表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/110

ゴルド大森林の白竜 1

 私達が白竜の元へ出発する日がやって来た。

 メンバーは私とノア、ビアンカ様とサージェ先生の他、騎士団の方々。そして申し訳なくも私の護衛と、私の白竜解呪作戦に助力を貰うエスティナ冒険者の人達、総勢30名ほどの大所帯になった。

「カノンちゃん、私達がカノンちゃんの事は守るからね!」

「大森林は俺らの庭だ。必ず無事にエスティナに帰すからな」

「ありがとう、ミンミ、ラッシュ。頼りにしてるね」

「今はまだ獣達の繁殖期中だ。気を引き締めていくぞ」

 同行してくれる冒険者のメンバーにはグイード達のパーティも含まれている。何だかいつも私に付き合ってくれている感じで、申し訳なくも頼もしい。冒険者チームのリーダーはグイードらしく、グイードの檄に冒険者の人達はオウ!と気合を入れていた。

 今回私達は騎乗で白竜の住処を目指す。

 途中で4度の野営も行うという事なんだけど、豊かなゴルド大森林では食料や薪は現地でどうにかなるので、みんなそれぞれ自分の携帯食料と毛布を持つ位の軽装備だ。白竜の気を引くためのお酒やお肉は、お爺さん達が浮かれて設営していた白竜の住処すぐ近くのキャンプ地に先行して運んであるという。まるでハイキングでもする位の気軽さで、野営知識の乏しい私でもちょっと心配になるレベル。

 でもさすがは魔法の国アストン王国。初日の野営で私の疑問は解消された。

 

 大森林の中は、冒険者が行き来する範囲は馬で通れる道もあり、森林にも手が入れられている。そして道沿いにはあちこちに野営が出来るように、休憩地用の空き地が作られている。それも結構大きい。最初の野営ポイントに到着して、30人が4つぐらいのグループに分かれて休んでもまだ余裕がある位に広い。聞けば、スタンピードが発生した時の応援要請時、森林内の後片付けまで騎士団にお願いする際の休憩スポットなのだそう。

 大森林の中の大きな空き地に驚いていると、キンとガラスを弾く様な涼やかな音が鳴った。

「休憩地に結界を張ったぞ。雨風はこれで凌げる。人間の出入りは自由だ。だが馬は休憩地の中に入れておけよ。夜に熊や狼に持っていかれるからな」

「「「はっ!」」」

 ビアンカ様が結界を張った音だったようだ。辺りを見回せば、休憩地点の向こうで動いている騎士さんが薄紫色に見える。これが結界の膜なんだろうな。

 ビアンカ様が結界を張る想定でテントが不要だったんだ。なるほどねー。

 そして方々のグループに分かれて焚火を作って煮炊きをし始めている。私とノアはグイードのパーティに混ぜてもらっている。

「あはは。その赤リス、カノンちゃんからとうとう離れなかったわねー」

 ミンミが私の肩の上の赤リスを笑う。

 私が動物達から絡まれる体質は健在で、エスティナの防護柵の中に居るとエスティナの中に巣があるらしい小鳥がたまに飛んでくるくらいなんだけど、防護柵の外に出ようものなら小鳥から赤リスからピーカやらが入れ替わり立ち替わり私の所にやって来る。今色々な意味で私の人生のモテ期である事は間違いない。

 幸いなことに森林狼がやって来たのは領都に行く途中の1回だけでそれ以降は無い。今は冒険者だけじゃなくて騎士さん達も居るし、不幸な事故を防ぐためにも今は近寄ってこない事を願う。

 それとピーカもあんまり私に近寄らない方がいい。あの子達は無害だけど美味しいから。手持ちの食料が足りない場合はご飯になってしまう可能性もあるんだぞ。今回も近づいてくるピーカ1匹ずつに、人間に近づくと食べられちゃうぞと諭したけど、あのポヤーッとした顔は絶対に伝わっていない。あんなに危機感が無くて美味しいのにピーカが絶滅していないのが本当に不思議。多分、大森林の食料が豊富だからピーカが他の獣達に食べれらずに済んでいるんだろうなあ。

 両肩に赤リスを装着したままでそんな事を考えていると、火魔法や水魔法を使ってどんどんと夜ご飯の準備は整っていく。軽装備なのは水魔法で水を出せる人がいる事も大きい。グイードのパーティにも水魔法を使える人がいて、片手を翳してお鍋に水を入れたり、水筒に水の補充をしてくれたりしている。

 遠くの騎士さん数人は馬の飲み水を常設の水場に入れてあげている。セイラン号と冒険者達の馬もまとめて面倒を見てくれているので、冒険者達は騎士さん達の分のご飯もまとめて準備しているみたい。あとでセイラン号のお世話のお礼を言いに行かないとね。

「お前達、肉は足りているか」

 何とビアンカ様自らが各グループにお肉を配給して回っている。大きな木皿にそぎ落とされたお肉が山盛りで、それをビアンカ様は軽々と片手で持っている。遠くで大きな塊肉を焚火の上で回しながら騎士さんが焼いていたので、多分そのお肉だ。軽装備の分、食材はしっかり持ってきている様子。ビアンカ様は魔法を使ったらたくさん食べないといけないからなあ。

「ありがとうございます」

 私達のグループはお肉の山から3分の1くらいを頂く。そんなに少しで良いのかとビアンカ様に言われるけど、一人にそぎ切りされた大きなお肉が二つの計算だから十分です。私は1個で沢山だよ。誰かにあげよう。

「カノン、しっかり食べろよ」

「はい」

 ビアンカ様は隣のグループの元へ歩いて行った。私は一応まだビアンカ様の弟子なんだけど、最近の指導と言えば良く食べ良く寝ろに終始している。まあ魔力感知と魔力操作が絶望的な弟子にかける言葉と言ったら、あとはしっかり魔力回復しろ位だもんね。

 うん。周囲が働いている中、自分ばかりジッとしているのは落ち着かないけどしっかり体調を整えて、自分の大役をしっかり果たさないと。

 常に動いていないと落ち着かない私の貧乏性を知っているノアやミンミ達は、私が一所に座ってナッツを齧っているだけで「我慢して休んでいて偉い」と褒めてくる始末。ほんとに私の周囲は私を甘やかしすぎ。

 赤リス2匹は、私からパンの欠片を一個ずつ受け取ると、用は済んだとばかりにやっと私から離れてどこかに走り去っていった。

 さて夕食も済んで食後のお茶を飲んでいると、サージェ先生が私達の所にやって来た。

「カノン、しっかり食べたか」

「はい」

 誰もかれもが私がご飯を食べたかの確認をしてくる。魔術士は一般的に健啖家だという事が知られているそうなんだけど、それは魔術を使った後に物凄くお腹が空くかららしい。なので食べる事と寝る事が魔術士の魔力回復に繋がるとされている。

 でも私は今魔力が多分満タン状態。そしてまだ魔力を使っても居ないからご飯は普通で良いんだよ。

 サージェ先生は私の隣に腰を降ろした。

「カノン。白竜の解呪を試みてもらえる事、感謝する」

「いえ、そんな・・・」

 サージェ先生から改まってお礼を言われてしまった。

「私、エスティナの人達には本当に良くしてもらって。黒いもやもやを払ったら狂暴化する獣が少なくなるかもしれないし、エスティナの人達が安全に暮らせるようになる可能性があるんなら、白竜の解呪を絶対に試してみたいって思いました!」

 自分の気持ちを整理しながら話していたら、後半気持ちが高ぶって声も大きくなってしまった。向こうの焚火に居た騎士さん達も何事かとこちらを振り返っている。

 お恥ずかしい。お騒がせしました。

 サージェ先生は、ははは!と笑って私の頭を撫でてから、すまん!とびっくりしたように手を下ろした。

「なるほどなあ。ビアンカがカノンの頭を良く撫でているのが何故なのか分かった気がする。しかし、子供でもあるまいし悪かった」

「あの、いえ。エスティナの人達は私を撫でるとご利益があると思っているみたいで。だれかれ構わず頭を撫でられていますので、気にしないでください」

「そうか、なら遠慮なく」

 するとサージェ先生が改めて私の頭を撫でてくる。

 エスティナには私の頭を撫でると良い事が起こると言う噂というか、ジンクスが定着してしまったらしく、年上、年配の方はまず間違いなく会うと私の頭を撫でてくる。私にはお地蔵さん的機能は無いんだけど、信じる者は救われると言うしね。撫でたいなら存分に撫でるといいと、私もエスティナの人達には好きにしてもらっている。

 サージェ先生はご利益を望むタイプには思えないけど、減るもんでもないんでお好きにどうぞ。

 気が済むまで私の頭を撫でたサージェ先生は、パチパチと火が小さく弾ける焚火に向き合うと、少しだけ話してもいいかと私とノアに断って穏やかに話を始めた。

 グイード達は寝ず番のローテーションで寝る準備を始めたり、見張りの場所に向かったりと動き始めた。

 焚火を囲むのは私とノア、サージェ先生の3人になった。

「俺は長年エスティナの獣害について記録を集め、様々な検証を行ってきた。遡れば50年前から、エスティナでは10年周期でスタンピードが起こって来た。昨年が丁度前回のスタンピードから10年経つ年だった。だから警戒するようにビアンカにもケネスにも伝えていた。大森林の哨戒を強化し、狂暴化している個体を積極的に間引くように伝えて、スタンピードを事前に防ぐ努力をしていたんだ。だがそれらの努力はさほど効果もなく、10年周期のスタンピードは起こってしまった。しかし、昨年エスティナに居たのがノア、お前だ」

 何やら私を挟んで私の頭上でサージェ先生とノアが見合っている雰囲気。ノアは黙って話を聞いている。

「10年前のスタンピードではグリーンバレーの前領主が命を落とした。騎士団と冒険者達も半数が命を落とし、エスティナの住民達大勢が家を失い、家族を失った。悲しみも癒えない中、それでもグリーンバレーの領民達は歯を食いしばってここまでの復興を成した。10年前には無かった防護柵も作った。冒険者と騎士団の武器も強化し、鐘楼の数も増やし、数時間で領都にエスティナの緊急事態が伝わるようにした。だが俺はビアンカと入れ違いで王都に留め置かれていてな。もし次にスタンピードが起これば、冒険者達とビアンカが率いるグリーンバレー騎士団で迎え撃つ手筈になっていた。しかし、10年かけて準備をしても大きな犠牲は免れないと考えていたが」

 サージェ先生から語られる10年前の悲劇に、私も言葉が浮かばずに黙る。

 私達はそんな事情を何も知らずエスティナにやって来た。いつスタンピードが起こるかもしれない緊張状態にあった筈なのに、エスティナの人達は私とノアにとても優しかった。エスティナがノアの力を欲していたのも確かだと思うけど、私がエスティナで暮らしたいと思ったのは、やっぱりエスティナの人達の温かい人柄に触れた事が大きい。

「ノア、エスティナに起こる筈だった悲劇を回避できたのはひとえにお前の働きによる。スタンピードの流れを大森林の中で削り続け、エスティナの防護柵の一部は破壊されたが、その防護柵の穴の前で大型個体を切り伏せ続けて一匹たりともエスティナの中に通さなかったと聞く。まさに勇者と呼ぶべき人知を超えた力だ。だが不思議な事に、スタンピードを一人で防ぎ切った勇者の話は王都まで聞こえてはこなかった」

 ノアの顔を見るとスーンとお澄ましして焚火を見ている。片やサージェ先生を見ると、口角を上げながらノアを見ている。ノアの話なので私も取り合えず黙っておくことにする。

「フフ。アシュレイ辺境伯から我が国の王族の悪癖を聞いているな?王族達は力ある人間をとかく王都に、手元に収集品のように置きたがる。それが合意の上ならまあ良いだろうが、ノア、お前は我が国の王族に囲われる事を望むか?」

「全く望みません」

 ノアが即答する。その返事を聞いてサージェ先生は大笑いした。

「ははは!ビアンカから聞いていた通りだな!まあ、俺の事は警戒しないで良い。お前の意志を曲げてお前の身をどうこうできる筈も無いからな」

 ひとしきり笑った後で、サージェ先生は声のトーンを下げた。

「だが、カノン身の安全にはくれぐれも気をつけろよ。カノンを盾にしてお前に無理を通そうとする可能性もあるからな。更にカノンの能力が外部に知られれば、カノン自身の危険も跳ね上がる。俺としてはお前がエスティナに居続けてくれるなら、これ以上望むことは無いんだ」

「私にとっては何を置いてもカノンが最優先事項です。カノンを害そうとするならば、この国の王族であろうとも容赦はしません。私もカノンと同じくエスティナの人々を好ましいと思っていますが、私とカノンの意に沿わぬ事を強要されるのであれば、この国を出て行きます」

「うん、お前達に見限られないように俺達も気を配ろう。どうか末永くエスティナで暮らしてくれ」

「私もそう願います。あと、最初に言っておきますが、カノンが害されそうになれば白竜は問答無用で斬ります。よろしいですか?」

「お、おう。その時は仕方あるまい」

 場合によっては白竜を討伐する可能性についてノアが口にすると、サージェ先生は白竜を斬ると言い切るノアにちょっと引いていた。でもノアなら一刀両断でどんな大きさの魔獣もヤッちゃえるのかもしれない。

「白竜は長らくゴルド大森林の生態系の頂点に居た。だが、50年もの間繰り返されるスタンピードの原因かもしれないからな。長年繰り返される悲劇を防げるかもしれないなら、白竜を討伐するのもやむをえん」

 サージェ先生、白竜を出来れば討伐したくないんだろうな。直接人間に害を及ぼした事は無いんだもんね。

「サージェ先生。白竜はむやみに人に危害を加えないんじゃないかと思います。先生や賢人の方々が近づいても何もしなかったんですから。私も気を付けて白竜をビックリさせないようにそっと近づいて、尻尾の先とかをちょっとだけ触る様にして解呪します。アシュレイ様もビアンカ様も、黒いもやもやで酷い体調不良を抱えていました。白竜のもやを払って解呪出来たら、白竜はきっと元気になって、大森林の狂暴化する獣達をビシッと統率してくれるかもしれません」

「ははは、尻尾の先を触るなら白竜も気付かんうちに解呪できるかもなあ。カノンは優しいな」

 ちょっと思いつめたような顔になっていたサージェ先生が、少し笑ってまた私の頭を撫でる。

 白竜はゴルド大森林の主なんだろうし、白竜が居るからこそ取れている獣達のバランスもある筈だもんね。出来たら白竜が討伐される事なく色々な問題が解決されたらいい。

「さあ、明日も早い。ノア、カノン、話に付き合わせて悪かったな。もう寝ろ」

 そう言ってサージェ先生は騎士さん達がいる場所に戻っていった。


 うーん。色々と、サージェ先生の話を聞いて考えさせられてしまった。

 獣達は森でただ暮らしているだけ。でもそれは人も同じ事。人間だって生きるために攻撃されれば獣達に反撃するし、食べる為に殺す。住む場所を脅かされるなら、獣と人が戦う事はままある。人間だからとか、獣だからとか、そんな線引きは無く、私達は森で生きる命という同じ立場なんだよなあ。

どちらが悪いとかは無い。でも私はどうしたって人だから、人の生活を守るために戦う側に立つ。

「カノン、考え込んでいますね」

 毛布にくるまっても何だか頭が冴えてしまって、パッチリ目を開けて夜空を眺めていると、ノアがサラリと私の頭を撫でる。

「危険であれば白竜の解呪を中止する事もあるでしょうし、白竜に近づく事すら出来ないかもしれません。まずは白竜の巣を目指してみましょう。そこからどうなるかは行ってみないとわかりません。さあ、馬に乗っているだけでも体力を使いますよ」

 ノアが私を毛布ごところりと転がし胸元に抱き寄せた。私はあれよあれよとノアと向かい合わせになり腕枕をされていた。ノアは私と一緒に毛布をかぶり、私の背中を一定のリズムで叩き始めた。あー、これは。条件反射で強制的に眠らせられるやつぅ。

 ノアが余りにも自然に私を懐に抱き込むので抵抗する間もなかった。それにこの時のノアは私に異性を感じさせなかったというのもある。お父さんというか、お兄ちゃんというか、私をドキドキさせない保護者モードのノアだ。

「おやすみなさい、カノン。良い夢を」

「・・・おやすみ、ノア」

 今夜は幼児退行を起こした時のように甘えて、何も考えずにノアの胸にギュッと顔を押し付ける。するとノアのグリーン系の良い香りに包まれた。ノアの香りにそっくりな精油をルナの実家の道具屋さんで見つけたんだけど、やっぱり少しノアの香りと違うんだよなあ。そんな事を考えている内に私は意識を手放していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ