向こうから色々やってきた 5
私とノア、ケネスさんとグリーンバレー領主、そして領主の護衛2人はケネスさんの執務室で話をする事になった。
いずれ領都に行く事になるのかなーなんて思っていたけど、急展開だ。まさか領主自らエスティナにやってきてしまうなんて、フットワーク軽すぎるんじゃないだろうか。
そしてそのご領主様、アシュレイ様について、ケネスさんより説明が最初にあった。
「ノア、カノン。こいつは、アシュレイは、悪い人間ではない。統治者としての才覚も申し分ない。領民全員にとって、とても良い領主様だ。だがな、強いて欠点を挙げれば、人一人一人の心の機微が良く分からん。相手の心の奥底までは思い計る事が出来ん。自分の愛する妻子への心配りだけで、人に対しての細やかな思いやりの全てを日々使い果たしている。だから他人に対して心情を慮ったり、空気を読んだりは全くできない。ここまで良いか」
「・・・・・」
全く良くはないんだけど。
強いて挙げられた領主の欠点に不安しかない。
「まあそんな、多少人としては欠けている部分もある領主なんだが、ノアとカノン、お前達2人の存在はエスティナにとって、グリーンバレーにとって守護の要として大きな力になる。これはエスティナの住民なら全員が既に認める事だ。だから、アシュレイは領主としての判断で絶対にお前達を手の内に入れて守る事を決めるだろう。俺はそう確信している。だからお前達の事をアシュレイに説明してもいいか?アシュレイの領主判断を信じるこの俺を信じてくれ」
「わかりました。ケネスさんを信じてお任せします」
「わたちもー」
「ハハハ!俺はそれなりに人望がある領主なんだがな!この俺を信じてくれていいんだぞ!」
アシュレイ様は笑って言うけど、ギルドにやってきてからの言動において信用できる要素が1つも無いからね!
そして何事も無かったかのようなアシュレイ様の面の皮の厚さに改めて驚く。
領主、貴族、統治者という人種はやっぱり私のような庶民とは違う生き物なんだろうな。
「まあ、こんな奴なんだが。ノアもカノンも、自分の身を守るためにアシュレイを利用する位の考えで良い。アシュレイもお前達を利用するだろう。利害が一致する限りはグリーンバレーに力を貸してくれないか?」
敵か味方かと言うより、仕事のパートナー位に思ったらいいのかもしれない。それならまあ、納得。
それからケネスさんからアシュレイ様へ、私達の事情の一通りの説明がされた。
そして腕組をしたまま全ての話を聞いたアシュレイ様は、うーんと唸った。
「スタンレーの聖女だと?」
眉間に皺を寄せたアシュレイ様は改めて私を見る。
「この幼子が、異世界から召喚された乙女だと?」
「そうです」
ノアが力強く答える。
アシュレイ様はしばらく考え込んでいた。
「悪いが信じられん」
だよね。
「ノア、お前が驚くべき力を持つ冒険者である事は信じる。素材確認はこれからだが、防護柵を破壊してエスティナに侵入したニードルボアを、少しの負傷者を出しただけで仕留めたと聞く。その他、エスティナに侵入した大型魔獣をほぼ一人で討伐したという、ケネスを始め他の冒険者からの証言もある。お前は確かにエスティナの防衛において驚くべき力を発揮したのだろう。だが、そこに居る小さなカノンが、元は異世界から呼び寄せられた妙齢の娘だったのだと言われてもな」
だよねー。
ケネスさんとその他の住民の皆さん、冒険者達には私が幼児化する現場をバッチリ見られてしまった。まあ、私が周囲の事をすっかり忘れて聖女の力を行使した自業自得でもあるけど。
こればっかりは実際見てもらわないと、話だけじゃ無理じゃない?
「ノア、カノンが元に戻るまで何日かかる?」
「・・・カノン、今日の黒いもやは最近怪我をした方の物の予定でしたね?どんな感じでしたか?」
「りっくしゅしゃん。じゃむのふた、あけられないからおくしゃんがあけてる。もやはねぇ、しゅぐになくなった」
「・・・早くて4日、5日は見てもらえば確実でしょうか」
ノアの返事を受けて、ケネスさんは今後の予定を立てた。
「わかった。アシュレイ、お前、1週間エスティナに居ろ。カノンの件については、でっかいカノンが魔法を使う所を見てもらうしかない。あと、カノンには肉体強化の支援魔法と黒いもやを払う魔法を使ってもらう。誰の黒いもやにするかは、歩けなくなってるような爺か婆をルナと探しておいてくれ。カノン、頼んだぞ」
「はい」
「ハハハ、本気か。こんな到底信じられない様な話を証明する気なのか?俺は数日で戻るとブルーベルに約束してきたというのに」
「グリーンバレーの将来の平和のためにも、是非とも領主にはカノンの力を確認してもらわないとな。領主の使命だ。ブルーベルなら笑顔でお前にしっかり仕事しろって言うだろう」
「ハハハハ、・・・・はあ。仕方がない、数年ぶりのエスティナだ。俺は仕事を勝手にしている。準備が出来たら領主館に来い」
「かちこまりまちた」
私がかしこまると、アシュレイ様は私を見て少しだけ口角を上げた。
それからアシュレイ様は、ノアが魔獣襲来の日にバッタバッタ切り伏せた魔獣の大型個体の大量の素材の確認に向かうため、護衛の2人と退室していった。
「ふああー」
アシュレイ様が居なくなって、一気に緊張が緩んだ。私はノアの胸に背中を預けて、ズルズルと態勢を崩していく。
「カノン、今日はもう宿に帰ってゆっくりしましょうか。ケネスさん、カノンの件に関しては体が元に戻ってから段取りのご相談を」
「ああ、うん。ノア、本当に済まなかったな。哨戒任務は打ち合わせ通り3日後で頼む。カノンもゆっくり休んでくれ」
「はい。それでは」
ノアはぐんにゃりと力を抜いた私を抱いて宿に戻った。
それからは、私は自分の身体が元に戻るまで魔法使用厳禁、食っちゃ寝のだらだら生活を満喫した。ノアはノアで数日おきにエスティナの周囲を定期巡回する任務についている。
そして私は、一日中宿に居て、ルティーナさんに預けられたりしていると、どうしたってアリスさんと接する事になる。
アリスさんは、ノアが居ると最低限の接触しかしてこないんだけど、私がルティーナさんに預けられている時はメロメロになって私を構い倒してくるのだ。
「カノンちゃん、抱っこさせて!出ておいでよ~!」
「ふぃん・・・」
好意100%、満面の笑顔のアリスさんに、抱っこお断りですとは非常に言い辛い。
幼女の私の正体がアリスさんにバレた時の事を考える度に私の体に震えが走る。19歳の私にあれほど塩対応だったアリスさんの怒りは、いったいどれほどのものになるのだろうか。ううう。
近い将来、アリスさんには絶対に私の正体がバレる予定なのだ。
アシュレイ様に幼児化を見てもらう時に、ついでにアリスさんにも見せようねってルティーナさんとノアがもう相談済みなので!
私が出来るせめてもの事は、カウンターの上の籠の中に籠城して、アリスさんから逃れてジッとしている事くらいだった。
お読みいただきありがとうございます!
週一とか言っておいて、滅茶苦茶な投稿になってますのでもう特に予告しません。書けたら順次不定期投稿していきますので、良かったらお付き合いください。




