三
「―――ってのが今日のうちのクラスの出来事でな?マジであのS野のヤツ、空気読めんねや。」
憂鬱だ。自転車を漕ぎながら口を動かす。しかしそこから音は出ない。出さない。
「聞いとるか?二宮。」
「聞いとる聞いとる。S野先生の話やろ?」
並走しながら相槌を打つ。しかしそれは同意を意味してない。
その頃の僕はギラついていた。心にナイフを持っていた。この世に人間は幾らでもいるのに、誰も僕を理解できないと。
だけど――――
「そやな。S野先生、そんな怒らんで良いのに。」
僕はそのナイフの刃を、分厚いカバーで覆い隠していた。
涼しいけれど、どこか不快感を帯びた風が首に当たって、冷汗が伝う。
「まぁーーーったくもう、タルいで。」
溜息を吐きながら僕の横を自転車で走るS木を横目で見て、バレないように溜息を吐いた。
僕とS木は腐れ縁だ。本当に腐りきった、縁なんだ。だけど帰る方向が一緒だから、小学校からずっと一緒にいる。ただそれだけの関係なんだ。
そう思っているのがS木もだったらいいのに。なんて思う僕はきっと屑だ。
「テストも近いし、マジでタルいことばっかや。とっとと死にてー。」
「………そやな。」
死にたい。死にたい。死にたい。
なんでそう軽々しく言えるのか、僕は理解に苦しんだ。
小学校からの仲で、ずっと一緒に登校しているのに、どこまでも違うS木のことが―――
――――僕は嫌いだ。