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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
クノーテ共和国お助け編

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再びクノーテ共和国西方辺境の砦にて 2

 北の魔人の二つ名を持つヴィゴ閣下と、アストン王国の魔女と呼ばれるビアンカ様が迫力ある笑顔で対峙する中、サージェ先生がスッとヴィゴ閣下に手を差し出した。

「先触れもない我々の訪問を受け入れてくれて感謝する。高名なヴィゴ上級大将と会えて光栄だ。私はサージェ・ブロック。オーガスト・エメの推薦を受けて知識の塔の第一席賢人の位をアストン王国国王ジュリアン陛下よりこの夏賜った。今回の訪問で貴国の利となる話も色々と出来ればと思う。我がアストン王国とクノーテ共和国は長らく交流が途絶えていたが、我が国の聖女カノンが両国の架け橋となり、再びクノーテ共和国と手を取り合っていける事を願っている。聖女の活動には我々も同行する予定だ。よろしく頼む」

「こちらこそ、聖女カノンの慈悲を受けられる事、感謝しかない。首都への道行きは私が案内する。聖女の助力により我が国の防護壁がより強固なものになり、大森林へ対しての国の守りも厚くなった。そのお陰でしばらく私が首都に戻る事も出来る。カノン、これほどに早く戻ってきてくれるとは。無理をさせたのではないか」

「いえっ!白竜が送迎してくれたので、移動時間がほぼ無かったんです。おかげで早くこちらに戻ってこられました」

 偉い人同士の挨拶の中、油断していたら不意にヴィゴ閣下から話を振られて私の背筋がビクウ!と伸びた。なんか、ヴィゴ閣下もサージェ先生もいつもの雰囲気と違うので、私も何だか緊張するな。

「それと、こちらはこの度聖女の護衛を務めるビアンカ・ケープゴッド。アストン王国の魔術師団長を以前は務めていた」

「ほう、南の魔女殿がこれほどに美しい女人だったとは。辺境の砦ゆえ細やかなもてなしは難しいが、至らぬ所はご容赦願いたい」

「気遣いは無用。私も元軍属の人間だからな。だが、もてなしというのであればひとつ、北の魔人とこの大陸で名を轟かせるアンブロシウス・ヴィゴと是非手合わせ願いたいものだなあ」

 黒い豪奢なドレスはビアンカ様の戦闘服。騎士服や甲冑に身を包んでいるビアンカ様はもちろん臨戦態勢なのだけど、ドレスに身を包んだ淑女の装いであったとしてもビアンカ様は全方向に臨戦態勢。つまりビアンカ様は24時間どんな時も臨戦態勢がデフォなのだった。なにせ戦闘民族の戦闘狂なので。強そうなヴィゴ閣下を前に目の色を変えない訳が無かった・・・。

 ビアンカ様はヴィゴ閣下の前で口角を思い切り引き上げ、ニヤアと獰猛な笑みを浮かべている。

 ビアンカ様のお目付け役でもあるサージェ先生は、そんなビアンカ様を眺めながら目が半眼になっているけど、まだ様子見な感じ。そしてノアは真顔。あからさまに他人事でビアンカ様の言動に興味がない様子。2人共ビアンカ様を止める様子はない。

 こんな出会い頭に暴れん坊な様子では、ビアンカ様がヴィゴ閣下に誤解されてしまうのでは。初対面で勝負を挑んじゃいましたが、ビアンカ様は、本当は情が深くて面倒見が良い優しいお師匠様なんですが!

 しかしビアンカ様に対してヴィゴ閣下は非常に紳士的だった。

「はは!あなたのような美しい人に向ける剣は持っておらぬよ。だが、我がクノーテ共和国軍に入隊頂けるのなら、訓練として喜んで手合わせをしよう。我が軍に高名な南の魔女殿を迎える事が出来ればなんと心強い事か。魔女殿、いかがかな?」

「くっ、ははは!北の魔人がこれほど口達者だとはな。せっかくの誘いだが、私はグリーバレーで祖国防衛に努めると自分の最後の役目を定めた。共和国軍に入ることは無いゆえ、北の魔人との手合わせは残念だが諦めるとしよう」

 ヴィゴ閣下が鮮やかにビアンカ様との手合わせを回避した!

 ヴィゴ閣下すごい。ビアンカ様の機嫌を損ねる事無くさらりといなすなんて、カッコいい。

「ヴィゴ上級大将、あなたとは上手くやっていけそうだ。これからよろしく頼む」

「こちらこそ」

 そしてサージェ先生はヴィゴ閣下と固く握手を交わしていた。

 今の一連の流れは、サージェ先生がヴィゴ閣下を信用するのに十分だった。サージェ先生の周囲は癖が強い人ばかりが集まっているので、何気にサージェ先生がその場を収めたり、後始末をする立場になる事が多い。今回クノーテ共和国にやって来た事も、そのサージェ先生の処理能力を買われてだもんね。半ばジュリアン王に押し付けられていた感じもするけど。

 そんなサージェ先生にとって良識のある紳士的なヴィゴ閣下は、とても好印象だったと見受けられる。ここは巨人が集う砦だけど、グリーンバレー騎士団みたいに血の気の多い人が案外少なく、ヴィゴ閣下を筆頭にみんな穏やか温厚なのだった。のっけから訓練場にて勝負だ!なんて事にならずにサージェ先生もホッとしただろう。

 初対面の挨拶が済み、私達はヴィゴ閣下に勧められてそれぞれお高そうな椅子に腰をおろした。

「まずはアストン王国の聖女カノンに、此度の私の要請にお応え頂けること、感謝申し上げる」

「そんな・・・」

 今私は外交大使のサージェ先生と共に、アポなしとはいえ外交活動としてヴィゴ閣下と会談している状態なんだもんなー。でも、ヴィゴ閣下にこんなに丁寧に話されると、こちらも緊張すると言うか、ヴィゴ閣下の口調に合わせて話す言葉の引き出しが無い。

「ヴィゴ閣下、私、いつも通りに話していいですか・・・?」

 私が恐る恐るお伺いすると、ヴィゴ閣下とサージェ先生がフハッと同時に笑った。

「もちろんだ。カノンが話しやすいようにしてくれ」

「良かった。あの、そもそもこの砦で沢山お世話になったお返しですし、この砦の軍人の皆さんはエスティナの冒険者達と同じ気持ちで、命を掛けて獣害を防いでいるのだと思います。だから、エスティナと同じ境遇で苦しんできたクノーテ共和国の方々を私が助けられるなら、是非力になりたいと私は考えています」

「・・・本当に、有り難い事だ」

 ヴィゴ閣下は優しい顔で私の話を聞いてくれた。

「カノンは気取らずに話す方がお好みのようだ。この辺で顔合わせの体裁は取り繕えただろう。これから先は腹を割って、お互いの利となる話が出来ればと思うがどうだろうか」

「そうしてもらえると俺も助かる。俺もビアンカも、腹の探り合いは苦手でな。何もクノーテ共和国を丸め込もうなどと思ってはいない。長きに渡り両国を悩ませてきた問題を、協力して解決しようという提案だ。俺の話をまずは聞いてもらい、それから俺を首都の共和国首脳部へとヴィゴ上級大将から取り次いでもらいたい」

「うむ。では詳しく聞かせてもらおうか」

 それからサージェ先生がこの夏、知識の塔から大陸全土へ発信されたゴルド大森林で10年周期で発生するスタンピードと、スタンレー王国で定期的に行われる聖女召喚、そして聖女の結界とスタンピードとの因果関係についての考察、学説の説明がされた。

「我が国には聖女の結界から放たれる穢れを視認できる魔眼を持つ者が3人いる。その内の2人は目の前にいるカノンとビアンカ、そしてもう一人は俺の前に第一席賢人を40年務めたオーガスト・エメだ」

 聖女の負の感情から穢れが生まれたと言ったのは白竜。その穢れを目視できるのは私とビアンカ様、オーガスト様の3人だけ。これが穢れですと誰の目にも明らかにする手段は無いと思う。けれど体感で穢れの存在を証明できる方法がある。それが私の聖女の力を行使して穢れを取り除く事だ。

 そしてこの事については、ダレンさんとヴィゴ閣下は既に体験済みだ。

「サージェ殿、俺は信じるぞ。何せ聖女の奇跡を俺はこの身をもって体験しているからな」

 だからヴィゴ閣下もダレンさんもサージェ先生の話を聞いた後で、力強く頷いてくれたのだった。

「軍の上層部にも怪我を負って後方に下がる事になった者が多い。カノンやビアンカ殿が見れば穢れに侵されている者も多く居るのかもしれん」

「ヴィゴ上級大将、獣害の対応で穢れを受ける場合だけでは無いぞ。聖女に関わらず、人は負の感情を持てば穢れに侵されるし、他人を呪う事が出来るのだ」

「なんと・・・」

 ビアンカ様の言葉にヴィゴ閣下とその後ろに控えるダレンさんが息を飲んだ。

「クノーテ共和国にも以前と人が変わったように心が塞いでいる者や、周囲へ攻撃的になっている者はいないか?我が国の恥を晒すが、前王妃と王兄は穢れに心身を侵されて現在療養中だ。最早正気には戻らんだろう。もともとの気質にも左右されるが、穢れは負の感情を増幅させ、自家中毒を起こし、本人の精神も侵されていく。そして大きく膨れ上がった穢れは、やがて周囲へも影響を及ぼし人から人へ移っていく。アストン王国の王宮内にもかなり前王妃と王兄の穢れに侵された者達が居た」

 これはこちらに来る前にオーガスト様から聞いた話だけど、元王妃と元第一王子の侍女さん、侍従さん達、その他お世話をしていたお城のメイドさん達は全員もれなく程度の違いはあれ穢れに侵されていたという。それでも元王妃と元第一王子が王宮を去って、穢れが消えたりだいぶ薄まった人がいた。しかし穢れが消えなかった人もいる。

 この違いはやはり、その人の気の持ちようだってオーガスト様は言っていた。元気でポジティブな人は基本穢れを跳ね飛ばすのだそう。ジュリアン王を思い返せば、お母さんから幼い頃から呪詛を受けていたようだけど、あの陽気な性格で穢れに吞み込まれる事は無かったもんな。

 けれど怪我や病気をすると、穢れを自分で生み出してしまったり、周囲の人の穢れに影響を受けやすくなる事もある。これは人が多い場所ほどそうだと、オーガスト様は言っていた。アシュレイ様はこのパターンだったんじゃないかなと思われる。落馬の怪我は完治したけど、ずっと頭痛に悩まされていたのが解呪をしたらすっかり治ったからね。

 オーガスト様から聞いたアストン王国王城内の現在の状況をビアンカ様がヴィゴ閣下とダレンさんに説明すると、ヴィゴ閣下はしばらく考え込んでいた。

「我が国の恥を晒すが、先王の側近はそのほとんどが穢れに侵されていた。先王自身はそもそも王の器ではなかった。これではまともな政が出来なかったのも当然だと思う。だがアストン王国は新王が立ち、生まれ変わろうとしている。我がアストン王国は、これから外へ開かれた新しい国を目指していく。貴国とは、ラシード王が結んでいた友誼を再び持てればと願っている。どうか、共和国首脳部へと取次ぎ願いたい」

「承知した。では共に首都クノーディアへ行こう」

 サージェ先生にヴィゴ閣下は力強く頷いた。

 偉い人同士の話し合いはどうやら纏まったようだ。でも、この砦の責任者であり、ビアンカ様みたいに西方の守りの要であろうヴィゴ閣下が砦を離れて本当に大丈夫なのかな?

 すると私の疑問にヴィゴ閣下が声を上げて笑った。

「アストン王国には白竜という守護獣がいるが、我が国にも最近強力な守護獣が現れてな。砦の兵士達は私の事よりもよほど頼りにしているようだぞ。だから私も安心してこの基地の留守を守護獣に任せたいと思う」

 笑顔のヴィゴ閣下が親指で窓の外を指さした。

 ヴィゴ閣下が指さす窓の外を見ると、はるか遠くの山の上にお座りする白竜の隣、真向いの山にはフェンリルがお座りしていたのだった。


 


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― 新着の感想 ―
久しぶりのフェンリルちゃん!前回の最後で、もう眠りについてそのまま生を終えちゃうように読めたから、元気にお座りしててうれしい
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