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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
3/25

特に説明も無く、聖女初任務へ 2

 国境の第一守護塔とやらへは馬車で3日かかるとの事。

 聖女の遠征には馬車を操る御者と、馬車に馬で並走する黒髪軍人さん、一応聖女の世話名目で馬車に同乗する侍女、そして聖女の私、総勢4名の精鋭との事だった。

 精鋭とは何をもって。

 精鋭の御者とは、精鋭の侍女とはいったいどういう。

 まあ、つまるところ最低限の人員が付けられたといった所だろう。

 御者はともかく、馬車に同乗している侍女もニコリともしないし無駄口一切叩かない。

 私に付けられている侍女達の中には、あからさまに私を小馬鹿にしてくる人達が数名いる。私をわざわざ上から下まで見て、フッと鼻で笑う。私がいる建物は王と王子がいるんだから多分、城。そしてこの城勤めの侍女さん達は皆目鼻立ちが整っていて見目よろしい。黒髪黒目、薄い体と顔立ちの私に対してマウントでも取った気でいるのだろうか。こちとら張り合う気は一切無いんだけど。

 そういう侍女達はもちろん私への態度もあまりよろしくない。基本目は合わない。口も利かない。聖女呼ばわりされている私の世話の為に付けられた侍女達の筈なんだけどね。

 まあ突然聖女と言われても、日本ではバリバリの庶民だったわけで。

 敬われない事に腹は立たないけど、誘拐同然に召喚され説明の一切も無しに監禁され、さらにその上小馬鹿にされるのではさすがの私もイラっとする。

 しかし自分の安心安全の確保が成されていない今、私はジッと侍女達の無礼を耐え忍んできた。

 この仕事は不満です!という態度を慇懃無礼な振る舞いで示す侍女と、淡々と無言で御者の仕事をこなす男、白百合の軍人と言ったメンバーで、馬車内の雰囲気は最悪でも道中は粛々と進んでいく。

「魔獣、野獣の被害は一切ありませんのでご安心を。盗賊などは10人程度なら私1人で事足りますので」

 はんなりと微笑む白百合の黒髪軍人さん。私を気遣ってくれるのは依然この軍人さんだけなのだった。

 しかし、軍人さんの言い分からすると、この方滅茶苦茶強いのでは。10人倒すのに1人で事足りちゃうのか。

 そして魔獣と野獣と盗賊が出る世界線なのか。

 この乏しい人員で無事に目的地に辿り着くことが出来るのかと思っていたけど、とうとう何事も無く、私は第一守護塔まで輸送されたのだった。


 小高い丘の上に立つ第一守護塔。

 外観は海岸にある灯台みたいな感じ。馬車は丘の下に待機し、守護塔まで私は軍人さんの馬に乗せられていった。馬に乗ったのは生まれて初めてで、鞍の上に横座りさせられたので安定感はあるけど、丘の上に向かって馬が昇るので揺れが思いの外大きい。

「お、おお・・・」

 ゆっさゆっさと左右に揺られそうになるのを軍人さんがしっかりと後ろから押さえてくれた。軍人さんは細身に見えて、密着するとしっかり筋肉が付いているのが分かる。それに軍人さん、良い匂いがする・・・。

 旅の間は私に対する侍女のお世話は当然、ほぼ無し。毎晩桶一杯のお湯と手拭いが渡され、さすがに下着の替えはもらえたが木綿のベージュのワンピースは3日間着っぱなしだった。ちなみに侍女は毎日着替えしていた。馬車に積まれた荷物は殆どが侍女の物という・・・。

 いくらなんでも酷過ぎない?しかし、自分の待遇の不安定さ故、文句も言えない私。

 私、匂ってないかな。身だしなみが整えられないのは自分の所為じゃないけどさ!ちょっと恥ずかしいなあと身動ぎすると、軍人さんは更にしっかりと私を後ろから抱え込んでくれる。

「もうしばらくご辛抱を。聖女様を落としたりはしませんので」

「・・・ありがとうございます」

 ほんとに、この国で私に優しいのはこの軍人さんだけだよ!

 この国にとって聖女って、いったい何なんだろう。

 そんな物思いに囚われているうちに、私と軍人さんはとうとう守護塔なる場所に到着した。

 その守護塔なんだけど、なんだか嫌な感じがする。

 何とも言えない不快感。ゾワリと私の両腕に鳥肌が立った。

 けれど、ちらりと軍人さんを見ると平然としている。ここまで連れて来てくれた軍人さんの愛馬も平然とその辺の草を食べ始めた。

 栗毛のこの馬は私を乗せる時に鼻面を寄せて私に挨拶をしてくれて、生まれて初めて馬が可愛いと思った。この子は絶対いい子。私が手放しで信じられるのは、この世界では動物しか居ないのかもしれない・・・。

「聖女様、ご案内します」

 丁寧に軍人さんに手を差し伸べられた。

「・・・・・」

 これはエスコートという物か。異世界貴族世界でよくあるあれ。

「聖女様、お手をどうぞ」

 困ったように軍人さんが微笑むので、私は軍人さんの掌にポンと手を乗せた。

 手を乗せて固まる私に笑みを浮かべたまま、軍人さんがそっと私の手を握った。

 エスコートのされ方なんてよくわからんので!

 軍人さんのエスコートに任せて、私は守護塔に足を踏み入れた。

 守護塔の内部は、中央に円柱の壁が聳え立ち、その周囲をぐるりと塔の壁に沿って螺旋階段が取り巻き、天井まで続いている。これは軍人さんに手を引かれないとしんどかった!

 軍人さんにしばらく手を引かれ、私はどうにか最上階まで辿り着いた。

 私は息があがってゼイゼイしているのに、さすが軍人さんは息も乱さず涼しい顔をしている。

 息を荒げてへたり込んでいる私を心配して、軍人さんが水筒の水とクッキーをくれた。軍人さんは優しいし面倒見もいい。城の人達は周囲の目が無いと私に対する態度があからさまに変わる人も結構いたので、この人は本当にいい人なんだなとやっと思えた。

「聖女様。お休みになれましたか?」

「はい」

 体感15分くらい。

 軍人さんは私の息が整って、更にお菓子を食べ終わるまで待っていてくれた。

 私は軍人さんの手を借りて、座り込んでいた床から立ち上がった。

 塔の最上階は、家具類の何もないガランとした窓のない円形の部屋になっていた。窓も無い部屋なのだけど、真っ暗ではない。中央の台座に材質不明の発光する球体が鎮座していたからだ。その白い光はユラユラと不規則に揺れて室内を照らしていた。

「結界の強化ですが、あの中央の光る球に手を置けばよいと聞いております。魔力が多少吸い取られるだけで、危険はないそうです。聖女様、お願いできますか?」

「・・・はい」

 魔力って、なに?

 私は魔力なんて存在しない地球の日本産庶民。

 しかし、私がたまに読んでいた電子コミックの異世界ものとかでは、異世界に行くとチートスキルが備わってしまうのはテンプレ。

 この世界にやってきて、この溢れる魔力は何?なんて感じた事はただの一度も無いけど、ここまで来たらハッタリかますしかない。何も起きなかったら、設備が壊れてるとか言って、どうにか言い逃れよう。

「・・・やります」

 私の宣言に軍人さんが真面目な顔で頷いてくれる。私に全幅の信頼を寄せてくれているような、キラキラした軍人さんの瞳が胸に痛い。やりますって、何をやるっていうのか私。

 ええい、女は度胸と愛嬌だって、バ先のベテランおばちゃんが言ってた!

 私は覚悟を決めて、薄ぼんやりと光る部屋の中央に浮かぶ球体に手を触れた。

 それから数十秒が何事も無く経過。

 やばい、何か言い訳をしなければと焦り始めた時だった。

「ぎゃあっ!」

 目の前の球体が、私の目を潰さんばかりに突然発光した!私は堪らず可愛くない声を上げた。

 何だか異世界が絡み始めてからやたらと発光目潰しされるんだけど!

 私は目を瞑ってよろけたのだけど、発光する球体からは手が張り付いたように離れない。そして私はまるで酷い貧血を起こしたように血の気が引いて、その場にしゃがみこんでしまった。

 目がグルグル回るし、なんだか気持ち悪くなってきた。

「聖女様!」

 軍人さんの駆け寄る足音が聞こえる。

 けれど私の意識があったのはそこまでだった。





 次に私の意識が戻った時。

 私は肌触りの少し硬い、しっかりした布にグルグル巻きにされていた。結構な振動に舌を噛みそうになり、私は慌てて口を閉じた。

 これはいったいどういう状況。

「気が付かれましたか!」

 私の頭の上からええ声が聞こえて来た。

 声のする上を見ようにも、私の全身は布でグルグル巻き。体の自由が利かないし、私の顔は硬い熱い物にしっかりと押し付けられている。ちょっと苦しいけど息はできる。

「もうしばらくご辛抱を!」

 このええ声の主は軍人さんだ。

 何がどうなっているの。

 でもこの振動では話す事もままならない。

 ドカラドカラと音が響く。これはきっと馬の蹄の音だ。

 私はぐるぐる簀巻きの状態で、しばらく振動に耐え続けた。

 ・・・一定の振動は眠くなるよね。

「・・・聖女様。この辺で一度休憩いたしましょう」

 軍人さんの呼びかけに私はハッと目覚めた。何が何やらわからない緊迫感の中、私は図太くも寝そうになっていた。

 ちゃんと起きていたから!

「はい!」

 寝落ちをごまかすために元気よく私は返事した。

 何、今の声。

「・・・はい?」

 私の声、どうなった。私の普段の声より随分と甲高い・・・。

 軍人さんは私を抱き抱えたまま、ゆっくりと馬から降りた。

 そして布にグルグル巻きの私を、軍人さんはそのままそっと地面に降ろした。

 慎重に簀巻きの布を解く軍人さん。

 軍人さんは私を何とも言えない顔で見下ろしていた。

「あなたは・・・、聖女様でお間違えありませんか?」

 私が聖女かどうかは知らないけど、あなた方が聖女聖女と呼んでいた人物であるかどうかと言えばイエス。

「はい。・・・あれぇ」

 さっきから自分の声がどうもおかしい。覚えのある声よりかなり甲高い声。

 私の地声は女としては低い方なんだけど。

「・・・聖女様。どうぞこちらを」

 軍人さんがそっと私に手鏡を差し出して来た。

 美しい人は普段から身だしなみにも気を付けているものなんだなあ。私は手鏡なんて持ち歩いた事ないや。

 そして、軍人さんが差し出した手鏡を覗き込んで私はギョッとした。

 そこにはまん丸顔の黒髪の幼女が。

 私の小さい頃にそっくり。

 私が自分の頬を両手で押さえると、鏡の中の幼女もほっぺを両手で押さえた。私は恐る恐る自分の手を見る。

 なんだこの、ぷくぷくなクリームパンみたいな手は。今気づいたけど、私の身体は大きなぶかぶかの服の中で泳いでいる。このぶかぶかの服は、生成り木綿の、私が着ていたワンピースだ。肩口とか、ずり落ちて肩が片側出ちゃいそう。・・・なんだ、このピンク色つるつるのなで肩は。

「・・・これ、わたち・・・?」

 私は見た目年齢、2~3歳位の幼女の姿になっていた。


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