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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
47/57

グリーンバレーの魔女と弟子 9

 この年で騎士の道を断たれて、罪人同然に領都を追放されるのか。

 そう思ったら、黙ってはいられなかった。

「あの・・・、アシュレイ様。この人達の罰を私に決めさせてくれませんか?」

 私のお願いに、アシュレイ様は器用にひょいと片眉を上げた。アシュレイ様は外国の映画俳優みたいに顔が整っているので、こういう表情も様になるなあ。

「カノン。領都には領都の決め事がある。無罪放免になどできんぞ」

「あ、はい。ちゃんと罰は受けてもらいます」

 私が3人の騎士に近づこうとすると、私の肩を抱いたノアも自動的にくっ付いてきた。

 私とノアは土下座を続ける3人の前に立った。私達の隣には仁王立ちで未だに憤怒の形相のベル様もいる。ベル様、まだまだ檄怒っている。

「あのー」

 緊迫した空気にそぐわない気の抜けた私の呼びかけに、3人はおそるおそる顔を上げた。

 ああ、3人共思いっきり泣いてる。その泣き顔が思った以上に幼かった。

「ちょっとふざけちゃったんだろうけど、私が笑われたりするとエスティナの人達がとっても悲しむし、ノアとミンミとラッシュが物凄く怒るのでやめてください。あなた達の先輩方はみんなカッコいい紳士で、礼儀正しかったですよ。アシュレイ様もベル様もあなた達にはガッカリしてます」

 私の言葉に、3人はそれぞれ真っ赤になったり唇を噛み締めたりしている。

 まあ元居た世界の日本でなら、良くある話。

 群れて調子に乗っちゃった男子が女子にちょっかい掛けて、女子も「あいつウザ」とか言いながら冷たく無視するとか良くあったよね。

 だけどここは異世界で、王政が敷かれているアストン王国。領主の命令は領民にとっては絶対。領主に剣を捧げている騎士達なら尚更、領主の命は絶対。

 この若い騎士達は領主に剣を捧げるその重さを、主の命令の重さを理解出来ていなかった。それは若いからとか、新人だからと言って許されるものではない。この世界のルールに則って、私も簡単に許しちゃいけない。

「あなた達に罰を与えます。まずは、ベル様にボコボコにされて下さい」

 憤怒の形相をキープしていたベル様だったけど私の言葉に、ん?と思わず首を傾げた。

「ベル様!やっちゃってください!!」

「まあ!」

 私はベル様に支援魔法をかけた。

「こ、これは。なんて・・・、なんて!誰か!私のグレイブを持ちなさい!」

 ベル様の頭から足元まで白い光がキラキラと包んでいる。支援魔法は無事にかかった模様。

 団員の1人がベル様に武器を手渡した。刃は潰されているみたいだけど、日本でいう長刀みたいな形をした武器をベル様が笑顔で構える。今日は冒険者モードだったので、服装もとっても動きやすそうだ。

「さあ、お前達、剣を取れ。私に反撃する事は許そう。そのかわり、私に殺されないように足掻けよ?」

 わあー。ベル様、ちゃんとエスティナの人(戦闘民族)だった。

 更に団員さん達から3人は模擬剣を手渡される。3人の顔は一言で言って絶望。

「ベル様。支援魔法の効果はおよそ30分くらいです」

 私の言葉を聞くなり、ベル様は3人に生き生きと襲い掛かった。

「わかるー。カノンちゃんの支援魔法は、高揚感が半端ないのよねえ」

 ベル様の3人を蹴散らす様をみて、ミンミは深く頷いていた。

 そして私の頭はむんずと、大きな手にわし掴まれる。

「我が弟子よ。予定にはないが面白い事になっているではないか」

 ノアの反対隣りにビアンカ様が立っていて、私の頭をモニモニと揉んでいる。

 そういえばビアンカ様もアシュレイ様との話し合いに参加してたんだった。

「ふーむ。もうすぐ一割切りそうだな。もう魔法の行使は終いだ」

「はい」

 ビアンカ様の私の魔力残量チェックにより、ベル様へのさっきの支援魔法1回で私の魔法の行使の終了を言い渡された。

 のんびり会話を続ける私達の前で若い騎士達はベル様に痛めつけられていって、どんどんとズタボロになっていく。ベル様の武器も一応刃は潰されているから、流血の大惨事にはなっていないけど、胴体にもろに入ったりしている。あれは、肋骨いってんなー。

 もう若い騎士達は立ち上がる事も出来なくなり、それぞれ訓練場の地面に倒れ込み動かなくなった。

 ベル様が攻撃の手を止めるのと同時に、支援魔法のキラキラとした光が解けるように空中に広がって消えていった。

「・・・・カノンちゃん、私に支援魔法を行使してくれて光栄だったわ。その力を使う先がこの者達だったのが非常に残念だったけど、どうもありがとう」

 残念だったというベル様の表情は、言葉とは裏腹に晴れ晴れとしていた。まずは領主の命令違反をしたらしい騎士達への制裁が終了したからね。

 バーサーカーと化していたベル様だったけど、魔法の効果が切れると同時に普段のベル様に戻ったようだ。激おこ領主婦人モードも終了していた。

「ベル様、私のお願いを聞いてくださり、こちらこそありがとうございます」

「さて、カノン。ベル手ずからの制裁は済んだわけだが、お前の罰はこれで終了という事か?」

「いいえ」

 アシュレイ様の確認に、私は首を振る。

 訝し気なアシュレイ様を放置し、私はベル様の護衛騎士の方達にお願いして、訓練場の方々に散らばって気絶していた3人の騎士を中央に再度集めてもらった。

 それから私はこの騎士達の元に歩み寄った。私が動けば一緒にノアとミンミ、ビアンカ様もついてくる。するとなんだなんだと、領主夫妻も訓練場の中央にやって来た。

「ノア、この3人を起こしてくれる?」

「わかりました」

 物腰柔らかに頷いたノアは、3人の傍に膝をつき、1人ずつ胸倉を掴んでは頬を良い音をさせて引っぱたいた。ノアが怒ってない訳が無かったね。

 ノアに引っぱたかれた3人は意識を取り戻し、それでも起き上がる事が出来ずに地面に横たわりながら呻いている。

「ビアンカ様、ごめんなさい。これから治癒魔法を使います」

「我が弟子は慈悲深いな。これは放っておいても死にはしない怪我だぞ?だがまあ、良いだろう。実験体が3体もあるのだ。練習も兼ねて、なるべく魔力の消費をおさえるようにしてみろよ。具体的にどこまでどのように治癒したいのか、しっかりと頭に思い描け」

「はい」

 ビアンカ様の許可も出たので、私は仰向けに横たわり呻いている騎士達の傍に膝をついて、1人の騎士の手を取った。

 屋外の訓練場に魔力コントロールの練習に赴くと、高確率で小鳥が私の頭の上に落ちてきたり、私の肩に止まったりする。さっきまで殺気を放っていたベル様が落ち着いたせいか、私が膝をつくと同時に野鳥が一羽飛んできて私の肩に止まった。耳元で囀る小鳥の声に、私の口元も思わず緩む。

 私の考えはまだまだこの世界では甘いんだろうけど、出来れば罰を受けた後、更生のチャンスをこの3人にはあげたいんだよ。

 私が手を取った騎士は、顔も体も酷い有様。服に隠れていない肌は結構切り傷もあり、全身に酷い打撲がある。骨折している個所もあるかもしれない。具体的なイメージが大事なので、打撲が見られる箇所を私は遠慮なく触診もしていった。ぐ!とかぎゃ!とか呻き声が大きくなったけど、これ位は我慢してもらおう。手足の骨折は無し。胴体は、胸元辺りを押さえるとビクッと揺れて冷や汗が騎士の顔から噴き出してきた。肋骨辺りがヒビが入ったか、多分折れている。

「今からあなたに治癒魔法をかけます。痛む場所を正確に教えてくれたら、治癒の精度が上がるので、話せるようになったら痛む場所を教えてください」

「う、うう・・・」

 騎士の返事を待たずに、私は騎士の手を握りつつ右手は騎士の胸の上に当て、治癒魔法の行使を始めた。

 まずは動けるようになるまでの治癒を目指すので、顔の打撲とか切り傷は放置でいいかな。胴体の骨折箇所は全て治す。手足は、動くのに酷くない程度で良いかな。

 胴体部の骨折と酷い打撲の治癒の効果があったのか、痛みを堪えるように浅い呼吸をしていた騎士の呼吸が穏やかになった。

「体を動かすのに支障がありそうな酷い痛みは除いたつもりですが、どうですか?」

「は、はい。だいぶ、楽になりました・・・・。聖女様、大変、もうしわけ」

「あ、謝罪はいりません。馬には乗れそうですか?」

「う、馬?それは・・・、多分、はい」

「じゃ、あなたは終わりです」

 私は騎士の手を地面の上に戻した。ちなみにこの騎士は、私を直接揶揄ってきた騎士だった。

 1人目の騎士と同じように、2人目、3人目も魔力を無駄遣いしないように慎重に治癒魔法をかけていたんだけど、3人目の治癒魔法を行使している途中に私は発光すると同時に幼児退行を起こしてしまった。

「ああー」

 気を付けて慎重に魔力行使をしたつもりだったんだけど、やっぱり魔力残量が1割を切ってしまったみたいだ。

「よいよい、カノン。上手く魔力の消費を抑えているぞ。このまま治癒魔法の行使をしても気絶する事はなかろう、そのまま続けてみろ」

「はい!」

 ビアンカ様はスパルタ先生かと思いきや、意外な事に褒めて伸ばすタイプの先生だった。例え厳しくても食らい付いて頑張ろうと思っていたけど、ビアンカ様に褒められたら私じゃなくたって張り切って修行に励むってもんだよね。

 幼児退行を起こしてしまったけどビアンカ様の指示の元、私はワンピースに埋もれながらも3人目の騎士の治癒魔法を行使した。

 ワンピースがおくるみ状態になった私をノアが膝の上に抱っこして、騎士の手を私の手が届く所まで持ち上げてくれる。

 3人目の騎士は目が落ちるんじゃって位に目を見開いて私を凝視していた。

 そういえば幼児退行はお城の中でしかしていなかったから、騎士団の人達に見られるのは初めてだったかもしれない。

 私は騎士の手を両手でキュッと掴む。

「いたくてがまんできないところは、ありましぇんか?」

「は、はい。聖女様」

「この、馬鹿者共が!カノンを聖女と呼ぶ事を、一体誰が許した!?」

「も、申し訳ありません!」

 私を聖女と呼び続ける騎士達をアシュレイ様が一喝した。多少動けるようになった騎士達は主の怒りの前に体を震わせ、アシュレイ様に向けて再び平伏のポーズを取った。

「アシュレイ様、我々の指導不足です。大変申し訳ありません」

 怒れるアシュレイ様に他方から謝る人がいた。


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