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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
51/57

白竜討伐に向けて 3

 ・・・・噂をすればだよ。

 あれー。ノアはミンミ達とケネスさんに領都滞在中の報告に言った筈だから、もっと遅くなると思ってた。

 悪口を言っていたわけじゃないけど、本人不在の中ノアの話をしていた訳で。更にその話がだいぶ大きなお世話的な話だった訳で、物凄く気まずい。

 ノアは彼女が欲しいとか、結婚したいとか、一言も私に言ったことない。私がノアに可愛いお嫁さんを!って、勝手に言っているだけなのだ。

 私がそーっと横を見上げると、微笑むノアが私を見下ろしていた。

「カノン?」

「ノア・・・早かったね」

「今日はケネスさんにエスティナに戻った挨拶だけをしてきましたから。領都滞在中の報告と今後の仕事の打ち合わせは後日という事になりました」

 ノアの後ろにはミンミとラッシュ、久しぶりに会うグイ―ドが居て、3人は微笑を浮かべながら私に手を振って別のテーブルに移動した。

 え、待って。もうちょっと、一緒に居て。

「・・・・ええと、ノア。私達の話、何処から聞いてた?」

「カノンが私と部屋を別にしたいという所からです」

 全部やーん。

 ノアと別室になる件は、ビアンカ様とベル様にご褒美と餞別という形でお金を貰ってから考え始めた事だけど、エスティナに向かう途中ではノアに相談せずにいた。

「カノン、私達は話し合いが必要なようです。楽しんでいらっしゃる所を申し訳ありませんが皆さん、カノンをお借りしますね」

「どうぞどうぞー。カノンちゃん、とっても楽しかったわ!またご馳走させてね!」

「いやー、良い話だった。カノンちゃんまたお話しようね。今夜の酒は格別に美味いわー」

 レジーさんとマチルダさんが超ご機嫌で私にジョッキを掲げてお別れの挨拶をする。

 うんレジーさんもマチルダさんも、お酒のおつまみ的に私の取り調べしてるって薄々気づいていたよ。

「カノン。私も仕事に戻るね!」

 そして無情にもアリスもあっさりと仕事へ戻っていった。

 それと入れ違いに2階に上がっていたルティーナさんが食堂に降りてきて、私とノアを目に止めた。それから、どうする?とばかりに腕組をして私をジッと見てくる。

「ルティーナさん。以前の部屋は空いていますか?」

「空いてるよ。カノンちゃんの部屋もあるけど、どうする?」

 ノアは私の手を握って優しく引いた。優しいけど、絶妙に解けない力加減。私はノアに手を引かれるままに席を立ち、歩き出した。

「私はカノンと今後の相談をしてきます。以前の部屋を少しお借りしますね」

「そうかい。じゃあ、2人で腹割って話しておいで」

 そしてルティーナさんも私の前から居なくなってしまった。

 ノアは私の手を引きながら階段を登り始めた。

 うーん、なんだろう。連行される犯人の気分。

 悪巧みがバレたような、居た堪れない気持ちって、こんな感じ?別に悪巧みしてないんだけど、ノアに相談する前にアリス達やルティーナさんに言っちゃった事は悪かったかな・・・。


 あっという間に私達が以前使っていた部屋に辿り着き、私はベッドに腰かけ、ノアは私の前に椅子を置いて座る。

 ノアに正面から顔を見られて、ウっとなる。

 ちょっとノアが悲しそうな顔をしていた。

「カノン・・・・。私の事が嫌になりましたか?」

「えっ?!そんな事ある訳ないよ!ノアの事が嫌になるわけないじゃん!」

 ノアが言い出した事に私はギョッとした。

 私が別室に移るって言ったらノアが悲しむんじゃないかって、やっぱり少し思ってはいた。ノアは善意で私の生活の全てを見てくれているのに、その善意を拒否する事になるって思った。

 でも私は話す順番を間違ったよね。

 ルティーナさんにでもなく、アリス達にでもなく、どんなに言い辛くてもまずはノアときちんと相談するべきだった。こんなに悲しそうな顔をさせるなら、真っ先にノアに相談するべきだった。

「ノア・・・。部屋の事、ノアに相談しなくてごめん。でも私達が別々に生活をする良い機会だと思ったんだよ」

 私達はスタンレーからアストン王国に逃げてきて、一緒に居るのは生活が安定するまでって約束をした。ノアは最初から生活能力があったけど、要は私の生活能力の問題だった。私が自活できないから、ノアは私の面倒を見てくれていたんだよ。

 でも、当面の生活費が手に入ったし、私は聖女の力を一冬温存するので幼児退行することも無い。だからルティーナさんの宿かどこかの宿で下働きするか、ギルドで治癒士として雇ってもらうか、周りに相談したら収入の手段が見つかるかなーって、昨日から考えていた。

「私の事がノアの負担になっているって思っていたから、早く自立したいなってずっと考えていたんだよ。そうしたらノアは自分の人生を考えられるでしょ?」

 私の思いはこの一言に尽きる。

 やっぱり私の性分的に、一方的に人のお世話になり続けるって無理。なんて申し訳ないんだって、ずっと思っちゃうもん。それはノアに対しても。

 いくら恩返しだって言われても、私はノアに恩を返して欲しいとか思っていない。黒いもやを払った人すべてに対して思っていない。

 だから結局は、ノアに対して申し訳ないなーって気持ちがずっと根底にあったんだ。

 私がこれから幼児退行を起こす事は滅多に無くなるという状況になったら尚更。

 私は良い大人なんだから、生活の糧は自分で働いて手に入れるのが当たり前でしょ。

 私の考えを更にノアに伝えると、ノアはフウと深く息を吐いた。

「カノン、あなたの考えはわかりました」

「うん」

「カノン、私はあなたの事が好きです」

「私もノアの事が好きだよ」

 ノアは私の両手を持ち上げて、自分の両手で包んだ。ノアがキラキラと光る青い瞳でジッとこちらを見るので、私もノアをジッと見返す。


「カノン。私はあなたを一人の女性として愛しています」


「えっ」


 ノアの瞳から私は目が離せなくなった。

「恩返しのためと言うのは、あなたの傍に居るための口実です。私がカノンに大恩がある事は事実ですが、私があなたの傍に居たいのはそれだけが理由ではありません。あなたが私を異性として全く意識していない事は重々承知していますが、このままでは自立心旺盛なあなたは私の手の中から飛び出していってしまうでしょう。あなたの気持ちが私に向くまで悠長に待っていられなくなりましたので、先に私の想いを伝えておきます」

「・・・・・」

 えーと。

 耳にはノアの言葉が入って来るけど、え・・・?

「あなたに出会って私も初めて自覚しましたが、私は存外器の小さい男のようです。出来る事なら私の手の中にあなたを囲い込んで、あなたには私の傍で何不自由ない暮らしをずっとして欲しい。ですが、カノンはそれを望まないのでしょう?大方今だって、私の世話になる理由が無いとか、申し訳ないとか思っているのでしょうね」

「う、うん」

 ノアがまるで知らない人みたいだ。

 私が知っているノアは、私が理想に思うお父さんのような、お兄ちゃんのような、穏やかで包容力の塊のような人で、絶対的に信頼できる身内という存在だった。私にかけてくれる言葉は全てが優しくて、私が安心していられるようにといつも気遣いに満ちていた。

 だからこんな風に思うままに自分の内心を吐露するノアと、私は今初めて向き合っている。

「ですが、私はあなたが好きだから傍に居たいのです。好きな女性を養いたいと思うのは、男の性として当然の事でしょう?私が自分の資産をあなたに使うのは私の喜びだと言うのに、あなたは全く私が望まない気遣いで私から離れていこうとしている。でもこれは全て、意気地の無かった私の所為です。私は自分の真意を隠して、あなたの傍に在ろうとしたのですから。あなたは私に可愛いお嫁さんが来てくれるまで、傍に居てくれると言いましたね」

「は、はい」

「私がお嫁さんに来て欲しいのはカノン、あなたです。他の誰でもありません。ですので、あなたが私の可愛いお嫁さんになってくれるまで、一生をかけてでも私はあなたに愛を乞い続けます」

「ひいいやあああ」

 ノアの言葉を受け止める私のキャパが限界を迎えて私から変な声が出た所で、私達の部屋を誰かがノックする。ドアの向こうに顔を覗かせたのはミンミだった。

「カノンちゃーん、大丈夫?」

 大丈夫じゃない。

 そう言う前に、ノアが大丈夫ですと冷静にミンミに返した。

 ミンミは笑顔で頷くとドアの向こうにそっと消える。ドアが閉まる前にその向こうにはラッシュとグイードも見切れてた。これ、ドアの向こうに何人か居るパターンなんじゃ・・・。

 いやいや、今は目の前のノアに集中しないと。

 集中・・・。

 ノアが、私を、お嫁さんにしたいって、言った?!

「そ、そんな・・・。いつ、いつから・・・」

 私普段からそんなに頭が働かないのに、今はもう完全に思考能力が死んでる。何も考えられない。

 だって、最初はほんとに、幼児に対する態度でしか無かったよね?私がたまに19歳に戻った時も子供に対してのように世話を焼いてくれて、だから私も安心してノアに甘えていた。19歳に戻っても、言われるがままに同じベッドで寝ていた・・・。

 なんてこった!

 私の顔がカッと燃えるように熱くなる。

「そうですね・・・。最初はただ、幼くなったあなたを守りたい一心でした。幼くとも健気で前向きなあなたを、とても好ましいとは最初から思っていました。ですが、私の想いが一女性に対してのものだと自覚したのは、スタンピードが起こった時にあなたが避難もせずに危険を犯して私を待っていてくれた時です。グイード達からは、鐘が鳴ればエスティナの非戦闘員は領都に避難すると聞いていたのです。だからあなたもとっくに避難をしていると思っていました。それなのに、あなたは危険を顧みずに私を待っていた。泥と獣の血に塗れた私に、あなたは躊躇せずに抱き着いてくれました。それでも避難を促せば、ずっと一緒だと言った筈だとカノンは私に怒るのですから・・・・。これでは、好きにならずにいられないでしょう?この時から一人の男として、あなたを愛しいと思うようになりました」

 いつからなんだと自分で聞いておいて、いざノアから詳細を聞くと、もう呼吸すらおぼつかない状態に私はなった。

 ハクハクと酸素不足の金魚のように、私は口を開けっ放しで何とか浅い呼吸を繰り返している。

「そのように、私はあなたへの想いを自覚したのですが、私は姑息で器の小さい男です。カノンの保護者だと言い張りながら、外堀を埋めようとしていた事は否定しません」

 外堀?埋められてた??

「夫婦でもない、恋人同士でもない男女が同部屋など普通はありえませんから」

「やっ、やっぱり!!」

 そうだよね?!私間違って無かったよね!

 お姉さん達もさっきあり得ないって言ってたもんね!

 ノアは堂々と同室を主張してくるし、周りは誰も何も言わないから、この世界ではある事なのかなーと思い始めてたよ!

「カノン。私はあなたがこの世界をよく知らない事に付け込んで、あなたを私の手の中に囲い込み、余裕も無く周囲の男達を牽制していたのです。愛らしいあなたは、私が傍に居なければ今頃は誰かととっくに恋人同士になっていたでしょう。カノン、私を軽蔑しますか?」

「そ、そんな・・・。軽蔑なんて、しないけど・・・」

「カノン、私の事を嫌いになりましたか?」

「ノアを嫌いになんて、なる訳ない」

 ノアの告白に圧倒されっぱなしの私だったのだけど、この時は頭で考えるより先に言葉が出ていた。

「今までノアと一緒に過ごしてきたのは、色々とノアと相談をした上で、全部私も了解して決めた事だよ。私、本気で嫌だと思ったら、ルティーナさんかケネスさんに泣きついてノアから離れていたと思う。だから、ノアと一緒に居る事は嫌じゃないんだよ。けど私、ノアはカッコいいと思うけど、理想のお父さんかお兄ちゃんみたいに思っていて・・・」

 ノアが私を異性として好きだと言ってくれて、頭は茹で上がったみたいにボーっとするし胸はドキドキしっぱなしだし、私は体調に異常をきたしまくっている。

 でも、ノアと同じ気持ちを返せるのかと自問すれば、良く分からないというのが正直な所だ。

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