第拾参話 「空に舞う羽根」
この日も素晴らしく良い天気だった。雲一つ無い青空が広がり、太陽からの刺すような日差しが地上のアスファルトを焦がすかのように照り付けていた。
彼はその青空を見上げ、溜息をついた。
この数日日照り続きで、雨が降らず、水不足が深刻化してきていたからだ。
まだ給水車が出回るような状況ではないが、連日節水を促す放送が、市内の各所からスピーカーでがなり立てられていた。
暑さのイライラと、水不足のイライラ、そしてがなり立てられるイライラに、市民は精神崩壊寸前まで追い込まれていた。
御多分に漏れず、彼もその一人だった。
雨さえ降ってくれれば、そう彼は思うのだが、神はそんな願いを聞き届けてはくれず、むしろあざ笑うかのように、日差しを強くするのだった。
一見平和に見えるこの街も、水不足という脅威で人々の心は荒み、追い込まれた市民は何をしでかすか分からない程、追い詰められていた。
中には水源地を外国人に売り払った売国奴のせいだと、政府を糾弾する団体も居たが、この暑さの中、デモに参加するものは皆無で、呼びかけに応じる者はいなかった。
それでも、ネット内では大いに盛り上がっているようで、この水不足を誰かのせいにしようと、ありとあらゆるものがターゲットになっていた。それが政府であったり、特定の国であったり、企業であったり、糾弾出来るものなら何でも良いとばかり、徹底的に叩き潰そうとするかのような、誹謗中傷がネット内を飛び交っていた。
とはいっても、いつものネット界隈である。熱くなっているのは一部の人間だけだとばかり思っていた。
その時までは。
彼の耳におどろおどろしい何かを叩き付けるような音が届いたかと思うと、突然黒々としたものが現れた。それは、空を覆う程に飛ぶ、大量の鳥だった。
彼らはまるで何かから逃げるかのように、大きな鳴き声を上げ、翼を羽ばたかせて、一直線に全速力で逃げていた。無数の鳥たちの身体は、照り付けていた日差しを覆い隠し、まるで暗黒が訪れたかのように、街は暗闇へと変わった。
すると、その後ろから、現れたのは、空を覆う程の飛行機だった。そして、その機体から多くの爆弾が落とされていた。
彼はその光景を見て、逃げなきゃとは思ったが、身体が言うことを聞かなかった。
それはまるで、羽根が舞うような光景だった。




