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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
19/57

聖女の力の実験と検証、そして考察 3

 エスティナに来てからまだ2週間も経たないというのに、色々な事があったな。

 ノアが予測している、私が大人になる日が今日を入れて4日後。

 それまで私は聖女の力を使わないように気を付けながら食っちゃ寝の日々を過ごした。ノアは装備品を整えたり、不用品の整理をしたりしていたみたい。ノアはスタンレー軍の軍服が良い値段で売れたとニコニコして帰ってきた。

 私はノアが買い物等用事を済ます時とかはたまにルティーナさんに預けられて、カウンターの籠の中で昼寝したり、お客達におやつを貰ったりして過ごしたり。

 ルティーナさんからは娘さんの子供の頃のワンピースを数枚お借りした。ルティーナさんの孫が生まれた時の為に大事に取っていたのだそう。「カノンちゃんが先に着たっていいさ」と、ルティーナさんは快く私に貸してくれた。私が幼児退行を起こした時にだけ、ありがたく着させてもらうようにする。

 何の用事もない日は、エスティナの町をノアと2人で探索したりもした。働かないでブラブラするなんて、贅沢。

 私は相変わらず常に眠くて、食事をすれば眠り、お風呂に入れば眠り、という感じだった。でも私の起きて居られる時間も少しずつ長くなっていく。

 我慢しないで沢山寝て下さいねというノアの言葉に甘えて、食っちゃ寝していたらあっという間に4日間は過ぎ去ってしまった。


 そして、5日目の朝。

 前の晩はいつものようにノアと向かい合わせに、ノアの胸に抱き込まれて眠りについた。

 そして私が目覚めても、寝ていた時の体勢と変わりなく。

 私の目の前には秀麗なノアの顔がある。ノアはもう起きていて、私の顔をジッと見ていた。

 目覚めはしゃっきり、気分爽快。とっても良い目覚めだ。

「・・・おはよ、ノア」

「おはようございます、カノン」

 目の前至近距離のイケメンが、ふわっと目を弓なりにして笑う。

 私とノアの身体には薄布が掛けられているけど、私はノアに腕枕してもらって、かなり密着した状態で抱きしめられている。

 薄布で隠されているけど、私は幼児用ワンピースとかぼちゃパンツが下着にジョブチェンジしたあられもない姿。

 ノアの予想通り、4日経った翌朝、私は19歳の姿に戻っていた。

 しかし今のノアは動揺した様子も無い。エスティナに来るまでの道中の、私のへそ出しパンツ姿に両手で顔を覆っていたノアは何処に行ってしまったのか。まあ幼児体ではお風呂も一緒に入っているから、もう家族同然なのかもな。

「討伐試験の翌日には、カノンが元に戻るかもしれないと思っていたのです。なので姿が変わる前に町に戻る予定だったのですが、間に合いませんでした」

「どうして元に戻るって、わかったの?」

「カノンは大熊に会う前に大人の姿に一度戻りましたね。あの日はカノンがスタンレーで小さくなってから7日経った翌日でした。だから7日周期でまた何か起こるかもと考えていたのです。多少の誤差もありそうですが、カノンが気絶するほどに力を使うと、大人に戻るまで7日かかるのかもしれません」

 ノアはそんな仮説を立てていた。

「今後も検証が必要なのでしょうが、カノンが気絶するのは私の心臓に悪いです。カノンが寝込んでいる間は、いつ目覚めるのかと気が気ではありません。心配しました」

 深くため息を付きながら、ノアが私を抱きしめてくる。

 おおい・・、今の私は19歳なんやで。

 もうノアの中では2歳児カノンだろうが19歳児カノンだろうが、区別が無くなっているのだろうか。

「心配ばっかりかけて、ごめんねノア」

 私はノアの背中に両腕を回して、トントンと背中を叩く。

 大人になった私なら、ちゃんとノアの背中に手が届くのだ。

「心配ですが、カノンの体質を知るためにも検証は必要ですからね」

 グイ―ド達にも実験協力のお願いをしてたんだもんね。

 そして、幼児と大人を行き来する私の特異体質と、私の魔法らしき力との関係や、私の魔法の効果についての検証実験が再度行われる事になった。



 ルティーナさんからは、幼児ワンピースの他に若かりし頃に来ていたという可愛いワンピースを何枚か頂いた。大人ワンピは娘さんが欲しがらないからくれるのだそうだ。なんてありがたい。

 そして今日はルティーナさんのお下がり、薄オレンジのパフスリーブワンピースを着て、19歳の私は初めてグイ―ド達に対面したのだった。

「カノンちゃんそっくり~!」

「カノンに似てるな」

「おチビがまんまおっきくなってるな」

 場所はギルドの訓練場。

 ノアと一緒に訓練場に足を踏み入れると、グイ―ド達が笑顔で寄ってきた。

 そっくりってなんだ。私はカノン本人だが。

 ミンミは私が小さかろうが大きかろうが構わず私に抱き着いてくる。

 グイ―ドとラッシュはニヤニヤしながら私の顔を見ている。前の世界でも良く言われてたよ。小さい頃と顔が変わってないって!

「グイ―ドもラッシュも人の顔をそんなにジロジロ見ないでくれる?ムカつく」

 私がグイ―ドとラッシュに文句を言うと、2人からは感心したような声が上がった。

「ちゃんと喋れるんだなあ」

「カノン、すげー」

 ぐぬう。

 見た目から全然違うでしょうが!いつまで私を2歳児と比較するんだ。

「・・・カノンを揶揄うのはその辺にして下さいね」

 真顔のノアがスッと私とグイード達の間に割って入った。グイード達は悪い悪いとノアに謝っている。謝るなら私にでしょうが!

「よし、揃ってるな」

 私がグイ―ド達のおもちゃになっていると、やっとケネスさんがギルドの訓練場へ現れた。

「おお、カノンか。ノアが言った通り、本当に元に戻ったんだなあ」

「はい」

 今日の検証実験の内容なんだけど、私の身体が大きくなってから魔法を行使して、どういうタイミングで小さくなるのかを探るのだ。そしてその魔法の効果も見る。

 ノアと私とグイ―ド達の他にもパラパラと訓練場には見物人がいる。年齢層高めの冒険者の皆さんたちだ。不測の事態が起きた時の、一応サポート役なのだそう。お世話になります。

「よし、カノン。無理のない範囲で色々試させてくれ」

「わかりました」

 この前はジーンさんの黒いスライムを引っこ抜いた所で気絶したんだよね。

 今回は、能力のブーストをしているらしい白い光のキラキラ。あれをグイ―ドかラッシュに付与できるか、という実験だ。

 しかし、先ほど2人は私をイジッて来た。

 イジリって、イジル側しか楽しくないよね。私は少し、いや結構、イラっとしたぞ。

「よし、じゃあやってみてくれ」

「・・・・ラッシュ、がんばれー」

「・・・・・」

 うん。変化なし。

 私が幼女の時も私をイジる傾向にあるラッシュ。

 なんか、こう。

 パワーアップしてほしいと心から思えないな。それと切羽詰まっている状況も少なからず聖女の力の行使には必要な気がする。

「うん、じゃあグイ―ドにはどうだ」

「グイ―ド、がんばれー」

「・・・おいおい、カノン。本気出してくれよ」

 本気をー?

「さっき、子供の私と比べて、私を笑ったから。嫌かも」

 私はプイとそっぽを向く。

 するとずっと私にくっ付いているミンミがグイード達を笑った。

「あはは!あーあ、嫌われたー。グイ―ドもラッシュもガキじゃないんだから。いくらカノンちゃんが可愛いからって、揶揄って気を引いてんじゃないわよ。カノンちゃん、それなら私に魔法をかけて!カノンちゃんに失礼なことしたグイ―ドとラッシュをボコボコにしてあげる~」

「ミンミ頑張れ!!」

 やったれミンミ!

 私がそう願うと同時に私の視界が真っ白に染まった。

「うぐっ!」

「きゃあっ」

 周囲にも被害を出してしまったけど、私も自身に目つぶしを食らって自爆。

「ううーん」

 目が眩んで地面に膝を突いた私は、さっと力強い腕に抱き上げられた。

「カノン、大丈夫ですか?眩暈や、吐き気は?」

 視界が戻って来ると、私はパフスリーブの可愛いワンピースに包まれてノアに抱っこされていた。

「だいじょうぶ」

可愛いワンピース、少ししか着られなかったな。今は赤ちゃんのおくるみ状態になってしまった。

そして、私が幼児退行を起こしたという事は。

「何これ!私、どうなっちゃったの?!」

 ミンミがノアと同じようにキラキラと白い光を全身に纏っていた。私は聖女の力を無事に行使できたみたいだ。

「す、すごい!今なら何でもできる気がする!ケネスさん、訓練用の剣で良いから頂戴!」

 何だか興奮しているミンミに、見学していたオジサンの1人が鉄剣を手渡した。

「私がカノンちゃんの仇を取るわ。グイ―ド、ラッシュ、剣を取りなさい!」

「お、おいおいおい。お前の武器は弓だろうが。剣なんてまともに持ったことがないだろっ・・・」

 グイ―ドがその場に素早くしゃがんだ。

 グイ―ドの頭部5センチくらい上を、ミンミが横に薙いだ剣が走った。

 ビュウという風切り音と共に、グイ―ドの黒髪が数本宙に舞った。

「ミンミ!まっ・・・!」

 グイ―ドの頭部の上を剣で払ったミンミは、返す刀で今度は力任せにグイ―ドの頭部に鉄剣を振り下ろす。

 ミンミの動きは大振りで、グイ―ドは自分の武器である大剣でミンミの剣を受け止めた。

 グイ―ドとミンミの剣がぶつかりあり、激しく火花が散る。

「うわっ!!」

 そして力負けをして吹き飛ばされたのはグイ―ドの方だった。

 グイ―ドの手からは大剣が弾かれ、グイ―ドは訓練場の地面に転がった。

「あっはー!すごい!カノンちゃん、応援ありがとうー!!」

 打ち負かしたグイ―ドを前に、ミンミが弾ける笑顔で私に手を振って来る。成人男性を片手で吹っ飛ばすほどの膂力を手に入れたミンミは、非常にハイになっている。

「みんみ、しゅごいねぇ・・・」

「こりゃあすげえな。行ったぞラッシュ!逃げろ!」

「うわあー!」

 ミンミのターゲットは倒されたグイードから、呆けた様にミンミを見ていたラッシュに移った。ケネスさんがラッシュに注意喚起をすれば、ラッシュは悲鳴を上げてミンミから距離を取ろうとした。

「ラッシュ!あんたは女性に対しての礼儀がなってない!顔が良いだけでチヤホヤされるのはあと数年なんだからね!この顔だけの、残念男!」

「姉ちゃん、ひでえ!言い過ぎじゃねえ?!」

 ラッシュが訓練場を全力疾走するが、ミンミは片手に鉄剣を持ったまま悠々とラッシュの隣に追いつく。

「うっそだろ・・・!」

「あんたのショートソード、ボッキボキにへし折ってやるわ!カノンちゃんの仇!」

 ラッシュに並走しながら、ミンミは鉄剣をラッシュに振りかぶって下ろした。ラッシュがミンミの鉄剣を、腰からスラリと抜いた短めの剣で受け流して弾いた。ギャリンと、刃と刃がぶつかり擦れる音が響く。

「わあああ!やめろよ!この剣、研ぎに出したばっかりなんだぞ!」

「それからあんたがおばさんおばさん言って毎回失礼な口を利くレジーさんとマチルダさんの仇!!」

「わあああ!!」

 再びギャリギャリイィという感じの嫌な金属音がした。

 ラッシュはどうにかもう一太刀も短い剣で受け流した。

「凄まじいな、ミンミの力は。普段のミンミと比べて、力もスピードも明らかに上回っている」

 ケネスさんは腕組をして姉弟の追いかけっこを見守っているけど、止めようとはしない。周囲の見物人のオジサン達も笑いながらミンミとラッシュの攻防を見ている。

 この誰も助けずに笑っている状況って、ラッシュの日頃の態度が招いた事だと思う。生意気だけど憎めないって人も中には居るけど、生意気も過ぎるとよくないね。

 日頃の行いって、大事。


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