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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編

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ゴルド大森林の白竜 4

「名残惜しいが、色々と調査も進んだわい」

「資料を作るに足る十分な統計も取れた。今度は何本か論文に纏めねばのう」

「王都に戻り、急いで本を書くぞ!」

 今日、ゴルド大森林を大満喫した賢人のお三方が領都へ戻る事になった。

 来た時と同じように、同じメンツで私達は領都に戻る人々を見送りに街道入り口前に集まっていた。

 エスティナに来てから1月半、お爺さん達は思うままに知識欲を満たせたようで、白いひげに覆われてはいるけど、顔の肌艶が半端なく血色良くピッカピカだった。それとは対照的に騎士の皆さんの無表情。このお爺さん達にはずっと振り回されていたのだろう事が察せられる。

 賢人のお爺さん達は一度領都に戻り、そこから王都へと帰っていく予定だそうだ。

 今お爺さん達は、王都の自分達の研究室に戻って本を執筆したいという欲で頭が一杯なそうなので、サージェ先生がお目付け役にならずとも勝手に王都に帰るだろうとの事。なのでサージェ先生は白竜観察のためにエスティナに残る事になった。

 ビアンカ様はお爺さん達を連れて騎士団と一緒に領都へ戻る。一応お爺さん達貴人の護衛として、そして騎士団の取り纏め役として、ビアンカ様は領都で私相手に問題を起こしてエスティナで奉仕作業をしていた若手騎士3人も連れて帰る事になった。

 私とノアがアシュレイ様に昨年呼び出されて領都に滞在していた時、私にちょっかいを掛けて来たあの若手騎士3人組の事だ。泣きべそをかきながらエスティナ送りになった3人は、エスティナでは真面目に冒険者達と一緒にゴルド大森林の哨戒任務を一冬こなし、春を過ぎて今回のお爺さん達の護衛も粛々と務め上げ、晴れて領都の騎士団へと戻る事が許されたのだそうだ。

 私はエスティナに戻ってからその3人を見かける事は全くなかった。噂ではだいぶ冒険者のオジさん達にしごかれていると聞いていたけど、久しぶりに見る彼らは、言われなければ昨年騎士団の訓練場で会った彼らだとは分からなかっただろう。会ったのもあの時の一度きりだったけど、昨年の彼らの面構えというか雰囲気はまだ子供っぽさがあった。それが今は奇麗にそぎ落とされて、顔つきも全く違う。領都に帰る騎士団の一員として騎乗した彼らは私達から遠く離れた場所で、一度だけ私に頭を下げた。アシュレイ様からの厳命で私には近付かないように申し渡されているのだそう。

 まあ許されたのなら良かったよね。私に関わらない所で頑張ってくれるなら、それでいいと思う。

「ノア、カノン。此度は世話になった。お前達に困り事があれば、このビアンカがいつでも駆けつけよう。領都にもまた遊びに来いよ。アシュレイもベルも、お前達を待っているぞ。また連絡する」

「はい、また領都に遊びに行きますね。ビアンカ様、お気をつけて」

 ビアンカ様との別れの挨拶が済んだ時だった。


 ガンガンガンガンガン! ガンガンガンガンガン!


 荒々しい鐘の音が突然に鳴り始めた。

 ケネスさんが弾かれたようにエスティナの町中に向かって走り始めた。

 鐘五つ。五つの音の連なりが響き続ける。

 昨年聞いた鐘の音と同じだ。

「爺共を馬車に詰めて領都へ急げ!」

 ビアンカ様が鋭く指示を飛ばし、騎士さんがお爺さんを抱えて馬車に速やかに乗せていく。

「カノン、お前も馬車に乗れ!非戦闘員は速やかに領都に避難だ!」

 ビアンカ様が私にも馬車に乗る様に言ってきた。

 私は隣のノアを見た。

 ノアは真剣な顔をして、私の肩に手を置いた。

 嫌だ!

 そう私が強く思うと同時に、辺り一面をビリビリと震わすような咆哮が響いた。

「竜か!」

「白竜じゃあ!」

 せっかく馬車に詰め込まれたお爺さん達が、馬車のドアを開けて地面に転がり落ちてきた。

「くっ!総員退避!!ノア!お前もカノンと一緒に来い!領都に戻って体勢を立て直すぞ!」

 鐘は激しく鳴り続けている。

 ビアンカ様の声を掻き消すように、さらに辺りを震わす咆哮が聞こえて来た。


『・・・娘!』


「えっ」

 咆哮と同時に声がした。

「カノン、領都へ避難します。エスティナの人達は、身の振り方を自分達で判断できます。今後の対応の為にも、私達は領都へ一時避難を」

「ノア!」

『・・・我が娘よ!』

 再び咆哮が激しく響き渡る。

 その咆哮と同時に私にははっきりと声が聞こえた。「我が娘」と。

『長らく我を苦しめた穢れを吹き飛ばした、愛しい我が娘よ!!』

 今度は長めの咆哮と同時に更にはっきりと声が聞こえる。

 ・・・・ひょっとしなくても、私の事か!

「ノア、白竜が多分、私を探してる!」

「何故ですか!」

 何故なのかこっちが聞きたいが!

「分からないけど、穢れを払った娘!って言ってる。多分、私が領都に逃げても、白竜は私を追いかけてくる!ノア、もしもの時は私を守って白竜をやっつけられる?!」

 私の言う事は言葉も足りなくて、とんでもない無茶を言っている自覚はある。でもノアは、必死な様子の私を前に、逆に落ち着いたようだった。

「白竜の傍に行く事が、必要なのですか?」

「多分、そう!」

 ノアは私を安心させるように、笑いながら頷いた。

「あなたが望む事を、私は叶えましょう」

「何をしている、カノン、ノア!」

 避難を始めない私とノアに、ビアンカ様が怒鳴った。

「ビアンカ様!私、ノアと白竜の所に行ってきます!」

「何?!何を訳の分からぬ事を!いいから早く馬車に乗れ!」

「どういう事だ、カノン!」

 馬車に乗れ、乗らないでビアンカ様と押し問答になりそうな所にサージェ先生が割って入ってきた。

「サージェ先生。白竜が私を探しています。穢れを払った娘ー!ってずっと言っているので、私、白竜に会ってきます。多分、攻撃はされないはずです」

 だって、娘の前に「愛しい」って形容詞が付いているから。

 愛しい娘をガブーッとはしないと思う。そう思いたい。

 愛しいと言いながら攻撃してくる場合は理解し合えない相手だから、ノアにやっつけてもらうしかないな。

「なら、俺も行こう!」

「お前達は揃いも揃って大バカ者だ!なら私も行く!騎士団は爺共を馬車に乗せてすぐに領都に出発しろ!」

「何でじゃ!ずるいぞ!」

「その娘っ子は白竜の言葉が分かるのか?!」

 お爺さん達が騒ぎ始めたけど、ビアンカ様の指示で再び馬車に詰め込まれ、とうとう馬車は領都に向かって出発した。馬車一台に騎乗した騎士さん達が並走していった。

「よし、カノン。こうなったら思うようにやってみろ!ノアと私、サージェもいる。現状でグリーンバレー最高戦力が集まったと言えよう。もしもの場合は、私達が白竜を押さえている内にノアはカノンを連れて逃げろ」

 最高戦力にサージェ先生もナチュラルに含まれている。学者先生の筈だけど、見たまんま強いんだろうなあ。ビアンカ様よりも年上に見えるけど、未だ現役戦力にカウントされるサージェ先生凄すぎる。

 私達が白竜の元を目指そうとすると、私達の元にセイラン号が駆けて来た。厩舎の馬達が解放されたらしかった。自由にあちこち走り始めている馬達を余所に、真っ直ぐ私達の所に走ってくるセイラン号かしこかわい過ぎる!

 私達がセイラン号に乗ると、ビアンカ様達も適当にその辺の馬を捕獲して跨った。移動手段を手に入れた私達は真っ直ぐに白竜の咆哮が聞こえる方角に向かった。

 広場には前回と同じように幌馬車が3台用意されていて、満員になり次第順次出発していっている。アリスが私を見つけて何か叫んでいたけど、話をする余裕は無かった。

 広場を通り抜けて、私達は町の外れの防護柵に向かい馬を走らせた。

 白竜はずっと娘、娘と叫んでいる。

「今行くよ!」

 私が叫んでみると、白竜の咆哮が止んだ。マジか。

 私の腰に回されたノアの腕に力が入った。

 町の外れに向かえば、防護柵が見える前から白竜の姿は見えた。

 白竜はエスティナの防護柵を軽く上回る巨体だったからだ。

 全身を覆っていた黒い穢れは一切なく、発光しているかのような美しい白い鱗に覆われた竜が、防護柵の天辺に片手をかけてこちらを見下ろしていた。10メートルの高さがある筈の防護柵の3倍もあろうかという巨体の白竜は、何故か腹部の下に位置する防護柵に軽く手をかけたまま、エスティナの中に入ってこようとはしていなかった。

 防護柵の前では、防護柵を軽く上回る巨体の白竜を前に、決死の覚悟をしたケネスさんを初めとした冒険者達が集まっていた。ジーンさん達が可動式の巨大なボウガンみたいな物を何台も持ち出していて、まさにエスティナ総力戦の一触即発状態だった。

「待って、待ってー!攻撃しないでー!!」

「白竜を刺激しないでください!」

 私とノアは叫びながら冒険者と白竜の間に割って入った。

『・・・我が娘よ』

 竜がガオーと穏やかに鳴くと同時に、私には竜の言葉が聞こえた。私やっぱり、白竜が何を言っているのか分かってしまっている。

「白竜!私を探してここまで来たの?どうして私に会いに来たの?」

 ビアンカ様とサージェ先生が乗った馬は、白竜に怯えて近づけなかったので、ビアンカ様とサージェ先生は馬を降りて私達の所まで駆けて来た。セイラン号は良くノアの指示を聞いて白竜の前に飛び出せた。本当に優秀な良馬だ。

『ずっと、待っていたぞ、我が娘よ。あの忌々しい檻からやっと出られたのだな。檻の中で嘆き悲しみ続ける我が娘達を見送るのは、苦しく辛かった』

「えーと・・・」

 うん。

 会話を試みてここまで来てみたけど、白竜が何を言っているのかちょっと分からない。

 娘達って?

 私は最初の質問に話を戻した。

「白竜。どうして私を探していたの?」

『森に帰ろう、我が娘よ。我等は森から生まれ、森で生き、森に還るのだから』

「えーと・・・。白竜、ごめんね。私、森では生きられないよ」

 白竜がビックリしたようにパカンと口を開いた。案外感情が分かりやすい。

 そしてノアが警戒を強めて私を抱きしめる腕に更に力を籠める。ううん、こっちもこっちでちょっと苦しくなってきた。

「私、白竜と違って人間だから、人の住む町で暮らしたいんだよ」

『・・・・そうか。確かに、魂と成り立ちは我と同じでも、その身は森で生きるには脆く心許ないか』

「ご、ごめんね」

 防護柵に手をかけて、ガクンとうなだれる白竜に思わず私は謝る。

 白竜がすごくガッカリしている。

 感情豊かな白竜がちょっと可愛いとすら思えて来た。

「でも私、エスティナで、この町で暮らしたいと思っているから、白竜ともいつでも会えるよ。私に会いたい時は、ここの防護柵の所まで来たら私を呼んで。白竜、防護柵を壊さないでくれてありがとうね」

『うむ。我の同胞が何匹か荒ぶってな。我が娘に近づこうと、この木の壁を壊そうとしておった。これらをどうするか、お前に聞こうと思ってな』

 白竜が片手を持ち上げると、その手には5メートル位の真っ黒い熊が握られていて、ジタバタしている。

「クリムゾンベアを片手で・・・」

 周囲の冒険者達がごくりと唾を飲み込んでいた。

 あれがクリムゾンベアで私には真っ黒に見えているって事は、黒いもやが熊に纏わりついているって事だよね。

「ねえ、白竜。その黒いもやって何?白竜も真っ黒だったね」

『我が娘。これは、お前達の嘆きと悲しみ、恨みつらみの穢れであろうに』

 白竜に「何でお前、知らないの」みたいなニュアンスで返される。

 ええー。覚えは無いんだが。

『小さな檻に押し込められたお前達は、帰りたい帰りたいと嘆き悲しみ、この世を呪い恨むようになった。お前達の魂は檻に囚われ、体が朽ちても自由にならなかった。我が娘達の穢れは消える事無く膨れ上がり、我等同胞を蝕むようになった』

「そ、そっかー」

 これは、有識者に相談だ!

 私では理解しきれない。

『我は嬉しい。娘、お前だけでも檻から逃れられ、我はお前と会えた』

 白竜の青い瞳からぽろんぽろんと、大粒の涙が零れた。

 竜って、泣くんだ?!しかも嬉し泣きだ。

 防護柵のこちら側に、ちょっとしたバランスボール位の水球がバシャンバシャンと落ちてくる。ケネスさんがタライを持って来いと大声叫んでいる。手持ちの革袋でキャッチしようとした冒険者が全身に白竜の涙を被っている。大丈夫かなー。

「私達?の恨みの穢れが獣達にくっ付くと、みんな狂暴になるの?」

『生まれ持った性質もあるがな。これは元々気性が荒い。それに我が娘の穢れが干渉し、正気を失った。穢れが元で正気を失えば、力ある獣ほど元に戻る事はない。これは苦しみの源であるお前を喰らおうとして、この境を超えようとしておった』

「ひええ」

 白竜に片手で掴まれたままのクリムゾンベアが、涎を巻き散らしてまだジタバタと暴れている。

 怖!狂暴化した獣達、ピンポイントで私を狙ってきてたの?

 でもネズミとかピーカとか。小さい獣は黒いもやを払うと大人しくなる子も居たな。大きい個体程、穢れがくっ付いて正気を失うと元に戻れないって事?

「白竜も真っ黒だったのに、よく元に戻ったね?」

『我は正気を失う一歩手前であった。愛しい娘よ。この世の災厄と成り果てる前に、我はお前に救われたのだ』

「あ、あっぶな!!」

 ギリギリだったじゃん!


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白竜意外におしゃべりでかわいいし、急に物語が動いた!
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