十一
夏休みが終わったら何が待っているかというと、そう、体育祭だ。
生徒よりも先生の方が熱を持って取り組むそれは、S野先生も例外ではなかった。
「今年は皆さん、勝ちましょう!」
その声に、僕を含めたクラスの男子は雄たけびを上げて盛り上がる。こういう時はノリに乗った方がいい。
その日から、体育祭への練習が始まった。
――――割愛。
体育祭当日。
運動場の石灰で区分けられた空間に、ビニール袋で足を覆った木の椅子を詰めて置く。この作業が体育祭で一番嫌いな作業だ。二番目は綱引き。理由は体操服の脇が汚れるから。
さてと、僕が体育祭でどんな種目をするのかなんてことは至極どうでもいいことで、なぜなら僕やS野先生は綱引きと大縄跳びで学校一位を取ることしか考えていなかったのだ。
S野先生の熱の入り具合は異常だった。それに感化されて一人、また一人と集団競技に熱を入れていく。毒のあるT村なんかは最後まで嫌々だったけど、でもわざと縄に引っかかったり綱を引く力を抜いたりなんてことはしなかった。
そうして全員が全力を出して取り組んだ体育祭は――――
――――学年三位とかだった。
一学年八組まであるマンモス校なので、喜ぶべきことなのだけど、でもなんだかんだ言って一位が欲しかった。
僕は悔しかったけど、S野先生は目を細くして笑って喜んでいた。N村は僕と同じで悔しがっていて、S井は特になんとも思ってないようだった。T村は他クラスの不正を疑っていた。
でももう体育祭も終わり。一瞬で過ぎ去ってしまった楽しかった祭りは、ある一人の一言で、その色を塗り替えることになる。
僕が椅子を片付け始めたとき、僕のすぐ横にF原という女子がやって来た。
そして、誰にも聞こえないような小さな声で言った。
「二宮君って、K岡ちゃんと付き合ってるの?」
どうして。どうして今聞いたんだよおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!
「え、何それ?誰から聞いたの?」
なんて問い返す。すると彼女は淡々と、自然に流れで答えた。
「K岡ちゃんからだよ?」