それでは私の力をお見せしましょう 1
召喚状へ返事を出してから、私達は馬車で10日の道程を一路王都へと向かった。
今回の王都行は7台の馬車が連なってその周りを騎士団が囲みながらの大移動となった。第二王子と領主夫妻、ビアンカ様が一台ずつの馬車に乗り込み、更に衣装等の荷物がお一人様に付き一台となっての7台。これだけで行列が出来てる。騎士達は騎乗して馬車を囲んで移動する。
そして私とノアとミンミは騎乗で王都に向かう。王都でどう話が転がっても良いように、自分達の移動手段を持っていないと、と言う訳なのだった。
私はまたもノアと2人乗りだ。ビアンカ様の馬車に私は誘われたんだけど、ノアが固辞。何故にノアが断るのか。まあ、今回はマジックバッグに私達の荷物も全部収納できたので非常に身軽。いつもは2人乗りの上に2人分の荷物を乗せられても健気に頑張るセイラン号なので、今回は少しはセイラン号の負担も軽減できたんじゃないだろうか。
挨拶しようと顔に手を伸ばせば、セイラン号は鼻面をそっと私に近づけてくるのだ。セイラン号は何とも奥ゆかしく可愛い女の子だ。今回もよろしくね。
領都グリーンバレーから王都までの道はしっかり整備されていて、丁度よい頃合いに宿場町があったり、宿がある町があったりする。私達は特にトラブルなく、アストン王国王都ラーイへと無事に到着した。
王都ラーイは、中世から近代へ移行しつつあるヨーロッパって感じ。
ちなみにアストン王国のライフラインは未だに薪火と井戸水、照明はオイルランプか蝋燭。電気はまだ使われていない。それは王都でも辺境と変わらない。でも王都は下水道がしっかりと整備されていて、王都民の衛生環境はそれなりに整えられている。人口密度が辺境より高いだろうから、下水道が無かったらだいぶ悲惨な生活環境だったと思う。
王都の中心街には水路も張り巡らされていて、生活用水として使われているとの事。街道にはキレイに石畳が敷かれていて、街並みは石造りの建物が多い。街道に面した建物は3階建て位の高さで揃えられていて、住宅街から商店街、貴族街と大通りの街並みは変わっていく。グリーンバレーと比べても洗練された都会だな、って感じ。
王都の入場門は非常にスムーズに通してもらえた。やっぱり辺境伯の家紋を背負った馬車が7台連なり、且つ銀色の甲冑を着込んだ騎士団が警護にあたっているからね。疑いようも無く高貴な身分だと分かるでしょう。
第二王子は馬車に乗ったまま私達と別れ、数人の護衛騎士達と共に王城へ向かう。私達はアシュレイ様の王都のお屋敷、タウンハウスへ招待される事となった。
アシュレイ様の王都のタウンハウスはグリーンバレーの要塞のようなお城とは打って変わって、辺境伯一家が居心地よく過ごせるためだけに考えた貴族のお屋敷だった。庭は観賞用に美しく手入れされていて、小道を進んだ先に休めるような東屋的な物と小さな噴水が。ノアに聞いたら東屋はガゼボと言うんですよと教えてくれた。おしゃれだねー。休憩避難所想定です、って感じの領都のだだっ広く四角い庭と趣が違う。
王都のタウンハウスにも優秀な使用人の皆さんが揃っていて、私とノア、ミンミは居心地よく過ごさせてもらっている。
そしてあっという間に一週間が経ち、やっと王城から私に登城の命令が届いた。
私に登城命令が出たからと言って、庶民の私が単身でホイホイとお城に行けるはずもなく、王都にやって来たメンバーほぼ全員で、アシュレイ様を筆頭に第一王子の命に従い登城する事になった。
お城の中では庶民のミンミの動きが制限される事もある。なのでベル様は常に私に付き添ってくれることになった。
「お城の中には意地の悪い人間も山ほどいますからね。言葉の攻撃だけならともかく、何か良からぬ事をして来たら、ミンミでは貴族に対抗できないわ。カノンちゃん、遠慮しないで私に頼って頂戴ね」
「私も現在、王国の役職には何もついていない自由の身だ。我が弟子のカノンの警護を全力でやらせてもらおう」
「ありがとうございます、ベル様。ビアンカ様」
城内では女性しか立ち入れない場所もありますからねと、ベル様からは王都に来る前に説明されていたので、よろしくお願いしますとノアもベル様には頭を下げていた。
私の護衛としてはミンミとベル様だけでも十分な戦力な気がするけど、それに加えてアストン王国最強魔術士ビアンカ様まで私の護衛についてくれるという。言うまでもなくノアは常時私にくっ付いてくれているし、護衛戦力過多じゃないかと思わんでもない。アシュレイ様の護衛はステファンさんともう一人の騎士さんの2人だというのに。単純にアシュレイ様の倍。
ベル様にまで護衛をしてもらう事に対してアシュレイ様にお礼を言ったら、「辺境伯家の人間は自己防衛のためにも最低限戦えるように訓練している。気にせずベルに守られておけ」とニヤリと笑った。ベル様だけじゃなくてもちろんアシュレイ様も常日頃から訓練しているんだろうなというガタイの良さだもんね。もうグリーンバレーは戦闘民族の地、という認識で支障はないと思う。
そしてとうとうやって来たアストン王国の王都王城。
「う、うわあー・・・」
「凄いだろう、カノン」
入城の手続きを済ませた私達は王城に足を踏み入れたんだけど、王城内を歩いている人々の8割がたが体のあちこち、もしくは体全体に黒いもやもやをくっつけて歩いていた。
王都に入った時から道を行き交う人々の中に時々黒いもやもやに包まれている人を見かけてはいた。でも人が多くいる所ではこんなものなんだろうなと思っていた。
でもアストン王国王城、街中の比じゃなかった。
黒いもやがくっ付いていない人の方が数える程度。ほぼみんな黒いもやをくっつけている。
「これを見ると、深層に凝り固まった穢れのみを持っていて、表面に何の穢れもまとわりついていなかった第二王子が何と特異であったか分かるだろう?あれは持って生まれた性格もあるだろうな。底抜けに明るくて陰りを基本寄せ付けんのだ」
「なるほど」
私は穢れはびこる伏魔殿のアストン王城の玄関広間でしばらく立ちすくんでいた。私の隣にはビアンカ様が黒いドレスに黒いピンヒールの戦闘服で仁王立ちして、行きかう人々を睥睨している。
「これに比べればグリーンバレーは人々の穢れが殆ど無いぞ。それは領主の城でも街中でも変わりない。領民の満足度も高く、生活に不平不満が無いからであろうな。過酷な辺境の地だというのに、アシュレイは良くグリーバレーを治めている」
確かにそうだったかも。
思い返してみると、グリーンバレーの領主のお城の人達には黒いもやもやをくっつけている人は1人もいなかった。領都を街ブラしていても、黒いもやもやをくっつけている人は見当たらなかった。
ビアンカ様はなんだかんだ言ってアシュレイ様の手腕を認めているからグリーンバレーに身を寄せていたんだろうなあ。当のアシュレイ様はビアンカ様に振り回されがちなので、本人にその事を是非伝えてあげて欲しい。
それから私達はしばらく領主ご夫妻と一緒に応接室で待たされてから、第一王子に謁見する事となった。
第一王子は、全身真っ黒だった。
顔かたちも、どんな服装なのかも分からない程に。
あ、ちなみに、私とノアはアシュレイ様に王族謁見用の服を仕立てて頂いた。
私の服はクリーム色のサマードレスと言った感じで、着やすいし動きやすい。ちょっと庶民が頑張りましたという感じ。ドレスを着させられた私の顔の強張りを見て、ワンピースに限りなく近いドレスの採用となった。
ノアは淡いグレーのフロックコートという丈の長いジャケットに黒いパンツと黒いブーツを合わせていて、これがまあ物凄く似合っていた。素材が良いと何を着てもって所だよね。普段の生成りのシャツに黒いパンツの冒険者ルックで全然カッコいいんだもん、そりゃこうなるわ。
王城ですれ違う人達も、ノアの美貌に目を瞠り、更に大迫力絶世美女で前魔術師団長ビアンカ様に気付いて慌てて会釈をし、って感じだった。私以外は領主夫妻もミンミも美男で美女なので、目立つ一団ではあると思う。
ミンミは私の護衛ポジションなので冒険者の装いで構わないんだけど、王族の前には出られないようで、待合室で待機となった。その代わり、私の左右ではノアとビアンカ様が鉄壁の守りを敷いている。お世話になります。
「ほう。その者が竜と対話できる娘か」
二段ほどの壇上の椅子の上に黒い塊が鎮座していて、私を見ながら話しているみたい。私は第一王子を直視しないように両膝を床について目線を下げて礼を取り続けているけど、視線は感じる。ちなみに私の前に領主夫妻が並んでいて、アシュレイ様は胸に手を当ててずっと頭を下げている。ベル様は腰を落として頭を下げ続けている。これは王族への礼の取り方だそうなのだけど、中腰で前傾会釈体勢を維持し続けられるベル様、体幹強い。
ノアも私の隣で片膝を付いて頭を下げている。私の反対隣りでは、ビアンカ様が仁王立ちで聳え立っている。ビアンカ様は第一王子の前でも通常運転だ。
「は。賢人様方が王子殿下にお話しになったというビアンカ・ケープゴッドの弟子は、こちらのカノンの事にございます。竜と対話が出来るかについては、私は確認しておりません」
「ふむ。カノン、面を上げよ」
第一王子に声を掛けられて、私は顔を上げた。
うん、第一王子の表情が真っ黒で全然わからん。第一王子の黒い穢れは、真っ黒いフワフワの綿が第一王子の全身を覆っている感じ。第一王子の輪郭がフワフワ。そして全然本体が透けて見えない。こんなに穢れが纏わりついていたら、この第一王子にも何らかの体調不良とか、精神への干渉とかあるんじゃないかな。
「それでは、早速だが」
そこで、第一王子の声を遮るようにノックが鳴った。
謁見の間の奥の扉に衛兵が寄り、すこし扉を開いて話をした後、その扉が大きく開かれた。
「兄上、ご機嫌麗しゅう」
扉の向こうから姿を現したのは第二王子だった。
「ジュリアン・・・」
「兄上、私はしばらくグリーンバレーを視察しておりまして、この者共とは向こうで知り合ったのです。カノンの白竜と交流できる能力は驚くべき物でした。その他にもカノンには素晴らしい力があります。その能力を兄上にもカノンが披露すると聞きましたので、私も同席させていただきたいのですが、よろしいですか?」
「・・・好きにしろ」
第一王子が許可を出したので、衛兵達が第二王子の椅子を運んで来る。そこで椅子を壇上へ上げようか迷っている衛兵に第二王子は指示を出し、跪く私と第一王子の真ん中らへん
の壁寄りの、変な位置に腰を降ろした。
うん、微妙な距離が第二王子と第一王子との心の距離を現している感じだね。第一王子も表立って拒絶はしないけど、第二王子ウェルカムというリアクションじゃないもんな。命を狙う位に第二王子を憎く思っているらしいしね。
そんな第一王子にわざわざ近づいてくる第二王子は何がしたいのか。前にいるアシュレイ様をみると、無言で第二王子を見つめ続けている。アシュレイ様も第二王子が来るって知らなかったっぽいなあ。
もともと出たとこ勝負だった第一王子との謁見に、不確定要素の第二王子が参戦してきた。これはますます結果がどうなるか分からない・・・。とにかく出すもん出して、私とノアはエスティナで暮らしたいので帰ります!と途中経過がどうなろうと最後に宣言するのが今回の目的だ。オーケーオーケー、着地点は定まっているから、取り合えず第二王子は構わないでおく!
「さて、ジュリアンの前でその力を既に知らしめているようだが、カノン。私も稀有な白竜と言葉を交わせる力を是非見てみたい」
アシュレイ様が私を振り返ってコクリと頷く。直答OKです、って合図だよね?
「それでは、ここまで白竜を呼んでもよろしいですか?」
私の言葉に第一王子の傍の護衛騎士達がザワッ・・・とした。いや、白竜と対話しろっつったら、そういう事になるでしょう。
「でも、エスティナでは大森林の奥から白竜は飛んできてくれたのですが、王都は大森林から遠く離れています。呼んでここまで白竜が来てくれるかは、やってみないと分かりません」
「なるほど・・・」
真っ黒綿人間みたいになっている第一王子が、何やら考え込んでいる雰囲気。
「その白竜の大きさはどれほどになる」
「白竜は、エスティナの防護柵を軽々と上回るほどの大きさでした。この王城の大きさからすると、立ち上がった状態で4階に達するほどでしょう」
第一王子の質問には第二王子が答えてくれた。
でかいよね!
自然豊かで他に比較物も無いエスティナだと、白竜単体を眺めてでかいなーと思うばかりだったけど、人の暮らす場所に白竜が来たとしたら、あまりの白竜の大きさと、人の営みの世界の小ささの対比に王都民がパニックになること間違いない。王都の中でも一番大きい王城を軽く脅かす白竜の大きさだった。
「・・・それほどか」
第一王子も白竜の大きさに引いている様子。
「第一王子殿下。来るかは分かりませんが、呼んでみますか?」
「・・・・よし、やってみよ」
マジで?
今すぐに?
やっぱり止めようという選択はなかったんか。
内心、本当に来たらどうしようと思ってる感じも第一王子から伝わって来るけど、当の王子は私にやれと言った。そう言われたら、命令に従うしかないよね。




