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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
クノーテ共和国お助け編

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フェンリルとタエさんの話 2

 まあとにかく、白竜が手を加えた防護壁はそのまま使える事が確認できた。白竜が頑張って作ったであろう鉄壁を壊す必要が無くて、私としてもホッとした。後は、次のクノーテ共和国での活動をするためにも、アストン王国に戻って方々へ報告と相談をしなくてはね。

 私達はとうとう、1カ月過ごしたクノーテ共和国の砦を去る事となった。

 白竜が砦前の広場までやって来る事をヴィゴ閣下にお許しいただいて、私は白竜を呼んだ。

 すでに山の上にお座りしている白竜が遠くに見えていたけど、白竜は私の声に応じて山の上で羽を広げ、それからグーンとこちらへ飛んできてくれた。

 そしてその白竜の動きに反応したのか、遠くの山の向こうにフェンリルがヒョコッと頭を覗かせた。フェンリルが白竜の動きを注視しているのが分かったけど、私は白竜にだけ声を掛ける。

「白竜、一度エスティナに戻るよ。また私達を乗せてね。砦の前の広場に降りて」

『相分かった』

『よし、では行くか』

「・・・・・」

 白竜に声掛けをしていたのだけど、私達の会話にもう一匹が参加してくる。

「・・・白竜。フェンリルは何処に行こうとしているの」

『うむ。我らが帰る前に、白狼は一度お前に自分の巣を見てもらいたいと言うのだ』

「フェンリルの巣を?」

 フェンリルはまさか私達について来る気じゃないよね?と盛大に警戒していたのだけど、そうではなかったらしい。

『カノン、帰る前に私のタエに会っていってくれ』

「タエさんに?」

 タエさんって、もう亡くなっている方じゃなかったっけ・・・・。

『白狼の巣に、白狼の娘は眠っている』

 私の疑問を引き取って、白竜が答える。

 良かった。穢れの影響で認識がおかしくなっている訳ではないらしい。フェンリルは穢れの解呪が成功して、ちゃんと正気に戻っているみたいだ。

『私のタエは、カノン、お前と同じようにこの地に落ちて来た娘だ』

「ええっ!」

 そしてフェンリルの言葉に私は驚愕したのだった。




 フェンリルの住処は峻厳な雪山の上にあるのかと思ったら、大森林を突き進んだ先の目印も何もない突如ぽっかりと開いた地中の洞穴の中だった。

 だけど、その洞穴がビックリするくらいに巨大だった。

 フェンリルの体高はお座りの白竜の3分の2に達するかなと言う位。20メートル位あるのかな。後ろ足で立てば胴が長い分、優に30メートルは越して白竜よりも高さが増す感じ。そんなフェンリルは少し入り口では頭を低くしたけど、頭が穴の中に入れば後は悠々と洞穴の中へ降りて行った。けれどもここに白竜は入れないかな。

『私の巣の中は外よりも暖かい。カノンと番は傷一つ付けずに帰すから、お前は外で待っていろ』

『ふむ。我の娘が助けを呼べば問答無用でお前の巣を壊すからな』

 白竜はフェンリルの言い分を飲み、ブフーと鼻息を吐きながら針葉樹林をなぎ倒してその上に片肘を付いて寝っ転がった。白竜はだいぶ大森林を荒らしてしまったなー・・・。この件も後で閣下に謝っておこうかな。

 私達は白竜を外で待たせて、フェンリルの後に続いて巣の中へと足を踏み入れた。

 私の防寒着はお姉さま方がさらに砦に一番近い辺境都市まで赴いて見立てて来てくれて、今はしっかりとサイズの合った服を着ている。しかしまるで、幼児退行中の私とペアルックのような装い。お姉さま方の趣味が如実に表れている。

 大人サイズの服を装着し、フード付きの外套を羽織った私を見て、お姉さま方は皆一様に満足そうだった。ノアからも似合っていると褒めてもらったし、私も可愛いと思う。本当にお姉さま方にはお世話になりました。

 しかし防寒が完璧にされたとて、私の身体能力が上がる訳でもなく。

 巨体のフェンリルがひょいひょいと下降していく洞穴に鈍臭い私が自力で降りられる訳が無いので、私はノアにおんぶしてもらい、ノアは軽やかにフェンリルの後に続いた。

 日も差さない洞穴の中は暗闇に沈んでいるのだろうと思いきや、内部は壁面の白い光にキラキラと照らされていた。

「奇麗・・・」

 洞穴の中は想像以上に広く、フェンリルがもう一匹は余裕で過ごせるくらいの空間があった。その洞穴の輪郭は白い光に割としっかり照らされている。入り口からわずかに入る日の光が壁面に乱反射しているみたいだった。洞穴の壁には、白く光を反射する鉱物の塊がゴロゴロと埋まっている。壁の殆どが白い鉱石になっている部分もあった。

「凄いですね、水晶でしょうか。このように鉱床が出来るのですね。奥にはアメジストまで・・・。そしてとても暖かいですね」

 ノアも洞穴に満ちた光に圧倒されている。そして暖かいというより、暑い!

 私とノアは洞窟の底に降り立ってからコートを脱いだ。体感的にはエスティナの初夏を思わせる位に洞穴の中は暑かった。私はコートの下のトットチャックのベストまで慌てて脱いだ。汗だくになるとこだった。

 まあ汗をかいても清浄魔法を使えるけど、その後すぐさま食事を取らないといけないので、やはり私の魔法は気軽に使えずに残念な仕様だなあと思う。

『この辺りはいくつか火の山があるからな。地の底から熱が上がって来るからここは非常に暖かいし、様々な石が作られて地上へ湧き上がってくる』

「そうなんだ」

 防護壁の向こう側には夏だけ稼働する鉱山があるって閣下も言ってたね。

 火の山とは活火山の事かな。人里からはだいぶ離れているから万が一噴火しても大丈夫だとは思うけど、夏の鉱山の稼働時期は気を付けるように閣下に言っておいた方が良いかも。些細な事でも何かあれば言ってくれとダレンさんから念押しされたもんな。

 フェンリルは穴の行き止まりで方向転換して、私とノアの前でゆったり横たわった。思ったよりも広さに余裕があったけど、洞穴の中でフェンリルと向き合うとやっぱり圧迫感はある。

『カノン、私のタエだ』

 そして横たわったままフェンリルが言った。

 何処にタエさんが?と目を凝らそうとすると、ノアが私の肩をそっと抱いた。

「カノン。フェンリルの右前足の肘のあたり、横穴のようになっている所を見てください」

「・・・あ」

 その小さなポケットは洞穴の壁面、洞穴の底から1メートルほどの高さにくり抜かれるようにしてあった。

 その小さな洞穴は私1人が横になれる位の広さ。

 その洞穴の中には白い毛皮が敷き詰められていて、その上には何か布のような物が置いてあった。

 私はドキドキする胸を押さえながらゆっくりとその小さな洞穴へ近づいていった。

 その小さな洞穴の中にある布のような物、それは、色褪せた紺色の着物だった。

『タエはその中で眠っている』

 もしかしなくてもこの着物はタエさんの物なんだろう。

 現代日本では着物はおしゃれ着、高級品という扱いだと庶民の私は思うんだけど、この着物はおしゃれ着と言うよりは、着古されて継ぎはぎもあって、とっても生活感がある・・・。絶対おしゃれ着ではないね。

 タエさんの名前と言い、遺品のこの着物と言い、タエさんは日本人なのだろうか。

 この中にタエさんがいると言われても、故人の遺品に不用意に触れるのもいかがなものかと躊躇っていると、着物の隙間からほんのりと光が漏れている事に私は気付いた。

 洞穴中に埋まっている水晶の光なのかと思ったけど、水晶の白い光と違ってその光はほんのりと薄青い。

「し、失礼します・・・」

 そーっと私はタエさんの遺品に手を伸ばした。こちらを見ているフェンリルも何も言わないので、私はタエさんの着物にそっと手を伸ばして、その薄青の光を確認するべく着物を捲った。

 着物の中には、鶏卵位の大きさの薄青い光を放つ石があった。

『それがタエだ』

「!!」

 フェンリルの言葉に驚いて、私は手を引っ込めた。

 着物の中にはタエさんの遺骨があると思っていた。けれど青い光を不思議に思ってめくってみると私の掌に乗るほどの大きさの石があり、フェンリルはそれをタエさんだという。

「・・・まるで、魔石のようですが」

 私のすぐ後ろに寄り添っていたノアが着物の中にあった石を覗き込んでいる。そのノアの言葉に私の心臓はドキリと跳ねた。

「フェンリル・・・。私とタエさんは、そっくり同じって言ったよね。私も死んだら、魔石になるの?」

『おそらく。この世界に落ちてくる娘達はみな同じ体と同じ命を持っているからな』

「カノン」

 呼吸が浅くなる私を後ろからノアが抱きしめた。

「大丈夫ですよ、カノン。呼吸をゆっくり」

「ノ、ノア、私、やっぱり人間じゃないのかも。死んだら魔石になっちゃうって」

 ノアは私の身体を向かい合わせにクルリと回すと、ギュウと再び抱きしめてきた。

 白竜が私を娘と呼ぶのは、白竜や他の魔獣と同じように私が体の中に魔石を持っているからだったのかも。自分が何者か分からなくて怖い。何より、こんな得体のしれない私は人間のノアとずっと一緒に居られるのかな。

「落ち着いて、カノン。あなたが何者でも変わらずにあなたを愛すと誓った私の言葉を忘れたのですか?」

「ノア」

「カノンはカノンです。魔石を持っていようがいまいが、それで私の想いが変わる事はありませんし、グリーンバレーの皆さんもきっと同じ気持ちですよ。皆さんはカノンの人柄を好ましく思っているのです。そして私はあなたの全てを愛おしく思っています」

「ううー」

 そんな事を言われたら泣かずにいられないじゃないか。

『カノン、何を泣く。タエと同じ事が不服か』

 ノアの胸を借りてしばらく泣いていると、白竜と比べてやや空気が読めないフェンリルがこんな事を言う。私達の話を聞いてた?聞いた上でのこの発言?タエさんと同じな事が不服ではないのよ。

『タエの命の火は消えてしまったが、タエはまだ私の傍に留まり続けている。寂しくもあるが、嬉しくもある。カノン、見ていろ』

 フェンリルの長い鼻が私とノアに近づいて来たので、私とノアが小さな洞穴の前から退くと、その洞穴にギュッとフェンリルは鼻先を押し込んだ。すると小さな穴に嵌まったフェンリルの鼻の周りが青白くクッキリ光る。何かが洞穴の中で起こったみたいだ

 しばらくすると、フェンリルは小さな洞穴から鼻を抜いた。

『タエの想いはまだここに残っている。カノンもタエに触れてみろ』

「ええー・・・」

 フェンリルがタエさんの魔石に触れと私に言ってきた。着物に触るのさえ勇気が要ったのに、タエさんの魔石にもなんて。タエさんの魔石って、ご遺体、ご遺骨と同義じゃないか。

「カノン、どうしましたか」

 フェンリルのお陰で先ほどの私とノアの物悲しい雰囲気は吹っ飛び、私の涙も引っ込んだけれども。

 フェンリルの言葉をノアに伝えると、ノアはちょっと考えた。

「では、私と一緒にタエさんの魔石に触ってみましょうか」

「ええ?!」

 そしてノアからのまさかの提案。マジで!

「先ほどフェンリルが鼻先でタエさんの魔石に触れて、その魔石が強く発光したのかと私は思いました。魔獣の魔石と比べては失礼かもしれませんが、一般的な魔獣の魔石には触れてもそのような変化は起こらないと思います。何か特殊な事が起こるのであれば、確認をした方が良いかと思います。それにタエさんの事が何か分かれば、カノンの不安も小さくなるかもしれませんしね」

 あくまでも私を思ってのノアからの提案。

 一緒に触ってくれるって言うのなら。

「う、ううう。よし、触ろう!」

 フェンリルも、魔石に触っても平気そうだったしね。

 ノアの言う通り何か分かるかもしれないし、触らなくても後悔するかもしれないから、いっそ一思いに触ってみようか!

 フェンリルが小さな洞穴の前から顔を離すと、タエさんの魔石は着物の上で剥き出しになっていた。まるで青いランプみたいに結構しっかり発光し続けている。

「では、一緒に触りましょうね」

「うん」

 ノアが後ろから私を抱き込んで、お腹の前にも腕を回してくる。

「せーの!」

 掛け声に合わせて、私とノアは右手を魔石に伸ばした。

 そして私とノアは、タエさんの想いの奔流に呑まれた。



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― 新着の感想 ―
さらっと重要情報が出てきた!それでも愛するって言い切るノアさん、おっきすぎるね
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