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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
クノーテ共和国お助け編

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白竜からのお願い 1

 エスティナは1年を通してとても豊かな地だ。

 春からずっと花は咲き乱れ、森のいたるところで食べられる果物、植物が取り放題。取っても取っても、次々と実は成り続けるし緑は茂る。前の世界だったら桃源郷とか、人によっては天国と言うかもしれない。エスティナの人々は豊かな自然の中でゆったりと仕事をしながら生活している。

 生活に余裕があるから、エスティナの人達はみんな親切で優しい。怪我や病気、年齢的に働けなくなった人の事は家族や、近隣住民、エスティナ全体で守っていくという土地なのだ。


 自分達が世話になって生かされた恩を返すんだと、ケネスさんは言っていた。

 この生かされたという言葉はとても重い。

 豊かで余裕ある生活と表裏一体で、エスティナは常に狂暴化する大型獣の脅威に晒されてきた。エスティナは定期的に街壊滅の危機にまで追い込まれるスタンピードが発生する過酷な地でもある。人によってはどんなに豊かな生活が出来ても命には代えられないと思う人もいるだろう。

 それでもエスティナの人達は、この地で国の為に獣害を食い止める事を使命として生きている。エスティナの地に暮らす人々は、グリーンバレーの、ひいてはアストン王国中からの尊敬の念を集めている。エスティナの冒険者は、グリーンバレーや王都ではもう、全員が勇者扱いなんだそう。王都のアシュレイ様のタウンハウスではミンミも丁寧にお姫様みたいに扱われていたもんね。

 冒険者風情が!とノアに言い放った第一王子は、王族としては一発アウトだったんだとアシュレイ様から後で聞いた。冒険者はアストン王国全域で活動しているけど、エスティナの冒険者は別格なんだって。

 アストン王国に来た最初からエスティナに飛び込んでエスティナしか知らずに暮らしてきた私は、外から見たエスティナの話を聞いて、ますますこの地に暮らして皆の役に立ちたいと思うようになった。


 そんなエスティナなんだけど、昨年の夏に私と一緒にノアがやってきて以降は、獣害で命を落とす人が居ないのだという。昨年のスタンピードを死者ゼロで防ぎ切って以降、エスティナでは多少の怪我人は出るけども誰1人欠ける事無い日々が続いている。

 まるで夢のようだとケネスさんは笑いながら、私の頭をソフトタッチで撫でる。それを見て、道すがらお爺さんやお婆さん達も私と握手したり、肩を撫でたり、炒ったナッツを直に握らせたりしてくる。

 私が道端の地蔵のようにエスティナの人達に拝まれ撫でられる現象も継続中だ。

 そうこうしていると、私の頭の上にポトリと小鳥が落ちてくる。動物達が私に絡んで来る現象も継続中。街中や都会ではほとんど無いんだけど、少し緑がある場所や森の中ではほぼ毎回絡まれる。そのくせ小鳥とかリスやピーカを私が撫でようとすると、大半が逃げていってしまう。なんでやねん。何の意図で動物達が私にくっ付いて来るのかほんとに謎。そっちから近づいて来たんだろ!と文句も言いたくなるけど、こんな謎現象は未だ続いている。

 大森林には大型獣から小型の獣まで多種動物たちが生息していて、冒険者達が森林の生態系を維持しつつ、人間達の生活圏に影響が出ないように獣を間引いたり、必要に応じて木々を伐採したりして森の管理をする。


 ゴルド大森林がもたらす獣の素材や肉はエスティナの収入源の1つになっているのだけど、ゴルド大森林で採れる果物も、エスティナの大きな収入源になっている。

 夏から秋に実る果物はどんどんと領都に運ばれて、領都の加工工場でドライフルーツや瓶詰のシロップ煮が作られ、北国に輸出されるのだそう。

 グリーンバレーからは主に果物や、南方にしか生息しない獣の素材の輸出がされているのだけど、肥沃な平地が広がるアストン王国東部からは様々な農産物が北方に輸出されているのだとか。アストン王国は、世間一般的には農業大国に位置付けられる。

 今までエスティナの事しか知らなかったからなあ。過酷な環境の中に身を置くエスティナの人達は、大森林の恵みを受けて自分達で食料を生産しなくても食べるに困らない。反対にゴルド大森林から離れた穀倉地帯の国民達は農作業に従事しているけど、獣の襲来に怯える暮らしからは縁遠い。

 こう言っては語弊があるかもだけど、上手い事バランスが取れているもんだなあと思う。過酷なばかりで食うにも困る土地なら暮らしていけないもんね。森の恵みがあるからこそ、エスティナの人達も踏ん張れるのだと思う。



 そんな恵み多き秋のエスティナで、私は果物の収穫のお手伝いに日々励んでいる。

 ギルドから募集があって、収穫の手伝いに駆り出された住民にはギルドから報酬がもらえるのだ。毎年冬にはエスティナ唯一の納税義務である「トコトコ」なる綿花のような物の大収穫がエスティナ中をあげて行われるんだけど、その他にも果物採取とかのアルバイト募集はよくエスティナ住民に向けてギルドから出されている。

 ゴルド大森林の果物の採取依頼は領都の果物加工工場から夏以降ずっと冒険者ギルドに出される物だ。採取専門の冒険者達が依頼を受けて依頼品を納めるのだけど、その年によって冒険者達だけで手が足りない場合はエスティナ住民にも採取の応援要請が出される場合がある。

 今年はずっとエスティナ住民にもアルバイト募集が出されていて、領都の加工果物の輸出が好調なのではと言う話だった。

 例年の夏だと、哨戒任務に常時5チームほどの冒険者達が動くのだけど、白竜が大型獣を何十匹も絞めた影響もあり、今年はせいぜい2メートル級の中型獣しかエスティナ近辺にやって来なかった。なので、この夏は哨戒任務にあたる予定だった冒険者の半分が森林内で果物の採取に従事していた。

 

 私はこの夏、王族に王都まで召喚され、能力を全開示した。

 結果、色々あって、アストン王国の国王は代替わりし、新国王は私とノアがエスティナに暮らす事を快諾してくれた。私もノアも晴れて、逃げも隠れもせずに良くなったのだった。

 人材収集が趣味の王族達に警戒していた頃は、私が1人で出歩く事は禁止されていたけど、今は一人で出歩くことも許されている。

 王都では白竜をバックに前国王や第一王子を脅しつけ、数日王都の中心のアシュレイ様のタウンハウスに白竜を滞在させ数日王都全体に睨みを利かせ、私はアストン王国に怒らせたらヤバい聖女認定を受けたのだという。しかも聖女は人知を超える力を持つ勇者まで従えている事になっている。従えているんじゃなくて、白竜は私を娘と認識して守ろうとしてくれただけだし、ノアは私の家来とかじゃなくて恋人ですからね!

 まあ、そんなこんなで。

 ヤバい聖女とそれに付き従う白竜と勇者がエスティナに戻っていったことに、王都中が安堵したのだそうだ。エスティナに暮らす私に手を出す命知らずはもはや現れないだろうという、アシュレイ様の話だった。

 取り合えず、人に対しては警戒する必要はなくなったと思って良いだろう。

 私が何か危ない目に遭えば、真っ先に白竜が飛んで来るだろうし。白竜は今後も私の最強の護衛をしてくれるだろう。

 ミンミも私の警護で張り付く必要もなくなり、通常の冒険者任務に戻っていった。ノアも安心する所があったのか、以前と同じように私を宿に置いて冒険者の仕事に出かけるようにもなった。


 でも今日は私に付き合ってノアとグイ―ド達パーティも、果物採取のために一緒に森に来てくれている。私達を果物の群生地まで案内してくれたのは、ベテランイケオジ冒険者リックスさんだ。

「ここは俺のとっておきの場所だ。だが、お前達だけに特別に教えるぜ!」

「おおー」

 エスティナの防護柵を越えて、森林内を小一時間程歩き続けて、リックスさんのとっておきの場所なる所に私達は到着した。

「何がお前のとっておきの場所だ!ここは俺が長年手入れしている場所だろうが!」

 そして得意満面のリックスさんに怒鳴るお爺さんと、その他採取に勤しむ人々が沢山。

 リックスさんのとっておきの場所なる採集場では、すでに冒険者やエスティナの皆さんが採集作業に勤しんでいた。

「はっはあ!それは言わない約束だぜ?トミー爺さん」

「そんな約束しとらんわ!」

 リックスさんに怒鳴りながら、冒険者に混じって鎌でとげとげしい大きな果物をスパスパ刈り取っているのはトミーお爺さんだ。リックスさんは肩をすくめて私達にウィンクしてくる。いや、なんでそんなすぐバレる嘘を吐くの、リックスさん。

 そんな2人のやり取りに、採取の人達もワハハと笑っている。

 トミーお爺さんは大鎌のトミーという二つ名を持つお爺さんで、今も現役バリバリで運送屋さんとしてエスティナ領都間を定期的に荷馬車運行している。ガチムチの男性が多いエスティナで、長身だけどスラリとしたスタイルの良いお爺さんで、昔から大層モテたのだとか。60代半ばとなった今もトミーお爺さんはピンと背筋を伸ばして鎌を操り、見上げる程の株に鈴なりになったトゲトゲが付いたラグビーボール位の果物を次々と切り落としている。トミーお爺さんには2人の冒険者が台車に乗せた籠を押しながら付き人よろしくピッタリ張り付いている。トミーお爺さんが目にも止まらぬ速さで切り落とした果物を篭に入れる係だね。

 そのトミーお爺さんが私達に気付いて来い来いと手招きをする。

「カノンちゃん、パルンカは食べた事あるか」 

「無いです」

 トミーお爺さんとは、お爺さんの奥さんの黒いもやもやをこの秋に払ってあげてから顔見知りになっていた。

 猛烈に魔力が回復できる体になった私は王都行きの前後で、遠慮深いエスティナ中のお爺お婆達の黒いもやもやとか、ちょっとした体調不良とかを片っ端から治して回ったのだった。

 それには食事係のミンミやノアが常に付き添ってくれた。そしてその結果、エスティナはますます元気満々の中高年、高齢者が増え、予備戦力が増えると共に採取の人手も充実する事になった。この採取場には元気を取り戻して採取要員に復帰できた人達もチラホラ居てこちらに手を振っている。

 そんな中でトミーお爺ちゃんが他者を寄せ付けない速さでスパスパと地面に切り落としていたのが、ラグビーボール位にデカいパルンカなる果物。皮ごと齧れるプラムみたいな赤い実とかはよく貰うけど、これは食べた事無いなあ。

「今年も良く出来ている。甘いぞ」

 トミーお爺さんが鎌で器用にパルンカを縦に四等分して、更に皮から切り離して、皮の上で一口大にスパスパ切っていく。料理人みたいな刃物さばきですごい。

 トミーお爺さんが味見に差し出してくれたパルンカを、みんなで試食する。

「おいしい!」

 味はまったくもってパイナップル。

 でも見た目がね、軟らかいトゲトゲが付いている茶色いラグビーボールなんだよ。見た目だけならドリアンの方が近いかも。それがパルンカの株というか幹に真横に生えている。トゲは柔らかいけど皮がぶ厚くて苦いので、森の獣達もパルンカは食べないのだそう。人間が収穫しないと腐らせるだけだし、地面に落ちたパルンカは簡単に芽が出て増えるらしいので、増やし過ぎない為にも毎年一定以上採取しないといけない。

 時々パルンカが大増殖して、人も獣も踏み入れない位にパルンカの株が密集してしまう事がある。そうなると、パルンカが自然に枯れるまでその場所は立ち入れなくなってしまう。なので、特に森林内を通る道沿いはパルンカを含む果物の密集具合とかに気を付けて哨戒任務の冒険者達は見て回っている。

 気を付けないと果物が勝手に実り過ぎちゃうなんて、本当にエスティナは豊かな所だよなあ。

 この場所はパルンカ畑になるようにトミーお爺さんが長年手入れしてきた場所なので、採取しやすいようにパルンカの間に人が入れるように株が綺麗に整えられている。

 パルンカは甘いけど、食べていると舌がピリピリしてきた。これは、パイナップルと成分が全く同じなのかもしれない。ひょっとして酵素の力でお肉を柔らかくしたりできるんじゃないかな。今度テリーさんに提案してみよう。お肉と合わせたら、ぶ厚いお肉の柔らかステーキとか作ってもらえるかも。

 パルンカはそのまま食べても美味しいけど、加工して北の国々に輸出するメインの商品なんだそう。パイナップルの缶詰は舌がピリピリしないし美味しいもんね。瓶詰もきっとそんな感じなんだろう。

 パルンカの味見もして英毅を養ったし、さてやるか!

 私達も二手に分かれてパルンカの収獲に参加しようとした時だった。燦燦と降り注ぐ太陽の光がフッと消える。私達がいるパルンカ畑一帯が陰った。

 みんなが一斉に空を仰ぎ見れば、そこには空一杯に白竜のお腹が。白竜のお腹はすぐに私達の頭上を過ぎ去っていった。それと共に遅れてパルンカ畑には風が吹き荒れた。パルンカはずっしり重いので、強風で地面に落ちたりはしない。

「白竜ですね」

「うん。帰って来てたのかな?」

 王都を去る白竜を見送ってから、もうそろそろ2カ月は経つかも。しばらく姿を見ていなかったけど、北にレパード親子を送っていったはずだよね?

 白竜は私達の頭上を飛び去ってエスティナ方面に飛んでいったけど、再びパルンカ畑に風が吹き荒れた。そして太陽も再び白竜のお腹によって隠れてしまった。

『我が娘』

 白竜がすぐさま戻ってきて、パルンカ畑の上でホバリングしながらこちらを見下ろしていた。

「エスティナの方に行ったなと思ったが、やっぱりカノンに用事か。ここはいいからカノンとノアは白竜の相手をしに行けよ」

「カノンちゃん、ここは私達だけで大丈夫よ!」

 採取のお役に立とうと張り切ってやって来たんだけど、白竜が頭上でホバリングする限り、パルンカ畑に強風が吹き荒れてしまう。パルンカは重たいから飛ばされる事は無いけど、みんな作業の手を止めて白竜のお腹を見上げている。うん、迷惑だね!

 快く離脱を許してくれたグイード達に謝りながら、私は白竜に声を掛けた。

「白竜!話を聞くけど、ここから離れるよ!みんなの仕事の邪魔になっちゃう」

『わかった。我が娘、付いて来い』

 白竜は飛行高度を上げると、もと来た道を引き返していった。

 お別れの際にトミーお爺さんがパルンカを2個くれた。全然働いていないというのに、パルンカをゲットしてしまった。またの機会があれば、頑張ります!

 今日の私達は徒歩だったので、ノアと2人で白竜の後を追いかけてテクテクと大森林の中の道を進んでいくと、少し先で白竜がドシーンと地面に降り立った。


新章スタートです。

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