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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編

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ゴルド大森林の白竜 3

 ・・・・ねむ。

 物凄く、眠い。

 ここはぬくぬくして暖かいし、何だか良い匂いがする。

「・・・、・・ン」

 暖かい熱が私の全身を包む。

 気持ちいい。

「・・・カノン」

 眠くてたまらないけど、心地の良い柔らかい声が私を呼ぶ。

「カノン。少しだけ起きて」

「あああ、カノンちゃん、寝ちゃう寝ちゃう。お粥?果実水?」

「どっちもあるわよ!」

 ちょっと騒がしくなってきて、さっきよりも眠気が少し遠のいた。

 重い瞼をゆっくりと開ける。

 私の目の前には、ノアの顔があった。

 かーっこよ。

 ノアはやっぱり奇麗な顔をしているなあ。と思う内に、私の瞼はトロリと落ちてくる。

「カノン。水分だけでも取りましょう」

 眠い。

 目を開けてられない。

 すると私の口の中に固いものが入って来た。そして、微かな甘酸っぱさが口に広がる。

 美味しい。

「カノンちゃん、もう一口。あーん」

 瞼は下がってしまっているけど、喉が渇いていた私は目を閉じたまま口を開ける。すると固いものがもう一度私の口の中に入ってくる。それを何度か繰り返すと、喉の渇きが収まった。喉が潤うと遠のいた眠気がまた強くなった。今度はこの睡魔には抗えない。

 私の周囲の気配は賑やかで、私の周りで色々な人が話をしているようだ。

 すぐそばに優しい誰かの気配を感じながら微睡むなんて、なんて幸せ・・・・。


 私が目覚めると、見慣れたルティーナさんの宿の天井が見えた。

 目覚めはしゃっきり。でも私、ベッドに寝る前何してたんだっけ。

「カノン」

 眠る前の事を思い出そうとしていたら、すぐ真横からノアの声がする。天井を見ていた私の視界にノアの顔が入って来た。

「目が覚めましたね。起きられそうですか?」

「おはよ、のあ」

 私がむくりとベッドの上で起き上がると、ノアが私の両脇に手を入れてひょいと抱き上げた。

「おはようございます、小さなカノン」

 私を抱き上げたノアは、私のおでこと鼻にキスをした。それから右頬と左頬。そして頭頂。そしておでこに戻る。

「・・・・・」

 ノアのキスの雨がなかなか止まない。

「のあ、ちゅうやりしゅぎい!もうおわり!しゅとっぷ!しゅとっぷよう!」

「ふふふ、すみません。冬の間、私も我慢していましたから。でも大きいカノンにキスするより、小さいカノンにキスする方がいいでしょう?大きいカノンにしても構わないならそうしますが」

「い、いま!やっぱりいまいいよ!」

「では遠慮なく」

「ふわああ」

 顔中にしばらくノアのキスが降り続け、ノアが満足した後にやっと私は解放された。

「ノア、終わったか」

「はい」

 そして、気付いてはいたんだけど、私とノアの部屋にはミンミとアリス、そして今日は黒いドレスをお召しのビアンカ様が居た。

 部屋のテーブルには、気絶後の定番のお粥がもう準備してある。

「ああ~!久しぶりのちっちゃいカノンちゃん!」

「やっぱりカノンは可愛いわねえ!」

 ミンミもアリスもニッコニコだ。

「カノン、気絶をする前の事は覚えているか?」

「えとー。くろいぷりんをはらってぇ。・・・りゅうは?」

 ノアは私を抱っこしたまま食事が用意されたテーブルについた。テーブルにはビアンカ様もついている。

「うん、覚えているな。まずはカノン、良くやった。私の目から見て、白竜の解呪は成功したと思う。私に見えていた白竜を取り巻く黒い紗が完全に消失したからな。だが、お前が気絶をしてからエスティナへの撤退を優先させた。あの後白竜がどうなったのかまだ確かめていないのだ」

「カノン、食べながら話を聞きましょうね」

 私の口元に野菜と穀物がトロトロに煮込まれたたまご粥が運ばれる。うーま。

 白竜を解呪したあの時。

 私は想定通りに大発光して幼児退行を起こして気絶。

 洞穴に頭を突っ込んでジッとしていた白竜は、少しずつ頭を出そうと後ろ向きで私とノアの方へ後退してきた。

 白竜が洞穴から完全に顔を出す前に、解呪作戦チームは全体が全速力でエスティナに向けて走った。馬を待たせていた場所まで帰ってくると、今度は馬をエスティナへむけて全力で走らせた。通常はゆとりを持って4回野営が必要なエスティナと白竜の巣の間を白竜解呪チームは2度の野営で踏破した。そして今日は、白竜の解呪をしてから4日が経ったという事だった。

 3日では起きられなかったらしい。夢うつつにノアや、ミンミ、アリス達の声を聴いたような気がしたのは、昨日半分寝ながら水分補給した時の事だったそうだ。

「うん。見事にすっからかんだ。ほぼ満タンだったカノンの魔力のほとんどを使ったな。あれほどの巨体、竜種の穢れだからなあ」

 ビアンカ様が手を伸ばして私の頭をモミモミさわさわする。

「本当に、カノンにしか出来ない、聖女の奇跡の御業だった。お前達がエスティナに来てくれた幸運に大感謝だ。神など信じぬこの私が、ここ数日は天に感謝を捧げているほどだ。白竜の解呪が大森林の獣達にどう影響を及ぼすかは、今後しばらくの調査と観察が必要だが、白竜の討伐はその調査次第で考えれば良かろう。白竜討伐の必要性はだいぶ下がっただろうと、私もサージェも考えている」

「よかったあ」

 お粥を食べながら、ビアンカ様から今日までに至る話を聞く。

 冒険者達も、騎士さん達も、誰一人欠ける事無く戻ってこられた。賢人のお爺さん達にも今回の解呪作戦はバレていないらしい、結果は大成功と言えるのでは。

「では調査の為にサージェ様と賢人の方々はもうしばらくエスティナに滞在されるのですか?」

「爺共はそろそろ王都に強制送還しようと思う。王都から来る際、グリーンバレー滞在の期限も切られていた筈だ。秋から春までの半年だった筈だが、もうとっくに過ぎているな。いつ王都から爺共の迎えがやって来るかもわからん。爺共の王都の帰還の準備は早急に進めねばな」

「もう春も過ぎ、季節は初夏に差し掛かっていますからね」

 ノアの言う通り、春から続いた大森林の獣達の恋の季節も終盤。

 もう汗ばむような夏の陽気の日もある。季節は夏の気配を漂わせ始めていた。

 私とノアがエスティナに来て、もうそろそろ1年が経つかも。今日まで本当に色々あったなあ。しみじみしながらも、ノアからの給餌を受け続ける私。

「なんにせよ、カノンに頼んだ仕事については、これ以上に無いほど完璧に遂行してもらえた。今後の白竜の対応は我々騎士団の仕事になる。報酬を楽しみにしておけよ」

「ありがとうごじゃいましゅ!」

 やったー!

 エスティナの為になるならって思った気持ちは本当だけど、依頼を受けた仕事に報酬を貰えるなら尚嬉しい。白竜のリアクション次第でもあったので、本当に解呪が成功して良かったなあと思う。

「では我々は爺共を回収したら速やかに領都に戻る事にする。サージェはもしかすると、もう少しエスティナに残るかもしれないがな。カノン、一応用心して姿が戻るまでは外を出歩くなよ。新顔の冒険者も数人いるとケネスに聞いている。興味を惹かれないように気をつけろ」

「わかりまちた」

 私は迂闊に宿の外に出ないとビアンカ様に約束する。ルティーナさんの宿は長期間部屋をキープする昔馴染みの冒険者達ばかりで、素性のしれない人達が居ないのだ。

「後4日もすればカノンの身体も元に戻るでしょう。今回は私もカノンの傍を離れないようにします」

「うちも馴染み客以外のお客は断るようにします!カノンの事が外部に漏れて、悪い奴らに狙われたら大変だもの!」

「私達も5日は休暇を取るつもり。今回の作戦の報酬も良いみたいだから、良い骨休めになるわ。ノア、カノンちゃんのお世話と護衛、私達にも是非振ってね」

 ノアはもちろん、アリスとミンミ達も幼児退行中の私を厳戒態勢で守る構えだ。正直まだちょっと、そんなに厳重に?と思わないでもないんだけど。

「カノン。頭で理解はしているが、という顔をしているな」

「ふぐ」

 ビアンカ様が私の低い鼻を形の良い指で軽く摘まむ。

「爺共は制御不能で行動の予測も出来ん。そしてこの国において、賢人という身分を持ち王族達とも距離が近い。お前がエスティナでの平穏な生活を望むならば、十分に警戒をすべき相手だ。白竜の解呪については爺共には感づかれてはいないし、白竜の穢れを目視出来ん爺達が知る由もないとは思っている。解呪作戦に同行した騎士団と冒険者達もメンバーを厳選している。しかし、我々は爺共にカノンの正体がバレる事のリスクを十分に理解しているが、エスティナの全住民が我々と同等の危機感を持っている訳ではあるまい。子供のお前の名前をうっかり爺達の前で呼ぶ恐れもある。それに今は新顔の冒険者が増える時期でもある。だから幼児退行中のお前の顔が不特定多数に知られる事は避けろ。私の言う事が分かるな?」

「わ、わかりまちた」

 ビアンカ様の圧が増した。

 私はビアンカ様にコクコクと頷く。

 私、まだまだ危機感足りなかった。どこからどう私の正体がバレるのか、今人の出入りが増えているエスティナでは分からないんだ。

 真剣に頷くと、やっとビアンカ様が鼻から指を離してくれた。

「まああと数日の事だ。お前が元の身体に戻る頃には私達も領都へ戻る準備が整っているだろう。まずは所在不明の爺共を大森林の中から探し出す所からだな」

「おちゅかれしゃまでしゅ」

 た、大変そうー。

「それと、サージェがお前に会いたいと言っていた。構わないか?」

「わたちいま、ちっちゃいから、あんまりおはなちじょうじゅにできないけどー」

「小さいお前に会いたいそうだ。あの親父は単純に子供好きなだけだ。頭の一つか二つを撫でさせてやれば気が済むから、嫌でなければ付き合ってやってくれ。あの見た目だ。本人が子供好きでも、当の子供には徹底的に嫌われるのだ。ちなみにまあ、私も子供と動物には警戒されるから、奴の気持ちもわかる」

「は、はい」

 ビアンカ様は目を細めて、ノアに抱っこされたままの私の頭を撫でる。まあ、サージェ先生に撫でられる位は全然良いんだけど。

「びあんかしゃま、だ、だっこしゅる?」

「・・・いいのか?」

 ビアンカ様はノアにお伺いをたてた。

「今この部屋に居る方々は、私と共にカノンを守ってくれると私が信頼する方々です。カノンが良いのであれば、私も構いませんよ」

「そ、そうか」

 ノアの中の基準としては、私達のプライベート空間への入室を許可するかしないかが、信頼しているかどうかのボーダーラインだったみたいだ。それで言うと、領都ではベル様もひょいひょい私達の寝室に入っていたなあ。でもアシュレイ様は寝室の戸口で私と立ち話をする程度だったけど・・・。アシュレイ様に全幅の信頼を寄せるまでには今一歩なのか、初対面の印象がまだ尾を引いているのか、どっちなんだろ。

 サージェ先生とは食堂で会う事になったので、まだノア的にはサージェ先生の事は様子見といった所かな。

 そんな訳でノアから許可を貰って、薄っすらと頬に朱を昇らせたビアンカ様が私に手を伸ばすので、私もビアンカ様に手を伸ばした。そして私はビアンカ様の膝の上に。

「おお・・・・。子供は、体温が高いな。それに、なんと、小さい・・・。柔らかいな」

 ビアンカ様がまさか、緊張している?

 私はビアンカ様のお腹に背中を預けて、前を向いて膝に乗っているのだけど、ビアンカ様が私のお腹を押さえる両手はそっと添える程度。そしてビアンカ様の身体は、私の身体を抱え込んでカチーンと固まっている。ビアンカ様を見上げると、いつもの豪快な笑顔では無くて、何だか嬉しそうにはにかんでいるビアンカ様だった。かわいい。こんなビアンカ様、レアじゃない?

「うん。カノン、ありがとう。壊してしまいそうで、緊張するな。光栄にもノアからカノンの護衛の一員に入れてもらえたようだからな。これから少しずつカノンの扱いを覚えていくとしよう。ではカノンを返すぞ」

「ビアンカ様、こっちにくーださい。次は私、私!」

「カノン、私にも抱っこさせて!」

 ビアンカ様の次には、ノア公認の護衛兼お世話メンバーとなったミンミとアリスが私の抱っこの順番を待っていた。まあ減るもんじゃないから以下略。

 ビアンカ様とサージェ先生の事情とはまた違うけど、エスティナの人達の異様な子供好きは、やっぱり日常生活に子供という存在がいない事からの渇望ゆえ、なんだろうなあ。

 私の今回の白竜の解呪が良い方向に影響して、狂暴化する魔獣や、野生動物達も減って、エスティナの人達が自分の手元で子供を育てられる日がいつか来ると良いなあ。

 私は大人の身体に戻るまで宿から一歩も出ず、宿の皆さんに撫で繰り回されたり、私に会いに来たサージェ先生に撫で繰り回されたりしながら過ごした。

 そして想定通り、4日後に私は大人の身体に戻った。


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― 新着の感想 ―
こんな聞き分けのいい子ども、みんな抱っこしたいよねー
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