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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
クノーテ共和国お助け編

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クノーテ共和国西方辺境の砦にて 7

 さて、急遽だけど30分後の出発となった。

「カノン、ノア。急な決定で済まないが30分後に出発するぞ。潰せる懸念点は潰しておきたいのだ。まずはどう転ぶか分からん白竜とフェンリルの争いをカノンには止めて欲しい。その上でもし白竜にスタンピード時の我々への助力を取り付けられたなら、今回は大成功だ。ダレンに支給室へ連れて行ってもらって寒くないように支度しろ」

「はい!」

 命令をし慣れているヴィゴ閣下に私達も指示を出されて、思わずとても良い返事をしてしまった。私とノアは、共和国の人達からしたら命知らずの薄着でこの国にやって来たそうだ。私達の自前の防寒着では何の役にも立たないので、軍の支給室で冬登山用の軍用品を色々と拝借する事となった。

 しかしノアのサイズの服は辛うじてあったけど、私にあう女性兵士用の服のサイズは無かった。なので、毛皮で裏打ちされた耳当て付き帽子と手袋とムートンブーツをぶかぶかながらも装着させられ、スノーベアーと呼ばれる巨大な白熊のコート(男性用)でグルグル巻きにされて手足をコートの中にしまわれた。外に出ているのはコートのモッコモコの襟と帽子の隙間からわずかに覗く目だけという有様に。

「カノン、可愛いわ」

「雪の妖精みたいね」

「似合っているわよ」

 私の防寒着の着用を手伝ってくれたお姉さま方、笑っておるやん。こんな妖精可愛いわけないやん。

 軍属のお姉さま方は全員が犬ぞり部隊の兵士の方々で、今回は犬ぞり三台にそれぞれ搭乗して犬の指揮をするとの事。戦闘時の後方支援や、近くの街へ出向いての物資補給などが犬ぞり部隊の主な任務なんだそう。お姉さま方は全員が金髪碧眼の雪の女王のような美貌の美女ぞろいで、且つみんな旦那さんとお子さんを街に残して砦に単身赴任中だ。フィジカルに恵まれた女性にとって軍は良い給料の職場なのだとか。

 幼児退行中の私をニコニコ笑顔でお世話してくれたお姉さま方。春には一度、街で暮らす家族に会えるのだという。他にも家族を残して砦に単身赴任している兵士が沢山居る。そんな話を聞いたら、絶対に春には無事に家族に会えるようにしてあげたいじゃんね。

「頑張ります!」

 俄然やる気を出した私は、ニコニコ笑顔のお姉さま方にそりに乗せられて、荷物のようにロープで座席に固定された。そしてその隣にノアが乗り込んできて座る。うん。私、手足も出せない起き上がり小法師状態だからね。もしくは手足が無い手毬雛みたいな感じでね。ちょっと面白い絵面だけどしょうがない。

 犬ぞりの犬は、頭から尻尾まで3メートルはあるんじゃないかと言うデカさ。犬?犬なのかな。エスティナの森林狼よりもおっきいかもしれない。見た目はハスキー犬よりもモッコモコ。マラミュート犬の方が見た目的には近いかも。茶色かったり黒かったり灰色だったり、色と模様はバラエティ豊かで。両手両足を毛皮のコートに包まれて歩けない私がお姉さま方に運搬されていると、犬たちは興味津々で私の匂いを嗅ぎに来た。懐っこいし、好奇心旺盛で可愛い。

 私が自分の防寒着にてんやわんやしていたり、そりに乗せられたりしている内に、「30分で支度しな」と言われた軍人さん達はあれよあれよ身支度と持ち物の準備を済ませ、颯爽とそりに乗り込んでいく。みんな肩にライフル銃を担ぎ、腰には剣を佩いている。ノアもバッチリ共和国の軍服と防寒着を着用して、腰に剣を佩いている。ノアは防寒着の他に武器もお借りした模様。ノアはフィジカルも凄いけど、とにかく剣技が凄まじいからね。一騎当千と言っても過言ではないと思う。

「うん。しっかり着込んできたな」

 そして私達のそりには閣下も乗り込んできた。

 3台の犬ぞりには一番前の御者台にお姉さま方が二人一組で乗り込み、その後ろの座席スペースにはそれぞれに武装した軍人さん達が6人ずつ乗り込んでいる。私達のそりにはノアと私と閣下の他にダレンさん、そして軍人さんが2人乗り込んできた。私のそりは閣下が1.5人前の所為かとってもみっちり詰まっている。

「カノン。食料は厨房で補充させてもらいました。暖かい料理が雪山の上でも食べられますよ」

「ご飯の事まで気が回らなかったよ。ノア、ありがとう」

 ノアが私の食事もバッチリ準備してくれていた。ほんとに私は日々の生活の全てがノア任せになっているなあ。もうノアが居ないと私は精神的にも物理的にも生きていけないと思う。

 そのような事を出発直前のバタバタの中でノアに伝えると、ノアは瞳を弓なりにして蕩ける様なやばい笑顔を私に見せてくれた。こらこら、人前でそんな顔をしないように。私の赤面症が日に日に酷くなっているような気がするのでね。今の私は目元しか外から見えないので助かった。

「よし、出発だ」

 ヴィゴ閣下の合図で、犬ぞり3台が走り出した。気合十分に犬たちは吠えながら走っている。元気だなー。馬車や騎乗での移動だと、馬達は軽くいなないたりブルルと鼻を鳴らす程度なのでなんとも賑やかな出発となった。


 目的の白竜はもうずっと、砦の出発地点から目視で見えている。今はフェンリルと取っ組み合いをしておらず、針葉樹林の中に下半身を埋もれさせてお座りしているようだ。

 砦を出てしばらく犬ぞりで走り、石造りの防護壁も抜けて私達は白竜へと近づいて行った。犬ぞりで限界まで近づいてから、私は白竜へ話しかける手筈になっている。でも、話しかけるまでもなく白竜はずっとこっちを見てるなー。気付いてるなー。

 白竜は雪山の上で針葉樹林をクッションにしてお座りをして、前足をお腹の上で組んでじっと私達犬ぞり部隊が近付いてくるのを見ている。

「こちらに気付いているな」

 犬ぞりに同乗している閣下やダレンさんの目も緊張した鋭い物になっている。

 私がいるので白竜が危害を加えたりはしないと思うけど、不安要因は今姿が見えないフェンリルだ。私とノア以外の緊張が高まる中、犬ぞりは限界ギリギリまで白竜に近づいた。犬ぞりが進める大森林の最終地点に到達して、犬ぞり3台はすぐに逃げられるように方向転換をして待機となる。

『我が娘』

 私達がもぞもぞと方向転換したり、私はそりの上で白竜に向けて座る向きを変えられたりする中、じっとこちらを見ていた白竜が穏やかに私に話しかけてきた。

「白竜!ひさしぶ」

『タエ!私のタエ!待っていた!』

 私が白竜と話そうとした時、弾むような声がカットインしてきた。

 すると、白竜が怒号のような鳴き声をあげた。近距離に居た私達にはビリビリと振動と共に強風が吹きつけた。

『これは我の娘だ!!』

 お座りしていた白竜が周囲の針葉樹林を踏みつけながら立ち上がると、左前足をブンとフルスイングした。その左手は突然現れたフェンリルを捉えて、フェンリルを向こう山へと弾き飛ばした。

「構え!」

 ヴィゴ閣下がフェンリルへ向けてライフル銃を構えた。他の軍人さんも、御者台のお姉さま方さえもライフル銃を構えている。

 フェンリルが何処にいたのか全く分からなかった。森林の中に伏せていたら辛うじてフェンリルなら隠れられるかもしれない。私も心の準備が無かったので、心臓がバクバク言っている。ビ、ビックリしたー。

『なんと話の通じぬ!あれは我の娘だ!!』

『違う!!』

 白竜に張り飛ばされたフェンリルは一山向こうで、すぐさまひょこりと山の上に顔を出した。白竜にぶっ飛ばされたけど、フェンリルもノーダメージな感じだ。

『私のタエだ!約束通り戻ってきた!タエはまた私と森で共に暮らすのだ!』

『違う!あれはお前の娘ではない!我の娘だ!!』

『何を言う!あれは私のタエだ!』

 白竜に吹き飛ばされてもへこたれないフェンリルは、今度は私に向かわずに私への接近を邪魔した白竜の上半身へと飛び掛かっていった。それを咆哮をあげながら白竜が受け止め、またも向こう山へと放り投げた。これは砦からもよく見ていた、白竜とフェンリルによる相撲の取り組みだ。今のきめ技は白竜が腰の強さを活かしたうっちゃりだ。お祖母ちゃん、相撲大好きだったな。元気にしてるといいな。

『私のタエだ!』

『違う!これは我の娘だ!!』

 それでまさか、白竜とフェンリルはこの言い争いを2週間近くも繰り返していたというのか。いや2週間も言い合いしていないで冷静に話し合いの1つもしなさいよと突っ込みたいけど、相手は人間と生きる時間がだいぶ違う魔獣の頂点達だからね。この言い合いで軽く数カ月、何なら数年経つ所だったのかもしれない。やっぱり大きな魔獣って人とは時の流れが違うのだなあ。

 はあーっ、とため息をつく私をノアが不思議そうに見ている。

 白竜とフェンリルは私をほったらかしで今日の取り組みに夢中になってしまっている。私に興味を示さなくなった2匹を見て、閣下以下、共和国の軍人さん達も怪訝な顔をし始めている。これはいったいどういう状況かと、困惑するしかないよね。

 話の内容的に、私の所有を巡って2匹は争っている感じなのかな。

 私は白竜の娘なのかも疑問だけど、フェンリルが言う所の「私のタエ」では絶対に無い。私を見つけたフェンリルの声はとても嬉しそうに弾んでいた。だから否定するのは可哀想ではあるけど・・・。

「フェンリル!」

『タエ!』

 白竜にガッチリ毛皮を掴まれながらも、フェンリルが私の声を聞いて目をキラキラと輝かせた。このフェンリル、私を誰かと完全に間違えている。

「フェンリル、私はカノン。私はあなたのタエじゃないんだよ。ごめんね」

 白竜に体を押さえられながらジタバタしていたフェンリルが動きを止めた。

『・・・タエ?』

「何か誤解させたならごめんね。私はタエじゃない、カノンだよ。白竜があなたの穢れを心配して、ここに私を連れて来たんだよ。解呪が間に合って良かった。体に痛い所はない?」

『・・・タエでは、ないのか?』

 キラキラと輝いていたフェンリルの瞳から光が消えた。

 喜色に溢れていたフェンリルの心が、カシャンと脆いガラス細工のように壊れたような気がした。フェンリルの動きが完全に止まった。

『その命の輝きと、慈愛に満ちた力。私のタエとそっくり違わず同じだというのに、お前は、私のタエではないと?』

 喜びから一転して、フェンリルの瞳はみるみると悲しみに塗り潰されていった。

「・・・ごめんね。私はあなたが待っていたタエじゃない、カノンだよ」

『白狼。お前が慈しんだ娘の命の火は、とっくの昔に尽きてしまっただろうに。あれからお前の娘の魂は、未だお前の手元に留まっている。それゆえ、お前の娘が再び命の火を灯してお前に会いに来ることは無い。思い出せ』

『そう・・・か。そうで、あったな・・・・』

 白竜は掴んでいたフェンリルの毛皮を離した。フェンリルは白竜から手を離されて、力なく白竜の傍にお座りをした。

 ううう、胸が痛い。フェンリルが待っていた「タエ」と言う人は、白竜が言うには既に亡くなっているみたいだ。

『白狼よ。お前の娘は戻らぬが、我の娘を食らおうと穢れに呑まれた北の地の獣共が動き始めている。正気に戻ったなら我に力を貸せ。我の娘はお前の穢れを払った。今その恩を返すがいい』

『・・・そうだな。お前の娘の慈愛の力は、私のタエと同じように心地よい物だった』

 2匹が落ち着いたトーンでしみじみと話し合い始めた。

 2週間に渡って取っ組み合いをしていた2匹だったけど、2匹の間で話は済んだみたいだった。うん。私の仲裁必要なし。私の為に争わないで!とかまで言う必要に至らなかった。

『愛しい我が娘よ』

「うん」

『明日にもお前を目指して北の地の黒い獣共がここら一帯に押し寄せて来よう。お前はその間、人の巣に籠り待っておれ。我と白狼で、心を無くした獣達を天に返してやろうと思う。そうすれば獣達の命は廻り、またこの森に生まれるだろう』

 天に返すって、キュッと絞めて楽にしてあげるという白竜の得意技の事だよね。

「白竜。穢れに呑みこまれて自我を失った獣が沢山やってくるんだね。それで、私は砦に戻っていいんだよね?集まって来た獣達は白竜とフェンリルにお願いしてもいい?」

『いかにも』

『白竜の娘よ。お前に救われて、私はタエと過ごしたこの地の禍にならずに済んだ。白竜の娘、カノン。お前への借りを返そう。私と白竜がお前に傷一つ付けさせん。だから、安心して人の巣に籠っていろ』

「分かった。白竜、フェンリル。お願いね。私は向こうの砦で待っているから。私と一緒に居る砦の軍の皆さんの事も守って欲しい」

『小さき我が娘を守る南の戦士達と同じ者達か。良かろう』

『白竜の娘。私達に任せるがいい。タエが眠るこの地から、黒い獣を一掃する』

 うん、白竜もフェンリルもやる気になっている。なので、私も共和国軍の人達に安全圏まで下がってもらわないといけない。・・・南の戦士って、エスティナの人達の事?白竜のエスティナの人達への認識って、そんな感じだったの??

 白竜の南の戦士発言にもちょっと衝撃を受けたけど、取り急ぎ今はこっちが大事。

「閣下、撤収をお願いします。私を目掛けてスタンピードがやっぱり起こるそうですが、白竜とフェンリルが凶暴化した獣達を一掃するそうです」

「一掃・・・」

 白竜が言ったパワーワードにヴィゴ閣下は一瞬言葉を失ったけど、すぐに決断を下した。

「撤収!砦まで下がるぞ!」

 白竜と話が出来たし、フェンリルとも意思の疎通が図れることが分かった。更には、これから起こるスタンピードを白竜とフェンリルで一掃してくれるという。今日の所は目的を果たしたでしょう。これはもう、閣下の言う所の大成功だったんじゃない?

 エスティナでも防護柵の前で完璧に凶暴化した大型獣を防ぎ切った白竜だし、今回はフェンリルと共闘するというし、スタンピード対応はお任せして大丈夫だと思う。

 私達は来た道を引き返し、速やかに砦に戻ったのだった。


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面白怪獣大相撲からの、なんか訳ありフェンリルちゃんで情緒が追いつかない。そしてやっぱりスタンピードは起こっちゃうのか。白竜とノア、フェンリルがいればなんてことないだろうけどさ
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