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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
7/25

いざ新天地へ 2

 私は声なき悲鳴を上げた。

 私は何故か、幼女から元の成人女性のサイズに体が戻ってしまっていた。

 私が大声を上げるのを寸前で思いとどまったのは、休憩ポイントに私達以外に旅人や冒険者さん達がチラホラ居たからだ。

 辺りはやっと明るくなり始めた頃。

 周囲の人達は寝ている人と起き始めた人が半々くらいだ。

 そんな薄暗い野外で、私はへそ出しタンクトップ(幼児用ワンピース)にショーツ(幼児用かぼちゃパンツ)一枚を身に付けただけのあられもない姿だった。

「・・・カノン。足元のカバンの中に、もともとあなたが身に付けていた服があります」

「う、うん!」

 私はマントで体を隠しながら足元のカバンを漁り、成人女性用のワンピースと下着を装着した。私の服を持っていてくれたノアに大感謝。ノアが私の下着を奇麗に畳んでくれていたとか、今は考えない!

「ノア。着替えたよ」

 幸い周囲は私達には無関心で、各々出立の準備を忙しそうにしていた。

 私が声を掛けると、ノアがそっと両手を顔から放した。

「へ、へへへ。元に戻っちゃった」

「・・・良かったです」

 ノアはゆっくりと上体を起こし、私と向き合った。

「カノン、良かったですね。見知らぬ世界で予想外の出来事が起こり、さぞ不安だったでしょう。でも元の姿に戻れたのなら、これからの身の振り方も案外早く決められるかもしれません。私が保護者になる必要も、これで無くなりますね」

 ノアは良かったと言いながら少し寂しそうに笑う。

 うーん、それはどういう意味?

 元の世界でこそ、Wワークトリプルワークばっちこい、働きまくって生き抜いてやると思ってたけど、この勝手の分からない異世界では私が出来る仕事があるかどうか。

 元に戻れて良かったですね、と言われてノアから今手を離されたら生きて行ける自信はちょっと無い!

 だからそんな、もうお別れですねみたいな悲しそうな顔をしないでくれる?!

「ノア、私と一緒に居るって言ったじゃん」

 私の言葉にノアが目を瞠った。

「そりゃ、一生お世話してくれなんて図々しい事を言うつもりは無いよ。ノアにはいずれ可愛いお嫁さんと結婚して家庭を築いて、幸せになって貰えたらなって思うし。でも、私がこの世界で安心して暮らしていけるようになるまで、どうか私と一緒に居て下さい。お願いします・・・」

 私はノアに躊躇いなく土下座した。

 この異世界で土下座がどういう意味を持つのかわからないけど。

 あきらかにお荷物でしかない私と一緒に居てくれと言う、厚かましいお願いをするのに土下座の1つや2つがなんだってーの。

 しかし私の土下座は即座にノアに止められた。

 ノアは地面に座ったまま、私の両脇に手を入れてぐうーっと上に持ち上げる。私、肉は無いけど女にしては身長がある方なんだけどな。ノアは思った以上に力持ちだ。

「はい。カノンと一緒にいます」

 成人女性に戻った私を幼女の時のように高い高いして、私を見上げたノアはニコリと笑った。

良かった。いつものノアに戻ってくれた。

 私を引き取って子育てする決意までしてくれていたノアだもん。人と関わって暮らす事が望みなんじゃないかな。

 私は正常な家族という物が良く分からないけど、ノアに自分の家族が出来るまでは、ノアの寂しさを私が少しでも紛らわす事が出来ればいいな、なんて。おこがましくも思ったりして。もちろん、私もすぐにノアとお別れなんて寂しいし。

 持ちつ持たれつ、というには9割9分私の方が持たれている状態なんだけどもさ。私も自分が出来る事を頑張ってこれから探すし!

 それからノアはゆっくりマントの上に私を座らせた。

「それでは予定は変更なしでいいですね。私とカノン、2人で安心して暮らせる拠点を探しましょう」

「うん!」

 それから私達はササッと携帯食で食事を済ませ、まだ辺りが薄暗く人目に付かない内に移動を開始した。あの幼女は何処に行ったと、気にする人が居ないとも限らないからね。

 これまで私達の旅に付き合ってくれている馬は、私が幼女から成人女性サイズになっても力強く私とノアと旅の荷物を背負って街道を進んでくれる。

 今日はいよいよアストン王国最初の町に入る予定だ。

 何事もなければのんびり進んでも夕方には町に入れる予定だったのだ。



 街道を進むうちに朝日が木々の間から差し込んでくるようになった。

 今日も天気がよさそうだな、なんて呑気に考えた時だった。

 馬が突然いななき、その場で足踏みした。

 すると馬の前に街道脇、右側から幾つかの影が飛び出してきた。

「・・・っと、森林狼ですね」

 見た目はもこもこしていない細身のハスキー犬といった感じ。でも元居た世界のハスキー犬の2倍は大きい。

 3匹の森林狼はタタッと馬の前に飛び出してきて、馬に警戒するように足を止めたけど、すぐに左側の森に飛び込んで行ってしまった。

「良かった。行っちゃった」

「・・・カノン。私に体を預けてください。飛ばします」

「へっ?」

 ホッと息を吐き出した私を、後ろからノアが抱き込むように体を密着させてきた。馬に横乗りをしている私の腰にノアの左腕がギュッと回される。

 何事?と思った時には馬はものすごい勢いで走り始めた。

 私は初めての馬の全速力に全身を緊張させて思い切りノアにしがみ付いた。怖いなんてもんじゃない!ノアが両腕を締めるように横乗りしている私を押さえてくれているけど、しっかりノアにしがみ付いていないと、落っこちるかも!!

 私はノアに抱き着くので精一杯だったけど、ノアはしばらく走ると馬を止めてひらりと馬から降りた。

「カノン、手綱をしっかり持って。この街道をまっすぐ走り続けてください。そうすれば町に辿り着きますから」

「な、何?ノア、なんで」

「馬に2人乗りでは振り切れませんでした。ここは私が食い止めます」

 ノアは厳しい顔をして私達が進んできた街道を振り返り、鞘からスラリと剣を抜いた。

「当面生活できるだけの資金は鞄に入っています。あなたの後を追うつもりですが、もし私が戻らない時は私の荷物を売って生活費の足しにしてください」

「ノア、何を言ってるの!」

 ノアと話していると、ほぼ一直線の街道の先、私達の後方から土煙が上がっているのが見えた。

 土埃の中から現れたのは物凄くデカい熊!

 唸り声を上げながら大きな熊が私達を目指して、物凄い速さで走ってくる。

「カノン!行きなさい!」

 ノアがパンと馬のお尻を強く叩いた。

 馬はいななくと、ノアを残して私達が向かっていた先へと走り始めた。

「嫌だよ!ノア!!」

 食い止めるって、どうやって?!

 もしノアが戻らなかったらって、どういう意味!!

「ノア!!」

 私がノアを振り返ると同時に、私の視界は真っ白になった。

 思わず目を瞑ると、鞍の上から私の体がずるりと滑った。

 お、落ちる!

 鞍にしがみ付こうとするけど、力が足りない。

「カノン!」

 落馬すると思ったけれど、馬の背中からずり落ちる直前、私の身体は暖かい熱に包まれた。

 私はノアの腕の中に抱き込まれていた。

「ああ、カノン・・・!」

 ノアは私の頭を撫で、頬を撫でる。

 なんだろう。

 ノアがキラキラと白い光を全身に纏っている。

「カノン、こうなっては選択の余地はありません。私はなんとしてでも、あれを倒します」

 ノアは私をそっと地面に降ろすと、目の前まで迫っている熊に向き合った。

 その熊は、前世の熊よりだいぶ大きいのではと思う。姿形は熊だけど、サイズ的には前世の2トントラック位あるんじゃないか。熊は咆哮を上げ続けながらこちらに向かって突進してくる。熊は首を激しく振りながら涎をまき散らしている。

 通常の状態が分からないけど、熊は異様に興奮していてきっと普通の状態じゃ無い。

 その大熊を前に、ノアは軍隊の支給品であろう剣を一本持ち、熊を迎え撃とうと街道の真ん中で構えを取った。

 ノアは長身でスタイルが良いけど特別に体が大きい訳じゃないし、あんなトラックみたいな熊に激突されたら大怪我じゃ済まない!!

 私は声も出せず、街道脇で目の前のノアを見つめ続けていた。

 そして大熊とノアが激突する瞬間。

 ノアが剣を下から上に勢いよく振り抜いた。

 その直後、ノアの横を大熊が走り抜ける。

 大熊がノアの背後に走りすぎた瞬間、ドウと鈍い音を立てて大熊が倒れた。そして噴き出す鮮血と、辺り一面に広がる生臭い匂い。

 ノアは、無事だった。大熊は倒れてからピクリともしなくなったけど、ノアは何事もなく街道に立っている。

 なんでかまだキラキラと白く輝く光をノアは纏っているけど。

 ノアはビュッと剣を振り払って鞘にしまった。

 それから足早に私の所にノアがやって来る。

「カノン」

 ノアがニコリと微笑んで、地面に座り込んでいる私を抱き上げた。

「怖い思いをさせてすみません」

 こ、こわっ・・・。

 怖かったよ!!!

「う、うう、うわああーー!!」

 私はノアの胸に顔を埋めて思い切り泣いた。

 感情のコントロールが出来ない!

「ばか!のあの、うしょつき!!」

 一緒に居るって言ったのに!!

 前世の日本ほど安全な国だとは思っていなかったけど、こんな、日常生活の中で突然命の選択を迫られるような世界だなんて。

 そして、ノアが、自分を犠牲にしてでも私を生かそうとした。

 その事がショックで、怖くて、私は涙が止まらない。

「いっしょって、いったのに!ばか!ばかぁ!」

「カノン、すみません」

 ノアが私をギュウと抱きしめてくれる。

 この腕を永遠に失ってしまうのかと思った。私の涙は後から後から溢れてくる。

「うううーーー!!」

「カノン、私の力不足であなたを守り切る自信が持てなかった。本当にすみませんでした。でも、約束します。もう何があろうと、あなたから離れはしません。ずっと一緒です」

 カノンが私の背中をトントンと叩きながら、ずっと傍に居ると改めて約束してくれた。

「・・・ほんとに?」

「ええ、本当です」

 私がしゃくりあげながら顔を起こしてノアを見上げれば、ノアは笑いながら私の涙を指で拭ってくれた。そしてハンカチで鼻をギュッと拭かれる。

 はあ、爆発的に泣いて、泣きつかれた・・・。

 私はもう一度、ポスンとノアの胸元に顔を埋める。ノアは変わらず私の背中をポンポンしていてくれる。ノアのポンポンは条件反射で眠くなってしまう・・・。


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