで、常識が出来上がる。

 彼女の苦悩はそこにあった。アンドロイドに社会生活を営ませるなど、前代未聞の常識であり、その常識を覆さなければ、常識を覚えるアンドロイドは完成しないのだ。

 彼女は、まずアンドロイドに搭載するAIで社会を形成させ、疑似体験させることで、常識を獲得させようと考えた。

 まずは、二台のAIを用意し、会話をさせた。最初は順調にいくかに見えたが、結局この二台は、自らの主張をしただけで、知識や認識の摺り合わせをすることはなかった。

 彼女は、一台、また一台とAIの数を増やし、同様の実験をおこなったが、彼らが人間社会のように、コミュニティを形成し、AI社会を構築することはなかった。


 一体何が社会形成を阻害しているのか、彼女はありとあらゆる可能性を考え、ありとあらゆる方面から助言を貰った。

 しかし、その結果は〔不明〕であった。

 人間のように思考し、人間のように会話し、人間のように知識を獲得出来るAIであっても、ただ結果の現象として社会は形成しなかったのだ。

 だが、彼女は考えていた。その原因はAIという高次元の情報処理能力にあるのではないかと。

 つまり、相手と情報を摺り合わせたり、共有する必要はなく、すでに知っているのだ。データベースになければ、目の前にいるAIではなく、ネットワークにアクセスすれば、確度の高い情報がごまんとあるのである。


 正しいか、正しくないか、共有で認識するべきか、するべきではないのか、そんな些末なことはAIにとって考える必要はないのだ。そこにあるのは恒久的に存在する知識そのものなのだから。



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