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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編

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平穏の地を手に入れるために 3

『心優しい我が娘よ、何がお前を怒らせた?我がその怒りを鎮めてやろう。その白豹がお前の番を殺そうとしたか』

 呼んでも来てくれなかった白竜が今、私の怒りを感じ取って大森林からここまで飛んできてしまったのだった。

 そう、私は怒っていた。

 私だって、第一王子の非道な行いに結構、とても、物凄く、怒っていたのだ。

 ゴルドレパードを悪戯に傷付けた事も、その子を利用して親をノアにけしかけようとした事も、競技場内にいる第二王子とアシュレイ様達に何の配慮もしなかった事も。何よりも、勧誘を断っただけでノアを殺せと叫ぶ王族達を、私は絶対に許せないと思った。

 そもそも今日は騎士団との手合わせだった筈なのに、何故手負いの獣をこの場に用意していたのか。ノアがどう動こうが、第一王子は碌でもない事をしようとしていたからだろうなあ!ムカつく!!

 しかし白竜はバッサバッサと羽ばたきながら、視線をゴルドレパードの親へと定めた。

「違う!違うの!そのレパードは悪くないの!悪いのは、そこで真っ黒い塊になっている第一王子と王妃なの!!あとそれを止めない国王も同罪!!」

『む。何と醜悪な穢れの塊だ。それに、これが王か?只人ではないか。人の王はほれ、そこの眩く光る者だろう』

「えーと、こっちは第二王子殿下なんだけど、今は気にしないで!」

『ふむ』

 競技場の真上でホバリングしていた白竜は、ゆっくりと競技場に降り立った。その際の風圧で更に観客席からは悲鳴が上がる。私達はビアンカ様の結界に守られていたし、ノアは素晴らしい体幹でビクともせず競技場の中央に佇んでいる。

 円形競技場の直径は100メートルも無い位で、中央にノアとレパードの檻があり、白竜はレパードの檻の真横辺りにドシーンと腰を降ろしてお座りをした。ノアは白竜の登場に動揺もせずにいるけど、檻の中のレパードは耳を後ろに向けて白竜を見ながら姿勢を精一杯低くしている。頭上を見上げれば、レパードの子供も身動きが檻の中で取れないながらも姿勢を低くしようとしている。圧倒的強者が突然現れたんだもん、レパード達も怖いよね。

 さて、これからどうしようか。

 気付けば、ノアが剣を鞘に納めてこちらに歩いてくる。

「カノン、白竜に言う事を聞かせられるのはカノンだけですよ」

 突然襲来したものの人や建物に危害を加えるでもなく、競技場に降り立って大人しくしている白竜に対して、未だに観客席から悲鳴も上がっているけど、戸惑うように動きを止める観客達も居る。

 もう王族達に敬意を表する必要もないし。グリーンバレーチームだけ守れればいいかと思うけど、後々王族達がアシュレイ様やグリーンバレーにいちゃもんをつけてこないようにしないといけないな・・・。

「根絶やしに?」

「おい、カノン。よせ。お前、何を考えている」

 不穏な呟きと共に首を傾げた私を、危険を察知した第二王子が止めようとしてくる。

「ふふ。それも可能ですが、国の新体制が整うまでグリーンバレーも少々混乱するかもしれませんね」

 正しく私の考えを読んだノアに指摘されて、そうかと考え直す。まあ、王族を根絶やしとか、かえって後々残された人達が大変かもしれない。

 それならば。

 これは、虎の威を借るもとい、白竜の威を借りてだけど、計画通りに私の力を誇示して、今こそ王族達に私とノアの希望を呑んでもらうのだ!

「白竜、レパードの親に暴れないように言ってくれる?」

『うむ。そこな白豹、動くでないぞ。我が娘とその番に危害を加えれば、すぐさまその命を刈り取ってくれる』

 グオーと白竜が鳴くと、レパードの親は限界まで態勢を低くして、檻の底にへばりつくようになった。親の耳は完全にイカ耳と言う奴になっている。デカいけど、ネコ科なんだなあ。白竜に怯え切っているから、レパードの親は大人しくしているだろう。

「ビアンカ様。まず、レパードを助けます」

「・・・気をつけろよ」

 ビアンカ様は結界の維持をしないといけないので動けないし、アシュレイ様達を守って欲しい。

「カノンちゃん」

「ミンミもここに居てね」

 心配するミンミもビアンカ様の結界の中に居てもらう。対人警護ならミンミに安心して頼る所だけど、レパードと白竜が出て来てはミンミも危ないからね。

 グリーンバレーチームの守りをビアンカ様に預けて、私はノアと合流した。

 しかしそこで、私の意識の外になりかけていた第一王子が声高らかに叫んだ。

「でかしたぞ、カノン!その白竜を私に献上するならば、その剣士の無礼も無かったことにしてやろう!」


「はああ?!バッカじゃないの?!!」


 反射的に私は第一王子に怒鳴っていた。

 人に怒鳴るなんて、生まれて初めての事だった。それも一庶民の私が一国の王子様に向かって。第一王子に怒鳴り返しても尚、後から後から沸き起こる怒りに私の心臓はドクドクと脈打っていた。

 私の怒りに呼応してか、白竜が王族達のボックス席に向かって咆哮を張り上げ、ボックス席の黒い塊からは王族達の悲鳴が上がった。

「別にノアの事を許してもらわなくてもいい!白竜をあんたにあげる訳がない!!あんたの許しなんて、欲しくも何ともないわ!!王族だからって、何をしても許されると思うなよ!!バーカ!!!」

 頭に血が上ったせいか、更に残念な事になる私の語彙力よ・・・。

 シンと静まり返る競技場で、ビアンカ様の笑い声と手を叩く音だけが響いていた。

「私の邪魔をしないで!何か変な事をしたら、あんた達をぶっ飛ばすからね!!ここに居る、この白竜が!!」

 まさに白竜の威を借りて私が王族達に啖呵を切ると、空気を読める白竜が合いの手を入れるように再び王族のボックス席に向かって咆哮を上げた。再び王族のボックス席から悲鳴が上がる。これだけ白竜が脅しつければ、王族達ももう余計な真似をしないだろう。ほんと、頭にきてどうにかなりそうだから、これ以上何も喋らないで欲しい。

 私は興奮を抑える様にフーっと息を吐きだした。

 よし、まずは可哀想なレパードの親子だ。

 私はゴルドレパードの親の檻に駆け寄った。ノアもピッタリと私について来てくれる。

「白竜。レパードの子供を親に返してあげたいの。そこの子供の檻を壊せる?」

『む。これか』

 白竜は2階の観客席から伸びる太い鉄の棒に吊るされた、レパードの子供の檻を見た。このクレーンみたいな檻を吊るせる装置が観客席に備わっていること自体が、この競技場が碌でもない使い方をされている事を示しているような気がする。何のために檻を吊るす装置が必要なんだって―の。

 白竜は躊躇なく片手でレパードの子が入った檻を掴み、吊り下げていた設備ごとメキメキと引っこ抜いた。クレーンを固定していた部分が瓦礫となってグリーンバレーチームに降り注いだけど、ビアンカ様の結界のお陰で瓦礫は全部結界の周りに落ちた。

「ご、ごめんなさい!大丈夫でしたか!」

 これにはヒヤッとした。白竜にちゃんとグリーンバレーの人達の事も気を付けてって言わなきゃならなかった。

「こちらは私が守る!お前は何も気にせずに思うようにやれ!」

 ビアンカ様の力強い言葉に、ホッと胸を撫でおろしながら私は気持ちを切り替える。

「白竜、ありがとう。あと、出来れば今ここに居る人達が怪我しないように気を付けてくれたら助かるよ」

『相分かった』

 白竜はぐるーっと競技場を見渡してから了解してくれた。競技場内に取り残されたグリーンバレーの人達の存在を認識してはいたけど、今守るべき物と理解してくれたみたい。2階の観客達の事なんて、ここにも人間がいるなー位の雰囲気だった。白竜には獣と人の区別もなさそうだし、白竜と付き合っていくならこれから私が気を付けないといけない所だな。

 白竜は引っこ抜いた檻を競技場に降ろし、私の指揮の元、レパードの子に怪我をさせないように檻を壊してくれた。

 レパードの子と言えど、手足を伸ばしたら体長2メートルに届くかって位の大型獣だった。頭が体に比べておっきいし、手足も太い。可愛いけど、爪も牙も鋭い猛獣だ。

 レパードの子供はミュウミュウ鳴きながらすぐに親の元に駆け寄り、親の胸元で蹲った。白竜の存在に怯え切っていたレパードの親も、我が子が手元に戻ってきて檻の中で受け入れる体勢で寝そべった。

 そして、私はレパードの親が子供に気を取られている内に、そっと檻の外からレパードの後ろ脚に手を伸ばして、毛皮が真っ赤に染まっていた左足を治癒した。すかさずノアが私に具沢山のサンドイッチを手渡してくれるので、片手で掴んで行儀悪く立ち食いをする。

 レパードの親が振り返って檻越しにサンドイッチに齧り付く私を見た。レパードの澄んだ水色の瞳がとてもきれいだ。私はレパードと見つめ合いながらサンドイッチ1つを完食した。私がレパードに危害を加えないって、分かってくれたかな。

「白竜。今からレパードの親の怪我を治すから、暴れないでってレパードに言ってくれる?あとこの刺さりっぱなしの槍をノアに抜いてもらうから、痛いと思うけど我慢してって言って」

『治してやるのか』

「うん」

 エスティナに暮らしたいと思う私とノアは、これからも獣達の命を貰って生きていく事になると思うけど、今ここで、このレパードの親が死ぬのは嫌だなと思うんだよ。

「森の中で人に狩られて素材やお肉になるのは、自然の営みの一部だと思う。けど、こんな風に、人の糧にもならずに命を奪われるのは、私は嫌だ。このレパードには元の場所に帰って、豊かな森の中で子供をしっかり育てて欲しい」

 その中で、その地に暮らす人に狩られるのも、寿命を全うして土に還るのも、それは自然の営みの1つ。そういうレパードの生涯なら、良いんじゃないかと思う。

『森を慰撫する者たる我が娘がそう望むなら、我はお前の望みを叶えよう。白豹よ、我が娘がお前を救うと決めた。森に帰してやるゆえ暴れるでないぞ』

 ガウーと低い声でレパードに白竜が鳴けば、レパードは身を委ねるように更にゴロンと体を倒した。体を伸ばした事でレパードの肩から上がずるりと檻から出て来た。檻に押し込められていたけど、このレパードは頭からお尻までで5メートルはあるかな。尻尾を入れたらそれ以上。でかい。

「ノア、レパードの槍を抜いてくれる?」

「分かりました。一本ずつになりますが一気に引き抜きますから、カノンはすぐに治癒魔法を」

 ノアとレパードの治癒魔法の打ち合わせをしていたら、タタタと軽快な足音が聞こえた。見ると、口を引き結んだミンミがこっちに駆け寄ってきた所だった。その後を悠々とビアンカ様も追いかけて来る。

「ミンミ、ビアンカ様」

「カノンちゃん!私、ご飯の係やるから!」

 そう言いながらミンミがギュウと私に抱き着いて来た。

「ノアやビアンカ様みたいに戦えないけど、私、カノンちゃんにご飯なら渡せるから!」

「カノン安心しろ、アシュレイ達は先ほど場外へ避難させた」

「ありがとうございます、ビアンカ様」

 グリーンバレーチームが居た場所を見れば、もうそこには誰も居なかった。白竜とレパードが対峙している隙にアシュレイ様達は無事に脱出出来たみたいだった。

そして私は、私にしがみ付いたままのミンミの背中をポンポンと叩く。

「ありがとうね、ミンミ」

「とにかく今は、カノンちゃんの傍に居るから!」

 抱擁を解いたミンミは、目元に少し涙が滲んでいるもキリリと凛々しい顔になっていた。

 ミンミの決意はとってもありがたいけど、このメンバーの中ではやっぱりミンミが心配。

 私はミンミの防御力を上げるべく、ミンミに支援魔法をかけた。自分の身体を取り巻く白い光に驚いたミンミは、慌てて私の口にピロシキっぽい揚げパンを突っ込んできた。それは空腹を感じると同時だった。

 本当にミンミは有能過ぎるご飯係だよ。助かる。



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