売られる前に買いに行くスタイル 2
まだ売られてないのに、ノアが自分から王族達の喧嘩を買いに行こうとしている。
ちょいちょい私を守る為に過激な発言をすることは過去にはあったけど、こんなにはっきり王族達に対して攻撃的な発言をノアがするなんて。
アシュレイ様もビアンカ様もちょっとノアに圧倒されてるのか、口も挟まずノアの話を聞いている。
「王族に目を付けられる不安を抱えて生活するより、いっそ一思いに対決してしまいましょう。その上で、アストン王国が私達にどう出るかです。アストン王国が私達をそっとしておいてくれるのなら、私達は喜んでエスティナで暮らします。私達を自分達の意のままにしようとするのか、それとも私達の意思を尊重してくれるのか。私達が定住の地をどこに決めるかは王族達次第ですね」
アシュレイ様は目元を押さえて天井を仰いだ。
ビアンカ様は顎に指を添えて思案している。
「悪くないな!」
「ビアンカ、そう簡単に言わないでくれ」
戦闘民族のビアンカ様にとって、血気盛んなノアの意見は好みの物だったようだ。アシュレイ様は色々なしがらみがあるので、もう少し慎重に結論を出したいといった所かな。
「カノン。カノンはどうしたいですか?」
ノアが私の意見も確認してくれる。
以前の私は、家族から良いようにこき使われても耐え忍んで言われるがままだった。きっと以前のままの私なら、偉い人の事は言う事聞かないと、と異世界でも従順な態度でいたと思う。
でもノアが、私が望む生活を守る為に戦おうとしてくれている。きっと、私がもう少しエスティナで暮らせるように頑張ってみようって言ったからだ。
ノアが私のために動こうとしてくれているのに、当の私が動かなくて、どうする!
「私もノアと戦う!!」
「カノン。召喚状の体だが、中身は招待状だ。王族と進んで喧嘩しないでくれ」
私の正面で、アシュレイ様が更に深く椅子に沈んだ。
思わず立ち上がった私を、背後に待機していたミンミがどうどうと宥めて着席させる。
「カノン。あまり興奮するな。白竜がお前を心配して領都まで飛んで来てしまうぞ」
「そうでした」
ビアンカ様から指摘されて、私はフウーと呼吸を整える。この前も私が宿の厨房で指先をちょっと切ったら、エスティナの防護柵まで白竜が飛んできちゃったんだよね。でも私の切り傷を確認したら、白竜はすぐに巣に帰っていったんだけど。
「なんという・・・。カノン、お前の感情次第で白竜が飛んで来てしまうのか」
「あっ、飛んでくるかもしれませんが、私に何も起こっていない事が分かれば、大人しく住処に戻るので。それに白竜は人里に近づいてもいたずらに破壊行為をしたり、人を害したりすることはないんです。体が大きいだけの温厚な白竜ですので、全然怖くないんですよ。エスティナの冒険者の皆さんもだいぶ白竜に慣れてくれました」
「そうなのか・・・」
私が白竜の穏やかさをアシュレイ様にプレゼンするも、ちょっとアシュレイ様は上の空の感じだった。
何だか、私の目の前でアシュレイ様はもう座位を保てずに、グンニャリとベル様側に上体が倒れてしまっている。そのアシュレイ様の頭をベル様がよしよしと撫でてあげている。相変わらず仲良し領主夫妻だなあ。
「ふふ。カノンちゃんは気持ちが固まったのかしら」
微笑むベル様に私はしっかりと頷く。
「はい。ノアの言う通り、心配を抱えたまま生活していくのは疲れます。なので、この機会にこの国の王族達と話をして、この国で暮らしていけるのか結論を出したいと思います」
「カノンちゃん!エスティナに戻ってみんなで暮らせるように頑張って欲しいな!」
「うん。ミンミ、私もそうなったらいいなって思うよ。頑張るね」
後ろからハグしてくるミンミの腕をポンポンと叩く。
「私は王族と敵対しても構わん。グリーンバレーでは食客待遇で、正式にアシュレイに雇われているわけでは無いしな。ノアとカノンの希望が通るように、私も助力しよう。私は現王に特に義理も無い。だからお前達と国を出ても構わん。お前達は力を出し惜しみせず、思い切り王都で暴れると良い。王族達がお前達に手出しできぬ位にな」
「はい」
「ビアンカ様、ありがとうございます」
ビアンカ様は私達側に立って、場合によっては王族達と喧嘩してくれるそうだ。なんて心強い。ビアンカ様の発言に、更にアシュレイ様が椅子の上でグズグズに溶けかかっているけども・・・。私達もビアンカ様も国を出る事になったら、ほんとゴメン。
「・・・私は、表立って王族達と敵対するわけにはいかない。私にはグリーンバレーの領民達を守る責任がある」
アシュレイ様が苦しそうに言った。
そりゃそうだよね。
アシュレイ様はアストン王家に忠誠を誓う王国貴族で、グリーンバレー領を守る為に王族から反感を買う訳にもいかないし。
「アシュレイ様、当然の事です。お気になさらず」
これにはノアも当然理解を示す。
「カノンちゃん、ノア。私とアシュレイは王国貴族として王家に歯向かえないわ。でも、私達グリーンバレーはカノンちゃんとノアに敵対しないと誓う。この事だけは、例え王家に強要されても断るわ。グリーンバレーは恩人に対して、恩を仇で返す真似は決してしない。アシュレイ、常に正道を歩む者たれ、よね」
「・・・そうだな」
隣のベル様に手を握られて、溶解寸前にまでグズグズになっていたアシュレイ様が少しシャキンと背筋を伸ばした。
「父に顔向けできない事はしないとグリーバレーの領主となった時に誓ったのだ。ノアとカノンの不利になるような真似は決してしない。だが、私達はここまでの約束しか出来ん。済まないな」
「十分です!」
人それぞれに自分の守るべきものがある。私達に味方する事でアシュレイ様はグリーンバレーの領民達の生活を脅かす訳にはいかないからね。
方針は決まった。
まだ存在のバレていないノアも一緒に私達は王都に乗り込んで、第一王子の前で、何なら国王の前で能力の開示。それで第一王子が私達の意思を無視して手元に囲い込もうとしたら、お断りして、話の転がり方によってはアストン王国を出ていく事にする。王族の不興を買った私達がエスティナに居る事で、グリーンバレーに迷惑を掛ける訳にもいかないからね。
「竜と話せるのかと聞かれたら、第一王子殿下に了解を得てから白竜を呼びます」
「う、うむ。第一王子殿下が了承するなら仕方あるまい」
最初はダメだと言っていたアシュレイ様も、王族の許可を取るならばと私の白竜召喚にも承諾してくれた。
私の能力も全開示するので!!他には、真っ黒もやもやに穢れて呪われている人が居れば払ってあげたりとか、治癒してあげたりとかかなー。支援魔法の効果を模擬戦で試してもらうとかもあるか。エスティナでアシュレイ様に私の聖女の力を確認してもらった時みたいな感じになるかもね。
もしくは出会ってすぐ喧嘩別れする可能性も無きにしも非ず。よし、まあ、やってみるぞー。
ノアの好戦的ムードがビアンカ様と私にも伝染してしまったかのよう。ここにサージェ先生が居たらお前ら一度落ち着け、とかヒートアップする空気に水を差してくれたのかもしれない。だがしかし、サージェ先生は一足先に王都に行っている。普段冷静で温厚なノアの戦闘モードを見て、私とビアンカ様はすっかり感化されてしまった。そしてミンミは私達を応援する構え。ストッパーは不在だった。
アシュレイ様はもう何も言わず、粛々と私達を王都へ連れて行く準備を始めた。
そして、アシュレイ様が私達と一緒に王都に行くことを第二王子に告げると、なんと王都に近寄らないようにしていた第二王子が私達と一緒に王都へ行くと言い出した。
警護の観点からも領主不在のグリーンバレーに第二王子が1人で残るよりも、一緒に王都に行ってくれた方がアシュレイ様的には都合が良かったらしく、アシュレイ様は第二王子が一緒に王都へ行くことをあっさり了承した。
「殿下。大丈夫なんですか?」
確か殿下の宮は伏魔殿になっていて、侍女とか侍従とか、周囲の人達が全員敵なんじゃなかったっけ?味方が一人も居ないし、私達も第二王子の味方って訳じゃないし、こんな状況で王都に帰って大丈夫?
その辺を語彙力の無い私はストレートに第二王子に聞いてしまったんだけど、第二王子は楽しそうに笑った。
「ははは!お前の言う通り、以前のままの状況では到底王都に近寄れなかったがな。毒に倒れた俺の腹心が復帰したそうなのだ。今は信用の出来ぬ者達は全員追い出し、宮で俺の帰りを待っているそうだ。それにオーガストの手の者を数人借りられる事となった。これで自分の宮で命を狙われる事はそうそう無いだろう。自分の居住区外では変わらず用心が必要だがな」
「なら良かったです」
そっかー。グリーンバレーで人材確保は出来なかったけど、信頼できるオーガスト様からの応援要員や乳兄弟の側近さんが宮に居てくれるんなら良かったね。
以前、話し合いの中で力を貸してくれ!と私達に頭を一度下げた第二王子だったんだけど、今はもうそんな事を言わなくなった。どうするのかなーとは思うけど、第二王子が決める事だしね。
「カノンとノアは自分の居場所を守る為に戦う事を決めたのだな。なら、俺も腹を括ろうと思う」
「は、はい」
ちょっと待って、第二王子。
ノアならともかく、私は正直ノープランだから。王都に行ってみてからの出たとこ勝負なんだから!
私の手の内を全部披露して第一王子と国王をビビらせて、エスティナ永住権を勝ち取るというザックリしたシナリオはあるけど、相手が私の想像通りの反応になるかまず分からんのよ。
ノアに関しては、自分の能力を披露したら国王と第一王子は何としてでも自分の配下にしようとするんじゃないかなー。ノアなら大陸最強の剣士だって言っても過言じゃないよね。
対して私の聖女の力って、今現在は少しでも使ったらすぐにフードファイトしないといけないので、なんか見た目的に異様だよね。お腹の具合によっては泣きながら爆食する自信がある。あの飢餓感は、泣かずにはいられない。ほんとに辛いんだよ。第二王子だって初見で爆食する私にドン引きしていた。第一王子達だって絶対にドン引きするでしょ。こんな変な女要らんって感じになる可能性も高いと思うんだよね。
何より肝心な「竜との会話」の披露については、白竜が王都に来てくれるかどうかに掛かっている。王族達の前で白竜を呼び出せなかったら、そのあと聖女の力を見てくれるかも分からないよねえ。褒賞目当てでやって来た詐欺師位に思われるかも。
白竜召喚を失敗した場合、私の事はきっとスルーで、非常に有用な人材であるノアへの勧誘が激しいと私は予想する。ノアの力も模擬戦で披露する事になるかなと思うけど、人間でノアに勝てる人がいるとはもう思えないもんな。すでにビアンカ様が人類最強なんじゃないかと思うもん。そのビアンカ様も敵わないノアは、白竜だって簡単に斬っちゃうと思う。白竜が争いを好まない温厚な竜で本当に良かったよ・・・。
ともかく!ノアを第一王子に渡すわけにはいかない。ノアはエスティナの守護神だからね!あとその前に、私の、家族だし!!
まあそんなわけで、こっちにはこっちの事情があるんだけど、第二王子には第二王子の事情があるようで。
「王都までは共に行こう。王都では俺も成すべきを成そうと思う」
「わかりました」
第二王子も何やら覚悟を決めたようだ。そっちはそっちで頑張って欲しい。陰ながら健闘を祈ります。
そうしたわけで、第二王子と共に私達は王都へ向かう事となったのだった。




