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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
49/57

白竜討伐に向けて 1

 白竜討伐。

 ゴルド大森林の南方にいる白竜とビアンカ様は言った。

「ビアンカ様、勝手に話を進められては困ります。その白竜とはいったいどのようなものなのですか。私はともかく、非戦闘員のカノンを連れて行くと言われても、保護者として承服しかねます」

 疑問で頭が一杯になっている私の隣で、ノアが異議あり!とばかりにビアンカ様に声を上げた。

 うーん、ビアンカ様は私の力を白竜討伐で使おうと考えているらしい。

 

私が使える魔法は黒いもやもやの解呪と支援魔法と治癒・回復魔法と清浄魔法くらい。私が討伐に参加するとしたら後方支援なのかなーと思うんだけど、ビアンカ様は思い切りぶちかませと私に言った。

 何に、何を?

「うむ、まずは話を聞いてくれ。アストン王国の南西部、ゴルド大森林の奥深くには古来より白竜が住み着いている。いつから白竜がそこに居るのかは誰も知らない。アストン王国が誕生する以前、数百年、あるいは数千年前から大森林に居るのやもしれん」

「その白竜が人里を襲うのですか?」

「いや、白竜が辺境の町や集落を襲った事はこれまでない。白竜による被害は、我が国の記録には残っていない。」

 どういう事?

 私の疑問がさらに増える。

「あの、それならどうして白竜を討伐するのですか?人里に被害が無くて、大森林の奥に居るのなら、白竜をそっとしておいたらダメなんですか?」

 素朴な疑問だよね。

 もやもやに包まれていても人間に危害を与えないなら、白竜をそっとしておいた方が良いんじゃない?わざわざ危険を犯して白竜を討伐する必要がある?

「お前を危険な討伐に連れていく理由がここにあるのだ。カノン、お前はエスティナで黒い穢れを纏った獣を何匹か見たと言っていたな」

「はい」

 凶暴化したネズミとか、ピーカとかね。

「その獣の黒い穢れの解呪を試みた所、見事穢れを払う事が出来たと言っていたな?」

「はい」

 その穢れを払ったピーカ3匹はみんなで美味しくいただいた。

「私もエスティナに応援要請で赴いた際には、凶暴化した黒い穢れに塗れた獣達を多数討伐した。森の中で何匹もの獣を迎え討ったが、その黒い穢れを纏った獣や魔獣達はどうやらゴルド大森林の南西の方角からやって来るのだ。西南には白竜が居るといったが、私は一度北へ向かって飛ぶ白竜を遠目に見た事がある。アストン王国では白竜と言われているその竜がな、その時私には完全に黒竜に見えた。カノン、どういうことか分かるな?」

「あ」

 ビアンカ様が言わんとする事が私にはわかった。

「南部での目撃例も何件かある、アストン王国内の大森林に住み着いている白竜だが、私が見た時には体全体が黒い穢れ、何かの呪詛か?まあお前が言う所の黒いもやだ。それに体全体が侵されていた。私が白竜を見たのは5年ほど前の事になるかな。そして、空を飛ぶ穢れを纏った白竜にワイバーンが何匹かぶつかっていった。すると、その暗赤色のワイバーンがみな黒いワイバーンになった。黒いワイバーンはその後真っ直ぐにエスティナに向かって飛んできた。その狂暴化したワイバーンは私が全て討ち落としたがな」

 ビアンカ様の話に室内がシーンとなった。

「白竜の黒い穢れは、他の魔獣に移るという事ですか?」

「何故ワイバーンが自ら格上の白竜にぶつかっていったのかは分からんがな。カノン、お前はエスティナで狂暴化した魔獣を何匹か見た事があるな。その魔獣の体の色は何色だった?」

「えっと・・・。全部、黒かったです」

 再び室内は静寂に包まれた。

「カノン、俺達と最初に会った時、クリムゾンベアを見ただろ。色は何色だった?」

「んと、襲ってきた熊は黒かったよ」

「カノンちゃん。クリムゾンベアの毛皮は赤いのよ」

 ラッシュとミンミにそう教えられて私は驚いた。あの大熊、体全体が真っ黒だった。

「じゃあ、ニードルボアはどうだった?」

「ニードルボアは銀色の毛皮というか針で全身が覆われているの。カノンちゃんはニードルボアは何色に見えた?」

「・・・黒かった」

「カノン。私にも狂暴化した魔獣達は大抵真っ黒に見える。それらは人里に押し寄せて、見境なく人を襲い続ける。黒い獣は討伐するしかない。白竜は人里を襲わないが、白竜に接触する事によって黒い獣が発生するのではないかと私は考えている」

「ビアンカ様は、私に白竜の黒いもやの解呪をさせたいのですか?」

 そう言った途端、ノアが私をお姫様抱っこして勢いよく立ち上がった。

「待て待て、ノア。お前の可愛いカノンをむやみに危険に晒すつもりは無い。話を最後まで聞け」

「話によっては」

「ならばなおの事、話を聞いてから判断しろというに。それにノア、カノンの考えは聞かんのか?ぼんやりしているカノンを先回りして守ることは必要ではあるが、カノンは良い年をした大人だ。自分で全く物事を判断できぬ幼子ではないのだ。カノンの意思も確認すべきではないか?」

 ビアンカ様が私をディスりつつも、グリーンバレーを飛び出しそうになっているノアを諭した。

 それはそうなんだよね。

 私は体が小っちゃくなったりするけど、中身は19歳。大人だ。

「ノア。いつも守ってくれてありがとう。でも、ビアンカ様の話を聞いてみよう。それで、私に出来る事があるなら、エスティナの為になる事があるなら、私、頑張りたい」

「・・・・・」

 ノアはカウチに座りなおすと、膝の上に私を抱えたままギュウと抱きしめてきた。

「すみません、カノン。決してカノンの意思を軽んじたわけでは無いのです。でも、カノンには、出来れば安全な場所に居て欲しい」

 私はノアの背中両手を回して、ポンポンと優しく叩く。

「ノアがいつも私の事を考えてくれてるの、分かってるよ。でもビアンカ様も、私をむやみに危険に晒すつもりはないって言ってくれたし。エスティナの近くに、黒いもやもやの白竜に私が何か出来るのならやりたい。私が討伐に同行して、何をすればいいのか、まずは話を聞いてみたいな。何より私、討伐隊に同行したらお給料もらえるみたいだし!」

 個人からお金を貰うのは抵抗あるけど、領主からの正式な依頼なら労働に対しての正当な報酬って感じがするもん。アシュレイ様からなら罪悪感なく労働者として賃金貰える!

「ははは。本当に、カノンは健やかで逞しいな。ノアよ、お前の養い子は保護者が思う以上にしっかりしているぞ」

 一つため息をついて、ノアは膝の上から私を降ろした。

「カノンの意志は尊重したいと思いますが、私が納得のいく安全策を取れる事がカノンの同行条件です」

 ノアが話を聞く構えになってくれたので、仕切り直してビアンカ様が話を再開する。

「うん。まず白竜討伐についてだが、私は可能だと考えている。今からおよそ100年前、スタンレーの騎士がゴルド大森林の赤竜の討伐に成功している。多少話は盛られているだろうが、スタンレーの発表によれば、その騎士のほぼ単独討伐であったとされている。その騎士の名は」

「ジョージ・ブランドン。私の高祖父ですね」

「ええ?!・・・こうそふ」

 ビアンカ様の言葉を引き取ったノアの発言に私は驚いた。

 驚いたものの、その意味が分からない顔をしていたのだろう私に、ノアが曾祖父の父ですよと教えてくれた。

 へえー、ひいお爺ちゃんのお父さん。遠い!

 親族って言うよりももう、ご先祖様のくくりだよね。ノアはもちろん会った事ないだろうし。しかしノアのご先祖様がこの世界の有名人だったなんてびっくりだ。

「高祖父は竜を倒し国を守ったスタンレーの英雄とされています。私の実家の玄関ホールには当主の肖像画ではなく、高祖父の大きな肖像画が未だに飾られています。私はその高祖父に生き写しだと、容姿だけは家族以外に褒められてきました」

 そう語るノアは微塵も嬉しくなさそうだった。

「・・・さすがに驚いたぞ。お前、ブランドン家の者だったのか」

「妾腹の子ですが、一応はそうでした。今は王族の不興を買い、国を追放された身です。実家とも縁が切れています」

 そういえば、私の身の上とかスタンレー追放の経緯とかはケネスさんに伝えたけど、ノアの実家の事は言ってなかった気がする。そしてノアは聞かれませんでしたから、とか、しれっとケネスさんに言って終わりな気がする。

「そうか。お前の尋常ならざる力は先祖返りという事なのかな」

「さあ、どうなのでしょう。私は幼い頃から、何でもできて当たり前、出来なければ見掛け倒しと実家では言われ続けてきました。基本的には高祖父のような英雄には程遠いという、私に対する父と兄の評価でしたが」

「なにそれ」

「ひでえな」

 後ろでミンミとラッシュも憤慨している。誰だってノアへの家族の仕打ちを聞いたらこうなるよ。

 あの兄と、見たことも無いけどノアの父親は、幼いノアに高祖父と同じ振る舞いを求めていたって事?アホかー。

 でも大人になってからもノアが家族に塩対応を受けていた原因は、ノアがご先祖様を思わせるような能力を発揮し始めたからじゃないのかなーと私は思っている。だって贔屓目無しに見ても、盗賊10人を1人でやっつけられる騎士って、超優秀じゃん。ノアは、スタンレーに居る時から既に、能力が周囲より突出していたんだと思う。

 そんなノアをスタンレーの王城で必死に追い出そうとしていたノアの兄は、ノアが邪魔で嫌いで仕方がないって感じだった。

 単純に優秀な弟への、兄の嫉妬じゃないの?

「ノアが悪い所なんて1つも無い。ノアの家族も私の家族みたいに碌でもなかっただけ。私達はそれぞれの家族と縁が切れてほんとに良かったよ。これから私達は辛い思いをした分だけ、絶対に幸せになるんだからね!」

「カノン」

 私がノアの手を両手で握ると、家族の話題のせいで表情が無くなっていたノアに笑顔が戻った。

「うん、その続きは部屋で頼む。それで、そのスタンレーの英雄が赤竜を討伐した。その実績により、竜種は人の手でどうにか出来ると私は考える。ただ、白竜は長らくゴルド大森林南西部の主でもあった。白竜のおかげで保たれている獣達のバランスもあるだろう。穢れに侵されていても白竜は今の所狂暴化しておらぬ。だから、周囲の獣達へ影響を与えている可能性のある白竜の穢れだけを解呪できないか、とも考えているのだ」

「なるほど。それで、どうやって白竜に触るのですか?」

「・・・・・」

 ビアンカ様、黙っちゃった・・・。

「んんんえーっと、ビアンカ様。私、今の所。相手に触らないと解呪できません」

「そうだな」

「それで、私、安全に白竜に触れますか?」

「正直に言うと、分からん。だが、この一冬かけて白竜に安全に近づける方法を考える。もうじき王都から竜に詳しい学者を呼ぶ予定なのだ」

 つまりは現時点では安全な白竜のもやもや解呪方法は無し。

「だが、妙案が浮かばなければ白竜の解呪は潔く諦める。白竜の解呪はカノンの命を懸けてまでする物では決して無いからな。騎士団と冒険者ギルドの混成部隊に私とノアが加われば、確実に白竜の討伐は出来るだろう。その後の主不在のゴルド大森林はしばらく警戒と観察が必要となるだろうが、黒い獣の発生を抑えられる可能性があるのならば、白竜の討伐はなんとしても成さねばならない」

「分かりました。私は白竜討伐に参加します。ですがカノンの参加は保留とさせていただきます。そして春までに安全な解呪方法が見つかったら、もう一度話を伺います。カノンはそれでいいですか?」

 ノアの確認に私はこっくり頷いた。

 現時点では、私の参加は安全性が不透明過ぎて無理だよね。

「うむ。現時点で提示できる話はこの程度しかないからな。ノアの協力をもらえるだけでもありがたい。春を迎える前にはお前達に連絡をする」

 ビアンカ様も今日の時点ではノアの協力を取り付けられた事で良しとなったみたい。

 まあ良く良く話を聞いてみれば、白竜の解呪はもし出来るならばって事だった。

 古くから大森林に暮らす、人に危害を加える事もこれまでなかった白竜。

 上手い事安全に解呪できる方法が見つかると良いんだけどな。この辺は王都からやって来ると言う学者先生に期待だ。

 私達はエスティナで冬越しをしながら、ビアンカ様の連絡を待つことにしよう。 


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