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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
50/57

白竜討伐に向けて 2

 そんなこんなで私達の領都滞在は一区切りつき、エスティナに帰ることになった。

 一夏が過ぎて季節は秋になったと言うけど、元々南方にあるアストン王国はまだまだ暑い。日中は薄い生地の服じゃないと無理。でも朝晩が少しひんやりしてきたかも。

 私とノアは領都に滞在したと言ってもずっとお城の中でだけ過ごしていたので、エスティナに帰る前にやっつけで領都観光したり、エスティナ寮の子供達と会ってきたりと、エスティナに帰る前の数日を慌ただしく過ごした。

 領都を発つ日は、街道入り口にビアンカ様、領主夫妻、騎士団の人達が見送りに来てくれた。武装&騎乗した騎士団の皆さんが結構な人数いるので、一体何事と周囲の目が集まる。領主ご夫妻が揃っているからね。ちょっと大事になっちゃったなと思いながらも、皆さんと別れの挨拶を交わしていく。

「カノン、息災でな。まずは一冬ゆっくりしろ。それと、これは師匠から頑張った弟子へのご褒美だ」

「えっ」

 ビアンカ様が、真っ赤なビロード生地のお高そうな巾着袋を私に差し出して来た。両手で巾着袋を受け取るとチャリと硬質な音と共に私の手の上にずっしりとした重量感が。

「わあ」

 中を開いてみると、金銀銅、大小の硬貨が沢山入っていた。

「お前が頑張った対価だ。これで好きな物を買うと良い」

「ビアンカ様。私、結局なんにも身に付かなかったのに」

 一夏ビアンカ様に指南してもらったけど、私の成果としては多少魔法の使い分けが出来るようになったかなという程度。しかも使い分けが出来る、と言い切れないほどの微妙さ。

「お前の体質の事はなんとなく把握した。お前の力の使い所もな。お前とノアがグリーンバレーにとって非常に有用な人間だと確認できた。それだけでもお前達に領都まで来てもらった甲斐があったという物。何よりカノン、お前は私の大恩人だ。今の私はまるで20歳も若返ったように心身ともに充実している。グリーンバレーで王国の防衛に身を削りながら後は朽ちていくだけと思っていたが、私にはまだ出来る事がありそうだ。これはささやかだが、私からの謝礼の意味もある。なに、私もアシュレイも使い切れない位に金はあるのだ。持っている者からは遠慮なく対価を受け取れ」

「そうよ、カノンちゃん」

 いつのまにかベル様がビアンカ様の隣に来ていて、私に濃紺のビロードの巾着袋を握らせた。

「アシュレイの解呪をしてくれて、本当にありがとう。何度お礼を言っても言い足りないわ。これはほんの気持ちよ。出所はアシュレイの個人資産からだから、遠慮せず受け取ってね」

「カノン。これからも何かあれば頼らせてもらう。よろしく頼む」

「アシュレイ様、ベル様・・・。ありがとうございます。大切に使います」

 アシュレイ様とビアンカ様からなら、まあいいか!

 お金持ちからは、有り難く謝礼を頂いておこう。これからはある所からはお金を貰うって事にしていこうかな。それなら私の良心も痛まない。

 ビアンカ様とベル様から餞別をありがたくいただき、私とノア、ミンミとラッシュはエスティナに戻った。


 しかし自分の自由になるお金があるという事は、驚くほどに私に安心感を与えてくれた。

 何か不測の事態が起こっても、私にはこのお金があるからなー!

 ミンミに巾着の中身を確認してもらったら、私が貰った餞別は大きい金貨だけでも10枚あった。その他にビアンカ様は大小の銀貨と銅貨も沢山入れてくれてた。

 大金貨が10枚あったら、ルティーナさんの宿に私1人が10年以上は余裕で居続けられると教えてもらった。ルティーナさんの宿は一泊2食付きで小銀貨2枚なんだって。小銀貨が1000枚で大金貨1枚とか言われたけど、ここまでくると私も貨幣価値が良く分からなくなってくる。エスティナでは主に使われるのは大小銅貨と小銀貨だというので、冒険者ギルドで使う時は両替してもらえばいいのだそう。

 これまでは幼児退行を繰り返してばかりだったからノアに甘えっぱなしで来てしまったけど、これからは19歳の花音でいる時間が多くなる。

 良い大人で手持ちのお金もある私が、いつまでもノアのお世話になっていてはダメだよね。ノアは恩を返させてくれってずっと言うけど、これまで通りって訳にはさすがにもういかないなあと、私は考えていた。


 途中の宿場町で一泊して、エスティナには翌日の夕暮れ前に戻る事が出来た。

ノアとミンミ、ラッシュは冒険者ギルドにエスティナ帰還の挨拶を先にするという。私はノア達とルティーナさんの宿の前で別れる事になった。

「カノン!お帰りなさい!!」

 私がルティーナさんの宿に帰ると、すぐさまアリスに捕まり熱烈歓迎された。ずーっとギュウギュウとアリスからはハグされ続ける。

「アリス、ただいま。ルティーナさんとテリーさんもただいまー!」

「カノンちゃん、お帰り」

「待ってたぞ、カノンちゃん」

 ルティーナさん達も夜の準備で忙しいだろうに、食堂まで出てきてくれて力強く私の頭を撫でてくれる。

「ノアとミンミ達も一緒なんだろ?いつもの部屋は空いてるよ」

「ノア達はギルドに寄ってから来るそうです。それで、部屋なんだけど。ルティーナさん、私とノアの部屋を別々にして欲しいです。お金は私の部屋の分をちゃんと払うから」

「・・・・それは構わないが、ノアは承知の事なのかい?」

「ううん。これからノアとも相談するんだけど」

「カノンちゃーん。こっちにおいで」

 ルティーナさんと部屋の相談をし始めると、夕暮れ前の食堂で早々に飲み始めたお姉様方2人が、ジョッキ片手に私を手招きした。

 ラッシュがおばさんと揶揄っては鉄剣制裁でいつも返り討ちにされるパワーヒッターのお姉様方で、栗色の豊かな髪を下ろし髪にしているスレンダーなレジーさんと、艶やかな赤毛をベリーショートにしているグラマーなマチルダさん。2人とも物凄い美人だ。

 ちなみに女性冒険者の皆さんの髪型はアップスタイルに拘らず自由に好きな髪形を皆さんしている感じ。領都の女性や女性騎士の方達は私と同じようなショートボブの方も居た。ストレートの黒髪を綺麗に切り揃えていた女性騎士の方はカッコよかった。

 領都でのリサーチで大人髪はアップスタイルとは限らないと確認は取れたのだけど、それはそれで子供特有の髪型でもないショートボブ19歳の私が周囲の大人達に撫でられる謎は残されたままになった。

 美人のお姉様方に私が手招きされると、ルティーナさんは部屋を見てくると言って2階に上がっていった。アリスは未だに私に抱き着いているので、私はアリスと一緒にお姉様方のテーブルに呼ばれる事になった。

「カノンちゃん、アリスちゃんも。ご馳走するわよ。どうぞ座って?」

「果実水が良いかな?もう何か夜ご飯も食べちゃう?さあさあ座って?」

「わー、ありがとうございます」

「ありがとうございます。私は果実水だけで」

 アリスは遠慮なくお姉様方にご馳走になるみたい。聞くと、お宿の看板娘はお客さんにご馳走になったらそれも売り上げになるので、ありがたくお誘いは受けるんだって。

 私とアリスの前には果実水とフライドポテトと骨付き鳥の唐揚げが並び、果実水だけと言いつつも私もついついスパイスの効いた唐揚げとポテトに手が伸びてしまう。数カ月ぶりのテリーさんの料理、うまーい!

 私とアリスがもぐもぐと料理を食べる様子を目を細めて眺めながら、お姉さま方は口を開いた。

「それでカノンちゃん。ちょっと聞こえちゃったんだけど、これからはノアと別室になりたいの?どうして?」

「えーと。ちょっと領都でお金も手に入ったし、いつまでもノアに甘えてたらいけないと思って」

「カノンちゃん、ノアと別れたの?」

「あ、私とノアは付き合っている訳じゃなくて、ノアが成り行き上私を保護してくれただけなんです。これまでは私もすぐに小さくなったりして迷惑かけていたんだけど、もう大人の身体でしばらく過ごせそうだし、自分の身は自分で面倒みられそうなので」

「・・・カノン、それ、本当に?」

「マジか」

「マジなの・・・」

 レジーさんとマチルダさんからの波状質問に私が答え続けた後、私達のテーブルはしばし沈黙に包まれた。なんか変な空気になったので、私は更に補足説明をする。

「えーと、それで。当面の生活資金も出来て私も自立できそうなので、取り合えずノアとは部屋を別々にした方が良いと思うんです。付き合っても居ない男女が1人部屋に同室って、変ですもんね」

「それは、まあ」

「それは、そうだけど」

 レジーさんとマチルダさんが私に同意してくれる。

「ノアに私の所為で変な噂が立ったら申し訳ないですし。ノアはカッコいいし、強いし、冒険者としての収入もしっかりあるし、面倒見が良くて優しいし、恋人としても結婚相手としても超優良物件じゃないですか。だから、良いご縁があって、ノアの所に可愛いお嫁さんが早く来てくれたらなって思っています。そのためには、私が邪魔になってはいけません」

「マジか」

「マジなの」

「カノン、本気で言ってる?」

「当然。私はノアの幸せを心から願っているからね!」

 驚いた様子のアリスとお姉様方に、私は力強く頷いた。

「なーるほどねー。カノンちゃんはノアに対してそう考えてるのね。ちなみにカノンちゃんはどんな男の所にお嫁さんに行きたいのかなー?エスティナにはカノンちゃんの気になる男は居ないの?」

 レジーさんが笑顔でジョッキを傾けながら質問してくる。

 私がお嫁さんに?

 正直、生きていく算段を付けるだけで精一杯で、恋愛とか結婚とか、今は考える余裕ないなあ。

「うーん。恋愛とか結婚とか、今は考えられないですけど、男性なら、誠実で優しい人が良いですね。気になる人は今の所居ないですけど・・・」

「・・・それなら、ノアさんじゃダメなの?」

「アリス!私なんかにノアはもったいなさ過ぎるよ!ノアには他にお似合いの人が絶対いると思うし、ノアもエスティナに腰を落ち着けられたら色々考えるんじゃないかな。そういうアリスこそノアの事をどう思う?」

「ノアさんだけは絶対無いわ」

 え?

 即座にアリスに否定されて私は驚く。

 こんなに優良物件なのにどうして。

「レジーさん、マチルダさん。ノアをどう思いますか?」

「無い」

「無いわー」

「ええっ?!」

 まさか、このテーブルの女性3人が全員ノアを恋愛対象外って言うなんて。何故?!

 こんな絶世の美男子で物凄く生活力もあるノアが、エスティナではモテない?!

「どうしてですか?ノアはあんなにカッコよくて優しいし頼りになるのに!」

「それは否定しないけど」

「私が宿の婿取りを考えるなら、ノアさんはまず無い」

「ノアは良い男だけどねえ。私も無いわ」

 ノアを好きにならない女性がこの世界に居るなんて!あ、ビアンカ様はノアを好みじゃないって言ってたか。でも3人が3人共ノアをお断りするなんて・・・。

「そうですか・・・。どこかにノアの可愛いお嫁さんになってくれる人は居ないでしょうか。ノアは育児も上手なんですよ。絶対に良いパパになるのに・・・」

 ノアの育児上手は身をもって体験した私が保証する。カッコよくて、稼ぎもあって、育児も出来る優しい旦那さんって、非の打ち所がないじゃないか。3人共、いったいノアのどこが不満なの!

 同業者である女性冒険者には人気が無いとか?強すぎて?そういえばミンミはノアに異性としての興味は無さそう。でも冒険者じゃないアリスもノアは無理だって言うし。

 無理って、何が。どこが。

 予想外のノアの人気の無さに私ががくりと肩を落とすと、その肩にそっと誰かの手が置かれた。

「随分と楽しそうな話ですね」

 私の身体はぎくりと固まった。


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