六
僕がK岡さんと話すようになって、一週間が経った。
彼女と話す内容は、決まってあのYoutuberの話題ばかりで、しかし僕はその会話が楽しかった。
そのYoutuberは別にマイナーな人たちではない。ただ、その人の事を表沙汰にして取り上げる人がとにかく少なく、つまりはスカイピースやはじめしゃちょーの様な実写系Youtuberではなく、ゲーム実況者だった。
まだその時代で流行ったばかりのYoutuberという職、その中で取り立てて表で話題にされることが少ないゲーム実況者。そして、今まで委員会等以外で関わらなかった異性。
僕の中でK岡さんは特別な存在になって、僕の周囲が少しずつ変わっていった。
「お前とK岡、付き合ってるん?」
「は、はぁ?」
T村は昼休み、僕に尋ねた。急に男女が仲良くなったら疑われるのも自然なことだ。
「別に付き合ってないで?」
そう。僕は彼女と付き合っていない。ただ仲が良くて、話しているだけで、趣味が合うだけ。
ただ、それだけで。
「あのK岡ってやつ、小学校の頃さ、授業中に××××してたんよ。」
T村はそれがさも面白いことかの様に言う。口角を上げて、口を開けて、面白がっている。
T村は性格が悪い。ことあるごとに毒を吐く。だけれど刺激を欲する思春期では、その毒は劇薬と扱われてしまう。
僕は横目でK岡の方を見た。彼女は今日の休み時間も変わらず絵を描いている。
「そ……そうなんや。」
僕と彼女はただの、趣味が合うだけの
「だからさ、お前あいつと関わんのやめた方がええで?」
特別でもなんでもない関係で
「てかあいつ、勉強できんし、休み時間もずっと絵を描いとる。陰キャやで。」
本当にそれだけの、それだけの関係で
「嘘つきやしな。小学校の卒業式で北海道行く言うてたのに、まだここにおるんや。」
ただ、それだけで。
「あーんな性悪、そうおらんで?」
「あの、さ。」
口が開いた。
「そうやって人の事悪く言うの、やめた方が良い…で。」
ぼそっと溢した台詞。T村の顔を見る。彼はなんだか不満げで、そしてなんだか呆れた様な顔をしていた。
「つまんね。おもんねーよ、二宮。」
T村は吐き捨てて、窓際に固まっている男子の中に入って行った。
T村があの集団に話している内容が気になる。けれども僕は、もう言ってしまった。T村と僕はもうこれまでだ。
僕はいつも通り、K岡さんの席へと歩いて行った。