十四
母は職場の友達から聞いたらしい。その職場の友達の子供がK岡さんと仲が良くて、そこから連鎖的に僕の喉元に届いてしまったのだ。
僕はその、母親の友達の子供であって、K岡さんの友達のその子の事は、全く知らなかった。名前も顔も、何もかも。
赤の他人に見られている。
赤の他人に見られている。
赤の他人に見られている。
見られている。
僕の逃げ場はどこにもない。
いつからか同じ部活の人達にも、後輩にも聞かれるようになった。
「二宮って彼女いるの?」
僕はそんなに有名人じゃない。なのにどうしてここまで話題が大きくなるんだ。K岡のせいか。K岡のせいなのか。
『周囲が、変わり始める。』
女子と付き合うって良いこと無いじゃないか。誰だよ、彼女がいる奴はステータスだって言ってた奴は。最悪のデバフだよ。
二年生後期――冬
僕は、約束を守らずに、予定調和を引き起こしたK岡の事が嫌いになった。
「おーい元気ぃ?」
机に座って頬杖をつく僕に、S井は話かけに来た。
「元気も何も、お前も知ってるだろ。」
「え、何を?」
「……言わせるの?」
じろりと睨む僕に対して、S井はきょとんとした顔をした。
「いや、本当に何もしらないんだよぉ?」
僕は心の中で分かっていた。S井は嘘を吐かないということを。だけど僕は―――今の僕は他人を信じることなんて出来なかった。
「話しかけんなよ、嘘吐き。」
突き放して、机に突っ伏した。視界が暗くなればなるほど、僕の世界は僕だけのものになる。登場人物が目に映らない。余計な情報も入らない。
「いや、本当にどうしたの?」
この後に及んで心配してくるS井。
「優しいなぁ、ありがとう。」
言いたかった。
「S井、本当にありがとう。」
言いたかった。
でも、言えなかった。
僕は机に突っ伏したまま、授業が始まるまで何とか持ちこたえた。