はやとちり、思い込み
***BL*** 付き合って1ヶ月の彼は結婚していた?!勘違いから別れた二人の話。ハッピーエンドです。
そっかぁ、、、変だと思ったんだよね、、、。
いつも僕の家で会ってたし
平日しか会えないし
外でご飯とか無かったし
結婚かぁ、、、結婚してたのかぁ、、、
それは、ダメだよ、、、やっちゃいけない事だよ
どんなに好きでも、、、。結婚してる人はダメだ、、、。
*****
「引越ししたい」
「どうした、急に」
「あの人、、、結婚してた、、、」
「え、、、」
「小さい子供いた、、、」
「、、、あー、、、」
「付き合って、どれ位だっけ?」
「1ヶ月、、、」
付き合い始めて1ヶ月なんて、1番楽しい時期だ。
「別れるなら早い方が良いよ」
「ホント、そう思う。合鍵渡して無くて良かった、、、」
合鍵、昨日作ったばっかりだったのにな、、、。彼から告白されたのにな、、、。既婚者はダメでしょ。既婚者は、、、。
昨日、商店街のケーキ屋で、孝介さんが小さな女の子とケーキを買っていた。幼稚園か保育園のお迎えらしく、孝介さんは荷物で膨らんだ、可愛いピンクのバックを持っていた。
会話の聞こえない距離だったから、僕は急いで写真を撮った。
止めればいいのに、後を付けた。孝介さんは、二人でマンションに入って行き、鍵を開けて、元気にただいまー!なんて言っていた。僕は、部屋の位置を確認して、ポストを見に行く。ちゃんと佐藤孝介の佐藤って表札が付いていた。
「兄弟の部屋じゃないの?」
「孝介さんは、妹しかいない筈だから、、、」
「、、、」
「最悪だぁ、、、。せっかく好きな人に告白してもらえたのに、、、」
僕はずっと考えていた。別れなくちゃいけないと思いながら、別れたくない。あんなに小さな子がいて仲も良いのに、このままじゃいけないと思う、でも別れたくない、、、。
昼休みにスマホを確認したら、孝介さんから
「今日会いたい」
って入っていた。
、、、別れ話かも、、、
一時の火遊びだったって、目が覚めたのかもな、、、。
「良いですよ」
って送ったら
「仕事終わったら、唱ちゃんの家に行くね」
と返事が来た。
まただ、、、。孝介さんは外で会ってくれない。
夜、8時前に孝介さんから
「ごめん。残業終わらず、まだ帰れない」
と受信があった。僕は、会うのが怖いクセに、いつ来ても良い様にお風呂に入らず待っていた。
お腹が空いてるかも知れないから、カレーを作っておいた。
ホッとした様な、残念な様な、変な気分だった。
「大丈夫です」
と返事を送り、先にお風呂に入る事にした。何だか疲れたな、、、と思いながら、シャワーを浴びる。
いつもいつも孝介さんの事ばかり考えていた。
カレーを温めながら、孝介さんも家族にご飯作るのかな?とか、まだ、小さいあの子を寝かし付けたりするのかな?って考えてる内にどんどん落ち込んだ。カレーがグツグツ煮立ってしまった。お米も、一応2合炊いたのに、、、後で冷凍しないと、、、。
カレーはめちゃくちゃ美味かった。
「よし!元気出た。別れよう」
やっぱり、結婚してる人とのお付き合いはダメだ。
僕は、孝介さんとどうやって別れようか、考えた。考えながら、孝介さんが告白してくれた日の事を思い出す。
**********
孝介さんと初めて会った日は、雨だった。カフェでお茶をしていたら、雨が降り始めて、あっと言う間に本降りになった。
僕は、窓側の一人席で外を見ながら抹茶オレを飲む。店に入った時、スマホで降水量をチェックしていたので、1番大きなサイズにした。
降水量は変わらず、後30分位で止む予定。
雷が鳴る度に、隣の席の人が反応するから可笑しかった。イヤホンで音楽を聴いているみたいなのに、可哀想、、、。
雷が少しずつ遠のいて、雨も小降りになっていく。隣の席の人は、食器を片付けて椅子をしまった。
僕は、窓の外を見ながら、どうせ時間もあるし、もう少しゆっくりしていこうと考えていた。
と、隣の席にスマホが置き忘れていた。
あ!と思って、スマホを手に取り振り向いたら
「いけない、いけない」
と言いながら持ち主が戻って来た。ものすごくカッコ良い人だった。この人が、さっき雷を怖がっていたかと思うと、親近感が湧いた。
「あの、忘れてました」
と言って、手渡すと
「ごめんね、ありがとう」
と微笑んでくれた。急いでいたのか、スマホを受け取り、レジに向かおうと身体を捻った途端、手に持っていたスマホを落とした。そして、自分の足でスマホを蹴って、慌てている。
僕は可笑しくて可笑しくて、笑わずにはいられなかった。
次の日、僕が改札横の売店でガムを買って振り向いたら、改札で扉が閉まって慌てていた人がいた。彼だった。
僕は彼に好印象を持ち、それだけで好きになってしまった。
駅に近付く度に彼を探す、、、。
駅にあるドラッグストアで彼を見かけた。歯磨き粉を選んでいる。どれを買うのか興味があったから、知らんぷりをして横に立つ。
裏面を読んで悩んでいた。歯磨き粉でそんなに悩むかな?と思いながら、横目で見ていると
「これとこれ、何が違うんですか?」
と聞いて来た。びっくりした僕は
「え?」
「あ!店員さんかと思った、、、」
僕は、ブハッ!と笑う。
「君、カフェで、、、」
「お疲れ様です。スマホ、大丈夫でしたか?」
笑いが止まらなかった。
彼は少し恥ずかしそうに
「そうそう、落としたスマホ、自分で蹴るなんてびっくりしたよ」
と話しを続けてくれた。
「ね、これとこれ、何が違うの?」
と歯磨き粉を見せるから、僕は覗き込み悩んだ。
「パッケージが新しくなっただけ?名前も値段も同じですねぇ」
「そうなんだよ。同じだから何が違うのかわからなくて」
と言いながら歯磨き粉を置いた。
「え?買わないの?」
「あ、見てただけ」
結構長い時間悩んでたみたいだけど、、、。
やっぱり面白い人だな。
翌週、あのカフェの窓際で抹茶オレを飲んでいたら、目の前を彼が通った。
(スーツ、似合ってるな、、、)
と思って眺めていた。
スマホに友達から通知があって、弄っていたら
「お疲れ様」
と隣りに人が来た。
僕が顔を上げると彼だった。
「仕事上がり?」
飲み物と軽食が載ったトレーをテーブルに置き、椅子を引く。
「お疲れ様です。さっき終わりました」
スマホを置きながら返事をする。
「サンドイッチ、半分食べない?」
「え?」
「君と食べようと思って」
僕を意識してくれて嬉しかった。
「ありがとうございます」
彼は、サンドイッチを一つ取って、お皿ごと僕の方へずらした。
「どうぞ」
僕も、サンドイッチを手に取り一口食べた。
「「美味っ」」
同じタイミングで、同じ感想を言っていた。
彼は名刺を出して
「名前、教えてくれる?」
と言った。
「成宮唱です」
「ショウちゃん、どんな字?」
「口へんに、日が二つの、、、」
「あ、歌唱の唱だね」
「そうです、そうです。えっと、佐藤さん」
「佐藤さんは沢山いるから、孝介で」
「孝介さん」
孝介さんは名刺に個人の番号も書いてくれた。
駅でたまに会うと、お互い声を掛ける様になり、半年経った頃二人で飲みに行った。それから一気に仲良くなって、初めて会った日から一年後に、孝介さんから告白してくれた。
告白した時も、孝介さんは大人で
「俺と付き合わない?」
と自然に言った。本当は、僕も告白したかったけど、緊張するし、反応が怖くてなかなか言えなかったのに、孝介さんは大人の余裕だった。
*****
告白された週末の金曜日、映画デートした。夜には僕の部屋で、二人で朝まで飲んだ。
それ以降、孝介さんとのデートは僕の家になった。外で会った事は無い。
平日の夜、孝介さんから連絡が入って、その後僕の部屋に来る。仕事の後だし、終電もあるから数時間だけ、ちょっとお酒を飲みながら話して帰る。
まだ、一緒にいたい僕は駅まで送ると言うのに、孝介さんは絶対断って来る。
「夜遅いし、危ないから」
そう言われると、無理に付いて行く訳にも行かず、玄関で見送る。
土、日に1日会う事は無かった。
**********
10時半過ぎに孝介さんから
「もう寝てる?」
って受信があった。僕は、部屋の電気を消して布団でスマホの画面を確認した。
画面を下にして伏せる。絶対返事をしない、、、。しない、しない、しない、、、。
インターホンが鳴った。
「え?」
こんな11時回ってるのに?
ドアの外から
「唱ちゃん?」
と声がした。孝介さんの声。僕は息を殺して、音を聞く。まだ、玄関前にいると思う。
もう一度インターホンが鳴った。
僕は諦めて玄関を開ける。
カチャリと言う音がして、孝介さんの顔を見ると心配そうにしている。
「良かった、、、。返事が無いから、寝込んでるかと思った、、、」
電気の点いてない部屋に気付くと、まだ心配してるみたいだった。
「あのね、孝介さん、、、。僕、、、孝介さんと別れたい、、、。ごめんね。、、、本当にごめんなさい」
そう言って頭を下げて、静かにドアを閉めた。
僕は玄関から離れられなくて、その場にしゃがみ込んだ。足音は聞こえない。まだ、ドアの向こうに孝介さんの気配がする。
無音が続き、暫くしてからゆっくり小さな足音が遠ざかって行った。
僕の恋は終わった。
*****
何度も、何度も考える。孝介さんは、どうして結婚してるのに僕に告白したんだろう、、、。
孝介さんが結婚して無ければ良かったのに、、、。あーあ、、、好きだったのにな、、、。
涙がポロリと溢れた。
**********
唱ちゃんに振られた、、、。
そりゃ、そうだよね。付き合ってるのが、6歳も歳上の男だ、、、。1ヶ月経って、冷静になっちゃったのかな?
本気だったのに、、、引き止める事も出来なかった。
叶わない恋だと判っていたのに、告白してしまった。唱ちゃんも色良い返事をくれたから、嬉しかった。でも、いつか振られるんだろうと覚悟もしていた。
1ヶ月は早過ぎたけど、、、いつかはこうなる運命だ。俺は、男の子が良いけど、唱ちゃんは多分違う、、、。
でも、、、やっぱり諦められない、、、。
**********
「あれ?元気ないじゃん」
「んー、、、。彼と別れた、、、」
「あぁ、あの結婚してた人?」
「はぁ、、、」
ため息しか出ないよ。
「でも、早く別れて良かったんじゃない?」
「うん」
「唱は、メンタル弱いから、不倫なんて出来ないだろ?これで良かったんだよ」
「うー、、、」
職場なのに、涙が出そうでイヤだ。
机に伏せって泣いた。
**********
「こーちゃ!」
「沙恵ー!」
可愛い姪っ子は、まだ俺の事をちゃんと呼べない。
保育園に通っているけど、三月生まれだから、同じ歳の子と比べると1番小さい。舌足らずで、俺を見つけると走って来る。
可愛くて可愛くて、つい甘やかしてしまう。
「沙恵ー!こーちゃん振られちゃったよう。慰めてよ、、、」
「こーちゃ、いいこいいこねー」
「見て、この人可愛いでしょ?」
俺は、唱ちゃんの写真を見せる。唯一の写真。
「こーちゃん、振られて淋しいよー」
「こーちゃ、がんばえ!」
沙恵と絵本を選び、布団に行く。添い寝して、読み聞かせて寝かせる。
「お疲れ様」
「ん、ありがと。、、、もうすぐ、彰くん帰って来るか、、、」
「大丈夫?」
「うん、沙恵に元気貰った」
「彼とちゃんと話したの?」
「いや、、、。もう、良いんだよ。きっと、彼も悩んだろうし、やっぱり男と付き合うの、抵抗あったんじゃない?」
「、、、良い感じだったのに、、、」
**********
たまに、駅で孝介さんに会っても、近くに寄れなくなってしまった。気が付いても、気付いて無いフリをして下を見たり、買い物をしてるフリをする。
孝介さんもワザワザ話し掛けて来ない。
あんなに楽しかったのに、、、。
あのケーキ屋さんの前を通る度に、思い出す。孝介さんと娘さん、仲良かったな。やっぱり別れて良かった、、、。
チクリと胸が痛む。
仕事上がりにいつものカフェに寄る。久しぶりだった。窓際の席から、外を眺める。駅の方から孝介さんが歩いて来た。遠くても、すぐに見つけられる。やっぱりカッコ良いんだもん。ため息を吐きながら視線を落とす。
窓の外を歩いていた女の子が、僕の顔をじっと見る。可愛い。きっと、孝介さんの娘さんもこんな感じだろうな。つい手を振ってしまった。女の子は、満面の笑顔になる。
急に走り出した女の子は、孝介さんを見つけると手を引いた。
ヤバ、、、本当に孝介さんの娘さんだった。僕はテーブルに伏せて寝たフリをする。顔が見えない様に、孝介さんに見つからない様に、、、。
*****
「沙恵、沙恵!どうしたの?」
「んー!こーちゃ!こっち、こっち!」
小さい沙恵と手を繋ぐと、どうしても前屈みになって歩き辛い。
沙恵は、俺の手を引きカフェに入ろうとする。
「兄さん」
「沙恵が」
走って来た妹と、カフェの入り口で合流する。
「沙恵、喉が渇いたの?」
「こーちゃ!きて!」
妹も、少し疲れていたのか
「お茶でもしようよ。兄さんはコーヒーで良い?席取っておいて」
「後でお金払うから」
沙恵の小さな手で引かれて、窓際の席が並ぶ通路を歩く。
「こーちゃ!しょーちゃ!」
唱ちゃんがピクリと反応する。唱ちゃんがいた。
「ダメだよ。唱ちゃん寝てるから」
「やぁよ。こーちゃ、ない!」
「ない?」
「こーちゃ!げんき、ない。さえ、やぁよ」
唱ちゃんがゆっくり顔を上げた。
「ほら!しょーちゃ!」
「あの、、、どうして娘さん、、、」
沙恵が唱ちゃんを指差す
「こーちゃのすきなの!」
「沙恵」
後ろから妹が声を掛けた。唱ちゃんは妹に気付くと
「あ!すいませんっ!」
と言って、慌てて荷物を片付けようとした。
「兄さん、ちゃんと話ししたら?」
「え?」
「あ、紹介するね。俺の妹と姪っ子、、、」
*****
孝介さんの妹さんと、僕が娘さんだと思っていた姪っ子の沙恵ちゃんは、孝介さんとコーヒーを残して後ろのボックス席に移動した。
孝介さんは僕の横に座り
「久しぶり、、、」
と優しく言った。
完全に僕の勘違いだった。勘違いで別れてしまった。でも、今更勘違いだったとも言えず、僕は下を向いたままだった。
「ごめんね、俺に会いたく無かったでしょ?」
僕は声が出せずに、下を向いたまま首を振って否定した。
「沙恵、唱ちゃんの顔、覚えてたんだ」
僕は手元をジッとみて、指を弄る。
後ろのボックス席から沙恵ちゃんが顔を出している。妹さんの
「沙恵、落ちちゃうからちゃんと座って」
と言う声が聞こえる。
僕は自分の、はやとちりに落ち込んだ。
「えっと、、、。唱ちゃん、俺と付き合った事は忘れていいから、俺も、もう唱ちゃんに話し掛けたりしないし、、、。駅で会う事もあるだろうけど、もう、知らない人だと思ってくれれば、、、」
涙が溢れた。指先で涙を拭くと
「こーちゃ!メッ!よ」
沙恵ちゃんが覗いてる。
「沙恵っ!」
「こーちゃ!なかなおりよ!」
僕は、沙恵ちゃんの言葉に勇気を貰った。
「孝介さん、あの、、、。ちゃんと話しをしたいから、場所、変えても良いですか?」
「いいよ」
僕は孝介さんと、僕の家に行こうと思った。
鞄を背負って、トレーを持つ。沙恵ちゃんが顔を出して、僕を見る。
「沙恵ちゃん、仲直りしてくるね」
と言うと、沙恵ちゃんはニコニコした。
食器を片付け、お店を出る。
「僕の家でも良いですか?」
と聞くと
「俺の家、すぐ、そこだから、、、」
と言って、駅と反対方向に身体を向ける。
初めて孝介さんの家に行く、、、。
二人で話す事も無く、ただ歩いた。歩きながら、どうやって話そうか考えた。ケーキ屋さんで孝介さんと沙恵ちゃんを見た話しからしよう。それから、誤解した事を謝って、、、やり直しは、、、出来ると良いな、、、。
そんなに大きなマンションでは無かったけど、孝介さんらしい感じがする。20部屋位かな。駐車場もあった。
最上階の角部屋。孝介さんが玄関を開けて
「どうぞ」
と言ってくれた。
「お邪魔します」
奥のリビングには、大きなソファと、大きなテレビがあった。すっきりとした部屋。一人で住んでるってすぐわかった。
僕は涙がポロポロ溢れた。
孝介さんは、ちょっと戸惑いながら抱きしめてくれた。僕は孝介さんを抱き締めて、泣きながら謝った。
「ごめんなさい、、、ごめんなさい、、、。誤解してました。勘違いして、孝介さんを傷つけちゃった。どうしよう、、、どうしたらいいの?」
「唱、、、?唱ちゃん?」
「僕、孝介さんが結婚してると思って、、、。結婚してる人と付き合うなんて出来ないから、、、」
喉がヒク付き、言葉が出なくなる。
「、、、」
孝介さんが僕をソファに座らせる。ティッシュの箱を取り
「大丈夫。心配しなくて良いから、ね?」
と言う。僕は、涙を拭いてティッシュで鼻を抑え、孝介さんを見る。
「何か飲もう」
と席を立つ。冷蔵庫を開けて、ビールと酎ハイを出す。トレーにグラスを2つと、ビールと酎ハイの缶を載せる。
僕の隣りに座り、グラスに酎ハイを注ぐ。
「どうして俺が結婚してると思ったの?」
「ケーキ屋さんで、孝介さんと沙恵ちゃんが一緒にいる所を見ました、、、」
孝介さんはビールを注ぐ。
「いけないと思いながら、後を追いました。此処ではないマンションで、孝介さんは自分で鍵を開け、二人で「ただいま」って、玄関から入って行きました、、、。僕がポストを、チェックしたら佐藤って書いてあったから、てっきり結婚してると思って、、、」
「妹は、婿養子を貰ったんだ」
「婿養子、、、」
「だから、苗字は佐藤のまま」
「あ、、、」
そっか、、、。そうなんだ。僕はグラスの酎ハイを飲んだ。孝介さんもビールを飲みながら続ける。
「妹の旦那、沙恵のパパは、五人兄弟の末っ子で、妹が高校生の時から付き合っていた彼氏だった。俺の恋愛の対象は小学生の頃から男の子で、中学の時、母親に相談した。母親はショックを受ける事も無かったし、父親も妹も母親が話しをして受け入れてくれた。でも、子供は望めなかった。妹が結婚する時、彰くん、、、妹の旦那に、婿養子になって佐藤を名乗る気があるか聞いてみた。強制するつもりは無かった、もし、彰くんが良ければと言う感じで、、、。そうしたら、心良く了承してくれたんだ。彼は、俺の事も知っていたし、五男だから、妹と一緒になれるなら、苗字を変えるくらい平気と言ってくれた、、、」
孝介さんが僕のグラスに酎ハイを注ぐ。そして、自分のグラスにもビールを注いで、飲む。
「僕は、子供が持てないから沙恵が可愛くて仕方が無い。妹も働いているし、早く帰れる時は、保育園で沙恵を引き取って帰る事もあったから、それを見たのかな?」
そうかも知れない、、、。
僕は酎ハイを飲みながら考えていた。どうして孝介さんは、休日に会ってくれなかったんだろう、、、。
「他に、聞きたい事があったら何でも聞いて、、、」
「いつも、僕の家で会ってたでしょ?どうして、外に行かなかったの?」
「毎日、ちょっとでも唱ちゃんに会いたかった。でも、俺の仕事、なかなか時間が見えないから、外で待ち合わせ出来ないし。夜は心配だから、あまり外に出て欲しく無かった」
「あの、、、土曜日とか日曜日に会えなかったのは、、、」
「平日、遅くまで唱ちゃんに付き合って貰ってたから、休日はゆっくり休みたいかな?って。それにお友達と遊びに行くかも知れないし、、、。あ、そーゆうのもあって、結婚してると思ったの?」
僕は頷いた。
「そっか、、、ごめんね。不安だったね」
孝介さん、優しい、、、。
「唱ちゃんは、俺と付き合って平気だった?」
僕は、孝介さんの顔を見た。孝介さんが結婚して無いなら付き合いたいけど、、、。
「俺は、男の人が良いけど、、、唱ちゃんは、別に男じゃ無いとダメって訳じゃ無いよね?むしろ、女の子の方が、、、
「僕、孝介さんが良いです」
手に持っていた、酎ハイのグラスを一気に開けた。
「孝介さんが結婚して無いなら、孝介さんと付き合いたいです」
僕がグラスに残りの酎ハイを注ぐと、孝介さんは新しい酎ハイを取りに冷蔵庫に行った。自分の分のビールと、ツマミにチョコレートも持って来た。
トクトクと音を立てて注いでくれた。チョコレートの箱を開けて、どうぞと勧めてくれる。僕は一つ貰って、口に入れた、、、美味しい。
「孝介さんが結婚してるって思った時、すごく辛かったです。別れたく無くて、悩んで、、、でも、良く無い事だと思いました、、、。友達にも相談しました」
「友達、、、?」
「はい、職場の友達。そしたら、別れるなら早い方が良いって、、、。僕はメンタルが弱いから、結婚してる人と付き合うなんて出来ないだろ、、、って、、、」
孝介さんはビールを飲みながら、黙って聞いてくれた。
冷蔵庫から出した酎ハイが冷えていて美味しかった。
「別れるのは、辛いけど、、、付き合っても辛い、、、」
孝介さんが抱き締めてくれた。僕はまた涙が溢れて来て、抱き締めてくれた孝介さんの肩で涙を拭いた。
「勘違いしてごめんなさい。ちゃんと話せば良かった。でも、孝介さんの口からはっきり「結婚してる」って聞くの、、、怖かった」
「俺も、すぐ諦めないでもっと粘れば良かった、、、」
孝介さんがギュッと力を入れた。
「唱ちゃんが、やっぱり男と付き合えないって考えたのかと思ったら、もう、諦めるしか無かった、、、」
孝介さんも泣いてるみたいだった。たまに、涙を拭いてるみたいな仕草をしていた。
僕は、そっと孝介さんから離れて顔を見る。瞳が涙で潤んでた。ちょっと可愛い顔に見えて、あの雷の日を思い出した。カッコ良いのに可愛い孝介さん。大好きだな、、、。
ちゅっ。
孝介さんが急にキスをした。
「唱ちゃん、大好き、、、」
僕は、孝介さんの首に手を回す。
「孝介さん、大好き」
僕からもキスをする。吐息が漏れ、孝介さんがまたキスをしてくれた。孝介さんが泣いてる、、、。僕の頬が冷たい。そう思ったら、嬉しくて僕も泣いた。孝介さんも嬉しくて泣いてるのかな?
その日、初めて孝介さんとお泊まりをした。
朝、孝介さんは僕を抱き締めながら
「沙恵に仲直りしたって報告しないと、、、」
小さな声で呟いて、僕の瞼にキスをする。
「僕も沙恵ちゃんに会いたいです」
孝介さんの作った朝食を食べ、コーヒーをゆっくり飲んで準備をする。お昼前に、孝介さんが妹さんに連絡をしていた。それから、二人であのマンションに歩いて行く。途中でケーキ屋さんで、ケーキを3つ買った。
今まで、あのマンションでのシーンを思い出す度に、胸がチクチク、ザワザワしたけど、今日は違った。
マンション入り口でインターホンを押し、エントランスの玄関を開けて貰う。二人で、2階まで階段で上がり、沙恵ちゃんの部屋へ向かう。
部屋のインターホンを押すと、玄関が開いて
「こーちゃ!なかなおりした?」
と沙恵ちゃんが言った。
「沙恵のお陰で仲直りしたよー!」
孝介さんはそう言って玄関に入る。妹さんが迎えてくれて
「上がる?」
と聞くと
「これからデートだから」
と笑った。僕は恥ずかしくて、少し孝介さんの後ろに隠れた。でも、すごく嬉しい。
妹さんがニヨニヨ笑いながら
「頑張って」
と言う。孝介さんは妹さんにケーキを渡し、沙恵ちゃんに
「沙恵、ありがとう」
とお礼を言った。僕も沙恵ちゃんにお礼を言いたくて、後ろから顔を出して
「沙恵ちゃん、ありがとう」
と言った。
「しょーちゃ!」
沙恵ちゃんはすごく嬉しそうな顔をして孝介さんを見ると
「こーちゃ!ちゅーした?」
と元気に言った。
「こらっ!沙恵!」
沙恵ちゃんのママが恥ずかしそうに叱ってた、、、。
*****
二人で赤い顔をして、そっと玄関を閉めた。何だか、恥ずかしくてつい無言になる。
「チューした?って、、、それ以上も、、、」
僕は思わず、孝介さんを振り向いて目を見開いた。
「あ、ごめん、ごめん。つい、、、」
孝介さんがそっと手を繋いでくれた。
**********
今日のデートは水族館に連れて行ってくれた。電車に乗り、一度僕の家に寄り着替えをした。
二人で、昨日が金曜日で良かったと笑いながら駅まで歩く。電車で都内に向かい、大きな水族館に行く、幼稚園の遠足でも行った水族館。家族とも行った。友達と、水族館の下にあるお店に来た事もある。
何度も来た事があるのに、大人になってから来た事は無かった。ゆっくり、ゆっくり見て周り、薄暗い館内に癒された。
クラゲのコーナーが1番落ち着いて、二人で椅子に座って暫く眺めた。
(外でデートしてる、、、)
とても嬉しかった。
お土産屋さんでお土産を見る。沙恵ちゃんにぬいぐるみを買う事にして、どれが良いか悩んだり、自分達のお土産を選んだ。
「お揃いのキーホルダー買っても良いですか?」
孝介さんは、選んだキーホルダーを二つ持ってレジに並ぼうとした。僕は
「孝介さんの、僕が買いたいです」
と言うと嬉しそうな顔をしてくれた。
お土産屋さんの出口の横にお手洗いがあったから、僕は孝介さんに声を掛けて立ち寄った。個室に入り、キーホルダーを袋を破かないようにそっと取り出して、僕の部屋の合鍵を付けた。
喜んでくれると良いな。いつ渡そう、、、。そう思いながら、丁寧に袋に入れ直した。
*****
水族館を出て、食事をした後、孝介さんは僕を家まで送ってくれた。僕は、いつキーホルダーを渡そうか考えていた。
部屋の前で、孝介さんが
「いけない、いけない。唱ちゃんのお土産、持って帰る所だった」
と言いながら、鞄からキーホルダーが入った袋を取り出す。僕も、リュックの小さなポケットから取り出した。二人で交換すると
「?」
不思議そうな顔をした。
「あれ?重い」
「あの、、、開けて下さい」
僕が言うと、シールを剥がす。一度剥がれたシールは簡単に剥がれて、孝介さんは広げた左の掌にキーホルダーを出した。
「えっと、、、僕の家の鍵です。、、、試しに開くか使ってみて、、、」
孝介さんは静かに鍵を差し込んだ。
左に回すとカチャリと音がする。孝介さんがドアノブを回し、玄関を開ける。良かった、ちゃんと使えた。
「いつ?」
孝介さんが泣きそうな顔をしてる。
「この鍵、いつ作ったの?」
ドアを大きく開いて、僕の手を引く。家の中に二人で入り、孝介さんが鍵を閉める。
「孝介さん?」
「いつ、作ってくれたの?」
僕は孝介さんの手を引き、部屋に入る。
孝介さんが静かに着いてくる。
「別れる前に作ってありました」
荷物を床に置いて、孝介さんの荷物も床に置いた。
「鍵を作った日に、孝介さんと沙恵ちゃんを見て渡せなかったんです、、、」
「唱ちゃん、、、」
「鍵、渡せて良かった」
孝介さんがキスをした。僕の手を引きベッドに座らせると、押し倒されて、ちょっと乱暴なキスをされた。
「唱ちゃん、ありがとう。大好き、大好きだ、、、。絶対大切にするから、、、」
孝介さんは、初めて僕の家にお泊まりした、、、。2日連続、僕達は幸せだった。
二人がいつまでも仲良く出来ますように!




