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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
9/26

アストン王国エスティナ 1

 次に私が目覚めた時。

 私は既に慣れ親しんでしまったノアの腕の中に居た。

「カノン、目が覚めましたか?」

 私が少し身動ぎすると、私の頭の上でノアが囁いてくる。

「おきたよ」

 目覚めはしゃっきり。眠気も一切ない。

 体もすっきりしている。一言でいえば、とっても体の調子は良い!

 そして、お腹がすごく空いている。私のお腹が起きた途端きゅるると鳴った。

 ノアは笑いながら私をギュウと抱きしめた。

「カノン、良かった・・・。何か食べられますか?」

「たべる!」

 私を抱きしめているノアの顔を見ると、下がり眉で笑っている。心配をかけてしまったかな。

「わたち、いっぱい、ねた?」

「ええ、3日ほど」

 思った以上に寝てた。

 3日間意識が無かったなんて、ノアにめちゃくちゃ心配させてしまっただろう。

「ごめんね」

「いいえ。スタンレーを出てから馬での移動と野営続きで、カノンも疲れが溜まっていた事でしょう。その上、大熊に遭遇して、聖女の力まで使わせてしまいました」

「しぇいじょの、ちから?」

 移動も野営も全てノア任せ。疲労には全く心当たりはないけど、聖女の力?

「私の推測でしかありませんが・・・。カノンは聖女の力を行使すると眩い光を放ち、幼児退行を起こすのではないでしょうか。アストン王国では魔法使いが沢山いると聞きます。誰かに聖女の力について話を聞ければいいのですが」

「ほおー」

 そう言われればそうかも?

 守護塔の中と、大熊に遭遇した時には光ってから幼児化したからね。ノアの黒い膜を除去した時には既に幼女になっていたから当てはまらないけど。気絶するかどうかには何か法則があるんだろうか。

 しかし私が行使したらしき聖女の力は、具体的にどんなものなのかは依然として謎。ノアがキラキラ輝きだしたり、ノアに纏わりつく黒い靄を消したりしたよね。

 うーん。ノアの助けになってたら良いんだけど。

「とりあえず、スタンレーから無事に脱出をして、人里に辿り着く事が出来ました。大熊の臨時収入もありますし、しばらくこの町でゆっくりして、これからの事を考えましょう」

「うん!」

 ゆっくりできるのは嬉しい!

 ゆっくりするって、贅沢な事だよね。貧乏だった苦学生の頃は、時間があればバイトをしていたからなあ。暇なんて全くなかった。


 ノアは私を抱き上げて、部屋を出て階下に降りていった。

 私達が泊まっている宿はスタンレーで一泊した宿と同じ感じの木造の建物だ。

 階段を降り切ると、すぐに宿の食堂に出た。

「おや、お嬢ちゃん!目が覚めたんだね、良かったねえ」

 そして階段を降り切った所で快活に笑う恰幅の良いご婦人と遭遇した。

「ルティーナさん、ご心配をおかけしました。カノン、この宿のおかみさんのルティーナさんですよ」

「・・・おはよう、ごじゃいましゅ、ぅ」

「おりこうさんだねえ!やれやれノアも一安心だね。ほんとに良かったよ」

 ルティーナさんは私の頭をワシワシと撫でてくれる。力つよ。

「ちょうど昼時だし、何か食べるかい?」

「はい。出来れば子供が食べやすい物を」

「あいよ!空いてる所に座ってなー」

 ノアはルティーナさんにご飯をお願いすると、私を抱っこしたまま食堂の奥に進んでいく。食堂は4、5人が座れそうな丸テーブルが6個に成人男性がゆったり10人は座れそうなL字型のカウンターといった広さ。そして食堂の奥には、大熊を倒した時に出会った冒険者の3人がテーブルについて私達に手を振っていた。

「カノンちゃん、目が覚めたのね!良かったわ」

 褐色肌の美人な冒険者が私に気さくに話しかけてくる。美人冒険者は私の名前を既に知っていた。

 私がノアを見上げると、ノアはテーブルについている3人の冒険者を私に紹介してくれた。

 まずは褐色肌で黒髪、人一倍体の大きい男性冒険者がグイード。冒険者パーティのリーダーだそうだ。そして褐色の肌の金髪緑眼美人のミンミ、ミンミの弟で褐色肌の銀髪碧眼イケメンのラッシュ。全員褐色肌なんだけど、同じ地方出身なのだそう。

 3人は私が目覚めるのを待ってくれていたのだそうだ。

「カノン、ノアはお前が目覚めるまでそばを離れないと言って聞かなくてな。お前の目が覚めたらギルドに行ってクリムゾンベアの売却額について確認してもらう予定だったんだ。カノンがなかなか目覚めなくて、俺等も心配したぜ。まあとにかく、良かった良かった」

 正面のグイ―ドがガハハと笑いながら木のジョッキを豪快に呷っている。

「ごちんぱい・・・、ごめんねぇ」

 ご心配をおかけしまして。

 たまたま知り合った人達だったけど、良い人達みたいだ。一度はノアが要らないと言った大熊の売却代金だけど、約束通りノアに渡してくれようとしている。

「カノンちゃん、かわいいぃー」

「目ぇ覚めて良かったなぁ、おチビ」

 私の左隣ではミンミが両手を顔で覆って叫んでいる。そして反対隣のラッシュは面白そうに私を眺めつつ、私の頭を撫でてくる。

ラッシュは面白動物の観察といった感じだけど、ミンミはどうやら無類の子供好きなようだ。ノアと気が合うんじゃない?

「まずはカノンの食事が先です。はい、カノン。どうぞ」

 私はノアの膝の上に座らされている。幼児用ハイチェアなんてないもんね。

 そしてノアは木のスプーンでシチューの中の肉団子を私の一口分に割り、同じく小さく切り分けたニンジンと一緒に私の口元に近づける。木のスプーンは大人用で大きい。私が扱うのは無理だな。

 この小さい幼児の身体でも自分の事が出来るように生活を整えたいなあ。でも今はノアにありがたく甘えておこう。

 私は口を開き、ノアが差し出す一口を受け入れる。

 肉団子は私の口の中でホロホロに解けるし、ニンジンも味が染み染みで美味しい。3日ぶりのご飯、体に染みるなあ。

 それからは私がぱかーと口を開けばノアが程よい一口分を口に入れてくれる作業がしばらく繰り返された。同席した冒険者達3人は、黙って私の食事を見守っている。グイ―ド達の食事は既に済んでいた模様。そして目の前の3人だけではなく周りからも視線を感じる。

 私は食事をしながら目線だけをきょろきょろすると、隣で食事中の冒険者のオジさん2人がジョッキを掲げて力こぶを私に見せつけてくる。何?

 反対隣りを見れば、ミンミよりも年上のお姉さま冒険者グループが手を振ってきて、おつまみのナッツを口で空中キャッチをしてくれたりする。何なの?

「カノン、周りが落ち着かなくてごめんな。この町は小さい子供がいるのが珍しいんだよなー。エスティナでは子供が出来れば大抵は領都のグリーンバレーで産んで、それから10年以上は領都でそのまま暮らすんだ。だからカノンを見て、子供好きなおっさんとおばさん連中が喜んでるんだわ」

 ラッシュが笑いながら、カノンの周囲の冒険者の言動について説明してくれる。

 そのラッシュの後頭部に隣のテーブルのお姉さま方からナッツが飛んできて、カンコンぶつかってる。

「お、おおー」

 ノアの膝の上に立ち上がって、ノアに抱き着くようにしてノアの背中越しに食堂を見渡すと、周囲のテーブルに座っている食堂のお客達がみんな私を見ていた。私、大注目されてた。

 私が手を振ると、みんな笑顔で手を振ってくれる。お客さん達の服装は、同じテーブルについているグイードやミンミ達と同じ感じ。生成りのシャツにカーキ色や茶色のズボンとブーツ。そして全員がそれぞれの武器を持っている。年齢層は10代の若手から壮年のベテランと言った人達まで幅広い。みんな冒険者なのだろうか。

 ちなみに黒いカッコいい軍服を着ていたノアは、スタンレーの辺境の町で既に今周りにいる冒険者みたいな生成りのシャツに黒いズボンとショートブーツと言った格好になっていた。ノアが周囲に紛れているのかと言えば、ノアの美貌はどうしても目立つのだけど、ノアよりも珍しい小さい子供の私の方が今は注目を集めていた。

 私は周囲を確認してからノアの膝に座り直した。すぐさまノアは私の口にスプーンを近づけてくる。

「カノン、まずは食事を済ませましょうね」

「ふぁい」

 それからはノアが口に運んでくれる肉団子のシチューと、フワフワの白パンを交互に頑張って食べた。シチューは半分も食べられなかったけど、お腹一杯でフウと私が一息つくと、残りはノアがあっという間に食べてくれた。

「さてと、食事が終わったら行くか」

「ええ」

 私が満腹になりすぎて眠気と戦っていると、ノアがグイードに応えてひょいと私を抱っこしたまま立ち上がった。

「のあ?」

「この町の冒険者ギルドで熊の売却代金を受け取ってきます。お金は大事ですからね」

 それは間違いない。

 私はノアの腕の中で真剣にコクリと頷いた。

 それから私とノアはグイード達の後について冒険者ギルドへ向かった。


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