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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
2/25

特に説明も無く、聖女初任務へ 1

本日2話目の投稿です。

 私が従順な人形に擬態して2週間が過ぎた。

 私の進退の決定権を握っていると予想される華美なロココ男は、この国の王太子でジョシュア王子というらしい。

 そのジョシュア王子は、夜会で私のお披露目が済むと私の前に全く姿を見せなくなった。

 私としてもどこに地雷があるのか分からない暴虐王子とはなるべく距離を置きたいので、その件に関しての不満などはもちろん無い。

 目覚めたら元の世界に戻っていないかと期待もしてみたけど、10日を過ぎた頃にはその望みも捨てる事にした。私はどう考えても異世界にきてしまったようだった。まさか、こんな事が自分の身に起きるなんて・・・。

 今時異世界転移なんて、流行らないんだけどなあ!

 今の主流は異世界に転生して悪役令嬢になって婚約破棄されたり、政略結婚して君を愛する事は無いとか言われたりするんだけどなあ!

 転生してその異世界で生まれ育つならまだしも、勝手が何も分からない異世界へ転移なんて、その地はもう完全なる敵地、アウェイ。

 軽くハードモードだよね。その上私には親切な第一異世界人との出会いも無かった。

 そうぼやいた所で私の境遇は変わらない。

 私が使っている客室には常に1人の侍女が待機していて、ドアの外には兵士が24時間立っている。やんわりと監禁されている。

 実は部屋の外に出られないかとチャレンジしてみたのだ。

 深夜、控えていた侍女も自室に下がった時にそっと部屋のドアを押し開いてみた。

 すると部屋の真ん前に寝ずの番の兵士が立っていて、じっとこちらを見ていた。外敵の警戒とかじゃなくて、私の出入りを見てたんだね。

 しばし兵士と見つめ合ってから私はそっと扉を閉めた。

 次の晩から寝ずの番の兵士が2人に増えていた。

 私のノープランチャレンジは、私の監視員達を無駄に警戒させてしまった。

 もしかしなくても彼等は暴虐ジョシュア王子の手下達なので、私は依然としてイエスかノーといった必要最低限の口しか利かずに部屋で大人しくしていた。

 口は災いの元。

 反抗的と思われるのは悪手。

 でも御しやすいと侮られ過ぎて待遇が悪くなるのも困る。

 まあ、召喚?された後にどうして私はこの国に呼ばれたのかとか、この国についての説明とか、一切されない辺りで私に対してのこの国の考えは推して知るべしなんだよね。

 この国は、聖女様とか呼ぶわりに私への対応が非常におざなり。

 うーん、この世界の情報とか私の置かれた状況とか、知りたいけど監禁されてるくらいだからな。私が自由に活動したら召喚した側としては嫌なんだろうな。

 あの暴虐王子の事だ。

 私を自分の利となる道具くらいにしか思ってないだろうし、使い時がくるまで大人しくしとけといった所なのだろう。そしてこれは国全体の考えなのだ。

 下手に警戒されては困るので、もう余計な行動はしないけど。なんなら無抵抗な私を見くびって、甘く見て油断して欲しいのだけど。

 そして周囲が油断した所で、逃げた方が良いならば是非逃げ出したい。

 私は何が起こっても良いように、出される食事はきちんと食べている。咄嗟に動ける体力は維持しないとね。最初の夜会の食事と比較すると、私に出される物なんて粗食も粗食なんだろうけど、私が普段食べていた食事よりは量が多いという悲しい事実。ありがたく三食もりもり食べている。なんなら食っちゃ寝ばかりしているので、元居た世界よりも体の調子はいい。

 それと機会があれば部屋の中の金目の物でも盗んで逃げてやろうと思ったんだけど、私の部屋、家具や備品が最低限。ベッドと、その横に椅子と小さな丸テーブルが1つずつあるだけ。金目の物がない。室内の装飾品が一切なくて逆に驚く。

 ここは客室らしいので浴室とトイレはあるけど、浴室には固形石鹸とフェイスタオルがひとつ置かれているだけ。タオルは使えば辛うじて交換してくれる。ちなみに部屋の清掃は一回もされていない。

いやはや、なんというおもてなしか。ここまでくると、聖女(私)など最低限生かしておくだけで良し!というこの国の態度が潔くすら感じてくる。

 しかし逃げると決断できるほどの情報がまだないのが現状。なのでまんじりともせずに、いまだ私はこの場に飼い殺しにされているのだった。

 逃げるなら、出来れば治安の良い外国とかに逃げられたらいいな。でも、私がこの異世界で生きていく術があるかも分からないけど。

 あー、誰か話を聞けそうな人が居ないかなあー。

 そう思っていた私の願いが天に届いたのか、ある日一人の男が私を訪ねてきた。


「お初にお目にかかります。この度、聖女様の護衛を仰せつかりましたノア・ブランドンと申します。どうぞお見知りおきを」

「・・・・」

 椅子に座る私の前で片膝を付いて頭を下げる黒髪碧眼の軍人さん。黒い軍服を着ているので、私の部屋の門兵をしている赤いジャケットを着た人達とは所属が違うみたい。

 この軍人さんの軍服は黒いロングジャケットに黒いズボン。そしてミディアム丈のブーツ。普通に軍服としてカッコいい。門兵さんの赤ジャケットはショート丈で、暴虐王子と同じく白パンツの股間部分がタイトだったからげんなりしていた所だったんだよね。

 なんなの、この世界の男共は。股間を見せつけるのがお洒落なの。男の嗜みか何かなの。

 黒い軍人さんの軍服は股間の主張がなくてホッとした。

 しかもこの軍人さん、ものすっごい顔が良い。

 この世界の人々の顔立ちは元の世界で言えば欧米人、といった所。けれども異世界ものにありがちな、会う人全員が美形、と言う訳ではない。まあ判断は私の主観によるものだけど。欧米人でもいろんな顔立ちの人がいるもんね。侍女さん達の顔面偏差値は私基準では高め。

 しかしこの目の前の黒髪の軍人さんは、はっきりいって美しさのレベルが違う。

 暴虐王子が華美で派手な薔薇だとすれば、目の前の軍人さんは静謐な白ユリと言った所。白磁の肌に整った目鼻立ち。艶やかな黒髪と白い肌のコントラストに煌めく切れ長二重の碧眼が更に色を添える。綺麗な顔だな。

 私的には暴虐王子よりこの軍人さんの方がずっとタイプ。

 しかしタイプだからと言って味方とは限らない。

 だんまりを決める私に黒髪の軍人さんは控えめな笑みを浮かべた。

「・・・聖女様にも元の世界での生活があったでしょう。それを無理に我が国にお呼び立てしてしまい、お詫びのしようもございません」

 この異世界にやって来て、初めて。

 初めて私の気持ちを気遣う言葉を聞いた。

 周囲の話から推測すると、私は聖女召喚されてこの国にやって来た。しかしこの国に来て2週間以上経つというのに暴虐王子からはもちろん、誰一人として聖女召喚した理由も、私が置かれた境遇も、私に何が求められているのかも、一切説明に来る人間がいなかった。

 この国にとっては、聖女と言われる私の身柄がこの国の物になった事だけが重要なのかもしれない。

 私の心情を推し量ってくれる人なんか一人も居なかった。

 突然召喚されて、この国に呼ばれた私に謝ってくれたのはこの軍人さんだけだ。

 何なら、私と会話をしようとしてくれたのもこの人だけだ。

 私はこの機会にこれだけはと、勇気を出してひとつの質問を軍人さんにした。

「私、元の世界に帰れますか?」

 私の質問に軍人さんは言葉を詰まらせた。

「・・・代々の聖女様は、我が国を守護してくださり、我が国で生涯幸せに過ごされたと。・・・先代様は、お気の毒な事に2年程前に病で亡くなられましたが」

 それはつまるところ、元の世界には帰れないという事だよね。

 もう二度と会えない家族を思えば涙が出て・・・、いや、別に悲しくないな

 丁度自分の親が毒親だった事に気付いたばかりだった。

 兄だって、親と一緒になって私を便利に使っていた。なんでお前のパンツを私が洗ってやってたんだっつーの。今になって腹が立ってくるあたり、私も色々と感覚が麻痺してたんだな。

 とにかく、家族に対しては何の未練もない。

 だからといってこの世界に来てよかったなんて、全く思えない現状なんだけど。

 取り合えず、私は元の世界には戻れない。

 それを頭に置いて今後の事を考えよう。

「わかりました」

 私は無表情で軍人さんに答えた。

 軍人さんは痛ましそうに私をしばし見つめた。あ、軍人さん、誤解してるっぽい。

 私、元の世界に帰れない事に絶望して心を殺したとかじゃないんだけど。

 元の世界に居たらそれはそれで、毒親と絶縁するための苦労とか、奨学金返済の苦労とか、苦労が続いたろうからなあ。

 けれども、勝手がわからず、自立をするための手立ても分からないこの異世界の方がハードモードである事は間違いない。つまりは私の現状、全く楽観視できない。

 なんせ、あなたの生活の保障をしますよ程度の、口約束すらいまだ誰からも貰えてないからね!

 しかしこの軍人さん、良い人っぽいなあ。ほんとに良い人ならいいんだけどなあ。

 そして黒髪の軍人さんは私に部屋を訪ねてきた要件を伝えた。

「聖女様。明後日から結界を強化して頂くために国境へ向かっていただきます。護衛には私が付きますので、どうぞご安心を」

「え?」

 国境と言われたって、ここがどこだかも分からんが。

 そして結界とはいったい・・・。

「まずは一番王都から近い第一守護塔へ向かいます。遠征準備はこちらで全て致しますので、聖女様は出立までゆっくりと休まれてください」

 この場所に来てから休む以外の事はしていないが。

 高潔な白百合といった風情の軍人さんは、伝える事を伝えると儚げな笑みを残し部屋から出て行った。

 おおまかに任務の内容を説明してくれただけでも軍人さんは親切だったと言えよう。

 当然私には拒否権ないよなあ。

 結界の強化って、いったいどうすれば・・・。

 とにもかくにも碌な説明もない中、聖女と呼ばれる私の遠征任務が始まってしまったのだった。


私は異世界転移が好物なので、しつこく異世界転移ネタを擦っていきたいと思います。

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