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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
41/57

グリーンバレーの魔女と弟子 3

 そして私が19歳の大人の身体になって、3日が過ぎた。

 大人に戻っても魔力を温存せよという、お師匠様のビアンカ様より指示があり、大人に戻ったというのに私は食っちゃ寝ばかり。3食付くのはもちろん、なんならおやつ昼寝付きで、私は怠惰な生活を過ごしていた。

 対してノアは午前と午後の決まった時間に騎士団の訓練場に通っている。

「ノアはアストン王国の剣技を物凄い速さで覚えてるぜ。その型をつかって対人戦にどんどん落とし込んでいってる。いったい何の戦いを想定してんだか。いや、こえーわ」

ノアに付いて行って騎士団の訓練を見学してきたラッシュが、震えあがりながら帰ってきた。

 ノアは順調に領都で色々な知識や技を吸収してるんだなあ。

 それに比べて私は、ただただ怠惰だ。怠惰の極み。

「カノンちゃーん。おやつにしましょう。今日はビアンカからチョコレートケーキの差し入れよー」

「やったー」

 私が午後の惰眠から目覚め、居間でミンミ達とまったりしていると、ベル様が部屋にお菓子を持って現れた。

「カノン、調子はどうだ。良く食べて寝ているか」

「ビアンカ様」

 ベル様の後ろには、ハイヒールの高さ込みで2メートルを超すビアンカ様が立っていた。小さいベル様と大きいビアンカ様が並ぶと、違う種族のように見える・・・。

「ちゃんと良く食べて、良く寝ています」

「それは結構」

 私が座っているカウチの隣に腰かけたビアンカ様は、私の頭をよしよしと撫でる。

 褒められた内容は幼児の時と変わりのない19歳の私。

 幼児の時はもちろんだけど、19歳に戻っても変わらずに私は頭をよしよしと撫でられる事が多いんだよね。これは周りを見ていて気付いたんだけど、エスティナの大人の女性達はみんな髪を伸ばしてアップにしている。15歳のアリスだってアップにしている。

 対して私は肩の上で切りっぱなしのフワフワくせっ毛のボブ。エスティナでルティーナさんに幼児退行中にカットしてもらって、私も気に入っている。みんなには可愛い可愛いと褒めてもらったんだけど、このおかっぱ。ひょっとして子供の髪型なんじゃ・・・・。

これは調査が必要だと、心にメモをしておく。

 身長はエスティナの女性達に遜色ない位にあるんだけどなあ。

「どうした、カノン。ぼんやりして。チョコレートは嫌いか?ほら、皆で食べるがいい」

「大好きです!」

「いただきまーす!」

「わ、私も!」

 ラッシュとミンミがチョコレートケーキに飛び付く勢いなので、私も負けじと手を伸ばした。差し入れいただいたチョコレートケーキは、見た目はチョコレート生クリームでデコレーションされている感じ。でも、一口食べると何ともこってり、濃厚!美味しい!

 これは、小さい頃お祖母ちゃん家で食べたバタークリームケーキの味だ。お兄ちゃんは嫌がって食べなかったけど、私は美味しく食べた記憶が蘇る。調子に乗って2個も食べて、その日の夕飯がお腹に入らなかった思い出も蘇る。

 でも目の前のチョコレートケーキはスポンジを重ねて板状に作られた物を小さな四角にカットしている。小っちゃいから、沢山食べても大丈夫だよね?

「ははは。たんと食べるがいい」

 そんな私達を見てビアンカ様は目を細めている。ビアンカ様は年齢不詳で、灰色のベール越しの見た目は30歳前後の妙齢の女性なんだけど、貫禄と迫力がありすぎる。チョコレートケーキに大騒ぎをしている私達を見る穏やかな瞳は、まるで孫を見る・・・。こんな感想は口が裂けてもご本人には言わないけど。

 そんな年齢不詳のビアンカ様は非常に健啖家で、お茶の時間なんだけど自分用にステーキ肉を3枚分メイドさんに注文していた。3食の食事の他にも食事をするというのに女神を象った石像のような豊満且つくびれもしっかりある完璧なプロポーションなのだ。その上身長は2メートルに迫る長身。女神が顕現したら本当にこんな感じなのでは。騎士団員の人達も時々ポーっとビアンカ様に見とれていたりする。

 ビアンカ様が美しい所作で吸い込むようにステーキを食べる様にぼんやり見惚れていると、ビアンカ様にお前も食べろと促される。

「魔力を体内で循環させて、魔力を魔術として体外に放出する作業は非常に体力を使う。魔術士はだから大抵が大食いだぞ。カノン、だがお前の食事の量は大人の身体になってもあまり増えんなあ」

「自分では頑張って食べているつもりですが・・・・」

 以前の貧困生活から比べたら、異世界に来てから三食おやつ、昼寝付きの生活で栄養は今まで以上に取っている筈なんだけど。

「肉もなかなか付かんなあ」

「頑張ります」

 そう言ってビアンカ様が私の左の二の腕をふにふにと揉む。

頑張りますと言ってみたけど、どれだけお肉が付けばビアンカ様に認められるのだろうか・・・。ビアンカ様は腕にも足にもしっかり筋肉がついて、しかもキュッと手首足首と言った関節部分は締まっていて非常にカッコいい。

「まあまあ、ビアンカ。太りにくい体質もありますものね。けれどカノンちゃんはちょっとの食事で栄養が足りる体質なのかしらねえ」

 今日のベル様はドレス姿の領主婦人スタイルで、おっとり笑いながら紅茶を楽しんでいる。

「ふむ。まあ苦痛にならん程度に頑張って食べろよ。して、今日の魔力の溜まり具合はどうかな」

 そして毎日行われるビアンカ様の、私の魔力量チェック。ビアンカ様が私の頭に手を置いて、私の頭を揉むように指を動かす。

「ふーーむ・・・。昨日とさほど変わらんなあ。よほど魔力の器が大きいのか、魔力回復スピードが異様に遅いのか、その両方か・・・」

 ビアンカ様は考え込む間、私の頭をずっとモミモミしている。

「よし、明日だ。まずは私の解呪をカノンにはしてもらう。気絶しても良い。思い切りやってみろ」

「は、はい」

 とうとう明日、ビアンカ様の解呪を行う事が決まった。最初がビアンカ様の呪い?の全解呪。次がノアの呪いの全解呪を行う事になる。

「ビアンカ。カノンちゃんの魔力は殆ど回復していないのじゃない?それなのに全力で解呪をさせるなんて大丈夫なの?」

 ベル様の心配をビアンカ様は鼻で笑った。

「カノンの現在の魔力量は、カノンの魔力の器の1割も満たしていない。だがな、その魔力量で王都の魔術師団の並みの魔術師をはるかに超える魔力量だ。ちなみにアストン王国一の魔力量を誇る元魔術師団長の私の魔力量に換算すると、およそ半分ほどだ」

「えーっと、それは、つまり」

「カノンの魔力が全回復すれば、ビアンカ様の5倍以上の魔力を保持する事になる。というわけですね」

 みんなで宙を睨んでビアンカ様の言葉を考えていると、そこにノアが訓練を終えて帰って来た。訓練に行ったはずなのに、相変わらず汗に塗れることも無い涼しげな佇まいだ。

「なるほどね!って、ええ?!」

「マジか」

 ノアの発言に場は騒然としている。私もにわかには信じられない。私がアストン王国一の魔術士ビアンカ様の5倍の魔力量を持つの?

「しかし、魔力の回復があり得ない程に遅い。何か制限が掛かっているのか?呪いや魔術の類であれば、私も視認できるのだが。全く分からんな」

 ビアンカ様に顎を掴まれ、右に左に顔を向かせられる。

 ビアンカ様に分からないのであれば、私も当然分る筈も無いんだけど、ビアンカ様は例え魔力が枯渇したとしても、丸二日も休めば魔力が全回復するのだそう。

 対して私は気絶してから10日ほど経つのに、ビアンカ様の見立てでは、私の魔力は総量の1割も回復していない。ビアンカ様と同じ回復スピードなら、10日ほどで私の魔力も満タンに回復するって計算になるね。でも私の魔力はまだまだすっからかん。満タンには程遠い・・・。

「まあ、元々の体質なのか、何か原因があるのか、これから調べてみるとしよう。健康を損なう要因にはなっておらぬから、そんなに心配せずとも良い。ノア、悪いがまずは私の解呪を先にさせてもらうぞ。私の力が万全になれば、お前達への支援も色々と幅が広がるからな」

「ええ、それは構いません。最初のお約束の通りに」

 ずっとビアンカ様に顎を掴まれていた私だったのだけど、ノアが背後から両脇に手を差し込みカウチからズボッと引っこ抜かれた。

 私、今は幼女じゃなくて19歳。そんな私を軽々と持ち上げるノアは凄い力持ち。それかこの世界だと男性はこれ位当たり前に出来るの?

ノアは私を抱き上げたままビアンカ様の対面のカウチに移動して腰を降ろした。そこでやっと私もノアの隣に降ろしてもらう。

「やれやれ。私はお前達を弟子として認めたのだぞ。少しは師を信頼しろ」

「私達が更に力を手に入れるためのご協力には感謝しますが、ビアンカ様もカノンの解呪を受けての利益がございましょう。利害が一致する限りは手を組ませていただきますので、よろしくお願いいたします」

 これぞ慇懃無礼。

 ノアはビアンカ様には随分素っ気無いんだよねえ。私への過保護が相まって、ノアは慣れない領都でまだ全方向に警戒中なのだろうか。呑気にビアンカ様と一緒にケーキなんて食べたりして、なんか悪かったかなあ。

「ははは!私の恋愛対象は年下の可愛い男だぞ。しかし、ノア。お前は全く可愛くないし私の好みでもないから、そちらも心配せずとも良い。好みで言えばラッシュ、お前の方がよほど可愛らしいぞ」

「それはよろしゅうございました」

「えっ!俺っ?!」

 ノアとビアンカ様の笑顔の応酬の隣で、ラッシュに流れ弾が当たった。

 そういえば、領都に向かう前に魔術士の人が女性だから、ノアとの恋愛問題とか勃発するかもなんて考えた事もあったな。全くの杞憂だった。

 残念ながらと言うか、ビアンカ様とノアにはどうやらご縁が無かったようだ。けれど領都はエスティナの数倍の人口があるだろうから、どこかにノアとご縁のある女性もいるかもね。私はノアに頼りっきりで自立した生活基盤もまだ持てていないから、恋愛どころじゃないなー。

 とにかく安住の地で暮らせるように将来に向けて、私は今出来る事を頑張るぞ。

 安住の地の第一候補は断然エスティナなんだけど、私、エスティナで何の仕事が出来るかな。冒険者は無理そう。ギルドの窓口はルナで間に合っているし。やはりルティーナさんの宿で、住み込みで働かせてもらうしかないか。

 聖女の力で安定した収入を得るのは難しそう。私の力って、考えてみれば全く潰しが効かないじゃないか。黒いもや払いは個人差があり過ぎて、価格設定が難しい以前にエスティナの皆さんからお金取りたくないな・・・・。これは冗談じゃなく、本当にルティーナさんの情けに縋るしか・・・。

「それではカノン。明日の午前の茶の時間の後、私の解呪を行うぞ」

「あ、はい」

 妄想内の私が、ルティーナさんから代替わりしたアリスの宿に住み込みで働きだした辺りで明日の打ち合わせは終わったらしい。

「頑張ります」

 キリリと表情を引き締めて、ビアンカ様には返事をする。

 そしてその翌日、私の力任せの聖女の力の行使により無事にビアンカ様の全解呪は成功した。


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