聖女と勇者の活動報告 4
とにもかくにも、アストン王国の考えとしては、私の活動と合わせて色々と外交を済ませてしまおうという事となった。
方針が決まった事でジュリアン王とオーガスト様は退室された。
残されたのは私とノア、ビアンカ様とサージェ先生の4人だ。
クノーテ共和国で知り得た事で、ジュリアン王とオーガスト様には言う事を迷った件がもう一つあった。
スタンレーの聖女召喚の被害者、タエさんの話だ。
私とノアはクノーテ共和国で知る事となったフェンリルとタエさんの話をビアンカ様とサージェ先生にお伝えした。
タエさんが亡くなった後、魔石が残されたという話を聞いてビアンカ様もサージェ先生も考え込んでしまった。
「あのー、多分ですが。白竜もフェンリルも、体内に魔石を持つ私やタエさんを同族として認識しているのかと思います」
「カノン、お前が元居た世界は、人はみな魔石を持つのか?」
「いいえ。私が元居た世界では、魔石を持つ生き物は居ません。人でも獣でもです。私は元々は魔石を持たないただの人だったはずです」
サージェ先生の質問には否と答える。
そもそも、私が元居た世界には魔力、魔法が存在しない。
「私は、召喚陣にどの様な紋が組み込まれていたかが気になるな。この世界に聖女が召喚された時に、その身には色々な制限と共に肉体への干渉があり、体が変質するとともに特異な力を使えるようになっているのではなかろうか。一度スタンレーの召喚地へ行って紋様を確かめたいな。そして確かめた後、その碌でもない召喚陣は跡形もなく破壊しつくしてくれよう」
そう言いながらビアンカ様は私の頭を揉む。
「カノンと出会えた事、私は嬉しく思っている。だが、それとカノンがスタンレーで不当な扱いを受けた事は別の話だ。スタンレーには過去に召喚された聖女達の分も合わせ、必ず報いを受けさせてやろう」
「ビアンカ様が怒ってくれるのは嬉しいですが、危ない事はして欲しくないです」
ビアンカ様、やると言ったら絶対やっちゃうタイプだもんな。
「これだからカノンは可愛いな。私の事を心配してくれるのはこの国でカノン位だぞ」
大輪の花が開くように微笑むビアンカ様を感嘆と共に見ていると、サージェ先生が笑い声をあげた。
「カノン、これは過去2度のスタンピードをグリーンバレーで防ぎ切ったアストン王国の魔女ビアンカだぞ。ビアンカについては何の心配も要らんから好きに暴れさせておけ」
ビアンカ様の二つ名はグリーンバレーの魔女だと聞いていたけど、グリーンバレーに来る前からアストン王国の魔女と呼ばれていたそうだ。多分頼もしい的ないい意味で。
10年前のスタンピードはとても酷い物だったと、折に触れケネスさんやアシュレイ様から聞いていた。アシュレイ様のお父さん、前グリーンバレー領主もお亡くなりになったし、エスティナの人達も多数が犠牲になったと聞く。
10年前、スタンピードが押し寄せてエスティナの防衛ラインが突破され、スタンピードは領都グリーンバレーをも呑み込もうとした。そして激しいグリーンバレー防衛戦が繰り広げられたのち、10年前のスタンピードは収束した。
その時、王都から応援に来た王国軍には当時魔術師団長だったビアンカ様がいて、大規模魔法を連発。崩れそうになる防衛線を何度も支えたのだそうだ。エスティナの人達の事は何度か聞いていたけど、ビアンカ様の動きについては今初めて聞いた。だからアシュレイ様とも縁があって、引退してグリーンバレーに来たんだね。
そして2度のスタンピードを防いだという事は、20年前もビアンカ様はグリーンバレーで活躍されたという事だった。聞けばビアンカ様は15歳から27年の長きに渡りアストン王国魔術師団長を務めていて、20年前も師団長としてスタンピード発生時にグリーバレー防衛戦に参加したのだそう。
15歳て。でもその年で魔術師団長に抜擢されるなんて、ビアンカ様はその当時から能力が突出していて他者を寄せ付けなかったんだろうなー。
「20年前も酷い物だったが、10年前のスタンピードはそれを上回っていた。昨年のグリーバレーのスタンピードはノアのお陰で被害はほぼ無かったが、凶暴化する獣達はどんどん巨大化しているようにも思う。人が幾度も獣害に脅かされる原因が人の手による物ならば、なんとしてでもそれを阻止したい」
「そうだな」
「はい」
私もノアも、サージェ先生も、ビアンカ様と同じ気持ちだ。
「ノア。スタンレーは過去に何人の聖女を召喚したのだったか」
「50年程前に初代の聖女様がスタンレーにいらしてから、およそ10年に一度新たな聖女様がスタンレーに召還されています。カノンは6代目の聖女として召喚されたのです。ですが・・・、私の知る限り聖女様の中に「タエ」という名前の方はいらっしゃいません」
「聖女召喚は6人どころではない。もっと大勢が他の世界から呼ばれているのではないか」
ビアンカ様の発言に、応接室は再び静まり返ってしまった。
「タエと言う娘も哀れだし、聖女としてスタンレーに囚われた娘達も哀れだ。カノンが我が国に逃げ延びる事が出来て本当に何よりだった。何とかしてこれ以上の悲劇が起らぬようにしたいな」
「そのためにもクノーテ共和国と手を組みたい。スタンレーに強硬介入するにも大義名分が必要だしな。穢れという物を俺はこの目に見る事は出来ないが、王都での夏の競技場での騒ぎは記憶に新しい。獣だけではなく人もあのように狂わされるとは、穢れは恐ろしい物だと思う。今回カノンは傷病軍人の解呪、治癒を頼まれた訳だが、大都市を訪れれば我が国の王都と同じように穢れに侵された者達も多くいる可能性もあるな」
「そうですね・・・」
獣達が纏う穢れは、聖女達の怒り、悲しみ、嘆きの穢れの噴出に獣達が触れ、感化され、どんどん感染していくような感じじゃないかなと思う。悪性ウイルスみたいなものかな。
人が纏う穢れは、元第一王子や元王妃の時みたいに自家中毒のように自分のマイナス感情が増幅して黒い穢れとなる時もあれば、ビアンカ様のように人の負の感情をぶつけられ続けて穢れが呪いのように蓄積されていく時もある。
ビアンカ様は私の穢れに対する力を解呪と呼ぶけど、私の感覚では黒い煙みたいなもやもやや、黒スライム、黒いぽってりした粘土、黒いプリン、黒い宝石、人によって形状は様々だけど、その黒い物を力業で消滅させるイメージ。感覚的な物だから、治癒士に解呪の仕方を教えろと言われても無理だな。独占する気はないんけど、私がいる限りしか使えない、きっと私だけの力だ。
そう思ったら、人の多い場所に発生する人の負の感情から発生する穢れは仕方ないけど、聖女の負の感情に感化されて獣が穢れに侵される仕組みとなっている、スタンレーにある聖女の結界はどうにかしたいな。そもそも聖女召喚と言う名の、異世界からの女性の拉致、誘拐をスタンレーにはやめさせたい。
そのための一歩として、まずは私の首都での働きで、傷病軍人さんを回復させ、その他にも穢れに侵されてマイナス思考になっていたり体調不良を抱えているような共和国の要人の方々の解呪をして、穢れの存在を分かってもらわないと!
「がんばります!!」
「私達も全力でカノンを守り、サポートしますよ」
突如やる気を漲らせた私に、ノアとビアンカ様、サージェ先生が力強く頷いてくれた。
本当になんて心強い味方だろう。
ノアとビアンカ様とサージェ先生が居たら、他国のクノーテ共和国に行ったって不安は無いし、何でもできる気がするね。
後の話は早かった。
私達はそれぞれの役目を負いながら、ジュリアン王公認の元でクノーテ共和国を訪問する事となった。
共和国の一番偉い人、首相宛てにジュリアン王からの親書がもう一度書き換えられて、3日後に私達は白竜の背に乗りクノーテ共和国の北の砦へと旅立った。




