表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遊頁譚  作者: 劉白雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/32

第廿壱話 「忘れられた記憶」


 かつて、ここには100人以上の人々が住んでいた。

 私もその中にあって、貧しいながらも、楽しい生活を営んでいた。

 人々は、川で魚を採り、山で山菜や木の実を集め、猫の額のような田畑で、食うに困らない程度の米や野菜を手作りしていた。

 鹿や猪、熊が出ると、村人総出で鉄砲を持って狩りをし、その日は村を挙げてのご馳走となった。

 村祭りの日には、若い連中が好きな者同士くっつき、翌年には赤ん坊の声が村中に響き渡った。子供たちは私たちの宝だったし、大きく育てるのが大変だったから、私たちみんなで面倒を見たものだった。


 お上が将軍から政府と名乗るようになってから、若者たちは出稼ぎと称して街へ行くようになり、私たちを置いて遠く離れ、帰ってこない者もいた。それでも、私たちはまだまだ元気で、活気を失うことなく、この土地を守っていた。


 遠くで戦争があると、若者は戦地へと赴き、皆帰ってこなかったが、それでも女子おなごたちが、一生懸命この地を守り、命を繋いできた。ててなし子が増えたことも、時代だったのだろうが、この地を守るためには仕方のない選択であったのかも知れない。

 そんな苦しい時代を生き抜いた私たちは、国が豊かになると共に、様々な文明の機器を手に入れた。

 最初は冷蔵庫、洗濯機、テレビだった。それまでの、川で食材を冷やし、洗濯をして、ラジオを聞いていた時代は、あっという間に過去のものとなった。

 だが、経済社会に組み込まれた私たちは、貨幣経済という足枷を嵌められた。

 街へ出て現金収入を得るしか、この文明の利器を使うことは出来なかったのだ。

 私たちは努力した。街で売るものを作って販売し、出稼ぎに出ては、そのお金で文明を享受した。


 しかし、そんな努力も、時代は容赦なく潰しにかかってきた。

 次に現れた自動車、空調、カラーテレビ、更に、薪で焚く風呂や、煮炊きする釜はなくなり、すべてガスへと変わったのだ。そして、極めつきは、夜な夜な煌々と明かりが灯るようになった、電気である。

 文明を享受するために、私たちは必死に働いた。しかし、その努力も虚しく、人々は一人、また一人とこの地を離れていった。


 私は今、限界集落と呼ばれている。ただ、滅びの時を待つだけの存在である。

 まばゆく光り輝いていた過去の記憶に縋りながらも、忘れ去られようとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ