表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
6/26

いざ新天地へ 1

 私が目覚めた時、私はノアの抱っこスリングにまたすっぽり入って再び馬で移動中だった。

 いつのまに・・・。

「カノン、目が覚めましたか。無事に国外に出て、今はアストン王国に入りましたよ」

 私が身動ぎすると、ノアが馬を走らせながらそう教えてくれる。

 日はすっかり高くなっていて、私はだいぶゆっくり眠らせてもらったようだった。

 ノアはしばらく馬を走らせてから、街道脇にぽっかりと広がるスペースに馬を寄せた。

「お腹が空いたでしょう。少し休憩しますね」

 ノアは馬からひらりと降りると、私をスリングからスポンと引き抜いた。そして解いたマントを地面に敷いて、その上に私を座らせる。

 馬から荷物を降ろして馬のお尻をポンと叩くと、馬は近くの小川に向かい水を飲み始めた。

 辺りを見回すと、私達と同じように馬を休ませている人達がちらほらいる。

 私達が進んできた街道は森林の中を通る大き目の街道で、私達が追放された国、スタンレーへ続く一本道となっているそうだ。

 大きい荷物を持っているのは行商人。帯剣したり、弓矢を背負っていたりするのは冒険者ではないかというノアの話。

 ここは街道を移動する人達の休憩スペースの様だった。

「はい、どうぞ。食べきれなかったら、残りは私が食べますから」

「ありがとう」

 ひき肉と野菜が炒められた物がピタパン的薄パンに詰められている物を手渡される。これ、夕べも食べた美味しかったやつ。

 限界まで口を開けても齧り取れるのはほんのわずか。頑張って食べてるうちに食べ疲れちゃうんだよね。

 ノアはワイルドに大きい一口で食べ進めている。

 私は頑張って、頑張って、半分食べた所でギブアップした。この幼児の胃袋ではいっぺんに沢山は食べられないな。

 ノアが私の残したピタパンサンドを3口位でパクパクっと食べてくれた。

 そして食後の水分補給。水筒をノアに支えてもらって水を飲む。

 この水筒の水も食べ物も、準備は全てノア任せ。私が寝コケている内に色々と準備してくれたんだよね。私というお荷物が無くノア1人だけだったら、国外追放とは言え全然楽だったろうにな。

「何事も無く無事に隣国に入れて良かったです。脅しだとは思ったのですが、あの兄の事です。追っ手を差し向けないという保証もありませんでしたから」

「こわ!」

 ノアの兄、怖・・・。

 王城でノアに国外追放を言い渡した時、凄く嬉しそうだったな。どれだけ弟の事を疎んでいるんだよ。

「ふふ」

 ぶるっと震える私を見てノアが笑う。

「もうスタンレーからは離れました。スタンレー王国は、出国するのは簡単ですが、入国するには厳しい審査があります。王子から直々に国外追放を言い渡された私は罪人も同然です。もう祖国に戻る事は出来ないでしょう。ああ、本当にせいせいしました!」

 ノアが晴れやかな笑顔を見せている。

 そこには国外追放を言い渡された悲壮感とかは微塵も無い。

「のあは、ほんとにそれでいいの?おかあしゃんの、おはかとかは?」

 ノアは首元から銀のチェーンを引っ張り出した。そのチェーンにはシンプルな銀の指輪が通されていた。

「母の墓はありません。母の形見はこのように、肌身離さずいつも持ち歩いています。個人資産もいつも身に付けているのです。父と兄から身一つで家を追い出される事も想定していたので」

 ノアがチラリとベルトの裏を見せてくれた。

「おおー」

 私が声を上げると、ノアがシーと口元に人差し指を当てるので慌てて両手で口を押えた。

 ベルトの裏にはぐるりと金貨が縫い付けてあった。目を丸くする私にウインクするノア。

 ノアはこんな茶目っ気も持ち合わせているんだなあ。

 スタンレー王国から離れたからか、ノアの雰囲気が明るく変わったような気がする。

「私とカノンの2人なら、手持ちの資金で働かなくとも庶民に紛れて2年は暮らせるでしょう。まずは安心できる拠点をみつけましょうね。それから私にできる仕事を探します」

 なんて用意周到な!

 それに引き換え、タダ飯食らい役立たずな幼女の私ときたら。

 私が身に付けてきた服やカバンはお城で取り上げられちゃったしな。木綿のワンピースに着替えさせられて、私の持ち物は返してもらえなかった。

 私の手持ちの資産はゼロ。私のこれまで培ったスキル(居酒屋店員)は果たしてこの世界で通用するのか。異世界の食堂とか・・・?

 聖女と言われてもなあ。

 結界は私が張りなおしたらしいけど、私、聖女として自分が何を出来るのかは全く分かっていない。

「わたち、のあのおにもつ」

「何を言うのです」

 しょぼんとする私をノアがとても自然に膝の上に乗せた。私はノアと向かい合わせに座る格好に。

「私は家を出る事を望んでいましたが、生きる目的は特に何もありませんでした。もし今1人なら、生きる希望も無く空虚な心地で当てのない旅をしていた事でしょう。カノンにとって今の現状が望まぬ事と重々承知ですが、私はカノンが私と一緒に居てくれて嬉しいのですよ。すみません、不謹慎ですよね」

「ほんとに?」

 ノアは私を真っ直ぐに見てニコリと微笑む。そこには今の状況を憂える影は少しも無かった。

 なら私も、ノアにきちんと気持ちを伝えておかないと。

「わたちも、のあといっしょ。うれちぃい」

「あはは!良かった!」

 花開く笑顔とはこの事かあ!

 ぱあっとノアが更に満開の笑顔を見せてくれた。

「のあ。これからいっしょ、よろちくね」

「はい」

 私とノアは顔を見合わせてエヘヘと笑う。ノアの手放しの笑顔は幼女の私から見ても非常にピュアで可愛い。

 こんな可愛らしい、人の好いイケメン。幸せになって欲しいなあ・・・。

 かっこよくて、感情表現が豊かで、且つナチュラルなお色気もあり生活能力もある。しかも子供のお世話も出来る。こんな結婚に向いてる魅力的な優良物件、世間の女性達が放っておくはずが無いのだけどね?

 身一つで家を飛び出す事を念頭に置いていたんだもの、ノアはこれまで恋人を作る事も出来なかったのかな。

 こりゃあ、早い所私を引き取ってくれる養い親でも他に見つけるべきか。ノアが婚期を逃してしまったら申し訳なさすぎる。

 だがしかし、いくら打たれ強い雑草魂を持つ私でも、異世界をこの姿で生き抜く自信はない。だからノアと別れるには誰かの庇護下に入らないとなあ。

 この世界は女性の1人暮らしとか、出来るのかな・・・。女性は結婚して家に入るしか生きる手段が無いなら、それはそれで仕方がない。

 私、聖女のチートもあるのか謎だし。辛うじて結界は張れたみたいだけど、私の意志じゃないしね。

 魔法の才能でもあったら、どうにか自立していけないだろうか。

「ひーる」

 小さい手をニギニギしてから、ゲームによく出てくる魔法名を唱えてみる。聖女といったらこれだよね。

 うん。何も起こらない。

「わたち、まほうつかえない」

「すみません。私は、魔法は専門外です。アストン王国には魔法を操る冒険者や軍の兵士もいるそうです。詳しい者がいたら聞いてみましょう。カノンは結界を一気に塔2つ分張り直しました。魔力量は多い方なのでは?」

「しょうなの?」

 その魔力が私達の生活に役立つといいんだけどさー。

 そんな将来の生計を立てる算段に私がぼーっと思いを馳せていると、小さい子供の姿でいるだけで休憩所に居合わせた数人の大人達から干し栗とか煎り豆とかおやつをもらった。

 ありがとう、親切な人達。

 ノアがハンカチに包んでワンピースのポケットにおやつをしまってくれる。

 当面は心強い保護者がいるし、子供の強味を活かして私なりに生活向上を頑張るしかないな!

「がんばろう!」

「ふふふ。はい、頑張りましょう。まずは人里を目指しましょうね。そして情報を仕入れましょう。最終的には適度に仕事がある住みやすい場所に落ち着きたいですね」

 考えと発言があっちこっちに飛ぶ私だけど、ノアは楽しそうに私と会話してくれる。言葉が拙い幼女と話すのも根気がいるだろうに。ほんとにいい人だなあ。

 一休みした私達は再び馬で移動をする。

 街道の両脇には鬱蒼とした森が大きく広がっていて、ほぼ一直線の街道が延々と続いている。そして私達が一休みしたような空き地が街道沿いに点在していて、その空き地で人々が休憩したり野営したりしている。野営中は居合わせた人達が交代で見張り番をするらしくて、私は一晩中爆睡していたけどノアは交代の番とかしていたらしい。

 ごめんねーと謝ると、子供は寝るのが仕事ですよと返される。私の幼児退行の理由もまだ分からないので、当面は体が欲するままに良く食べて良く寝る事を私は頑張る事にする。

 私とノアは4回野営を繰り返し、今夜の野営の後、明日の夕方にはアストン王国最初の町に到着するという所まで旅の行程は進んだ。

 私はノアにスリング抱っこされたまま、移動中は大抵寝ていた。不思議な事に寝ても寝ても眠くて、ガンガン昼寝をしているのに、夜も毎晩たっぷり眠っていた。

 幼児退行した事と関係があるのかなと、首をひねりながらも体調の異変は眠気以外なかったので、良く食べ良く寝るを繰り返してきた。


 そして5回目の野営をしたあくる日の朝。

 私はいつものようにノアに抱き込まれてぐっすり眠っていた。懐に抱き込まれていて、早朝の冷気も遮断されている。ぬくぬくで気持ちいい。ずっとこうしていたい。

 ノアの香りも実は好きだ。

 爽やかな森の香りがノアからはするのだ。香水なのかなー?それか香り袋?

 ぶっちゃけ5日間もお風呂に入れてないのに、ノアから良い匂いがするのはなぜ。私、匂ってないといいけど。

 私は幼児であるのを良い事に、ノアの香りを存分に吸い込む。

 ああ、落ち着く。会ってから1週間も経っていないのに、私はノアに対して絶対の信頼を持つようになっている。

「うーん・・・」

 段々意識がはっきりしてきた。

 残念だけど、そろそろ起きないと。

 私は名残惜しくて、ノアに抱き着いて胸元にグリグリと顔を擦り付けた。少し素肌には早朝の冷気がひんやりするので、暖を求めて私は足をノアの足に絡ませた。

 うん、温い。

「カッ・・・!カノン・・・!」

「うん?」

 私はノアの声にゆっくりと目を開いた。

 至近距離にノアの顔。今日も綺麗な顔だ。

「おはよう、ノア」

 私が笑いかけるとノアの顔が真っ赤に染まった。

「?」

 これは初めて見る反応。

 どうしたんだろうか。

「カノン!元に戻っています!」

 ノアは切迫した感の小声で叫ぶといった器用な事をした。

「何が、戻ったの?」

 何をノアはそんなに慌てているのか。

 私の目はまだショボショボして、眠気がしつこく残っている。

 もう少しだけ、至福の二度寝を・・・。

 私が顔をノアの胸元にくっ付けてグリグリと擦り付けると、ノアがガッと私の肩を掴んだ。

「・・・カノン、お願いです。起きて下さい」

「ううん、分かったよ」

 もうちょっと寝たかったけど、もう出発の準備をしないとね。

 私はゆっくりと体を起こした。

 私とノアに掛けられていたマントがずるりと落ちる。

 スタンレー王国の南に位置するアストン王国は温暖な国で、スタンレー王国と比べると気温は高め。アストン王国は朝晩だってノースリーブのワンピース一枚で過ごせる位。体感的には夏だ。

 けれど今日はあちこち肌寒い。お腹も足もスース―する。

 私は自分のお腹を見下ろした。

 腹が、丸出しになっている。

 ワンピースがめくれているとかじゃなく。

 そしてお臍の下のかぼちゃパンツは良い感じに私のお尻にジャストフィットして、女性用のショーツのように体のラインにピッタリ沿っている。そしてそんな私の尻は丸出しになっていた。

 私はノアを見た。

 ノアは地面に横たわったまま両手で顔を覆っていた。

 私の身体は、幼女から元の19歳女子大生のサイズに戻ってしまっていた。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ