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二
「コラァ!!!!」
怒声が教室に響いた。授業中にそんな大声を出すのは先生しかありえない。
だけれどしかしその声は、その時数学の授業をしていたM浦先生ではなかった。
「授業中だぞ!!ちょっとは静かにせんか!!!」
たまたま廊下を歩いていたS野先生だった。
生徒達は、予想外のS野先生の登場にその口を半開きにして固まる。
それまで賑やかで和やかだった教室が、一気に静寂と緊張に支配される。
S野先生は長年の教員生活で刻まれたその皺の入った顔を歪めに歪め、そして緩ませた。
「M浦先生、隣のクラスも授業してますので、ちゃんと指導してください。」
「あ、はい。すみません。」
ぺこりと軽く会釈するM浦先生。彼の顔には皺の一つも刻まれていなかった。
S野先生はそんな返事に少し不満げな顔をしながら、教室の扉から去って行った。
静寂が残る教室。生徒の中には少しだけ、何かを堪えている者がいた。
「怒られてもうたわ。」
と、M浦先生が呟いた瞬間、教室が再び笑いに包まれた。
堪えていた者は笑い出して、笑い出した者の周囲の生徒は、連鎖するように笑い出した。