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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
27/57

わたしのすべきこと 2

 19歳に戻った日の翌朝。

 その日のノアは前々から依頼を受けていた哨戒任務に出かけなければならなかった。でも私が心配だから休むと言うノアに、私は辛抱強く説得を試み、もう時間に間に合わなくなるギリギリという時間でやっとノアが重い腰を上げた。

 ちなみにノアと一緒に哨戒任務に出かける予定のグイード達は、無の表情でずっと私達の押し問答が続く間待っていてくれた。

 そして出掛ける前に私に両手を広げたノアを前に、私が「えっ?!」と躊躇すると、ノアの眉が悲し気に下がった。

 いやいや、ノアが嫌なんじゃなくて、今は幼児じゃないから気恥ずかしいだけなんだよ。例えば魔獣襲来の非常事態の最中の再会を果たした時のハグとかなら、あの時は必死だったし思い切りノアとハグしてたけど。

 何でもない日常の中でのハグは、ちょっと恥ずかしいかな・・・。

 しばらくすると、悲しげな顔をしたノアが、諦めたように腕をゆっくり下げていく。

 そんなに悲しい顔をする?!

 くっ・・・!ノアに悲しい顔をさせてしまった罪悪感半端ない。

「う、ううっ・・・!ええい!」

 女は度胸だってバ先のおば(以下略)。

 勢いが良すぎて、ハグというよりは相撲の取り組みのようになってしまい、不意を突かれたノアが軽くたたらを踏んでから私を支える様に踏ん張った。体と体がぶつかる際に、ドンッて、ちょっと鈍い音もした。普通、ハグはこんな音しないな。

「カノンちゃん・・・・」

 ミンミがそれきり何も言わない。いっそはっきり、ひと思いに言って欲しい。

 私が残念女子であることは、私が一番よく分かっている。

 出掛けの私達の大取り組みに、グイ―ドとラッシュは爆笑していた。


 そういった経緯があり、ハグの時に体当たりしたのは照れ隠しだったんだけど、19歳の私のハグを受け止めるため、次からノアは左足を下げ私を受け止める態勢を取るようになった。

 それから相撲のぶつかり稽古のような変なハグが19歳の私とノアの間には定着してしまい、今更戻す事も出来ず今に至っている。

 幼児の時はハグされようが、全身を清拭されようが、何をされても平気なのになあ。

 ノアは幼児の私にも19歳の私にも態度が変わらないので、私だけが意識するのも自意識過剰だよね。ノアは異世界人だし、欧米人並みにちょっと親しい相手にはキスとかハグとかするのかもしれないし。

 今回19歳に戻ってからすぐに幼児化していないのも、気恥ずかしさに拍車をかけているかもしれない。これまでならあっという間に黒いもやを払って幼女に逆戻りだったもんね。

 恥ずかしいと思う時間がそもそもなかった。

 それが、今回はアシュレイ様への力のお披露目もあって、私は19歳のまま数日過ごしているんだよ。

 それで、あと一つハグ以外にも問題があって・・・。幼児の時は一緒の部屋で一つのベッドで問題は無かった。

 けれども、19歳に戻った今は、どう考えても問題でしょう!

 それなのに。

「何が問題なのですか?私達はスタンレーからずっと寝食を共にしてきたではないですか」

 昨晩。食事が終わってから、ノアが心底不思議そうに首を傾げた。

 え、私の考えが変?

「・・・・いやいやいや!ノア、おかしいでしょ!最初は幼女の私とだって一緒のベッド遠慮してたじゃん!」

「ええ。でもカノンが一緒で良いと言ってくれました」

 言ったけども!

「私達は家族のようなものですよ。そもそも、私はカノンの保護者ですから」

「そうだけど・・・」

 このノアの保護者の名乗りもすっかり定着してしまった。

 最初は父親だ、とかノアは言っていたなあ。年齢的にはおかしくなかったと思うけど、全く私とノアは似てないからかグイ―ド達は首を捻っていたもんね。

 まあそれから色々あって、今は私とノアは全く血の繋がりのない赤の他人だという事は周囲に伝わっている。

 そう、私とノアは血の繋がりの無いお年頃の男女なんだよ。

 だからこそ、私とノアが一緒に寝る事は問題だと思わないのか!と私に賛同する声を求めているのに、周囲からそんな声は一つも上がらない。何でだ。

「それに、心配なのですよ。カノンの変身を繰り返す体質は、まだ全てが解明されていません。私は眠っているカノンの事も守りたいのです」

「それじゃあ、ノアが休めないじゃん」

「私はそれほど睡眠をとらなくても平気なのです。それにカノンが傍に居ない方が心配で眠れませんから。どうか、私が安心して休めるように、カノンは私の傍に」

 切れ長の瞳を弓なりにしてノアが微笑む。

 こりゃあ、幼女じゃない私には非常に刺激が強い!!

「ぶ、ぶっちゃけて言うけど!私、幼女じゃないから、ノアと寝るのが恥ずかしいの!!」

 もう、歯に衣着せず、私はズバリ本音をノアに言った。

 私の頬にカーッと熱が集まる。そりゃね、こんな地味でパッとしない女が、何を絶世の美男のノアを意識してんだ、ちゃんちゃらおかしいって話だよね。

意識をしているのは私だけ。ノアは私が幼女だろうが19歳地味女だろうが全く態度が変わらないというのに!

 するとノアはニッコリ微笑みながら、私の決死の一言を右から左へ受け流した。

「ふふふ、そうですか。でも、慣れて下さいね。それにもう何度も、19歳のカノンは私と寝ているじゃないですか」

「それはそうだけど!」

 19歳女子、頑張って恥ずかしい思いをして本音をぶつけたのに、ノアをどうにも説得できない。

 この私とノアの攻防は、なんと食事が終わって宿客が宴会をし始めた賑やかな食堂で行われたのだった。

 私達と一緒に食事を取っていたグイ―ド達は、口を挟まず黙ってテーブルに座っていた。まるで置物にでもなったように全然喋らなかった。

「ミンミ!一緒に寝よう!」

「ええっ?!ゴゴゴメン!わ、私、ゴメンね!」

 ミンミにはつれなく断られてしまった。周囲を見回すと、パワーヒッターのお姉さま方は良い笑顔でジョッキを掲げてくれた。私を助けてくれる気無し。

 えー?私が言っている事、変じゃないよね?!

 夫婦でもない、恋人でもない男女は普通一緒のベッドで寝ないでしょ?!

 私が助けを求めて辺りを見回すと、騒ぎを聞きつけたのかルティーナさんがカウンターの中まで出て来ていた。

「ルティーナさん!」

「カノンちゃん。あんた、ノアと寝るのが嫌なのかい?」

「えっ?!違う、そんな訳ない!」

 ルティーナさんの質問に私が咄嗟に答えると、さっきまで喧騒に包まれていた食堂がフッと静けさに急に包まれ、私の声がびっくりする位大きく響いた。

 つかの間の静けさの後、宿の泊り客たちは再び飲みながらガヤガヤと話し始めた。

 私がそーっとノアを見ると、ノアはなんとも優しい顔をしてこちらを見ている。

 はいはい、保護者の余裕!

 テンパっているのは私だけ!

「・・・まあ、なんだ。諦めろ、カノン。俺等はあっちで飲みなおすわ」

「人生は諦める事の連続なんだぜ、カノン。とにかくもう、お子様は難しいこと考えねーで寝とけ寝とけ」

「カノンちゃん、また明日ね!」

 そういってグイード達はジョッキを手に席を立ってしまった。

「あっはっは!なるほどねぇ。カノンちゃん、もしもノアと喧嘩したら、その時は私が一緒に寝てやるよ。じゃあ今日はもうお休み」

「お、おやすみなさい、ルティーナさん」

 ルティーナさんも話は終わりとばかりに厨房に引っ込んでしまった。

 最後の望みのルティーナさんも去り、私は、大きかろうが小さかろうがノアと一緒に寝るという事で話は落ち着いてしまったのだった。恐ろしい事にこれ、ルティーナさんの宿の従業員、利用客公認の決定なのだ。一体どういうことなの。

 まあほんとにただ、私とノアは一緒のベッドで横になって寝るだけなんだけどさあ。

 しかし行儀よく右と左に並んで寝ていても、朝起きると幼児の時のようにいつもノアに私からしがみ付いている。これは私の寝相の問題なんだろうな。

 とにかく、早く自分の特殊体質の把握をして、自分の身体と能力の事を理解しないとな。そうしたらノアも安心して、私の事だけじゃなく、自分の人生について考えられる筈だから。


 さて本日の、お帰りなさいの私とノアのぶつかり稽古が終わると、ノアはハンカチで私の今日の戦利品を包んでくれた。19歳女子ならハンカチ位、自分で持っているべきだったな!

「ノア、ありがとう。それ、自分で持つから」

「私のポーチに入れておきますよ。大した量ではありませんから」

 私、手持ちのバッグすら持っていない。

 私は子供みたいに手ぶらでギルドにやって来たのだった。収入の手段が無い私は、日用品の全てをノアに買ってもらわないといけないからなあ。

「はい、カノンちゃん。プレゼント。私同じのもう一つ持ってるから」

 そんな手ぶらでほっつき歩く子供のような私を哀れに思ってか、ミンミが私に取っ手のついた巾着袋をくれた。

 その袋の生地は木の皮染めの淡いピンクで、巾着の紐は赤い飾り紐になっている。可愛い。

「可愛い~、似合う似合う。小っちゃくなった時にも、それ持っている所を見せてね。お願いね」

「ありがとう。大事に使うね」

 ミンミから幼児化した時の使用を特に念押ししてお願いされたけど、ありがたく大人の時も使わせていただく。

 自分のバックだ。嬉しい。

 すると何も言わなくても私の保護者が、ハンカチに包まれた本日の頂き物を巾着袋に仕舞ってくれた。

 ノアが買ってくれた服や靴も嬉しいし、ルティーナさんがくれた服も嬉しい。ミンミがくれた可愛い巾着も嬉しい。

 大切な人が増えて、大切な物が増えると、どんどんこの世界の人間として生きていけるような気がしてくる。

 そしてこのエスティナで腰を据えて暮らしていけるかは、今後の私の行動に掛かっているのだ。



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