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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
29/57

わたしのすべきこと 4

「ははは、面白いな。ステファン、お前が支援を受けていったい誰と戦うのだ?」

「それはもちろんノア様と。ノア様、どうか私とお手合わせをお願いいたします。ノア様のスタンレーの剣技を、是非私にご教授ください」

 アシュレイ様が相手を問えば、ステファンさんはなんとノアを指名してきた。

「私がカノン様の支援を頂いた所で、大型魔獣を一刀で仕留めるノア様の相手にはならぬ事でしょう。ですが、人知を超える力をお持ちのノア様にどこまで迫る事が出来るのか、私は試してみたいのです」

 都会から来た貴公子といった見た目と雰囲気のステファンさんなんだけど、なんだか今はノアを見つめながら目をギラギラさせている。

戦闘狂、という一文字が私の頭には浮かんだ。

「・・・・忘れていたが、お前はそういう奴だったな。ノア、すまないがステファンの相手をしてやってくれないか。でないと、こいつは相手をしてもらえるまでお前を追いかけ回すぞ」

「では、お相手致しましょう」

 追いかけ回されるのは困るもんね。

 アシュレイ様の頼みに、ノアはあっさり承諾した。

 スマートな貴公子然としたステファンさんだけど、ちょっと困った所もあるみたいだ。人は一長一短だなぁ。

「では、カノン。今度はステファンに支援魔法をかけてみろ」

「はい」

 アシュレイ様の指示を受け、私はステファンさんに両掌を向ける。

 ステファンさん、ノアと戦うんだよね。ノアは、身体強化したステファンさんにだって負けないとは思うけど、ノアの対戦相手に、私、支援を、するのか・・・。

「ステファンさん、がんばれ・・・」

「・・・・・」

 果たして。

 ステファンさんは薄っすらとも光る事はなかった。

「ううう!ノアの敵を応援するなんて、出来ない!」

「お待ちください、カノン様。私はノア様の敵ではありません。今行う模擬戦の対戦相手なだけです。重ねて申し上げますが、私はノア様の敵ではありません。我々はグリーンバレーを守護する同志、仲間ではありませんか」

 頭を抱える私を嬉しそうに笑うノアがハグし、ステファンさんは一生懸命私に仲間アピールをしてくる。そんな私達を見て、ギャラリーからは笑い声が上がった。

 見回せば、ベンチだけではなく訓練場の外縁にまでテーブルも持ち込まれ、ギルドの飲み屋さんから食べ物やお酒も出され始めている。もうお祭り状態だ。

「・・・追い回されても困りますので、魔法支援無しでも良ければお相手しますが?」

「ノア様の胸をお借りしたく。よろしくお願いいたします」

 ノアも結構ステファンさんを煽るねー。

 結局、私の支援魔法無しにノアとステファンさんは模擬戦を行い、最初のノアの一振りでステファンさんは3メートルほど弾き飛ばされて瞬殺された。一番最初の冒険者とステファンさんの一戦を、ノアがそっくりそのまま再現した形だ。

 吹き飛ばされたステファンさんは悔しがるかと思いきや、目が爛々と輝き笑顔で起き上がった。ノアはステファンさんの様子に反応を返さず、涼しい顔でスルーしている。

 ステファンさんの気が済んだのかは謎。ノアがステファンさんに更にロックオンされてなきゃいいんだけど。

 ノアとステファンさんの模擬戦は良い余興になったようで、ギャラリーからはステファンさんの健闘を称える歓声が上がっている。

 ノアとステファンさんは、その後礼儀正しく訓練場の真ん中で握手を交わし、模擬戦は一段落した。そう思った時、訓練場の中央にもう一人の人物が現れた。

「さあて、いよいよ模擬戦の大一番だ。エスティナ中から声援を頼むぜ」

 何とケネスさんが現役時代の武器、大きな両手剣を手に訓練場の中央に進んできた。ケネスさんの持つ両手剣、長さは私の身長、160センチは優にありそう。剣の幅はグイードの大剣の2倍はありそうだし、2メートルを超えるムキムキの大男、ケネスさんにしか持てない武器だと思う。

 私がケネスさんの膝のもやを取り払った事により、現役時代の頃と遜色なく武器を振る事が出来るようになったのだそう。

「名高きグリーンバレー騎士団副団長様の胸を貸してもらえるか?俺は長い間体の不具合があったんだが、最近回復してな。体を慣らしている所なんだ。まあ俺は病み上がりのようなもんだ、多少のハンデは貰ってもいいだろ?カノン、俺に支援魔法を」

「アシュレイ様?」

「・・・・少し暴れさせてステファンのガス抜きをするか。カノン、ケネスに支援魔法を」

 アシュレイ様の指示により、私はケネスさんに近づいて支援魔法をかける。

「ケネスさん、頑張って!」

「おうよ!」

 最初の支援魔法よりも強い光が訓練場に放たれた。

 真っ白い光に目が眩んだ後、ふんわりと体全体に感じる浮遊感。

「カノン、体調は大丈夫ですか?眩暈や吐き気は?」

 私はワンピースに埋もれて、ノアに抱き上げられていた。

「だいじょうぶ・・・」

 ちっちゃくなっただけ。目が回ったり気持ち悪くなったりはしていない。

 やっと想定した進行まで持ってこれた。

 ケネスさんはキラキラとした白い光を全身に纏っていて、支援魔法も成功した様子。

「カノンちゃん、すごかったぞー!」

「カノン、偉いぞ!」

「カノンちゃん、上手よ~!」

 そして何故だか、ケネスさんじゃなく私に向かって歓声が上がっている。

今からエスティナの守護神、ケネスさんと、領都騎士団副団長の模擬戦が始まるから、そっちを見てあげて欲しい。

 ノアが足早に訓練場の中央から離れると、目を爛々と輝かせたステファンさんと獰猛に笑うケネスさんとの模擬戦が合図も無くスタートした。

 ノアに抱っこされながら遠ざかっているので戦っている様子は良く見えないけど、ガキンガキンと大きな金属音が立て続けに響いている。

 暴れ足りないステファンさんと、リハビリ目的のケネスさんの良い勝負が繰り広げられているようだ。

「おお、本当に小さいカノンだな。支援魔法の効果も見事だった。良くやった」

「はい」

 ノアの腕の中でワンピースに埋もれた私の頭をアシュレイ様がワシワシとかき混ぜた。

「カノンちゃん、お着換えしちゃおうね~」

「うん」

 子供用ワンピースを持ってスタンバってくれていたミンミに着替えを手伝ってもらって、私は通常の幼女スタイルに戻った。

 その間もガキンガキンと大きな金属音は続いている。

 着替えをして、アシュレイ様のテーブルにお呼ばれして冷たいジュースを飲み干しても、ステファンさんとケネスさんの模擬戦は終わらない。

 2人共満面の笑顔でお互いの武器を振るっている。もう、武器での殴り合いと言った所で、ケネスさんに至っては両手剣を大振りして空いた脇腹とかにガンガンステファンさんの剣が入っている。でもケネスさんは良い笑顔だ。支援魔法が効いている間は無敵状態なのかな?そういえば、何となく最初の冒険者の怪我とかも治った感じだったし、身体強化だけじゃなくて回復の効果があるのだろうか。

 白い光を纏わせる魔法は、私の相手に対する感情にかなり左右されるので、効果がまだまだ未知数だ。最初の冒険者よりケネスさんの方が纏う光の力が明らかに強いしね。

 そんな考察を脳内でしていると、急激にケネスさんの光が減少していった。私の魔法がそろそろ切れそう。

 私の魔法の効果が切れたと同時に、ケネスさんの攻撃を避けたステファンさんが模擬剣をピタリとケネスさんの首筋に当てた。

「まいった!」

 ケネスさんが武器から手を放し、勝敗が決した。

 魔法の効果が途切れるまでステファンさんがケネスさんの攻撃をしのぎ切り、魔法が切れると同時に勝利したともいえるけど、今回も汗だくになっているとはいえ、どうもステファンさんは余裕があったような気がする。身体強化されたケネスさんとの模擬戦を十分に堪能してから、良い頃合いで模擬戦を終了させたっぽい。

「良い運動をさせていただきました。私もいつの日か、カノン様に魔法でご支援いただけるよう、信頼を寄せて頂けるよう精進いたします。私が信頼に足る者とお認め頂けたときは、是非とももう一度、支援魔法を受ける栄誉を私にお与えくださいませ」

 こんな事を、白い歯を煌めかせながらステファンさんは言ってくる。

 信頼かあ・・・。

 ステファンさんは、アシュレイ様の部下という身分が第一にあるからねー。

「しょのうちねー」

「楽しみにしております」

 私が取り合えずステファンさんに社交辞令を言っていると、汗だくのケネスさんも良い笑顔でギャラリーまで戻って来た。

「カノン、ありがとうな!これは凄い魔法だ。しかし、これはいざという時の切り札だな。普段使いするもんでもない。使いどころを考えろよ」

「はい」

 ステファンさんと同じく汗まみれのケネスさんが、グローブのような大きい手でそっと私の頭を撫でる。ケネスさんの頭の撫で方はふんわりソフトタッチ、最初に撫でられた時から変わらず優しいのだった。けれど汗まみれのケネスさんは、手も汗・・・、まあいい。

 そんなこんなで、お祭りの盛り上がりも最高潮。そんなつもりはなかったんだけど、もうお祭りでいいね。ますますギャラリーの人が増え、テーブルと椅子も増え、真昼間から領主公認でお酒を飲んで良いお祭り会場と化している訓練場で、残されたプログラムは私による黒いもや払い。

 これまで盛り上がっていた模擬戦よりは、お祭りプログラムとしてはちょっと弱い。まあ、見たい人だけ見たらいいと私も開き直る。

 最近ずっと引き籠っていたリリィお婆には、家族の協力を得て訓練場まで来てもらっていた。訓練場中央に深く腰掛けられるスィングチェアが置かれ、自宅と同じように座り心地良くクッションが整えられ、そして小さなリリィお婆がその上に収められる。ここまではギャラリーのオジさん達が手伝ってくれた。

「しょれでは、りりいしゃんの、もやもや、はらいましゅ」

 椅子に座るリリィお婆の隣で私が深々とオーディエンスに頭を下げると、観客からは割れんばかりの拍手が起こる。今日のお客さんは反応が良すぎ。

「カノン、リリィさんの椅子に一緒に乗せてもらいましょう」

 そして助手のように、ノアはもちろん私の隣にピッタリいる。

「カノン、もう2回魔法を使いました。これで最後ですよ」

「うん」

 とにかくリリィお婆のもやを払う。

 大きめのスィングチェアの上のクッションに埋もれるようになっているリリィお婆のお隣にちょっとお邪魔する。小柄なリリィお婆は、ほとんど全身が椅子の座面に収まっている。

 しかし私はリリィお婆を見た時から、これはどうしたものかと思っていた。

 私がリリィお婆に会ったのは今日が初めてだった。

 リリィお婆には黒いもやが確かにあった。でもそれは左手首のもや。その他に黒いもやは無い。

 これは黒いもやがリリィお婆の寝たきりの原因だと思い込んだ私のミスだ。

 リリィお婆が寝たきりになったのは、怪我の箇所に纏わりつく黒いもやの所為じゃなくて多分年齢の所為。つまり、黒いもやを払った所でリリィお婆が劇的な回復の後に立ち上がる、という場面をアシュレイ様に見せる事は出来ない。

 それでもここまでリリィお婆には来てもらったのだ、私は宣言通りにリリィお婆のもやを払う。

 二刀流だったというリリィお婆は両手を人より酷使してきたんじゃないかな。リリィお婆の利き手がどちらかは分からないけど、左手が回復して、せめて少しは生活しやすいように手が動かせるといいな。

 私はリリィお婆の左手首を両手で握って、黒いもやが消えて無くなる様に願う。

「良い気持ちだねえ」

 リリィお婆の手首は夏だと言うのにひんやりして冷たい。私は自分の体温を分けるような気持ちで、リリィお婆の手首を両手で揉む。

 リリィお婆は子供の熱い体温を感じて暖かい。私はリリィお婆のひんやり手首で気持ちいい。まさにWinWinの関係。

 私は脳が多動気味なのか、ジッとしていると余計な事を考えちゃうな。集中。

 リリィお婆の黒いもやは煙のようにお婆から離れるとフッとあっけなく消えてしまう。揉むよりも手を動かさないでジッと左手首に当てている方が、煙の噴出の勢いが強いと気付いてから、キュッとリリィお婆の手首を握ってそのままにしてみた。すると、ほんの数分もすると、まるでスプレー缶から出るスプレーのようにリリィお婆の手首から黒いもやが勢いよく噴出し始めた。

 私は初めての現象に驚いてビクッと体を揺らす。

「カノン?」

「だいじょうぶ、へいき」

 ノアが心配して私の背中に手を添える。

大丈夫、ビックリしただけだから。

 この黒いもや、正体は未だに謎なんだけど、人の数だけ黒いもやの種類もあるんじゃないかってくらいバラエティ豊か。

 そしてリリィお婆の黒いスプレーは、最後まで全て出切ったのか、もういくら手首を両手で包んでいても出なくなった。リリィお婆の冒険者時代の怪我は20年以上も前の物だって聞いていたけど、案外あっけなかった。

「もやもや、なくなりまちた!」

 私の宣言に、反応の良い観客たちから歓声が上がる。またギャラリーからは偉いとか、お利口とか、私に甘々の声援が飛んでくる。エスティナの人達、いくら子供に飢えているからって私に甘すぎると思う。私が本当は19歳だと知っても尚こんな感じ。

 そしてもちろん、黒いもやを払った所でリリィお婆が立ち上がるとか、劇的展開はない。

「お嬢ちゃん、気持ち良かったよ」

「りりいしゃん、ありがとうね~」

「こちらこそ!婆ちゃんの手当してくれてありがとう!」

 リリィお婆は椅子に座ったまま、屈強なお孫さん夫婦に椅子ごと持ち上げられて退場となった。


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