四
教室は朝から賑やかで、僕はその中の一つだった。一つであり、一人ではなかった。
中学二年生の日々は、ただ楽しいだけの思い出ばかりがごろごろしていて、しかし細かいところにどこか気持ちの悪い違和があった。
「なあ、S野先生でゲームつくったんや。やろや、みんなで。」
「お、おもろそうやん!」
『燃え上がれ!ST魂熱血ゲーム』と銘打たれたそれは、S野先生をおよそ馬鹿にしたような、そんなお遊びだった。
「あれや、ルールは人参侍ゲーム(本家はち〇ち〇侍ゲームだが、不適切だと禁止されたので人参になった)と同じや。」
そのゲームは瞬く間にクラスの男子に広まった。もちろんそういうノリが苦手な人や女子には広まらなかったが、仲間内で広まった。
広まってしまった。
一個人をひどく滑稽に、馬鹿にした内容のそれが。
「皆さん、席についてください。」
その日のS野先生は、怒りというより哀しみをその顔に含んでいた。ほうれい線が浮き出て、目じりが下がって、呆れた表情の様にも見えた。
「皆さんの中に、おかしな遊びを考えた人がいると耳にしました。」
僕を含めた数名の男子が、その表情を強張らせる。
ちらりと窓際に目をやった。そこにはサッカー部の、N村君が座っている。彼は見るからに焦っている表情をしていた。
その前の席。そこに座っているもう一人のサッカー部員は、その表情を変えずにいた。あの話の真ん中に、彼はいたのに。
「今後そのようなことをするのなら、皆さんは修学旅行に行けなくなりますよ?」
その脅し文句を真に受ける人は少なかった。けれども、少しだけ、クラス全体がざわめいた。
「では、朝のホームルームを終わります。テストが近いので、皆さん勉学に励むように。」