九
僕はK岡と付き合い始めたけれど、やってることは付き合う以前と変わらなかった。
ただ休み時間に彼女の席に行って一緒に話して、放課後の時間の空いている時は一緒にゲームをして。僕の親もK岡の親も厳しかったので、休日にデートに行くとかそんなちゃんとした交際はしなかった。
でも、それも中学を卒業するまでだ。高校生になったらいっぱい遊んでやるんだ。
なんて思いを胸に秘めて、僕は相変わらずいつも通りの生活を続ける。
そう、いつも通りだった。
いつも通りで特筆すべきことが何も起きない。そんな日々は一瞬の内に流れて、いつの間にか夏休みがやって来た。
僕はバスケ部に所属していたので、夏休みがまともに休めるものではないのだけど。
そんなことを思いながら、駐輪場に自転車を止める。溜息を吐きながら部活用の大きな鞄をその背に背負い、大容量の水筒を手にぶら下げて、僕は体育館への道のりを歩み始めた。
そんな僕の視線の先に、数名の女子の姿が目に映る。たった今校門から入って来た彼女たちの姿が。
「………え。」
その女子の中に、K岡はいた。彼女は合唱部だったので、その周りにいたのも合唱部だと思う。K岡は僕と目が合うと、周囲の彼女達に僕の方を指差しながら言った。
「あれが私の彼氏なの!」
と。
こちらをちらちら見ながら、彼女達は校舎へと入って行く。僕はその姿に頭の上ではてなを浮かべていた。
どうしてK岡は合唱部の人達に、僕たちが付き合っていることをバラしてるんだ?
その疑問は結局、夏休みが終わっても解消されることは無かった。