七
期末テストまで残り一週間を切った。部活が一切禁止となるその期間、僕には仕事が課せられる。
「二宮、数学の対策問題は出来た?」
ハスキーな声で彼女は僕に問いかける。
放課後の教室、僕とI部は二人して、期末テストの対策問題を製作していた。学習委員というやつで、クラスの学力を向上させるために毎テストで対策問題を作らなければならないのだ。
「一応出来たけど。」
「そ。じゃあ見せて。」
言われて渡したその瞬間、I部は額に皺を寄せた。
「字が下手。」
「それは仕方なくないかな?」
I部と僕はこれまた腐れ縁だ。小学校六年生でたまたま一緒の委員会の委員長と副委員長になり、中学一、二年生で同じクラスになり、たまたま一年生の前期と後期、二年生の前期で同じ委員会になっただけの、単なる腐れ縁だ。
僕は彼女に合わせて委員会を決めているわけではない。ただなんとなくやりたくてやってるだけで、もしどちらかが合わせているのだったら彼女の方だ。
まあしかし、I部が合わせているのは多分ない。中一と中二でなった学習委員と学級委員は自己申告か投票で決められる特別な役職で、二年とも自己申告なんてしていなかったからだ。
「仕方なくなんて無いから。後々これ印刷して分けるんだから、もっときれいに書き直して。」
「………はい。」
ついでに言えば、I部は僕と組むのが嫌らしい。いつか彼女が言っていた。仕事を全然しないから、と。
だからこれは青春の一幕なんかじゃない。どこまでも現実の、一般的な、ただの中学生の委員会活動だ。
「I部はどう?理科と社会と英語の問題作成は。」
「気にするくらいだったら早く数学と国語の問題作成終わらせて手伝って欲しいんだけど。」
「あ………すみません…」
僕が彼女に厳しい物言いをされても一切逆らえないのは、これまで彼女に委員会活動を頼り過ぎていたからである。ついでに、僕の二個上の姉がSなのでどうってことない。
夕日が差し込んでくる教室。二人だけの空間。そこの扉が開かれた。
「二宮君、I部さん。調子はどうです?」
「S野先生……まあまあですね。」
S野先生は半袖のワイシャツの襟を整えながら教室に入って来た。先生はいつも皺の刻まれた顔をしていたけれど、それは多分、怒りや憎しみで刻まれたものではないと、なんとなく思っていた。
「まあまあじゃあだめだね。」
そう言って優しく笑うS野先生は、とてもとてもやさしそうだった。
「だってS野先生、二宮が全然働かないから。」
「え?そうなの、二宮君?」
「ちょっとI部、それは言いがかりじゃない?」
「言いがかりじゃないけど。」
「確かに間違っては無いけどさ。」
そうやって言い合う僕とI部の事を、S野先生は眺めていた。微笑みながら、静かに。