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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
8/26

いざ新天地へ 3

 感情が乱高下して疲れて寝落ちしそうになった所に、ドカラドカラと馬が駆ける音が近づいてきた。

 ビックゥと体を揺らして、私はハッとノアの胸から顔を上げた。その間、ノアは私をずっと抱っこしっぱなし。私はノアから降りようとジタバタするも、ノアが私の身体をガッチリ抱きしめて離さない。

「大丈夫かー?!」

 大熊がやって来た私達の後方から、馬が3頭駆けてくる。

 近づいてくるその馬には、女性1名、男性2名が騎乗している。男性2人は剣を抜き身で構えたままだし、女性は背中に弓を背負っている。

 お利口にも近くで待機していた馬にノアは私を乗せて、近づいてくる3人に走り寄りながら剣をスラリと抜いた。

「おっ?!ま、待てよ、兄ちゃん!俺らは獣駆除専門の冒険者だ!」

 3人連れは慌てて馬を竿立たせて、ノアの前で急停止した。

「こっちにデカい熊が来なかった・・・か?」

 冒険者達はノアに質問しながらも、ノアの背後に気付いて3人共がポカンと口を開けた。

「・・・なんだと」

 3人連れはそれぞれ武器をしまい、馬から降りた。

「あんたが仕留めたのか?」

「ええ、まあ」

 3人は両手を上げながらノアに近づいてきた。

「あんたに危害を加えるつもりはない。武器を収めてくれないか」

 ノアは3人連れに剣を向けたままこちらに後ずさりしてきて、街道脇の馬と私の近くまで下がって剣を鞘に納めた。

 ノアが剣を収めた所で、3人連れは街道の真ん中で事切れた熊に近づいて行った。

「うっわ。・・・真っ二つじゃん」

「信じられない・・・」

「凄まじいな」

 3人は賑やかに熊を検分している。

 3人連れはしばらく熊を眺めてから私達の所に歩いてきた。

「可愛い子ね。怖かったでしょう?ごめんなさいね」

 弓を背負った褐色の肌の美人が私を見ながらにこやかに話しかけてきた。

「あなた達は親子?」

「そうです」

 ノアが間髪入れずに応える。

 ん?兄妹とかじゃなくて?

私が首を傾げると、女性が頬を緩めて笑った。

「お母さん似かしら。小さいお鼻、可愛い~」

 鼻・・・。

 私の鼻はお母さんに似て、低くて上を向いている。ノアみたいにスッと通った鼻筋には昔から憧れていたけど、持って生まれたものはしょうがない。

 ニコニコと笑顔で私を見てくる美人を前に私は少し居心地が悪く、鼻を押さえようと手を上げた。

「・・・・・」

私の手はぶかぶかのワンピースの袖に隠れて埋もれていた。私はやっと自分の状態に気付いた。

「その服、その子に大きすぎない?他に服は無いの?」

「あります」

 なんと。

 なんでか知らないけど、私は再び幼女の姿へと戻ってしまっていた!

「の、のあ。のあ。ふくとまんと、ちょうだい」

「・・・一人で着替えられますか?」

「だ、だいじょうぶ!」

 私は馬から降ろしてもらい、ノアから幼児服とマントを渡される。

 そして私はノアと3人が見守る中、マントをすっぽり頭から被り、どうにかマントの中で幼児用ワンピースとかぼちゃパンツを装着した。

 そしてマントをえいやと取り払うと、ノアと3人連れは変わらず私を見守り中だった。

 4人の大人達に注目されていて、子供ワンピースを身に付けた私は無言で大人達の前で立ち尽くす。

「可愛い!抱っこしても良い?」

「駄目です」

 ノアは褐色美人のお伺いをそっけなく断ると、マントスリングに私をスポッと入れ、私が脱ぎ散らかした成人女性用のワンピース等を素早く回収してカバンにしまった。

 そしてノアは私を抱っこしたままひらりと馬に乗った。

「それでは、私達は先を急ぎますので」

「ままま、まて、待てって兄ちゃん!」

 走り出そうとするノアを、冒険者の1人が慌てて止めた。

「あの大熊を仕留めたのは兄ちゃんだろ。なら、あれはあんたの物だ。置いていくのか?」

「・・・見ての通り、娘と荷物で手一杯なので。置いて行きます」

「馬鹿言うなよ!クリムゾンベアのしかも大型個体だぞ?半身に分かれちまってるが、肉も内臓も、毛皮や爪、牙も全部いい金になるんだぞ?」

「では皆さんに差し上げます。そもそもその熊はあなた方が追っていたものだったのでしょう?」

「あああ、もう!」

 つれなく断り続けるノアに、ガタイの良い方の冒険者の男性が頭を抱えている。するともう1人の男性冒険者がノアに提案した。

「それじゃあ、お兄さん。お父さん?俺らのパーティがクリムゾンベアをエスティナまで運ぶから、俺らには運搬料だけくれない?素材の買取代金はお兄さんの物。それでどう?」

「のあ」

 私はノアの胸元で、ノアをトントンと叩いた。

「おかね、だいじ」

「・・・わかりました。そのエスティナで、子供も安心して泊まれる良い宿はありますか?」

 フウとため息をついて、ノアは相手の提案を呑むことにしてくれた。

「それなら『ルティーナの宿』がお勧めよ。食事は美味しいし、宿は清潔。おかみのルティーナは人柄が良い。私達の定宿なの」

「それでは、後ほどその宿で」

 ノアは必要な約束を最低限取り交わすと、3人を残して馬を走らせ始めた。

「兄ちゃん、名前は!」

「ノア!」

 ノアは自分の名前を言い捨てると、それからは馬を町へ向けて本格的に走らせ始めた。

 あんまりノアはさっきの人達と関わりたくなさそうだったんだけど、お金は大事だよ。

 なんでか私はまた幼女に逆戻りしてしまったし。私というお荷物を抱えるのであれば、尚更貰えるものは貰っておいた方が絶対いいってば。

 と、がめつい私は思ってしまうのだけど・・・。

 ノアは無言で馬を走らせ続けている。

 馬が走っている間は会話が出来ないんだけど、宿に着いたらちゃんとお話ししないとなあ。

 と、思いながらも。

 この幼女の身体になると、所構わずすぐに眠くなる。ノアのマントスリングに入れられてしまうと、もう条件反射のように必ず眠ってしまう。

 私が次に目覚めた時は、またも宿のベッドの上だったのだった。



 目が覚めた時、視界には見知らぬ天井が。

 いや、スタンレー王国の宿屋と全く同じような天井があった。

 私はまた宿屋のベッドの上に寝かされていた。

 スタンレー王国の宿屋と違ったのは、ノアとの距離の近さだよね。天井をしばらくボーっと見てから視線を少し横へずらすと、私の隣ではノアが肘枕をして私を見下ろしていた。

「・・・おはよ、のあ」

「おはようございます、カノン」

 おはようといいながらも、室内にはランプの灯りが揺れていて夜なのだと分かる。

「いっぱい、ねちゃった」

「寝る子は育つと言いますから」

 フッと笑うとノアはおもむろに私を引き寄せた。

 そしてそのまま、ノアはギュッと私を抱きしめる。

「・・・何が、起きたんでしょう。軍での私の力は、せいぜい上の下。小手先が効く対人戦闘ならそれなりなのですが、私の膂力では、あのような巨大な獣を一刀両断にするなど無理なはずなのです。ですが今日はあの熊と対峙した時、正確にはあなたが光を放って小さくなってしまった直後、信じられない程の肉体の充実と、何より自分自身に対しての驚くほどの自信が沸き起こってきました。あの巨大な熊を必ず倒すとあなたに宣言するほどの、溢れる自信がです。以前の自分であれば、せいぜい自分の命を犠牲にしてあなたを死地から逃す事しか出来なかったでしょう。実際に私は身を挺して、熊を足止めしてカノンを逃そうとしましたしね」

 ノアが腕の拘束を緩める。私はノアの腕の中で、ノアの顔をジッと見上げる。

「・・・カノン。私に何かしましたか?」

「わかんない」

「そうですか・・・」

 ノアが私の上に倒れ込んできて、私の首筋に顔を埋める。

 私も自然に受け入れてるけど、ノアは私が幼女化した時の距離がめちゃ近い。嫌じゃないからいいんだけどね。

 ん?

「のあ、かおいたい」

「っ、すみません!」

 ノアが慌てて上体を起こした。

 ノアが私に頬をくっつけた時、ピリッとした。

 ヒゲ?と思ったけど、ノアって、体毛薄いんだよね。今日も無精ひげなんて見当たらない、つるんとした奇麗な顔だ。

「んう?」

 何だかノアの顔に、体全体に?薄墨のような、半透明の膜がまとわりついているように見える。その薄墨を水に溶かしたような膜は、濃淡を変えて生き物のようにノアを覆っている。

「のあ、それ、なに?」

「・・・なんのことでしょう?」

 私が薄墨の膜を指さしても、ノアは不思議そうに首を傾げている。

 ノアには自分に纏わりつく黒い膜が見えないみたいだ。

 昨日まで私にも見えなかった物だけど。

 試しにノアの右手に手を伸ばしてその膜に触ると、指先にピリリと静電気のような痛みが走る。その感覚は、何だかとても嫌な感じだ。

 その薄墨の膜は濃淡を変えて蠢き、ノアの首元で薄墨の黒が濃くなった時、ノアはケホンと咳をした。

 私は反射的にエイッとノアの右手に纏わりつく薄墨の膜を手で払った。

 するとその膜は、私が払った部分が消えてしまった。

 ピリピリ痛い膜なんて、無い方がいいよね。それにノアの首元で薄墨が濃くなった時、ノアが咳をした。なんか嫌だ。

「えい!えい!」

「カ、カノン?」

 戸惑うノアに構わず、私はノアの全身に纏わりつく黒い膜をパッパッと手で払っていく。静電気みたいにピリピリするけど、それ位我慢できる。

 両手、両足、ノアのお腹と背中も手で払いまくる。ノアの喉仏も撫で摩る。くすぐったそうにノアが身動ぎしても、しつこく撫でる。するとノアの咳が止まった。

 ベッドに座ったままのノアの周りをグルグル回るだけで、私の顔には汗が噴き出してきた。あっつい!

「カノン、どうしたのですか?」

 ノアにはほんとにこの黒い膜が見えていないんだな。

 私は汗をかきかき、ノアの首から下の膜は全て手で払ってノアから引きはがした。

 首から頭の天辺まで覆う黒い膜は頑固だった。

 払っても払っても、じわーっと何処からか湧き出てくる。

 でも払う回数を重ねると、その薄墨の黒はどんどんと色味が薄くなっていった。

 ノアは驚いたように私を見ている。ノアにも何か変化があったのかな。

「じぇんぶ、きえろぉー!」

 しつこく残る、消えかかった膜に向かって私は叫んだんだけど、私はノアの頬を両手で抑えているから、ノアに叫ぶ様な恰好に。

 ノアが驚いて目を丸くしている。そうだよね、説明が全くないのに突然始まった私の奇行だったよね。でも、この黒い膜。絶対にノアに良くないって思う!

 そして私が叫んだ途端、私の視界はまた真っ白になった。

 ああ、これは結界の塔の時と同じ。ブラックアウトする直前の感覚だぁー。気持ち悪くてグラグラしてきた。

 私ときたら、寝ているか気を失ってばかりで本当に申し訳ない。

 ノア、ごめん。

 私の思考はそこで途切れた。




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