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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編

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平穏の地を手に入れるために 5

 そういえば、さっきから手掴みでずっとご飯を食べてたな。

 王冠の金の台座に指紋がべったり付いたのを、私は見なかった事にした。

「よしよし。カノン、第二王子の頭に王冠を置く簡単な役目だ。頼んだぞ」

 サージェ先生に背中を押されて私は王冠を手に、白竜と第二王子の元に歩み寄っていった。

「何と!聖女カノンが手にするは、偉大なるラシード王の王冠ではないか!!名高い賢王ラシードから受け継がれた王冠を戴くは、白竜の聖女に認められし我が国の新たな王、英雄王ジュリアンである!白竜の聖女カノンとグリーンバレーの勇者ノアが英雄王ジュリアンを支持した!我らが新王、英雄王ジュリアン万歳!!」

 何と!じゃないよ。思いっきりあなた達に持たされたんだが。

 それからオーガスト様、声でっか!ご老人が出す声量じゃないよ。

 そしてオーガスト様に観客が簡単に呑まれた。ついさっき競技場の中央に集まって、お前ら王冠の押し付け合いをしていたじゃないかとか、突っ込む人はギャラリーには誰も居なかった。

「「「英雄王ジュリアン万歳!!!」」」

 観客からは大歓声が沸き起こった。

 もうそれは鬼気迫ると言うか、集団ヒステリーと変わらない感じ。

 乱心する第一王子と短慮な第一王妃、そしてそれに無関心な国王。このヤバい3人に国の命運を懸けるよりは、聖女と勇者の2人との関係がまだ良好そうな第二王子を支持しようと、この短い時間で貴族達の天秤も大きく傾いたようだった。

「観客も藁にも縋る思いで第二王子を担ぎ上げる事にしたな。何よりも、目の前に国を滅ぼしかねない脅威が顕現しているからなあ」

 ビアンカ様がいう所の脅威である白竜は、未だに自分に両手を差し出して微動だにしない第二王子を不思議そうに見下ろしている。まったく大人しくてお行儀のよい脅威だよね。

 もうこうなったら、とっとと第二王子の頭にこの金ぴかの王冠を置いてこよう。

 私は王冠を手に、第二王子の元へと辿り着いた。

「殿下」

「カノン、俺の正面に立て。そうだ、白竜を背後に俺と向き合え。もう一歩、右へ。その位置だ」

 第二王子は小声で私の立ち位置を指示する。

 それから、第二王子劇場が再開された。

「おお!白竜とその白竜を従えし聖女カノンよ!その賢王ラシードの王冠を我に授け、次代の王と我を認め給え!!」

「・・・はい!!」

 私の語彙よ・・・。

 第二王子に呼応してカッコいい台詞なんて言えない私は、せめてもと声だけは大きく出した。私にアドリブの引出しなんてないんだから、次からはしっかり台本を用意して欲しい。

 不思議そうにこちらを見下ろす白竜の前で、腰をかがめて少し頭を下げた第二王子の頭に私はそっと王冠を置いた。

「「「英雄王ジュリアン、万歳!!」」」

 その瞬間、競技場に再び割れんばかりの拍手と歓声が響いた。

 煌びやかな王冠を頭上に戴き凛と立つ第二王子もとい、ジュリアン王にサージェ先生が深紅のマントを装着する。ジュリアン王が右手を掲げると更に拍手と大歓声が競技場を埋め尽くす。

 事前の相談も無しの、突然始まった国王交代劇だったけど、どうにかなったのかな。

 そもそも今日はノアの力試しというか騎士団との模擬試合の予定だけだったのに、白竜がやって来るし、第二王子があれよあれよと新しい王になったみたいだし、怒涛の展開だった。

「カノン、お疲れ様です」

 ノアに肩を抱かれて、私は緊張に詰めていた息をハーッと吐き出した。

「聖女カノン、協力感謝する」

 そんな私達の元へオーガスト様がやって来た。

 オーガスト様は多分、視力を失っている。目を見開いて私を見た時、オーガスト様の瞳孔は黒目が無くて真っ白だったのだ。でも杖を使いながら、オーガスト様は危なげない足取りで私の所までやって来た。フォーフォーと独特の引き笑いと共に。

「盲いた儂が迷いなく歩くのが不思議そうだな。何、儂は別の目を持っておるし、魔力察知はビアンカに引けを取らん。人に見えぬものが見えるのは、聖女カノンとお揃いじゃの。儂は見えすぎる位であったゆえ、盲いた今が丁度いい加減なのだよ」

「あっ」

 なるほど。オーガスト様も魔眼を持っているのか。だからビアンカ様やノアの位置がわかったんだなあ。ひょっとしたら第二王子の光も、オーガスト様には前から見えていたのかもしれない。

「やれやれ。どうにかジュリアンを王に据えられそうだな。光纏う王は、国の更なる繁栄を約束する。中継ぎのジギムンドはともかく、ベルトランを次代の王にする事は出来ん。次代の王となるのはジュリアンと、国の天命で決まっていたのだ。竜の怒りを抑える為ならば国民もジュリアン王を喜んで受け入れるだろうし、貴族共も文句は言わんだろう。さてさて、もう少し後始末が必要か」

 そう言って、オーガスト様は真っ直ぐに2階の王族達が座るボックス席を見上げた。

「聖女カノン、もう少しご助力願えるかのう。あの王族共の穢れはいずれ周囲に悪い影響を及ぼす。側近共も皆穢れを受けて心身に障りが出ている。聖女カノンよ、業深き王族達の穢れを解呪願えるか」

「カノン、ただでとは言わんぞ。思いのまま褒美を取らす。あ奴ら3人の私財はどうせ没収となるからな」

 ジュリアン王がにやりと笑う。

 お金なあー。

 自分のお金がいくらあるのか、管理はノアに任せているから良く分からないけど、ルティーナさんの宿でずっと部屋を借りられる位はあるんだよね。

「オーガスト様。お金はほどほどで良いので、王都の名物の料理やお菓子が食べたいです。美味しい物をもらえるなら解呪します」

「フォー」

 私が食料をせびった事がオーガスト様のツボに嵌ったらしい。オーガスト様の引き笑いはしばらく続いた。

「フォフォフォ。よかろう。王都の名物料理と名物の菓子をたっぷりと食べさせてやろう。聖女カノンよ、楽しみにしておれ」

「よろしくお願いします!」

 だってきっと、あの黒い塊を消すにはだいぶ魔力を消耗すると思うのだ。

「カノン、一人ずつの解呪でも構わんぞ」

 ビアンカ様とミンミも私を心配して白竜の前にやって来た。

「幼児退行を起こしたら、お前の食欲がどう出るか分からん。あの小さなカノンが、腹が空いたとむせび泣くのは可哀想すぎるからな」

「確かに~。あの小さいカノンちゃんの小さい口じゃあ、沢山食べるのも大変そうよねえ。お粥か麺の方が良いのかな」

 確かにー。

 気前よく一気に解呪しちゃおうかと思ったけど、ミンミの指摘にちょっと幼児退行を起こすのが怖くなってきた。飢餓に苦しんでいるのに、小さい口でちょっとずつしか食べられないなんてメチャクチャ苦しそう・・・。

 しかし、事態は躊躇う私を待ってはくれなかった。

「なんだ、あれは!」

「まずい!」

 ビアンカ様とオーガスト様が揃って声を上げた。

 2人の目線を追って王族達のいるボックス席を見上げると、蠢いていた一塊の黒い穢れがブワリと膨れ上がり、ボックス席の左右に展開している衛兵を飲み込んだ。黒い穢れの動きは音もなく静かで、飲み込まれる衛兵達も騒ぐことはない。その穢れは静かにボックス席から溢れて、左右の観客席を少しずつ飲み込み始めていた。

「こんな事、許さん許さん、許さんぞおおお!!私が、第一王子だ!正統な次期国王だ!!許さんゆるさんゆるさんゆるさんゆるさンユルサアアアア」

 黒い塊からゾッとするような怨嗟の声が聞こえる。

『これはもうじき穢れに取り込まれて、自我を失う。そして周囲に禍をまき散らす呪となり、命果てるまで周りを巻き込み続けるぞ』

 白竜は慌てるでもなく、おっとりと王族達のボックス席から溢れ出す穢れを見ている。

 マジか。

 乱心第一王子、もうすぐ自我を無くして呪いと穢れをまき散らす災厄になっちゃうのか。

「聖女カノン頼む、解呪を。あれはイカン。あの禍々しさは、儂も初めて見るぞ・・・」

 オーガスト様の血の気が引いて、顔が真っ白になっている。

 2階の観客席は穢れに呑まれて悲鳴を上げる人もいれば、何事もなく吞み込まれたままでいる人も。穢れは物凄い勢いで増殖しているように見える。

「・・・カノン、出来るか?幼児退行を起こしたら、全力でお前を守ろう。あの穢れは、まるで意志を持って人を吞み込んでいるかのようだ。解呪を、頼む」

 あのビアンカ様ですら顔を青くして、まるで粘菌の様に動く黒い穢れを見上げている。これはもう、躊躇している場合じゃないんだな!

「白竜!私を客席に運んで!黒い穢れを全部消さないと、多分大変な事になる!」

『ふむ。この穢れは、恨み妬み憎しみと言った負の感情の集合変異体だな。人を糧と認識して、際限なく取り込もうとしている。負の感情を強く持つ者はすぐに自我も失い穢れに取り込まれる』

「わあああ!白竜!頭に乗せて!私を二階に運んで、早く!」

 思った以上にやばい穢れだった!!

『我が娘であればこの穢れも消し去る事が出来るか。良いだろう』

 王族達ににらみを利かせていた白竜は、ゆっくりと上体を倒してぺったりと伏せの体勢になった。白竜は私が乗りやすいように頭の位置を下げてくれたんだけど、白竜の頭だけで高さが3メートルはある。

「カノン、一緒に行きます」

 登れん、と白竜の頭を見上げていたらノアが私をひょいとお姫様抱っこして、白竜の前足から肩、首、と軽快に登り上がった。

「ノア、ありがとう!」

「あなたの望みは全て叶えると言ったでしょう?白竜!カノンを上に運んでください!」

『わかった』

 白竜はノアの言う事も聞いてくれて、グーッと上体を起こし、頭を王族達のボックス席へと近づけてくれた。ノアはその間私を抱っこしたまま危なげなく白竜の頭部に立っていた。多分私だけだったら白竜の頭の上から転げ落ちていたと思う。

「カノン。王族達の近くに行けば良いですか?」

「お願い!」

 私から見ると、王族達のボックス席は粘菌状の真っ黒な穢れがみっちり詰まっていて内部の様子が全く分からない。ノアにお願いして、私達は穢れの内部へと飛び込んだ。

 その蠢く穢れに飛び込むと、そこは第一王子の感情を核として、大勢の人々の負の感情が渦巻く空間だった。

「いててて」

 穢れに飛び込んだ直後に、強めの静電気に触ったみたいに私の全身がパチパチ痛んだ。人の妬みとか憎しみの穢れって、独特のピリピリ感がある。聖女の嘆きに感化されて獣が纏う穢れとはまた違うんだよね。

「カノン!」

「大丈夫!」

 私はノアの抱っこから降ろしてもらって、穢れの中に立った。

 穢れの中心では、第一王子らしき男が競技場を見下ろして立ち尽くしていた。その隣には豪奢な衣装を身に付けた中年の男女が倒れている。これが第一王妃とジギムンド王だろう。

 ノアの様子を伺うと平気な顔をして穢れの中で立っているので、ノアはもう負の感情に囚われていないんだなとホッとした。

 憎い、羨ましい、恥ずかしい、悲しい、怖い、苦しい。

 そんな感情が強く伝わってくる。

 これが多分、第一王子が囚われている負の感情だ。その第一王子は、自我を失いかけている状態で、それでも競技場を見下ろしてそこから目を離そうとしない。その先に居るのは、新たな王となった第二王子だ。

 穢れの渦の中心になっている第一王子の肩を私は掴んだ。こんな負の感情を持つに至った第一王子の心境とか、今は考えない。私がすべきことをする。

「消えろ!!」

 後の事はみんながどうにかしてくれる。

 私は力任せに穢れの消滅を祈った。

 そして久しぶりに自分の発光で目潰し食らった。

 ギュッと目を瞑った後にふわりと感じる浮遊感。

「カノン!」

 気付けば私の身体はノアの腕の中だった。そのノアは少し焦った様子で私の口元にフワフワ蒸しパンを近づけている。

「さあ、どうぞ!柔らかくて食べやすい煮込みやお粥も沢山準備していますから、思い切り食べてください!」

「んー、ん?・・・おなか、へってない」

「えっ」

 蒸しパンを片手に私に給餌する態勢だったノアがビックリして固まった。

「空腹は感じませんか?幼児退行を起こす程に聖女の力を行使したというのに。カノン、遠慮せずに食べてください」

 ノアが余りにも心配そうな顔をしているので、口元の蒸しパンに何口か齧りつく。ノアの片手に乗るサイズの蒸しパンを3分の1位食べて、フウと私は息を付いた。ほんのり甘くて美味しい、テリーさんの蒸しパンだった。満足。 


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