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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編

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売られる前に買いに行くスタイル 1

 最初会った時、アシュレイ様という人は、自由気ままに周囲を振り回すお貴族様って感じの人だと思っていた。

 けれど、そんなアシュレイ様でも、その更に上を行く自由気ままな自分中心の人達を前にすると常識人の苦労人にならざるを得ないのだなと、目の前のアシュレイ様を見てしみじみと感じ入っている今だった。

「・・・本当に、第二王子殿下と一緒に戻って来るとは」

「そう手紙に書いたではないか。第二王子をエスティナで保護したのだ。私が領都へ戻るのに、第二王子を一人エスティナに置いておくわけにもいかんだろう。なので取り合えず領都に連れて来た。これからしばらくはアシュレイが第二王子を預かってくれ」

「世話になるぞ、アシュレイ!」

 その手に負えない自由人が1人ならともかく、一度に2人を相手するのはさすがにアシュレイ様も大変そう。その2人とはビアンカ様と第二王子の事だ。

 思い返せばこの一冬の間、賢人のお爺さん達もアシュレイ様は領都でお預かりしていたんだよね。でも今はお爺さん達のお目付け役としてアシュレイ様の助けにもなったのだろうサージェ先生は居ない。何だか草臥れた表情が固定されていて、せっかくのアシュレイ様の男振りも形無しだ。

 あんまりアシュレイ様が可哀想で、うっかり元気になーれとアシュレイ様の回復を願ってしまった。お、お腹があ・・・!

 お腹を鳴らす私にすかさずミンミがナッツのぎっしり入ったホロホロクッキーを差し出してくれるので、私はそれをもりもりと食べ始める。あ、このホロホロクッキーはルナのお母さん、カティさんからだ!紅茶に合うー。

 テーブルに同席している人達からのお茶菓子の寄付も即座に集まる。ノアとビアンカ様、アシュレイ様までケーキのお皿をこっちに寄越してくれた。

「カノン、ありがとう。お陰で体が楽になった。お前の事もビアンカの手紙に書いてあった。魔力回復のスピードが上がったが、その分食事を取らねばならないのだな。部屋は前に使った部屋を皆で使うと良い。軽食も常に部屋に用意しておくし、一日中厨房から食事を出せるようにしておくからな」

「ふぁい」

 食べながらすみません。でももうちょっとでお腹も落ち着くので。

 今のは軽い疲労回復なので、お菓子を山盛り食べる位でお腹が落ち着きそうだ。アシュレイ様の瞼もショボショボの四重位になっていたのがスッキリ二重になったので良かった。

「ジュリアン殿下、本当に、御無事で何よりでございました。しかし、隣町に供の者を待たせているという殿下のお言葉を信じた私が愚かでした」

「アシュレイ、許せ!お前に不審に思われて、王宮に問い合わせでもされたら、俺の居場所が向こうばれてしまうからなあ。隣町に戻ると見せかけて変装をし、エスティナに潜り込んでいたのだ」

 はあああと、アシュレイ様が肺の中の空気をすべて吐き出すようなため息を付いた。

 第二王子の言う変装もだいぶ微妙な物だったけどね。後から聞いたら、エスティナの冒険者達も訳アリの奴と認識して第二王子を遠巻きにしていたらしい。奇跡的なまでに治安の良いエスティナだったから放っておいてもらえたのだぞと、ビアンカ様に更に第二王子は凄まれていたので、今後はもう少し慎重に行動してくれるだろうと思いたい。

「殿下の護衛には我が騎士団からステファンを付けます。騎士団一の実力を持つ者ですので、常に傍においてください」

「第二王子殿下に置かれましてはご機嫌麗しゅう。グリーンバレー騎士団副団長を務めております、ステファン・アンバーと申します。以後、お見知りおきを」

「うむ。頼む!」

 第二王子が鷹揚に頷くと、戦闘狂の貴公子ステファンさんが優雅に首を垂れた。

 この方も戦闘狂の人格が引っ込んでいると、上品でイケメンな好青年なんだけどね。ステファンさんは第二王子の専属護衛に任じられて、第二王子の背後へ回った。これでようやくビアンカ様の第二王子のお守りも終了となる。

「第二王子、グリーンバレーに居る限りお前の身の安全は保障されよう。後の身の振り方は自分の決断次第だ」

「分かっている」

 ビアンカ様へは落ち着いた返事を第二王子は返す。

 出会った時は常にクラッカーが弾けているような、底抜けにご陽気なキャラだった第二王子だったんだけど、何だか今は少し落ち着いた感じもする。明るいっちゃ明るいんだけど、周囲を疲れさせるような騒がしさが無くなったような・・・。何か心境の変化でもあったからなのか、ビアンカ様の躾が完了したからなのかは謎。

 第二王子はステファンさんに案内されて自分の部屋へと移動した。

 第二王子が退場したので、やっとこれから今後の作戦会議となる。

 応接室に残ったのは、アシュレイ様、ベル様、私、ノア、ミンミの5人だ。

 そしてアシュレイ様が本題を切り出した。

「カノン、お前に王都から召喚状が届いた」

 やっぱりねー。

 アシュレイ様から手渡された書状をノアが目を通す。ちなみに私がスタンレーでもアストン王国でも言語に不自由しないのは、召喚陣に言語に関する補助について条件が組み込まれていたのではというビアンカ様の考えだ。隣のノアの手元を見ると、何となく意味は分かる。けれど、王宮からの召喚状なので格式高い言い回しだからなのか所々意味が分からない部分もある。

「差出人は第一王子です。賢人達の言う「竜の言葉が分かる乙女」を是非王都へ招待したいそうです。アシュレイ様が責任を持って王都まで連れてくるようにと書かれていますね」

「へええー・・・」

 ノアの書状の説明に、何とも言葉が出てこない。

「竜の言葉が分かるって触れ込みの女を王都へ呼び寄せて第一王子は何をしたいの?何をさせるつもりなんだろう。竜の言葉が分かる事の証明なんて、しようがないじゃん。王宮に招待されたら、そこに白竜を呼んだら信じてもらえるの?」

「カノン、王都に竜を呼ぶことはやめてくれ」

 せっかく疲労回復したのに、アシュレイ様が再びショボショボの顔になって私に竜を呼ぶ事は止めるようにと言う。

「第一王子殿下は特に何も考えておらんだろう。珍しい特技を持つ者なども陛下と第一王子殿下は好んで王宮に招くのだ。奇術師レベルの者でも、陛下と第一王子殿下が楽しめれば褒美が渡される事もある」

「そうなんですか・・・。じゃあ、尚更。私が第一王子を喜ばせるためには王宮に白竜を呼びよせる必要がありますよね?私が第一王子の召喚に応じてのこのこと王宮に出向いて、竜の言葉が分かる事の実演が出来なかったら、逆に第一王子の不興を買うんじゃないですか?場合によってはアシュレイ様も連座になるかも」

「まあ、第一王子殿下がどの程度カノンに期待しているのかによるだろう」

 期待とは。

 やっぱり私が白竜にパクンと食べられるでもなく、白竜と会話をしている所を見たいってことだよねえ?

 私が王都に第一王子の召喚を受けて出向くって事は、王宮に白竜を呼ぶ事も求められるんじゃない?グリーンバレーから遠く離れた王都まで白竜が来てくれるかは、やってみないと分からないけど。

「第一王子の召喚って、断る事は出来るんですか?」

「そのような事を出来る娘は居ないと断る事は出来るだろう。この召喚状は幸い、強制力は弱い。招待という言い回しだからな。珍しい力を持つ娘を呼び寄せてみたい程度の物だろう」

「爺共も実際にカノンが白竜と対話する場面を見てはおらぬからな。カノンの顔は爺共に知られているが、そのような事を出来る娘は居ないと言い張ればそれが通らんでもない。第一王子も爺共の言葉しか情報も無いしな」

「うーん」

 そっかあ。

 売られた喧嘩は買うぜ!位に意気込んで領都にやって来たんだけど、第一王子からの召喚状は、招待したい、位の柔らかい物だったのか。知らんふりも出来そうな感じだけど。

「煩わしいですね」

 どうしたもんかなと考えていたら、ノアがポツリと呟いた。

 応接室がシンと静まり返る。

「王都の王族達にはまだカノンの力は知られていませんが、第二王子にはカノンの能力の殆どを知られてしまいました。今の所、第二王子は我々と敵対していませんが、状況が変われば今度は第二王子がカノンを王都へ呼び寄せようとするかもしれません。これから先、王族達が動く度にその対応に頭を悩ませる事が続くなど、カノンが望む穏やかで平穏な暮らしからはかけ離れているでしょう」

 まあ、そう言われればそうかもなあ。

 今回第一王子の召喚を躱しても、次は国王様からの召喚状が届くかもしれない。状況が変わったら、第二王子も私の力を求めてきたりするのだろうか。そうなると、落ち着いてエスティナで生活する事は確かに難しいかも。

「私は一日も早く、カノンと静かで穏やかな暮らしをしたいのです。なので、心配事は全て片付けてしまいたい。アシュレイ様、その召喚状にはまだ返事を出していませんね?」

「あ、ああ。お前達の考えを聞いてからと思ったからな」

「では、その返事にはこう付け加えて下さい。竜と対話が出来る乙女の護衛に、昨年のエスティナのスタンピードを一人で防ぎ切った勇者、ノア・ブランドンが同行する、と。ああ、私は赤竜を単独討伐したスタンレーの英雄、ジョージ・ブランドンの子孫だとも付け加えて下さい」

「ノ、ノア?どうしたの?」

 突然、何で?

ノアはまだ王都の王族達に目を付けられていないというのに、これではノアの情報開示がいきなり半端ないじゃん!

「カノン、私は思ったのです。竜の庇護を厚く受ける聖女たるあなたと、自分でも人間離れしてしまったと自覚する程の力を得た私。私達を言いなりに出来る存在はこの大陸の中で実際にどれほどいるのでしょうね。奢り高ぶり、人々の上に立ちたいなどと微塵も思いませんが、私達の願いはエスティナで静かに暮らしたい、ただそれだけです。ですが、そのささやかな願いが簡単には叶いそうもありません。力を知られないように隠れ暮らすのは窮屈な事ですね。ならいっそ、私達の能力の全てを王族達に知らしめてやればいいかと思ったのです。私達にはおいそれと手が出せないと、相手に分からせてやればいいのです」

 おお・・・。ノアが、今まで見た事無い位に好戦的になってる!


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― 新着の感想 ―
ノアがいつ魔王を名乗ってもおかしくなくなってる。そしたらタイトルが出来合魔王と省エネ竜の魔女になっちゃう!
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