五
先生に少し言われた程度で、止まるような僕らじゃなかった。
いや、彼らじゃなかった。
少しの刺激はカンフル剤となり、彼らの熱を助長する。僕はその熱に当たるのが嫌で、少しの間その集団から離れることにした。
それはまただった。これまで何度も何度もあった。既存の人と関わるのが少し嫌になる時期。新たな人との出会いを探索する時期。
…僕は集団生活に向いてない。
溜息を吐いて、他所のクラスに行こうとした時、視界の端に何か映った。
「それって―――」
なんとなく、なんとなく口を開いた。そして初めて、認識した。
髪が長くて、腰まで伸びていて、しかし枝毛の一つも無くて、黒色で、
小柄で、整った顔立ちで、目がまん丸で、大きくて、
「―――〇〇さんの絵だよね?」
言われたその時、彼女も僕の事を、きっと初めて認識した。
彼女は驚いた様に、大きな目をさらに大きくした。
「あ、はい。そうですけど。」
その口から出た声は、なんだかアニメとかでよく聞く声をしていた。つまりは高く、幼い声。
「僕もその人の動画観るんだよ。ていうか絵、上手いね。」
それは僕の人生において、まったく新しい風だった。なんだか普段の喋り方が出ない。嫌いだから出なくていいが。
今初めて、僕はちゃんと喋っているんだと思った。
K岡さんは、少し狼狽えていたけれど、僕は絵が上手い奴が好きだった。
「ほんとすごい。これ上手すぎるよ。」
「あ、あの…」
絵をベタ褒めしている僕の事を、彼女は見上げる。
「そんなに気に入ったんだったら、あげますよ?」
「え、いいの!?ありがとう!」
僕は絵が描かれたノートの切れ端を、自分の鞄のクリアファイルに挟んで持って帰った。