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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編

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ゴルド大森林の白竜 5

 のんびり春を待ってお爺さん達が大森林で遊び飽きるのを待っている内に、白竜が最悪の災厄になる所だった!

 そしてクリムゾンベアを握っている白竜の左手が段々黒いもやもやに覆われてきているのも気になる。

「白竜。熊のもやもやが右手に移りそうになってるよ」

『ん?おお。これではもう、辛いばかりであろう。新しい命を生き直すと良い』

 白竜がギュッと右手に力を入れると、クリムゾンベアが断末魔の咆哮をあげてぐったりした。すると黒かった熊のもやもやが溶けてなくなった。ミンミが言っていた通り、クリムゾンベアは赤い毛皮の熊だった。

『人は魔獣を食うのだったか?娘、そんなに消え入りそうな命の火では、我も気掛かりで寝床に戻れぬ。我が同胞もお前の血肉になるなら本望だろう。これを食って力をつけよ』

「あ、ありがとう」

 白竜が右手に握りしめたクリムゾンベアをドスンと防護柵のこちら側に落とした。それから左手を持ち上げると、その左手には以前ノアが切り伏せたのよりは小さいイノシシが掴まれていた。そのイノシシも白竜の左手の中で一声咆哮を上げるとぐったりと力を失う。防護柵の内側に落とされたイノシシは、真っ黒に見えていたのが地面に落ちると銀色の体毛に覆われたイノシシに変わっていた。これがニードルボアらしい。

「白竜、ありが・・・」

 白竜を見上げると、再び右手にジタバタと暴れる黒い熊を持っていた。それから白竜は、右手と左手交互に黒い獣を持ち上げては空中でキュッと絞めて、防護柵の内側にドスンと落とし続けた。熊、猪、虎、大猿、大型個体各種が次々と防護柵の内側に投げ込まれ、積み上げられていく。

「地竜だ!!」

 周囲からどよめきが上がった。

 白竜が下に屈みこんで、柵の向こうでごそごそしているなと思ったら、両手で黒いオオトカゲみたいな奴を持ち上げた。その一際大きいオオトカゲも白竜がキュッと両手で絞めるとぐったりとした。黒から茶色に変わったオオトカゲは、こちら側に落ちる時にはドスンと地面が揺れた。

『やっと出会えたのだ。しっかり食べて力をつけよ、我が娘よ』

「ありがとう、白竜」

 ビアンカ様みたいなことを言ってくる白竜に、私は素直にお礼を言った。

 防護柵のこっち側に山積みになっている大型獣達は、お騒がせしたお詫びにケネスさんに全部あげよう・・・。

 それはそうと、白竜の両手に黒いもやがうっすらと纏わりついているのがやっぱり気になる。

「白竜。両手をこっちに出して。黒い穢れがまたくっ付いているよ」

『ん・・・。これ位であれば、多少ひりつく程度。心優しい娘よ、気にするな』

「いいから。こっちに手を出して」

 ちょっと位と放っておいて、うっかりこの世の災厄になられてはいかんので!

 私が重ねて言うと、白竜は体に比べて小さめの両手をそーっと防護柵のこちら側に差し出して来た。白竜のフォルムは少し、映画でよく見るような恐竜に似ている。体に対して両手がややちっちゃいんだよね。さっきの右手と左手を交互に下げては大型獣を持ち上げる仕草は、ちょっと可愛かった。

 やばい私、この短い時間で白竜の事をだいぶ可愛いと思い始めている。

 白竜の両手が近づいてくるのに、少しセイラン号がたたらを踏んだけど、ノアが首を宥める様に撫でると我慢して大人しくなってくれた。セイラン号には後で果物と角砂糖をご褒美にあげないとな。怖いだろうに、本当に良く頑張ってくれてる。

 白竜が物凄く慎重に差し出して来た両手に私も両手を伸ばし、白竜の右手と左手の爪の先に触れる。

「消えろ!」

 私の視界が白くなる。

 1度の解呪で私の魔力は大幅に減り、またも幼児退行を起こしてしまった。けれども気絶まではいかなかった。

『なんと』

 小さくなってノアの腕の中に収まった私を見て、白竜がビックリして目を丸くしている。

『なんと、なんと・・・。命の火がこれほど小さくなってしまっては、お前を探す事は我には不可能ではないか。愛しい我が娘よ』

 そして白竜は目を閉じて、再びポロポロと涙を零し始めてしまった。

 本当にこの白竜は、感情豊かだなあ。

 命の火って、魔力の事なのかな。私が魔力をほぼ使い果たして幼児退行を起こした時、私の魔力を探せなくなって白竜は悲しんでいたのかもしれない。そして少し魔力が回復して私の身体が元に戻ったと同時に、今日になって私を見つけられたのかもしれないなあ。

「はくりゅう。だいじょうぶだよ!わたち、いっぱいたべてねると、またおっきくなるから!」

『・・・それは、まことか』

「ほんと!やくしょく、しゅるから!んとー、ごかいねたら、おっきくなるよ!」

『・・・ならば、お前が5回寝て起きたらまた、ここに会いに来る。良く食べ、良く寝ろ。愛しい娘』

「わかった!またね!」

 フスーと、森の香りがするため息のような鼻息を私とノアに吹きかけると、白竜は前傾姿勢になっていた上体を起こした。それからゆっくりと羽ばたき始めて、空に浮かび上がった白竜は大森林へと戻っていった。多分自分の寝床という岩山の洞穴に戻ったのだろう。

 防護柵の前に集まっていたみんなで、白竜の姿が見えなくなるまでぼんやりと見送ってしまった。夢だったのかなという現実とは思えない出来事だったけど、目の前に山積みになった大型魔獣の山は消えて無くなったりはしなかった。

「カノン、驚きました。あなたは本当に、なんという」

「んぶう」

 我に返ったノアから、私は顔面全体にキスの嵐を受ける。

「カノン!よく、よく白竜を帰してくれた!お前はエスティナを救った英雄だ!」

 駆け寄ってきたケネスさんが私の頭を撫で撫でしてくれる。他の冒険者達にも、私は代わる代わるに頭を撫で繰り回される。

 けれど、私はエスティナを救ったというより・・・。今回の騒ぎの、ひょっとしたら最初のスタンピードも、私が原因なのかもしれない可能性が出て来た。

 白竜は私を探して飛んできて、結果的に私を襲おうとした大型獣達を防護柵の前で堰き止めてくれていたんだけど、エスティナに来たばかりの頃に起こったスタンピードは、私を目指した狂暴化した大型獣達の暴走だったんじゃ・・・?

 でも黒い穢れが何の事だか分からないし、白竜の言葉をビアンカ様とサージェ先生に解読してもらう必要がある。まだ分からない事だらけだ。

「けねしゅしゃん。あのけもの、じぇんぶあげるからね」

「ん?ありゃあカノンが白竜に貰ったもんだろ?解体料金は貰うが、ちゃんとギルドで買い取ってやるぜ」

「んーん。ちょっとおにくもらったら、あとはいいよ。おおしゃわぎになって、ごめんねえ。みんなでちゅかってね」

「何言ってんだ。お前が謝る事じゃないだろ。ちゃんと自分の取り分は取っておけ。肉は美味い所をルティーナの宿に届けてやるから、楽しみにしてろ」

 あ、それは嬉しい。テリーさんの手に美味しいお肉が渡ったら、絶対美味しいご飯になるし。

「ありがと。あと、はくりゅう、またくるって」

「・・・なんだと?」

 ケネスさんの動きが止まってしまった。

 ごめんねー。また白竜がやって来る迷惑料込みの大型獣達なので、是非ギルドに受け取って欲しい。もっと分厚い防護柵を作る費用に使ってくれたら、私の罪悪感も減るってもんだからー。

 非戦闘員の皆さんは領都へ避難してしまったけど、鐘五つの獣害は回避出来た事が取り急ぎ領都へ伝えられる事になった。今回は非戦闘民の人達もすぐに帰ってくる事になると、ケネスさんが言っていた。

「しかし、訳が分からねえが、白竜が全部この大型魔獣と地竜を倒してくれたんだよな。ノアと魔女とサージェがたまたまエスティナに揃って居たが、それでもこれだけの大型魔獣が防護柵を突破していたら犠牲を出さずには済まなかったろう。その上もしも白竜が敵に回っていたら、もうエスティナを捨てるしか無かったぜ」

 防護柵の内側には、大型魔獣が山と積まれている。全てが5メートル級の獣達だ。その数は20を超えた。さすがに白竜の両手両足にも余るので、防護柵を利用して魔獣達の動きを封じたという所だったのかな。

 もう無我夢中で、やるしかない!と思って白竜の目の前に飛び込んだんだけど、白竜が話の通じる相手で本当に良かった。

 今更ながら胸がドキドキしてきて、ふうと大きく息を吐く。

「カノン、大丈夫か。本当に、よくやった」

「びあんかしゃま」

 ビアンカ様とサージェ先生が傍に来たので、ノアはセイラン号から降りた。

「すっかり魔力を使い果たしてしまったな。白竜と対話をしたのか?」

 ビアンカ様が労わる様に私の頭を優しく撫でてくれる。

「はい。びあんかしゃまとしゃーじぇしぇんしぇいに、あとでしょうだんがありましゅ。はくりゅうとたくしゃんしゃべったけど、よくわかんなかった」

「そうか。ではお前の身体が戻るまで待つか。あとでゆっくり話を聞こう」

「はい」

 私の幼児語では話を共有するのに物凄い時間がかかるもんね。お互い疲れてしまう。

「カノン。白竜が何をお前に語ったのか、俺にも聞かせてもらえるとは光栄だ。まずはゆっくりと体を休めろよ。領主館から菓子を届けさせるからな」

「やったあ」

 サージェ先生は私が幼児退行を起こしている間、ちょいちょい宿にやってきては領主館の料理人さんが作った都会的なオシャレお菓子の差し入れをしてくれた。素材の味を生かした素朴なエスティナのお菓子も美味しいけど、砂糖やクリームをふんだんに使った領主館のお菓子ももちろん美味しい。宿の女性陣で分けっこして有難くいただいていたので、楽しみー。


 フル装備で迎撃態勢だった冒険者の人達は片付け作業に入り始めた。可動式ボウガンやバリケードが撤去されていく。防護柵前の山積みの大型獣もロープをひっかけて崩し始めている。

「カノン。思った以上に精神的な疲労があった筈です。気を失うまではいきませんでしたが、休養が必要ですよ」

「そうだな。あとは皆に任せて戻るか」

 私とノア、ビアンカ様とサージェ先生、そして最低限の護衛として残った騎士さん達4人は町へと戻ろうとした。

 しかし、そんな私達の前に一人の男が立ち塞がった。

 見た目としては、冒険者。だけど、エスティナで活動する冒険者としては細身。冒険者?と首を捻る位には細い。

「ふふふふふ、あっはっはっはあ!」

 その男は突然笑い始めた。

 男の奇行を前に、すぐさま騎士さん達が私達の前に立った。なんだこいつ。

 ノアを筆頭に私達の警戒心がマックスに跳ね上がった。

「やはりなあ。グリーンバレーに何かあると思っていたが、俺にもやっと運が向いてきたようだな!その不可思議な力を持つ娘をこちらに寄こせ!」

「その男を取り押さえろ!」

「ぎゃっ!」

 ビアンカ様の鋭い命令に騎士さん達は即座に反応し、変な冒険者風の男を引き倒し、腕と足を捻り、4人が男の上に乗りあがって動きを封じた。

「春先は変な者もエスティナに紛れ込むからなあ」

「い、痛い!サ、サージェ!お前!俺が誰だか分かっているだろう!」

「はて。誰だったかなあ」

 ん?サージェ先生の知り合い?

「ま、まあいい!この俺への不敬は見逃してやる。だからその娘をこちらに寄こせ!我が妃に迎えてやる故、光栄に」

「取り押さえろ!!」

 再度のビアンカ様の号令に、騒ぎを聞きつけた冒険者達数人が更に騎士さん達の上に飛び乗った。冒険者達は完全に悪ノリだ。

 しばらくして冒険者と騎士さん達が男の上から退くと、男は気絶していた。

「縛り上げて牢に入れておけ」

 サージェ先生がため息交じりに指示を出すと、騎士さん2人が男を馬に乗せ、先行して領主館に移動した。

「爺共はすんでの所で領都に送り返せたがなあ」

「面倒なのが紛れていたな。まさか単身でエスティナに潜伏しているとは。まあ口封じの方法はいくらでもあるが」

 ビアンカ様もあの不審者が誰だか知っている様子だ。

 ノアの顔が完全に怖い顔になってるし。

 全くもう、白竜問題も微妙に片付いていないというのになあ。

 私はどうやら面倒な人物に、とうとう目を付けられてしまったようだった。


お読みいただきありがとうございます(^-^)

好きに書き散らかしている拙作ですが、ブクマ、評価、イイね、励みになっております。

完結まで・・・、この調子だと100話は余裕で超えそうですが、よろしければお付き合いください☆彡

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