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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
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【閑話】エスティナの冬仕事 後編

 え?小鳥達が、手伝って・・・?

 またまたー。そんなバカなー。

 私が無言で腕にくっ付けられた綿毛2つを見つめていると、小鳥達が再び私の目の前の茂みに飛び移り、トコトコの綿毛を上手に引っこ抜き、私の両腕に戻って来てもう2つずつ私の腕に綿毛をくっ付けた。

「カノンを手伝っていますね」

「嘘でしょー!」

 すると私の叫びにビックリしたのか、頭の上のハナガシラは可愛く囀りながら空に飛び立っていった。けれどもすぐにトン、トンと。私の頭には今度は2つの何かが乗った感触が。

「同じ種類の小鳥がもう2羽増えました」

 お腹の白い、冬毛でまん丸の小鳥が更に増えた。私の両腕にとまった小鳥達が、何やら私の頭上に向かって囀ると、頭上の小鳥達も私の両腕に飛び降りてくる。そして今度は4羽でトコトコの茂みに飛び移り、上手に綿毛を引っこ抜いて私の両腕にくっ付けた。

 小鳥から献上された綿毛が8個に増えた。

「えー、すごい」

「カノンちゃん、動物達に相変わらず人気ねー」

 後ろからの声に振り向くと、アリスとミンミが私の後ろで小鳥達に纏わりつかれる私を見ていた。

「カノン、物語の聖女様みたい!その小鳥達はカノンを手伝ってるの?素敵!」

 アリスがキラキラと瞳を輝かせている。

「う、ううーん。どうだろう」

 アリスが目を輝かせるほどに素敵な感じではないんだよな。動物達、基本制御不能です。

「カノンちゃん。小鳥達に手伝ってって、お願いしてみたら?」

 ミンミはそんな事を言うけど、魔獣、野生動物問わず私に近づいてくる動物達と私はイマイチ意志の疎通が取れた事が無い。帰ってくれとお願いしても帰ってくれないし、基本動物達がやりたいように私の頭や腕の上で過ごし、近づいて来た時と同じように突然私から離れていくのだ。動物達が何を考えているかなんてさっぱり分からない。

「よ、良かったら、手伝ってくれない?」

 なもんで、何やら小鳥に阿るような物言いになってしまった。

 すると私の両腕を止まり木にしていた4羽の内、1羽がチュンッと鳴いて茂みに飛び移り、綿毛を一個抜いて戻ってきてくれた。

 私のお願いを聞いてくれた小鳥は4羽中1羽。ほーらやっぱりねー。目の前の小鳥達とは心が通じ合っている気が全くもってしないもんな!

「手伝ってくれなくていいけど、邪魔はしないでね?取ってくれた分はありがとう」

 そう言って私の腕に数個くっ付けられた綿毛を取ろうとすると、手を伸ばした先の綿毛を別の1羽がすかさず奪い取って飛び去って行った。別の1羽も私にくっ付けた綿毛を2つほど咥えて空に飛びあがった。残りの2羽は綿毛を私にくれる気なのか、私の両腕にくっ付いた綿毛を残したまま飛び去って行った。

くれるんか、くれないんか、どっちやねーん。

「はあ・・・。動物が何を考えているのか、私は全然分からないよ」

「あはは。動物達がカノンを慕っているのは間違い無いと思いますよ」

 ノアが笑いながら私の腕にくっ付いている綿毛を取ってくれる。

 まあ物語のように動物達が都合よく私の言う事を聞いてくれる事は無い。森の小鳥達が一斉に私の手伝いをしてくれて、トコトコ摘みがあっという間に終わるなんて都合の良い事は起こらなかった。

 私がトコトコ摘みに励む間、色々な小鳥達が入れ替わり立ち替わり私の頭やら肩やらに止まりに来て、小鳥によっては綿毛を摘んで私の身体にくっつけてくれる子もいた。私の肩だったり腕だったり、髪の毛の中に埋めてくる小鳥もいたり。私の身体にくっ付けられた綿毛は、茂みのトコトコを摘みつつノアが手早く取ってくれる。

 小鳥に紛れて赤リスやピーカもやってきたりした。私も赤リスとピーカ位では驚かなくなってきた。だいぶ動物にも慣れたなあ。動物達に絡まれ出した頃は私もビクついてばっかりだった。私のブーツの先に腰かけているピーカのお陰で足の先がほんのり温い。

 もちろん私に接触が許されるのは、狂暴化していない動物だけで、ちょっと気が立っている位の獣だと私に飛び付く前にノアかミンミ達が捕獲してしまうんだけどね。ピーカとかだと、キュッと絞められてその日のおかずになったりしちゃう。今日のピーカはおっとりした大人しい子なので見逃してもらえている。

 気が立っている獣達は大抵黒いもやが薄っすらくっ付いているんだよねえ。そして絞められた後は黒いもやが消えて無くなる。私にだけ黒い獣に見えていた原因はやっぱり黒いもやだったと証明された。もやもやは命が失われると溶けて無くなってしまう。黒いもやを払ってあげたら大人しい個体に戻りそうだけど、今は春まで聖女の力を温存せよとビアンカ様の厳命があるので黒いもやを払ってあげられない。

 今日私に近寄ってくる子達はみんな大人しい子達だけなので良かった。

 小動物達に纏わりつかれながらその日1日、トコトコ摘みを私は頑張った。



 私達が担当した茂み1列分を、どうにか夕暮れ前に摘み取る事が出来た。

「カノン、頑張りましたね」

「うん!」

 私はトコトコの綿毛がギュウギュウに詰まってパンパンになった麻袋を頭上に掲げる。麻袋はパンパンになると直径1メートル位にまで膨らんだ。私に渡された麻袋、1つは一杯にする事が出来た。

 ノアは私の麻袋をひょいと片手で掴むと、麻袋の回収に回ってきた小型台車にポイっと放り投げた。それからノアは自分が摘んだ分の2袋もポイポイッと台車に放り投げた。2列目の茂みのトコトコ摘みに突入していたアリスとミンミは2人で5袋を台車に放り投げている。トコトコ摘み匠のコリンお婆ちゃんなんか、3列目の茂みに突入していてコリンお婆ちゃんに付いて麻袋を回収&交換する専属の人までいる。コリンお婆ちゃんの麻袋は10袋目らしい。

「・・・トコトコ摘み、来年はもっと頑張るよ」

「はい。一緒に頑張りましょうね」

 どんな世界にも達人って居るものなんだなあ。トコトコ摘みについては、私は卵の殻がくっ付いたヒヨコ程度。今年デビューしたての新人だもんね。そう思うと私には伸び代しかないね!今が底辺だから、トコトコ摘みを毎年研磨していくのみ!

 私と同じくデビューしたてのアリスが2袋はトコトコを摘んでいたけど、気にしない事にする。来年も頑張るぞー!

 群生しているトコトコの茂みにはまだ沢山のトコトコが残っているけど、毎年1日で採れるだけ採るという決まりなんだって。絶妙に残ったトコトコの綿毛は風に乗ってまた大森林のどこかに根を張って群生し始める。多年草なのでまた来年もこの場所でトコトコが収穫できるけど、4~5年でトコトコの寿命が来てしまうので、その時は次の群生地に移動するんだって。群生地は必ず大森林に2、3か所同時にあるのでトコトコ摘みが出来ずに困るという事はないんだとか。アストン王国の東部ではトコトコを農家が栽培して収獲しているそうなので、何の手入れもしないのに毎年必ず収穫できるエスティナのトコトコって凄い。きっとエスティナの人達の日頃の行いが良いから、天からのご褒美なんじゃないかな。


 私達は大きな台車数台に麻袋を山積みに乗せて無事にエスティナに帰ってきた。冒険者達が一応周囲を警戒していたけど、獣が私達を襲ってくることも無く、無事にエスティナの防護柵の内側に入った。まあ冬の間は大型の獣達は殆どエスティナの近くに出没しないという事なので、冒険者達の警護も一応という位だったそう。それでも何事も無くて良かった。

 私に纏わりついていた小鳥達もエスティナの防護柵の手前で森の奥へと帰っていった。エスティナの街中ではほとんど動物達に絡まれないので、やはり防護柵は動物達が越えがたいボーダーなのかもしれない。鳥なんだから高さが10メートルはあるけど、柵越えとか出来そうな物だけどね。

 そしてギルドまで戻って来ると、ケネスさんとギルドの職員さん達がトコトコの詰まった麻袋をギルド内に運び始めた。

「みんなー、お疲れ様。トコトコ摘みの給金を一人ずつ受け取って頂戴」

 ケネスさんとギルド職員が行き来する傍らには、重そうな袋を持ったルカが立ち、その前に今日の参加者たちがお行儀よく1列に並び始めた。

「カノン、お疲れ様。何袋摘めた?」

「1袋」

 私がそう答えると、ルカは私の掌に小銀貨を3枚乗せた。

 給金の支給は何袋収穫できたかで金額が変わるらしく、なんと私の自己申告でそのままお給金を貰えた。エスティナでは給金をちょろまかしてやろうなんて人がそもそも居ないんだろうなあ。

「トコトコ摘みは誰がどれ位出来るのかこっちでも大体把握しているし、そもそも給金を誤魔化そうとする奴は申告で1袋なんて絶対に言わないわよ。だからカノンは今日1袋摘んできたんだって私は信用するわ。むしろ正直が過ぎるわよ。せめて言うなら2袋位にしておきなさいよ」

 私がよっぽどびっくりした顔をしていたのか、呆れたようにルカに言われてしまった。そして周囲から起こる笑い。それもそうかー。ちょろまかすなら多めに申告するのが普通だもんね。

 とにもかくにも、私も1日働いた報酬をしっかりと貰った。

 麻袋1つが小銀貨3枚になった。

「やったー」

 今日の私の労働の対価!

 私の周囲の人達はもっと気前よく銀貨をチャリンチャリン鳴らしてるけどね。

「良かったなあ、カノンちゃん」

「お疲れ様ねえ」

 小銀貨を両手に掲げて眺めていると、そんな私の頭を一撫でしては町の人達は家に帰っていく。

 私、今19歳。けれどもエスティナの人達は私が幼児だろうが小娘だろうが変わりなく私の頭を撫で繰り回すんだよねえ。まあ、別に構わないんだけども。

「カノンちゃん、頑張ったねえ」

 トコトコ摘みのエース、コリンお婆ちゃんが冒険者さんにおんぶされたまま私に近づいてきた。コリンお婆ちゃんは一人で10袋もトコトコ摘みをした達人。コリンお婆ちゃんの域に達するにはどれだけの年月がかかるんだろう。奥が深い、トコトコ摘み。

 コリンお婆ちゃんが私を手招きするので近づくと、コリンお婆ちゃんも私の頭をよーしよーしと撫でる。

「このまま元気に、来年もトコトコ摘みが出来ますように」

「大きな怪我をせずに来年も仕事が出来ますように」

 コリンお婆ちゃんが前方から私の頭を撫でると同時に、私の後頭部もどこかのオジサンに撫でられた。

 撫でるのは100歩譲って良いとして、何故私の頭部を撫でながら願い事を?

 私が疑問を覚えて機能停止している間も、入れ替わり立ち替わり数人のオジさんオバさんが私の頭を撫でていく。

「今年のトコトコ摘みも無事に済んだ。ありがとうなあ」

「また来年もよろしくねえ」

 願掛けされたと思ったら、今度は心当りもない事でお礼を言われる。

 驚いた顔のままノアとミンミを見ると、2人共下がり眉で笑っている。

「これは、何事?」

「えーと。まずカノンちゃんが黒いもやを払ってくれた人達が元気になったじゃない?それとカノンちゃんと仲良くしている冒険者達が、獣駆除の時なんでか全く怪我をしないのよねえ。偶然だと思うけど。あと、町の人達も妙に体の調子がよかったり、仕事中に腰や膝を痛めなくなったり。カノンちゃんの頭を撫でると次の日に体の不調が治ったりとかねえ。これも偶然だとは思うんだけど、不思議だなってこの件は前から噂話にはなっていたのよね。それでカノンちゃんが領都から戻ってきた辺りから、爆発的にカノンちゃんの頭を撫でる縁起担ぎが流行り出したのよね」

「マジか」

 私、いつのまにか、巣鴨のお年寄りが撫で繰り回す地蔵のような扱いになっていた。

「カノン、嫌ならやめてもらうように周りに言いますが」

「んー。別に撫でられるのは構わないけど、ご利益の約束はできないよ?」

 ミンミが言う通り、私の頭を撫でたからいい事があったとかではなく、全部偶然だろうからなー。

「うふふ。まあ適当に理由をつけて皆カノンちゃんを可愛がりたいだけなのよ。みんな、ノアとカノンちゃんが領都からエスティナに戻ってきてくれて、物凄く嬉しいの。カノンちゃんが嫌じゃないなら、頭を撫でさせてあげて欲しいな」

「そんなに撫でたいなら、好きにしてくれて良いよ」

 減るもんでもないしな。

 しかし幼児の頭じゃなくて、19歳女子である私の頭にもエスティナでは需要があるとは・・・。

「臨時収入になりましたね。カノンはそのお金、何に使うんですか?」

「考え中。ちょっと道具屋さんを覗いてこようかなあ」

 無駄使いはしないけど、ちょっとくらい可愛い雑貨とか買っても良いよね。

「カノン、じゃあ一緒に行きましょうよ!私、自分の精油が欲しいの。お母さんの精油を今使わせてもらってるから」

「いいよ」

「腹減ってきたなー。今夜の飯は何かな」

「暖かい汁物がいいな」

 雑談をしながら宿に向かい始めると、ラッシュとグイードも私達に合流してきた。

 暖かい汁物は私も賛成。いくら温かい冬だとは言え、日が落ちて夜になるとそれなりに冷え込むのだ。

「今日の夜ご飯、何だろうねー」

 テリーさんのご飯は何でも美味しいので、単純に夜ご飯のメニューが楽しみでワクワクする。1日の労働を終えた後なら尚更だ。

 それぞれの自宅に帰る人々の顔はもれなく笑顔だ。もちろん私達も。



 エスティナの冬一番の大仕事は無事に終わり、アシュレイ様にエスティナのトコトコが今年も十分な量を納める事が出来たそうだ。

 私が黒いもや払いをした事により、トコトコ摘みに復帰した達人がコリンお婆の他にも何人か居て、トコトコの収穫高は昨年以上のものとなったんだって。

 納税としてのトコトコの必要量をかなり上回った収穫高になり、アシュレイ様は上回った分を全て買取してくれたそう。今年は昨年をはるかに上回る買い取り額だったらしい。そのお金はギルドに大切に貯められていて、エスティナの防衛費や町の設備の修繕費、非常時の住民達への支援に当てられる。

「買い取り額がでかくなったのはカノンのお陰だな!」

 そう言ってケネスさんは上機嫌で私の頭を撫でてくれた。

 私自身のトコトコ摘みスキルに関しては来年以降に期待して欲しいけど、間接的アシストとしてトコトコ摘みの匠達を大勢復帰させられた事はエスティナの財政も潤わせる事になった。良かったー。


 エスティナのその年最後の大仕事、トコトコ摘みが終わった。

 寒くなると獣達の動きも鈍くなるので、夏に比べれば防衛ラインの維持にピリピリする感じも無く、のんびりとエスティナの冬は過ぎていく。

 獣駆除担当の冒険者達は定期の哨戒任務をこなし、採取専門の冒険者は冬の間休みを取り家族とのんびり過ごす。

 夏の間に稼いで冬は休むという仕事の仕方をできるエスティナって、獣害の危険も身近な過酷な環境ではあるけれど、平時はとっても豊かな所なんだよね。

 なんせ領主への1年分の納税の労務がたった1日で終わるんだもん。でも魔獣の大襲来とか非常事態が起これば、エスティナの人達は自分の命を懸けてアストン王国を守る防波堤になるのだし、子供とは離れ離れで暮らさなきゃならない。その対価でもあるんだもんな。

 アシュレイ様はトコトコ以外の税をエスティナには求めない。アシュレイ様はちゃんとエスティナの人々の献身の上にグリーンバレーの、ひいてはアストン王国の平和が守られているって分かっているナイス領主様だ。

 初対面の印象が最悪過ぎて長らくアシュレイ様の事を警戒していたけど、最近はアシュレイ様を見直す事ばかりが続いているなあ。過酷な地に暮らすエスティナの人達も、領都民も、領都への行き来の途中で立ち寄った宿場町の人々も、その地に暮らす人達の表情はみんな明るい。

 そしてエスティナは長く暮らせば暮らす程好きな所が増えていく。そう思えるのもアシュレイ様のお陰なんだなあと、今回のトコトコ摘みで再認識したのだった。


 そんなこんなで、エスティナでは冬の大仕事、トコトコ摘みが終わると全体がのんびりした雰囲気になった。

 ルティーナさんの宿では利用客も3分の2位に減っているので、ルティーナさんとテリーさんものんびりムード。お客さんが減っているこの時期に宿の手入れとかしている感じ。その他の色んなお店屋さんも冬の閑散期を春からの繁忙期に向けての準備期間にしているみたいで、お店の大掃除とか修繕とか、商品の入れ替えとかをのんびりしている。

 エスティナはまさに町全体が冬休みって感じにまったりモードだ。

 春まではゆっくり休めとビアンカ様の言いつけもあるので、私ものんびりと冬休みを取ろうと思う。

 エスティナの冬って、いいなあ!!


花音は物凄くエスティナの冬をエンジョイしています。

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