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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
15/57

新たな協力者達 1

 エスティナに魔獣の襲撃があった日の翌日。

 私が目覚めると、格子戸から差し込む日差しで部屋の中はまあまあ明るくなっていた。

 私の目覚めはしゃっきり、とまではいかないけど、今日は普通かな。

 この幼児退行も今回で3回目だ。幼児退行から元の19歳の姿に戻ったのは昨日で2回目。何かもう少ししたら法則が分かりそうな気がするんだけど。

 そんな事をベッドの中でつらつらと考え続けている。

 なんで起きないのかというと、私の身体はノアにガッチリ抱き込まれているから。苦しくないけど抜けられない。この絶妙な力加減。

 私はもぞもぞと体の向きを変えて、ノアと向かい合わせになる。

 昨日は魔獣の返り血でドロドロの冒険者や町の人達全員で近くの川で行水してから、順番にお風呂に入った。それから町の宿屋や飲食店以外の色んなお店屋さんまで広場の炊き出しに加わって、みんなでご飯を食べた。お爺ちゃんやお婆ちゃん、家庭を回していた女性達は昨日馬車に乗り合わせて領都に避難してしまったので、町の防衛で残った男達の為に町の人達が戻ってくるまでの間、しばらく夕飯時には広場で炊き出しが行われるそう。

 魔獣の被害が酷くなかったから言えるけど、広場でワイワイ賑やかにご飯を食べるのは楽しかった。お風呂に入って、お腹も一杯になったら、みんなで一斉に食事の後片付けをして解散となった。


 ノアとグイード達は一昨日討伐試験の為に森に出かけていったんだけど、難なくノアは小型の魔獣の討伐を終えて、その試験の帰り道で魔獣の群れの大移動を発見したんだそう。

 その魔獣の群れは四方から集まり、大きな流れになってエスティナに真っ直ぐ向かっていた。

 ノアとグイード達は一晩中、そして夜明けを迎えてからも魔獣を間引き続けたんだけど流れを止められず、魔獣の先頭の大型イノシシと競いながらエスティナに到着したというお話だった。

 ほぼ一日、不眠不休で魔獣の群れを追い続けたグイード達は今にも寝落ちしそうな所を周囲の冒険者達に丸洗いされて強制的に魔獣の血を洗い流され、半分眠っている所にガンガン雑穀粥を口に突っ込まれていた。グイード達が強制的に食事を取らされているのを眺めながら、私とノアもお粥をいただいた。

 ノアは少し眠そうに目をシパシパさせていただけど、ちゃんと自分でご飯を食べて、何なら私にまでご飯を食べさせて、何なら私の歯磨きまでしてから私と一緒にベッドに入ったもんね。グイ―ド達と同じくノアも不眠不休だった筈だけど、超人過ぎる。


 そんな超人のノアだけど、今は私の隣で珍しい寝顔を見せてくれている。いつも絶対私より先に起きてるノアだけど、さすがに今日はゆっくり寝ている。

 ノアは寝顔も奇麗。

 スッと筆で描かれたような整った眉に、今は閉じられている切れ長の瞳。まつ毛ももちろん長い。鼻筋もまっすぐに通っていて程よい高さ。唇は少し薄いかな。でもそこが奇麗さの中に男らしさを感じさせてくれ、絶妙なカッコいい美形になっている。ノアは歯並びまで奇麗なんだよね。

 いやはや、もとの世界だったら絶対に関わる事の無かった美形だ。

 こんなカッコいい人が絶対的な私の味方になってくれているなんて、人生ほんとに何が起こるか分からない。異世界強制召喚という大不幸を相殺するほどの幸運なんじゃないのかな。この世界に神様がいるのか知らないけど、神様、ありがとう。

 ノアに向かって手を合わせていると、ノアが薄っすらと目を開けた。

 寝起きのぼんやりしたノアとしばし見つめ合う。

「おはよ、のあ」

 ノアはぼーっと私を見て、それからトロリと蕩けるように笑みを浮かべてから私をしっかり抱き込んで、再びスーッと寝息を立て始めた。

 おおお。

 これは凄い。私が幼女じゃなかったら勘違いして恋に落ちる所だった。こんな蕩ける様な笑みを見せられたら、世の女性は全員ノアに恋しちゃうんじゃないだろうか。

 うううん。

 こんな適齢期のイケメン、私に縛り付けておくのがますます申し訳なくなってくる。ノアと一緒に居られるのは嬉しいんだけどね。早い所私とノア、それぞれの安定した生活を手に入れなければと、ノアのイケメンっぷりを目の当たりにする度に思ってしまうのだった。

 そして、ノアの腕の拘束がますます強まり、私はますますベッドから抜け出せなくなってしまった。

 やばい。トイレに行きたくなってきた。

「のあ。のあ?のあー!」

「・・・助けが必要かい?」

「・・・たしゅけて、るてぃーなしゃん」

 私の顔はノアの胸に押し付けられているので姿は見えないけど、ルティーナさんの声がした。助かった。

 いくら羞恥心が乏しくなる幼児体でも、さすがに今ここで失禁してしまったら泣く自信がある!

「んぎぎぎ!といれ!といれ!」

「おやおや、大変だ。ノア!起きな!」

 ノアの腕の拘束がゆっくりと緩んでいく。

「よっこいせ」

 言う割に軽やかに、ルティーナさんはノアの腕から私を片手で抜き取った。

 魔法のように私の身体はルティーナさんに片手で抱き上げられていた。更にルティーナさんは片手でノアの左腕を押さえている。超人のノアの腕を片手で押さえるルティーナさん、屈強。

 ルティーナさんがノアの手を離すと、目覚める様子の無いノアは何かを探すようにベッドの上をパタパタ叩いている。

 ルティーナさんがおもむろにベッドの足元にあったクッションをノアに放り投げると、ノアはクッションを胸に抱き込んで動かなくなった。

「るてぃーなしゃん、といれといれ!」

「あいよ。ははは、ノアは寝ていても片時もカノンちゃんを離したくないって様子だね」

 ルティーナさんに笑われてもカノンの目は覚めない。まだまだ寝足りないみたいだ。

 ノアはこのまま寝かせておくとして、私はトイレに行きたいし、お腹もすいた。

 取り急ぎルティーナさんにトイレに連れて行ってもらってから、ルティーナさんと私は食堂に向かった。

 もう朝食の時間は終わってるだろうと思ったけど、食堂にはまだ食事をしている人達が残っていた。

 ルティーナさんとテリーさんには私の正体はバッチリバレている。バレた上でルティーナさん達は私に変わらない態度を取ってくれている。

 そして、昨日エスティナ防衛のために町と大森林の境、丸太柵前に集まっていた冒険者や住民の人達の中にも、私が幼児退行を起こした瞬間を目撃した人は沢山いたと思う。

 少し緊張を覚えて、私はルティーナさんの首にしがみ付く。

 するとルティーナさんが励ますようにパンパンと私の背中を叩く。ルティーナさんのトントンはノアよりだいぶ力強い。

「・・・なんだかよく分からないが、昨日はカノンちゃんも頑張ったんだろ?なら、私達はエスティナを守った仲間だよ」

 私を抱いたルティーナさんが食堂に足を踏み入れると、食堂にいた人達は皆私に注目して、それから皆がかわるがわる声を掛けて来た。

「よお嬢ちゃん、良く眠れたか?」

「カノンちゃん、おはよー」

「これから飯か?いっぱい食べろよ」

「カノンちゃーん!こっちこっち!」

 大勢からいっぺんに話しかけられてキョロキョロしていると、聞き覚えがある声がした。

「みんみ」

 声がした方をみれば、ミンミとラッシュ、グイードの3人がテーブル席で食事をしていた。

 私がミンミを見つけると、ルティーナさんはグイード達の席に私を連れて行ってくれた。

「カノンちゃんおはよう!」

「おはよう、おチビ」

「よう。よく眠れたかー?」

 グイード達に捏ね繰り回されながら、私はルティーナさんからミンミへ手渡される。

「ノアはまだ寝てるんだよ。あんた達、この子をちょっと預かっててくれるかい?朝飯をもってくるから」

「任せておいて~。はあ、最高の癒し」

 グイード達はもうすぐ食べ終わりそうな感じ。ミンミは私を膝の上に乗せて両手でフニフニと私のほっぺを揉んでいる。

 グイード達もノアと一緒に不眠不休で魔獣の群れの対応をしていた筈なんだよね。ノアはまだ寝てるけど、グイード達はすっかり元気。

「のあ、ねてる」

「そりゃそうだろうなあ」

 ノアがまだ起きてこない事を告げれば、グイード達はうんうんと頷いている。

「俺達は徹夜とはいえ魔獣の群れに並走して馬で走っていただけだからな。でもノアは魔獣の群れに飛び込んでは大型の個体をガンガン間引いていたからな。同じ事をしろって言われても俺は出来ねえな」

「あの馬もすげえ。何、あの馬。普通の馬なのかよ。ノアの馬は俺らの馬の2倍は走り回ってたよな?俺らの馬はエスティナに着いた途端に泡吹いて倒れちまったわ。どうにか死なせずに済んだから良かったけどなー」

 馬。

 ノアがスタンレーから連れて来た栗毛の可愛い馬はセイラン号というらしい。

 奇麗でカッコいい名前だと思ったら女の子なんだって。セイラン号は会う度に私に鼻面を近づけて挨拶してくれて、とても可愛いのだ。

 可愛い事は確かだけど、普通の馬と違うかどうかは分からない。セイラン号は、昨日は町の人が預かってくれて色々お世話をされているはず。

 ミンミの膝の上でセイラン号に想いを馳せていると、バタバタと二階から誰かが階段を駆け下りて来た。

「カノン!」

 噂をしているとノアが起きて来た。

 ノアに挨拶する周囲の人々をまるっと無視して、ノアは真っ直ぐ私達の座るテーブルにやって来るとミンミの膝の上からサッと私を抱き上げた。

「目が覚めたらカノンが居ないので驚きました」

「ごめぇん」

「様子を見に行ってみたら、カノンちゃんがトイレに行きたがってたんだよ」

 ギュウと私を抱きしめるノアの後ろには、お粥の入った大きなお椀を2つ持ったルティーナさんが立っている。

「やっぱりすぐ目が覚めたね。クッションじゃ騙されないか」

 ルティーナさんは私とノアの分の朝食もテーブルに置いて、はっはっはと笑いながら厨房に戻っていった。

「よお、ノア。よく眠れたか?」

「昨日、一昨日とお疲れ様~」

「まじ疲れたよな。俺はもう少し休みたい」

「みなさん、お疲れさまでした。討伐試験への同行もありがとうございました」

 討伐試験の言葉がノアから出ると、グイード達は微妙な顔になった。

「試験も何も、なあ?」

「私達はもちろん、町の防衛に残った冒険者と住民全員がノアの力を思い知ったわよ・・・」

 それは私も激しく同意する所。

 これ以上ないほどに昨日のノアの無双は、ノアの力の証明になったよね。

 ノアはそんな周囲を意に介さず席に着くと、私のお粥をひと匙すくってフウフウ息を吹きかけて冷ましている。私は定位置のノアの膝の上で、そのお粥を食べさせてもらう。

「今日は町総出で魔獣の死骸の後片付けだ。自分が倒した魔獣に関しては素材の権利が発生する。ノア、お前は町中でも結構な数の大型個体を仕留めたし、エスティナに到着する前にも結構な数の魔獣の討伐したろ?森に戻って確認した方がいいぜ」

「もうしばらくは、森に行きません」

「いや、待てって。森で倒した魔獣には希少種も何匹かいたぞ?防具や武器にも使えるし、単純に素材として全部売るだけでも一財産になるぜ?今回の緊急事態は多分スタンピードの認定をうけるだろうから、個人の権利を主張しなければ均等の分配金しかもらえないぞ?」

「町中の大型個体に関しては権利の主張をさせていただきます。ですが、森林内に置き去りにした魔獣に関してはグイード達かギルドで好きにしてください。もう私はしばらくカノンから離れる気はありません」

「おいおい・・・」

 グイ―ドの話に対して、ノアは頑として森に出向く事を拒否する。

「のあ、わたち。るしゅばん、ちてるよ?」

「行きません」

 ノアを見ようと上を向いてぱかーと開いた私の口に、ノアがお粥をひと匙入れてくる。美味しい。

 ノアの私からもう離れないという意思は固いみたいだ。

 一晩離れ離れでいる間に魔獣の襲撃やら、私が大人サイズに戻ってしまうやら、タイミング悪く色々重なったからなあ。

 お金はあるに越したことはないけど、大熊のお金もあるし、ノアが倒したイノシシもだいぶ大きかったよね。他にも大穴が開いた丸太柵の近辺には何匹か軽トラック位の大きさの魔獣が転がってたけど、あれも全部ノアが切り伏せてたよね。

 思わぬ臨時収入になりそうだし、ノアがそう言うなら当初の予定通りしばらくのんびりしてもいいかもね。

 私がノアにうんと頷くと、ノアが奇麗に口角を引き上げてもうひと匙お粥を口に入れてくる。

「はあー、分かった。森林に残してきた魔獣に関してはケネスさんと相談する。だけど町の中に転がってる魔獣にだけは立て札立ててくれよ!」

「わかりました」

 といいながらも、ノアはせっせと私の口にお粥を運ぶ。でも私はそろそろお腹一杯。私のお腹の様子を敏感に感じ取ると、ノアは今度は私が食べきれなかった分と自分の分のお粥を物凄い速さで食べてしまう。この、ノアの言わなくても私のお腹の状態が分かる育児スキルよ。冒険者としても凄いのに育児でも達人過ぎる。

 それから食事が終わった私達はグイード達と一緒に、昨日激戦が繰り広げられた町の外れの丸太柵前に向かった。


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