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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編

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グリーンバレーの魔女と弟子 6

 がっくりとうなだれた私の肩を、隣に座るノアが慰めるように抱きしめてくれる。後ろからミンミとラッシュの手も伸びてきて、私の頭をワシワシとかき混ぜてくる。

「まあ、今までは今までだ。お前の力に救われた者もいる。私ももちろんその一人だ。だからそんなに落ち込むな。これからは自分が生きやすくなるために、自分の為に魔術のスキルと知識を身に付けていけば良いと言う話だ。魔力の消費のコントロールが出来るようになれば、幼児退行が起こる事も滅多になくなるだろう」

「ええ!」

 後ろから大きなミンミの声が上がった。

 振り向けば、ミンミが両手で口を押えていた。

「カノンの為にも、大人と子供を行ったり来たりする事が無くなった方が良いでしょう。カノンは19歳の女性なのですから」

「そうよね、そうよね。ごめん、カノンちゃん」

 諭すようにノアに言われて、ミンミが私に謝ってくる。

「でも・・・、気持ちは分かります。すみません、カノン。あなたが大変な思いをしているのは承知していますが、小さなカノンはとても可愛らしいので・・・・」

「エスティナのジジイ、ババアの癒しだったよな」

 ・・・うん。小さくなった私が、エスティナのあちこちでチヤホヤされていた事は自覚していたよ。私の幼少期でも記憶にない位、元は19歳の幼女だと分かった後もエスティナの皆さんは小さい私に良くしてくれたなあ。

 でも19歳の私にも、みんな変わらずに良くしてくれたよ。だからその辺は思う所はない。逆にお世話してくれてありがとうと思っている。

「ミンミ、謝らなくていいよ。私、普段は役に立たないんだから、たまにみんなの癒しになれるなら良かった」

「カノンちゃんは役に立たない事なんてないわよ!おっきいカノンちゃんだって、私の癒しなのよー!」

 バックハグしてくるミンミに頭を預けて、私は抱きしめてくるミンミの両腕をポンポンンと叩いた。

「カノン、前から思っていたのだが、お前はなぜそんなに自己評価が低いのだ。お前は聖魔法を使える聖女だぞ。解呪など、この世界でお前にしかできない事だ。力と素早さと防御を一気に何倍にも底上げする支援魔法は、魔獣の被害を食い止める役を担うエスティナはもちろん、軍を持つ各国、私兵を有する全貴族が欲するだろう。カノン、お前の能力が公になれば、各地の権力者がお前を狙って動き出すと何度も言っておろうが」

「うう・・・・。でも、必要がなければ、聖女の力って日常生活では使われない力じゃないですか。そうなると、私の力で生活費を安定して稼ぐって、ちょっと想像がつかなくて・・・。生活の為には働かないといけないし。私、エスティナに戻ったらルティーナさんの宿で下働きでもさせてもらおうかと思って・・・」

 ううう・・・。絶世の美女がガッカリしたように眉尻を下げて、こちらを見てくる。

「カノン、アストン王国の貨幣価値は分かるか?アストン金貨10枚があれば、領都の庶民4人家族が余裕を持って1年暮らせる。そしてお前が私に施した解呪には、金貨20枚以上の価値があろうと私は思う。私はお前から2回解呪を受けたな。であれば金貨40枚か。私がお前に解呪の代金を払えばお前は一財産手にする事になる。お前にしか起こせぬ奇跡だ。お前の解呪、治癒を受けるために私以上に金を払う者はいくらでも居るだろう」

「そんな・・・。お金は要りません」

 お金が欲しくてビアンカ様の解呪をしたわけじゃない。ビアンカ様はもちろんノアにだって、エスティナの人達にだって、元気になって欲しくてやった事なんだよ。それに対してお金なんて貰いたくない。私が努力もせず得た力でもらうお金は、正当な労働の対価って思えない。

「ビアンカ様。カノンにはゆっくりと現状を理解していってもらうしかないと思っています。カノンは元の世界では一般国民でした。働きながら勉学に励んでいた苦学生だったそうですよ。それが突然に王侯貴族並みに守られる立場を理解しろと言われても難しいでしょう。それと、カノンの自己評価が低いのは、カノンの実親が碌でもなかったからです」

 最後の私の親の下りで、ノアには珍しく強いディスりが入った。

 ノアとはお互いの元家族について、ぽつぽつと話したりしていた。ノアが冷遇されていた話とか、私が家庭内で兄と差別されていた話とか色々。

 もう二度と会う事のない私の家族の話を、ノアは真剣に聞いてくれた。話を聞くたびにそれはおかしい、怒っていい事だったのだと指摘してくれた。

 そのおかげで、以前に比べて自分は無価値な人間だと思う事は少なくなったと思う。でも小さな頃から家族から植え付けられた考えを、完全に払拭するのはなかなか難しい。

 私なんかって、思ってしまう自分もやっぱりまだいるのだ。

「まあ、カノン。お前がぼんやりしている分は俺らがお前を守るが、知らない人間にホイホイ付いて行くなよ?あと知らない人間から食べ物も貰うな。知らない人間の前で飲食するな」

「そそそ、それ位は私も気を付けてるし!」

 後ろから私の頭をワシワシ揉んで来るラッシュに言い返すけど、思い返せばエスティナでは幼女でいると会う人会う人におやつを貰っていたな・・・・。その中にはもちろん知らないオジサン、オバサンも沢山いた。

「・・・でも、エスティナだったら大丈夫だよね?」

「エスティナの住民の方達なら大丈夫でしょう。ですがこれからは、エスティナでも外部から来る冒険者には気を付けなければいけませんね」

「う、うん」

 外部から来た冒険者か、昔からエスティナに居る冒険者か、区別出来るかは全く自信なし!

「うふふ。当分は私とラッシュもカノンちゃんの護衛につくから。カノンちゃんはとにかく1人で行動しないように、領都にいる内はノアか私かラッシュを連れて歩いてね」

「わかった!」

 私が良い返事をすると、周りからやれやれと言った空気が伝わってくる。

 まだ、自分はそんな大層な者じゃないって気持ちが強いんだけど、ちゃんと守られるべき立場になっちゃったことを肝に命じます・・・。

「自覚しろよ、カノン。お前がもし攫われでもしたら、お前の隣の男が魔王と化し、攫った相手に苛烈な報復をするだろう。それが我が国の王族であろうものなら、私もアシュレイもいささか都合が悪いからな」

「・・・はい」

 いささかなんだ。

 再度ビアンカ様に念押しされて私は殊勝に頷いた。

「それに何度言っても理解できない様だが、お前は生活の心配をする必要は全くない。アシュレイがお前達を保護すると言っているし、それ以前にノアがお前を絶対に守り通すだろう。寒さに震える事も空腹を覚える事も一切無くな。遠慮せずアシュレイにでもノアにでも一生食わせてもらえばいい」

「でも、ノアにはノアの人生がありますし。成り行きで私みたいなお荷物を背負い込むことになっちゃったけど、私も将来的にはノアから自立して一人で生きていかないと」

「だから、ううむ・・・。なんとも頑固だな」

 ビアンカ様は、今度は頭を抱え始めた。

 いや、アシュレイ様ならいざという時に私の力を使ってもらうとか、ギブ&テイクが成り立つかなと思うんだけど、ノアに一方的にお世話になり続けるのはやっぱり心苦しい。解呪も済んで、私がノアに返せる物はもう何も無い。

 ノア一人なら引く手あまた、どこでだって自分で稼ぐなり雇われるなりして生活できるもんな。

「カノンちゃんは自立心旺盛なのよねえ」

「宿では雑用を引き受けてちょこまか動いてたしな。働かないと落ち着かないって感じだよな。難儀だなー」

 どうでもいいけど、ラッシュとミンミが後ろからずっと私の髪の毛をワシワシかき混ぜている。私の頭、鳥の巣みたいになってると思う。

 難儀だなあと。自分でも自分の性格を思うよ。

 私が甘え上手で、ノアのお世話をただ単純に喜んで受け入れられる人間なら良かったのかな。

 それでも、やっぱり人のお金で生活するって安心できない。人頼みの生活をしていて、ある日突然その人から、もう出ていけとか突き放されたら?そんな不安定な生活は、私にとっては恐怖でしかない。その思いを突き詰めていくと、わたしはいつかノアにも突然突き放されるかもしれないって、そんな恐怖心を持っているんだ。

 こんなに親身になって私を心配してくれるノアの事すら、私は信じきれない。家族に愛されなかった人間は、人を信じる事が難しいのかもしれない。これは解呪でもどうにもならない私の抱える呪いなのかも・・・。やばい、気持ちが落ちて、闇落ちしてしまう。

「カノン」

 知らず知らずに目線が下がって、何とはなしに見下ろしていた自分の膝上で握られていた両手に、ノアがそっと手を置いた。

 ノアを見れば、いつもの優しい笑みを浮かべている。

「カノン、あなたは私の人生の恩人なのです。あなたは私をスタンレーから連れ出し、私を長年押さえつけていた呪詛からも解放してくれた。だから今、私はあなたに恩を返している途中なのですよ。どうか私に恩返しをこれからもさせて下さいね」

 そして、こんな面倒臭くごねる私に、根気強く付き合ってくれて、心が軽くなるような事をノアはいつも言ってくれるのだ。

「それを言ったらノアも私の命の恩人だし、お互い様じゃん!それに、恩ならもう十分返してもらったと思う」

「いいえ、まだ足りません。私の恩返しは一生かかるかもしれません」

「一生!」

「よし、もう話は終いだ。続きは部屋に帰って勝手にやっておれ」

 話の収拾がつかなくなった所で、ビアンカ様により今日のところはお開きとなった。


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