表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
クノーテ共和国お助け編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/110

クノーテ共和国西方辺境の砦にて 8

 スタンピードは白竜達が防ぐと言ったものの、大型獣ならともかく、中型、小型の獣達に関しては白竜達も討ち漏らしがあるだろうと予想される。

 まあ2、3メートルの中型の獣達なら5メートルの高さで巡らされた石造りの防護壁で防ぎきれると思うのだけど、昨年のスタンピードで破壊され大穴が開いた箇所があった。その穴は次の春から本格的な修繕予定で、今は木材で穴を塞いでいるだけの状態なのだという。

「もし防護壁を突破されるとしたら、木で塞がれただけの箇所が危ないですね。衣食住の御恩をお返ししてきますので、カノンは暖かくして待っていてくださいね」

 砦には戻ったけど、ノアは武装を解く事なく他の軍人さんと一緒に昨年大穴が開いたという防護壁の警戒にそのまま向かった。一週間のキャンプの準備をしていったのでしばらくは戻らないとの事だった。

 防護壁は砦から数キロ離れていて、ノア達の動向は砦からは全く分からない。

 防護壁の向こうに陣取ったらしい白竜とフェンリルの様子は砦から確認できて、2匹ともお座りして森の奥を見ていたかと思えば、白竜はドシンと座ったまま屈みこんで何かをしている様子が見られる。キュッと絞める作業だろうか。フェンリルの方は白竜よりもアクティブで時折ジャンプしたり、少し森の奥に駆けていったりしていた。

 そして1週間が経ち、遠征部隊は皆無事に戻ってきた。

 5メートルほどの大きさの白熊一頭をお土産にして。白熊の首はスッパリ切断されていた。これはノアの仕事だな。

「ノア、お帰りなさい!」

「カノン、ただいま戻りました」

 外の冷気を纏ったままのノアに私はギュウと抱き着いた。

「カノン。部隊の中でノアが一番働いた。俺達は危険に晒されることも無く、ノアに終始守られていた。アストン王国の勇者の凄まじい剣技を見せてもらったぞ。後片付けは俺達がするから、後は2人でゆっくり休んでくれ」

 遠征部隊のリーダーを務めたダレンさんに声掛けをいただき、私達はお言葉に甘えて部屋に下がらせてもらう事にした。

 白熊以外にも何匹か防護壁内への中型獣の侵入があったそうなんだけど、ノアが全て瞬殺したとの事だった。その時に討伐した獲物はとても全てを持ち帰れないので、少しずつ砦に持ち帰る事になるという。冬だから腐らなくて良かったと皆さんは言っていた。

 この点はエスティナの方が大変なんだよね。エスティナだったら仕留めた獲物は一日二日で処理をして、大急ぎで領都に運ばないといけないもんな。気温も湿度も高いから数日でお肉が傷み始めてしまうからね。白竜が防護柵の前に大型獣を山積みにした時はケネスさんがちょっと遠い目をしていた。あの時は冒険者と宿の料理人さん、領主館の料理人さんまでが総出の解体作業になった。今思えば申し訳ない事をしたな。エスティナで一度に大量のお肉を提供するのは今後ないように白竜と一緒に気をつけよう。


 そしてノア達遠征部隊が戻ってから3日後、砦の警戒態勢は全解除された。

 白竜とフェンリルが『一掃したぞ』と、砦の前に絶命した大型獣の山を作り始めたからだ。

 全てが10メートル前後の大型魔獣ばかりで、その数は、30・・・前後って所かな。

『我が娘。存分に食べるがいい』

『白竜の娘は肉が好きか。命を取り込む良い循環となろう。いいぞ、たくさん食べろ』

 白竜は私がたくさん食べると白竜に迫る大きさになるとまだ考えている節があるな・・・。白竜に倣ってフェンリルも気前よく目の前の大型魔獣を全て私にくれるらしい。

「ありがとう!私だけじゃ食べきれないから、砦の皆さんにも手伝ってもらうからね!」

『うむ、お前を守護せし北の戦士達とも分け合うがいい』

『白竜の娘。これはお前の物だ。お前の好きにしたらいい』

 私が砦の屋上から白竜達に声を掛けると、2匹はガオーワオーンと快く了承してくれた。

 北の戦士・・・。確かに砦の皆さんは国防のためにこの辺境で責務を全うする戦士であるけれど、私の守護が目的はないんだよ。ちょいちょい勘違いを重ねていく白竜だけど、私の守護戦士と勘違いしていたら、ついでに白竜もフェンリルも砦の事まで守ってくれるかもしれないから、ここはまあ私も流しておくかなー。

「ヴィゴ閣下。あの大型獣達は全部軍に差し上げますので。私もだいぶ砦の食料を減らしちゃったので、お肉の補充をしてください」

「・・・・カノン、貰いすぎだ。お前が食べた分など、あの10メートル級のスノーベア1匹もらってもだいぶ釣りを出さねばならん」

 閣下が言う所の白熊は、ザっと目視で見ても10匹以上は獣の山の中にありそう。うずたかく積み上げられた獣の山は、4階建ての砦の屋上とほぼ変わらない高さにまで到達していた。白熊と、エスティナにもいたニードルボア、クリムゾンベア、あと白い毛皮のでっかいヘラジカみたいな奴とかデカい猿とかレパードも何匹かいる。非常に手触りの良いシルバーフォックスも、ちょっと数えきれない位にあるみたいだ。クリムゾンベア以外は全部毛皮が白い。北の地に暮らす動物の色って感じだね。

 閣下に遠慮されても、私も個人でこの大量の大型獣の素材とお肉はどうしようもない。あ、でも。シルバーフォックスの毛皮はグリーンバレーの皆さんへのお土産にいいかなあ。あげます、もらえないと、ちょっと押し問答をしたけど、シルバーフォックスの毛皮とお肉の美味しい塊をちょっとだけ貰って、残りは全て軍に寄付させてもらう事で閣下と話をつけた。傷病軍人さんとそのご家族の支援に使って下さいとお願いしたら、最終的に閣下も大型獣の山を引き受けてくれた。

「しかし、これほどの大型獣は見た事がありません。これまでのスタンピードはどうにか5メートルほどの防護壁で防いできたのですから、今回は今まで動かなかった大型個体も動いたという事なのでしょうか。昨年は壁の一部を破壊されたことにより甚大な被害が軍にも出てしまいましたが、防護壁の高さを軽々と超える大型獣など、我々の力で止められる訳が無い」

 スタンピードで押し寄せた大型獣の山を見て、ダレンさんの顔は真っ青になっている。閣下の顔もちょっと蒼褪めている。

 クノーテ共和国は科学技術が多少アストン王国よりも進んでいるとは言え、魔法の力も何も無いから、普通の野生動物になら有効そうなライフル銃とあとは恵まれた体格を生かしての剣でもっての肉弾戦しかないんだろうからね。

 うーん、エスティナでは5メートル級の大型獣位ならグイード達も6人パーティでやっつけるんだよね。グイード達のパーティに魔術士はいないし、戦い方とか武器とか、何か工夫の仕様もありそうな気がする。ヴィゴ閣下ならグイードの武器の大剣を使えば、それこそ大型獣を叩き切るみたいな戦い方が出来ると思うな。でっかい斧とかもいいかもね。この辺、戦う人達同士で意見交換会が出来ればいいのにねー。

「昨年のエスティナのスタンピードよりも今回は規模が大きかったように思います。さすがに私1人ではこの数を仕留めきれなかったでしょう。白竜とフェンリルが居てくれて良かったです」

「本当にな。防護壁を突破してきたスノーベアーに関しては、ノアが居なければ人死にが出ていただろう。ノア、改めて今回の助力、感謝する」

「カノンが幼児退行中に私達を保護して下さったこと、私も感謝しています。ご恩をお返し出来たのなら良かったです」

 何だか方々でご恩のお返し合戦が起こっている。情けは人の為ならず、巡り巡って自分に返るとはこういう事を言うんだなあ。何はともあれ良かった良かった。

 今回、魔力が全回復した私がスタンピードホイホイになったので、凶暴化した獣達は山奥に居たものまでが砦まで降りてきて、文字通り一掃できたのではないかというノアの意見だった。エスティナでも白竜が次々と防護柵前で凶暴化した獣を絞めまくって、それからエスティナ近辺の大森林は今、普通の野生動物しかいなくなったもんね。

「エスティナと同じように、この西方辺境一帯もしばらく獣害は起こらないのでは思います。ですが、防護壁は早急に直された方がよろしいかと」

「大型獣の脅威が去った事は非常にありがたい。しかし、防護壁の修繕はやはり春以降になるな。もはやこの砦は深い雪に閉ざされる。これから春までは資材を運べなくなるのだ。とりあえずは砦にある物で応急処置をするしかないな」

 ノアの提案にはヴィゴ閣下が渋い顔をする。

 うーん。凶暴化している獣達は一掃されたとはいえ野生動物は普通にいるだろうし、穴をくぐれるサイズのレパードや大猿が入って来たら、屈強な軍人さん達でも怪我しそうだな。今の穴が開きっぱなし状態はやっぱり危ないよね。

「白竜―。石の壁に穴が開いている所、木とかですぐに塞げる?」

 砦のすぐ前でお座りしている白竜に聞いてみる。

 ちなみにお座りした白竜は屋上にいる私達より少し上に頭があるのでお話ししやすい。フェンリルも獣の山を挟んで反対側にお座りしている。フェンリルの胴体は白竜より長いので、お座りすると体高は白竜より高くなる。屋上にいるとその白竜とフェンリルに近距離で見下ろされる形になるので、屋上に出てこられたのは私とノアの他には閣下とダレンさんの2人だけだった。

 お2人は獣の山にも顔を蒼褪めさせていたけど、白竜とフェンリルにも緊張していたのかもしれない。

 よし、ここで1つ。白竜も、多分フェンリルも、温厚で無害、人に友好的な巨大魔獣ですよーとアピールしたい所だ。

『それは造作も無いが、木の方が良いのか?石の壁なら石で塞げば良かろうに』

「閣下。白竜が、防護壁の穴を塞ぐのは、木と石どっちがいいですかって聞いています」

「・・・・石で頼む」

 閣下のリクエストを頂いたので、思い立った今日、急遽白竜が石壁を直してくれることになった。

 そして防護壁の穴が開いた現場まで白竜を案内してもらうため、犬ぞりを一台出してもらう事になった。御者台に乗ったお姉さまの顔も真っ青。私とノアに土地勘があれば良かったんだけど、申し訳ないです。

 しかし、犬ぞりの犬達は白竜とフェンリルに全く怯える事無く、大森林にお出かけ出来る事にテンションをあげてワオワオ騒いでいる。この犬ぞりの犬達の、繊細さと対極にいる感じが可愛いわー。王都で保護した10メートル級のレパードですら、物凄く白竜に怯えていたというのに。

 私と閣下が防護壁の修復に出向くなら当然ノアとダレンさんもついてくる。そして何故かフェンリルまで付いて来た。何故に。犬ぞりの犬達が白竜もフェンリルも全く怖がらないので、まあフェンリルが付いてくるのも自由にしてもらったんだけどね。


 しばらく犬ぞりで移動して、防護壁の穴が開いた現場に私達は辿り着いた。

 そこには確かに、直径3メートルほどの穴がぽっかりと開いていた。そして早速修繕を始めるという白竜は、どこかから石でも持ってくるのかと思ったら、屈みこんで足元で何やらもぞもぞし始めた。私達は100メートルくらい離れた木々の陰からそれを見守っている。防護壁の周囲は木が広範囲で伐採されているので、何をしているのか謎だけど白竜も作業しやすいだろう。

「白竜は何をしているのだ?」

「んー・・・分かりません」

 ヴィゴ閣下からはここまでくる道中、白竜に関しての質問を色々されたのだけど、今と同様に私は殆ど答えられないという体たらく。何ならサージェ先生の方が私よりも白竜の生態について詳しいだろう。

 白竜と会話は出来るけど、白竜の事の全てを分かっている訳じゃないのですみません。

 そして白竜は、私達の目の前で雪の下から粘土状の灰色の塊を両前足で持ち上げては石壁の穴に塗り込め始めた。

「なんと!」

 閣下もダレンさんもビックリしているけど、私とノアもビックリした。

 でかい岩辺りをドカーンと穴に詰めて終わりかと思っていたら、白竜は何とも器用に壁の穴を粘土状の土で塞ぎ始めた。白竜は前足をほんとに上手に使うよねー!

 なんか、あれだな。DIYで、モルタルで壁を塗る人みたいだよ。

「白竜は色んな事が出来るんだねぇ」

「白竜は竜種の中でも最上位種でしょうから。ひょっとしたら、全ての属性の魔法を操れるのかもしれません。今は土魔法でも使っているのでしょうか」

 私達が見守る中、白竜はこねこねと土をこね、せっせと石壁の穴を塞いでいった。見守る事30分ほどで白竜の穴の修繕は終わった。

『我が娘。仕上げに火で焼く。お前達まで焼けてはいかん。少し下がれ』

「閣下。修繕の仕上げに白竜が壁を焼くので、ちょっと下がれと言っています」

「更に200メートル後方に退避!!」

 即座に閣下から指示が出されて、私達は瞬く間に防護壁から更に離れた。

『後は簡単に壊れぬようにしておく。娘と番は人の巣に戻るがいい。その辺の獣では歯が立たぬくらいに全体を固く焼き締めてやろう』

「閣下。獣がもう穴を開けられない位にしっかり壁を焼くそうです。修繕箇所以外を白竜が手を加えても大丈夫ですか?」

「・・・任せよう」

 閣下から許可が下り、白竜が防護壁全体を強化する事になった。出来上がりは白竜にお任せというギャンブルに閣下が乗った。

「防護壁も100年以上も前の物でな。どのみち次の春から壁全体の改修に取り掛かる所だった。白竜に任せてそのまま使えるなら儲けものだし、使えないようなら当初の予定通りに取り壊しながら新しい壁を作る事になる」

「なるほど」

 もともと壁全体を作り直す予定だったんだね。

 閣下と話している内に、白竜が真っ赤な炎を自分の足元に吹き付け始めていた。5メートルの防護壁は白竜からしたら随分低いと思うけど、白竜は屈みこんで地面に顔を近づけて、ゴーッと炎を吐き続けている。傍から見ていても物凄い一生懸命だ。

「なんだか、とっても一生懸命にやってくれてますね」

「そうだな」

 顔を蒼褪めさせていたお姉さまとダレンさんも遠く白竜から距離を取って余裕も出来たのか、少し微笑ましい物を見るかのように表情を緩めている。するとなんと、フェンリルまでも青白い炎を屈みこんで吐き始めた。

 ちょ、青い炎とか。火力過多じゃないだろうか。

「・・・森林火災とか、大丈夫でしょうか」

「防護壁付近は視界を確保するために防護壁を挟んで100メートル幅で樹木が生えないよう管理しているから、延焼の心配はなかろう。しかし、フェンリルが青い炎を吐くとは知らなかった」

「最高位の魔獣達ですから、魔法も多彩に使えるのですね。この2匹が自我を失う事が無くて本当に良かったです。もしも白竜とフェンリルが私達の敵に回っていたとしたら、この大陸の日常が崩壊していたでしょう。魔法を使われるとなると、私もこの2匹を倒すまでどれほど時間がかかるか分かりませんし」

 閣下の答えに火災の心配はないとホッとしたけど、ノアの発言に犬ぞりに乗っていたノア以外のメンバー全員が顔を蒼褪めさせた。国単位じゃなくて、大陸全体の日常が失われる所だったとか、今更ながら血の気が下がる。白竜もフェンリルも、ほんとに解呪が間に合って良かったよ・・・。

「閣下。白竜や、多分フェンリルも。人間の常識が備わっている訳ではありません。魔獣の行動規範で動く場合もあるので、今後もフェンリルに近づき過ぎないように気を付けてくださいね」

 今は友好的に接してくれている白竜とフェンリルだけど、悪気なく人間に危害を加えてしまう可能性もあるからね。やっぱりしっかりと住み分けはする必要があると思う。

 ちょっとずつ・・・白竜が人里へ近づきつつあるけど、自分の事は思い切り棚に上げ、フェンリルについて私はヴィゴ閣下に注意喚起をさせてもらった。

「うむ。肝に命じよう。我々とは生きる世界が違うのだからな」

「そうですね」

 閣下とダレンさんは真剣に話を聞いてくれた。

 大森林の中を南北に走るアストン共和国の防護壁は、国境線をなぞって数キロにも及ぶ。

 白竜達の作業は数日は続くだろうという事で、私達は一度砦に戻る事にした。

「白竜―。終わったら今度こそエスティナに帰ろうね!仕事が終わったら教えてねー!」

 白竜に一声かけると、いったん炎を収めた白竜がガオーと天に向かって吠えて返事をした。フェンリルまでアオーンと天に向かって吠えていた。フェンリルには声掛けしていないんだが・・・。

 うーん。フェンリルがまだ全然どんな魔獣なのか掴み切れていないんだよね。知り合ったばかりだしね。まるで私達の一員のように、白竜のお手伝いをしてくれているけど、エスティナに一緒に帰るのは、白竜だけだからね?

 私は一抹の不安を感じながらもみんなと一緒に砦まで戻ったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
二匹ともカノンとのおしゃべりは威厳ある感じなのに、外の人に聞こえる音がガオーワオーンなの雑すぎて笑っちゃう。このギャップが最高すぎる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ