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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編

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グリーンバレーの魔女と弟子 7

 それから、ビアンカ様のたった一人の弟子となった私の魔力操作の練習が始まった。

 私の魔力回復スピードがあり得ない位遅いという事もビアンカ様の指摘により分かったのだけど、それよりも私の魔力総量がビアンカ様の魔力量の5倍はあるだろうというビアンカ様の見立てにも驚いた。

 私の魔力が普通に全回復できるようであれば、ほぼ無尽蔵と言っていい魔力をどれだけ無茶な使い方をしても使い切れるものではないそうなんだけど、今の私はどれだけ休養しても私の魔力容量の1割を超える位を1週間かけてやっと回復出来る程度。

 この魔力残量が1割を切ると幼児退行を起こし、魔力残5%を切ると気絶する。数値で示すとこんな感じだとノアが教えてくれた。ノアが頭良くて助かるー。自分の体の事だけど、どんな仕組みなのか私はざっくりとしか分からないからなあ。

 とにかく、幼児退行と気絶を繰り返している限りは私の魔力はすっからかんな状態だという訳だよね。これ、私の魔力が全回復する日なんてくるのかな。

 それについてもどうなるかは分からないけど、今の私の課題は魔力の無駄遣いをせずに適量の魔力を使って魔術の行使が出来るようになる事。そうすればいつかはずっと大人の身体で居られるかもしれないからね。

 一歩進んでは二歩下がる。

 魔力の節約が出来てきたと思ったら、力の加減を間違えて幼児退行を起こす。

 幼児退行を起こしたら、大人になるまで待って、更に2日間の休養。

 私の修業はカメの歩みで、それでもビアンカ様は匙を投げずにまだ私に付き合ってくれている。

 そして、ビアンカ様の私への指導が始まってから、もう2カ月が過ぎた。いつの間にかエスティナで過ごした時間よりも領都で過ごす時間の方が長くなり、季節は秋になっていた。

 私は、このところは幼児退行をしばらく起こす事なく過ごしている。

 私の魔力残量は常にビアンカ様に確認されていて、魔術の練習をする際にもノアかミンミかラッシュが隣につき、ビアンカ様は常に私の頭をわし掴んでいる。

 そして私が幼児退行を起こしそうになるとビアンカ様からストップがかかる。

「ふむ。大人の身体を維持するには、やはり残存量一割をキープだな。カノン、自分の今の魔力量が分かるか」

「えー・・・・と。すみません、全然分かりません」

 しかし非常に残念なことに、私は今だに自分の魔力を感じる事が出来なかった。

「そうか。であればカノン。お前はやはり、幼児退行中は魔法の使用は止めた方がいいな。いつ気絶するのか自分で分からないようでは非常に危険だ。だから、大人の身でのみ魔法を使えると思っておけばよかろう」

「はい」

 けれどビアンカ様は不出来な弟子に対して驚くほど優しかった。出来ない事があっても一切怒らないし呆れない。まあ私は出来る事の方が少ないんだけどもさ!


 何か進歩しているのか自分では全く実感できないまま、それでも魔力コントロールの修業は続けられている。

 私がちょうどいい加減で行使できるようになった魔法は、今の所清浄魔法のみ。

 過不足なく、ピンポイントで衣服の汚れを除去できるようになった。あと全身さっぱりさせる事が出来るようになった。これって野営の時助かるじゃん。

 何という便利魔法を手に入れてしまったんだ!と思っていたんだけど、冒険者や騎士団には清浄魔法を使える人がわりといるんだって。

 冒険者は何日も野営をする事があるし、騎士団も緊急事態では何日も野営を行う事がある。まあ言ってしまえば、アストン王国ではありふれた魔法だったという。

 いいの。私とノアにはとても助かる画期的魔法なんだから。

 これさえあれば、どんなに長旅をしても、どんなにノアにくっ付かれても怖いものはないからね!

「あ」

「ああっ!!」

 そして、こんな風に修行中に考え事をしてしまった私が100%悪い。

 ピンポイント治癒魔法の練習台となってくれていた団員さんのベルトの銀色のバックルが、まるで鏡のようにピッカピカになってしまった。

 今私は、騎士団の屋外訓練場の片隅で、擦り傷切り傷を訓練中にこしらえた団員さんに治癒魔法の行使をさせてもらっていた。

 魔力を使いすぎず、治癒魔法以外の魔法を発動させず、効率よく治癒魔法のみを使う。2ケ月の間ずっとこの練習。まあこの練習でずーっと躓いているとも言える。

 そんな私なので今日も、膝を擦りむいた団員さんに治癒魔法を掛けながら、つい気になったベルトのバックルに清浄魔法も掛けてピカピカにしてしまったのだった・・・。

「なるほど~。擦りむいた膝の向こうに、丁度並んでベルトのバックルが見えるものねえ」

「カノンは好奇心旺盛ですし、色々な所に気が付くのです。その点からするとルティーナさんの宿での仕事はカノンの天職かもしれませんね。きっと気働きが出来る良い従業員になるでしょう」

 ミンミが冷静に私の清浄魔法発動原因を分析している隣で、親バカのノアが私の天職について考察し始めた。

「え、ほんとに?ルティーナさんの宿の下働きって、私の天職だと思う?」

「うむ、カノン。お前の天職の分析もいいが、まずは目の前の負傷者の治癒に専念しろ」

「すっ、すすすみません!」

「いえいえ、バックルまで奇麗にしていただいてありがとうございます」

 ビアンカ様のご注意を受けて慌てて目の前の団員さんに謝ると、団員さんは笑って許してくれた。修行中に考え事している弟子に対して、ビアンカ様も優しすぎる。今のはさすがに、ビアンカ様は私を怒っていい所だと思うよ。

 そんな私の集中力が途切れた時を狙ったのか、私の左肩に小鳥がパタタと小さな羽ばたきと共に止まった。

「おや、シグレドリですね。番でしょうか、こんなに間近で見られるとは。可愛らしいものですねえ」

 団員さんが私の肩に止まった小鳥の情報を教えてくれる。

 番?・・・見たい。

 けれども私の肩に止まった小鳥へ向きそうになった意識をどうにか引き戻し、私は目の前の団員さんの赤くなった膝に治癒魔法を再開させた。

 団員さんの皮膚が擦過傷で傷ついた赤い膝小僧を、ジワリジワリと治していく。魔力の消耗を押さえて、傷を治す事だけに集中。団員さんの編み上げブーツの紐のフックの曇りとかは気付かなかった事にする!

 うう、今度は耳元で小鳥が2羽とも可愛く鳴き始めた。

 我慢。小鳥の方は今見ない。

 治れ!

 あともう少し、と言う所で団員さんの擦り傷の赤みを帯びた部分が一気にシュッと消えた。

「小鳥に気を取られたな。未熟者め」

「うう、すみません」

 ビアンカ様が私の頭を鷲摑みにしている指にギュッと力を込めた。

 もっとゆっくり時間をかけて治癒魔法を行使するようにと、ビアンカ様から注意を受ける。この注意も何回目の事なのか。私は堪え性がなく、あともう少しと言う所でどうしても過剰に魔力を使いがちなんだそう。それは自覚がある。あともう少し!って毎回思っちゃうもんな。そこで平常心で、最後まで行かなきゃいけないんだろうなあ・・・。

「よし、今日はこれ位にするか。次は2日後だ。ほれ、あとは好きなだけ遊んでこい」

「はい。ビアンカ様、ありがとうございました」

 遊んで良しとビアンカ様から許可を貰った19歳児です。

 私とノアとミンミは、ビアンカ様と別れて訓練場の外れにある大樹の下に向かう。


 訓練場の外れにある大きな広葉樹は、この場所にお城が立つずっと前から生えている大樹で、木の根が放射状にしっかりと大地に根を張っているのが目視で分かる程。幹も木の根もボコボコに隆起していて、その根っこが座るのにちょうど良い。

 ちなみにシグレドリというらしい番の小鳥2羽は、ずっと私の肩に止まっている。

 私が大人の身体でしばらく過ごすようになると、屋外の訓練場に魔法の練習で向かうと必ず何羽か小鳥が私の所にやって来るようになった。肩や頭にチョンと乗って、ひとしきり囀ってから居なくなる小鳥もいれば、今日のシグレドリのようにしばらく私にくっ付いている小鳥もいる。みんな手乗りサイズの小鳥達ばかりなので、怖くない。

 私がリス達のように必要以上にビックリしないのは、昔一度だけ文鳥を飼った事があったからかも。

 真っ白くって可愛い文鳥だった。私は喜んで世話をしていたんだけど、ある日文鳥は忽然と居なくなってしまった。

 今思えばあれも兄の我儘だったんだろうな。突然家にミドリガメがいたり、カブト虫がいたりもしたからね。突然やってきて突然いなくなる小動物や虫の世話は全部私の仕事だった。小動物達のいる期間は長くても1、2カ月だったけどね。カメとか虫には思い入れは無かったけど、文鳥は私に慣れてくれていたので、文鳥が居なくなった時は悲しかったな。

 今日のシグレドリは、私の頬にくっ付く位に顔の近くに居て、時々ピピピと鳴きながらジッとしている。

 シグレドリは以前にも私の腕にとまってくれた事がある。濃い灰色の羽毛で嘴は黒。でも目の周りには薄灰色で縁取りがある。メジロみたいで可愛い鳥だ。

 訓練場に行く日はお城の厨房にお願いして、古くなったパンを分けてもらってくる。

「ほら、お城のパンだよー。高級パンだよー」

 細かくちぎりながら地面に撒けば、私の肩のシグレドリは不動だけど、他の小鳥達がパンを啄みにやって来る。

 私がここで餌をあげるようになったからか、その小鳥達の集まる数がすごい事になっている。ざっと数えただけで今日も30羽以上・・・。餌が無くなればすぐいなくなるし、フン害とかは無いと思うから大丈夫かな・・・。

 パンを啄む色とりどりの小鳥達をボーっと眺めていたら、肩に居たシグレドリが私の掌の上に移動してきた。1羽は私の掌の上に座り込み、目を閉じた。もう1羽は私が持っていたパンの最後の塊を手の上で啄み始めた。

「可愛い・・・」

「ふふ、その2羽は特等席を狙っていましたね」

「野鳥がこんなに近くに集まって来るなんて驚きだわ。これもカノンちゃんが居るからなのねえ」

 これも私の不思議の一つ。

 街道沿いのリス達や森林狼達の時のように説明がつかない現象なのだ。

 一応ビアンカ様にも野生動物や、果ては森林狼と言った魔獣までも私に近寄って来た事は報告しているけど、ビアンカ様も首を捻っていた。

 どうやらこの現象は私が大人に戻った時だけのようだというのがノアの考察。そう言われればそうかも。ノアは記憶力もずば抜けていて、エスティナで過ごした日々の事も事細かく覚えている。ノアは頭脳だけでもスペック高いんだよねえ。

 この動物達に懐かれまくる現象。いつまで続くのか分からないけど、やって来る動物が猪とか熊とかにならない限り、実害が無いうちは放置かなー。

 大樹の下で小鳥達に餌をあげる私達を、団員の皆さんは遠巻きにして眺めている。その視線は大体が友好的。もしくは見てませんよーって感じで知らないふりをしてくれてる。この絶妙に気を使ってくれている距離感、助かります。


 この私へ非常に気を使ってくれている状況は、私が訓練場に通い出してからとある事件が起こってしまったからの結果だった。


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