声が出せない茅野さんは今日も明るい【短編】
「えー、であるからしてここは……」
冬休み明けの一月中旬、一番隅の窓側の席だからか暖房の付いた教室でさえ寒い。
窓を見てみればほんの少しだけ雪が舞っている。
五時間目の授業はやはり眠たい。
先生の言葉が右から左に突き抜けていく。
藤村 悠里は頬杖をつきながら授業を受けていた。
すると、右隣の席の女子生徒から肩をペンでつつかれる。
『寝ちゃダメですよ』
彼女はそう書かれたノートを悠里に見せる。
悠里も自分のノートに文字を書くと彼女に見せた。
『眠たそうにしてたか?』
『してました』
『とりあえず寝るから、授業終わったら起こしてくれ』
『寝ちゃだめですっ!』
『冗談』
悠里がそう書くと彼女はクスッと笑う動作をする。
彼女の名前は佐島 茅野。
去年の九月に転校してきたばかりの転校生である。
綺麗な黒髪をしたロングヘアに長いまつ毛、整った顔立ちをしていて、肌も白い。
よく笑う彼女は関わると面白い。
けれど茅野には一つ問題があった。
それは声が出せないということ。
九月、転校してきた彼女は大きなスケッチブックを持って現れた。
自己紹介は全てそのスケッチブックに書かれていて、一言も喋らなかった。
ただ、茅野はその性格から声が出せなくても人気者。
喋れなくても声は聞こえるし、いつも笑顔なのでクラスの中心的人物になっている。
『どうしましたか?』
悠里が茅野をじーっと見ていたので、茅野はそう聞いてくる。
『何でもない、ぼーっとしてた』
『寝る一歩手前じゃないですか』
『気をつける』
『でも、悠里くんの寝顔も見てみたいです』
悠里はそんな茅野の言葉を軽く笑って受け流すと、視点を百八十度変えて窓の方を見る。
自分の表情を茅野に悟られないために。
(俺、やっぱり茅野のこと好きなんだな……)
悠里は声が出せなくてもいつも明るくて、笑顔の多い彼女のことが好きだった。
転校当初から何かと関わりがあって、仲良くなって、いつの間にか好きになっていた。
けれどおかしい。
悠里は声が出せるはずなのに「好き」の二文字がなかなか言えないのだ。
茅野はモテる。
だからこそ告白するなら一年生のうちにするしかない。
来年はクラス替えがあるので、別クラスになる可能性が高い。
ただ、簡単に言えるなら今の悩みがあるはずがなかった。
***
休み時間、悠里が次の授業の準備をしていると友人である河合 大斗がやってくる。
「よっ、悠里」
大斗は悠里の前の席に座ると、早々に悠里の机に突っ伏した。
「あー、まじで授業だりぃ」
「お前成績やばいんじゃないのか? 授業真面目に聞かないと」
「その通り、でもまだ高一だから挽回できる」
「......高二でお前が困っている未来が見えた」
「その時は俺に勉強教えてくれ、悠里」
大斗はあまり勉強が得意ではない。
しかし、悠里は勉強ができるのでテスト前はよく教えている。
とはいえ来年からはクラス替えなのでそんな機会も少なくなるだろう。
「もし同じクラスになれたらな」
「あー、そうじゃん、来年も同じクラスになれるといいなあ」
「......おう、そうだな」
「そんな微妙な反応をされると傷つくんだけど......もしかして俺のこと嫌いっ!?」
「ああ、いや、ちょっと別のことが頭に浮かんだから」
ふと、悠里は茅野の方を見る。
茅野は楽しそうに会話していて、その中には男子もいた。
そんな姿を見て、悠里は嫉妬と、焦燥感に駆られる。
「あー、茅野のこと?」
悠里の視線の先を見てか、大斗はそう言った。
「茅野のこと、まだ好きなのか?」
「ああ、好きだ」
「早く告白すればいいのに......多分、茅野もお前のこと好きだぞ」
「どうだか」
「だってお前と話してる時だけ明らかに雰囲気違うし」
「それは......仲良い、友達だし。でもだからこそ告白したら関係崩れちゃうんじゃないかって」
悠里が告白すれば前のような関係ではいられなくなる。
それが怖いのだ。
ただでさえ隣の席なので気まずくなるのは怖い。
「でも早くしないと取られるぞ。モテるし」
「......だな、だから一年終わるまでには気持ち伝えたい」
好きの二文字をなかなか言うことができない。
当たって砕けろの精神で行った方がいいのはわかっている。
けれど、やはり怖い。
茅野の隣に彼氏として立ちたい。
しかし、失敗して気まずくなりたくない。
「ていうか、告白失敗したとして、気まずくなるのはお前がその程度だったってことなんじゃないのか?」
「……どういうことだ?」
「だってよ、失敗してもまた友達としていればいいだけじゃん。そんなに難しく考える必要なくね?」
「まあ……一理ある」
このまま何もせずに終わるより、告白した方がいい。
そんなことを考えつつ、結局、告白の目処は立っていない。
しばらく会話をしていると、チャイムが鳴って、大斗は自分の席に戻った。
授業中、右隣の茅野をチラリと見ると、綺麗な横顔が悠里の視界に映る。
その姿に惹かれるとともに、自分に対してのやるせなさで小さくため息をついた。
***
「……雨か」
日曜日の午前、悠里が窓を見ると外では雨が割と強く降っていた。
休日だからどこか昼食に食べに行こうと思っていたが、今日は家で食べた方がいいだろう。
悠里はマンションの一部屋を借りて一人暮らしをしている。
高校に入って、親に一人暮らしをしたいと頼んで、一人暮らしさせてもらった。
おかげで毎日親のありがたみを実感させてもらっている。
家事も自分でやらなければならないので、今日の朝も掃除や洗濯で二時間ほど潰れている。
部活は所属していないので楽だが、もし所属していればなお大変だっただろう。
勉強と部活の両立は一人暮らしだと大変そうだ。
掃除が一通り終わったので、悠里はテレビをつけてくつろぐことにした。
ちなみにテレビはつけていても、実際は見ていない。
テレビを流す傍らでスマホをいじっている。
無音のリビングで一人というのは孤独を感じるので、テレビをつけないと落ち着かないのだ。
そんなことをしていれば時刻はもう十二時半。
(カップ麺でも食べて、午後からは勉強するか……)
悠里は台所に行き、インスタントフードが入れられた棚をあける。
しかし、どういうわけか、ひとつもインスタントがない。
「……あれ?」
悠里はふと昨日の記憶を思い出す。
(昨日夜食食べて……カップ麺ないから買いに行かないと、ってなって……あ)
すっかり忘れていた。
悠里はこの雨の中、外に出なければならないらしい。
作るのは面倒くさいのでそれなら少し濡れても外食した方がいい。
ついでにスーパーでカップ麺を買っておこう。
悠里は少し大きめの傘を持って外に出た。
扉を開けると雨の音がより鮮明に悠里の耳に入ってくる。
そして傘をさして、雨の中を歩き始める。
冬の雨は気温がさらに低くなる上に、濡れたら体が凍りそうになる。
(どこ行こうかな、やっぱりファストフードか……でも牛丼も食べたいな)
そうして悠里がそういった店が多くある場所に向かおうと公園を通り過ぎようとした時。
見覚えのある姿が屋根の下、ベンチで足をぶらぶらとさせながら雨を眺めていた。
傘は持っていない。
「……茅野?」
悠里が公園に入って、近づくと、やはりその姿は茅野で間違いなかった。
しかし、どこにも傘はなく、ただぼーっと雨を眺めている。
「茅野、傘ないのか?」
悠里がそう声をかけると、茅野はこちらに気づく。
茅野は悠里のそんな問いに対して頬をかきながらはにかんで笑った。
やはりないのか、と思っていれば、茅野は悠里からは見えなかったところから折り畳み傘を見せる。
「あるのかよ……じゃあこんなところで何してるんだ?」
「……」
茅野は少し悩む素振りを見せた後、自身の隣のスペースをポンポンと叩く。
そのジェスチャーに従って、悠里は茅野の隣に座った。
「……」
しかし、茅野は雨を眺めるばかりで話そうとしなかった。
聞こうと思った。
けれどその横顔は少し悲しそうな表情をしていて、野暮だと思い、聞くのをやめた。
「……俺が茅野に傘貸した日って覚えてるか?」
茅野はこくっと頷く。
悠里が茅野と仲良くなったきっかけは、雨の日、傘の持っていない茅野に傘を貸したことだった。
そこから仲良くなって、友達になった。
「今日もまた傘忘れたのかと思ってたけど……あるなら良かった」
『朝から雨ですし、流石に持ってますよ』
「流石にな、また傘貸そうかと思ったんだけどな」
『もし私が傘持っていなかったら?』
「茅野に傘を貸して、ずぶ濡れで帰る」
『相変わらずですね笑』
そんな話をして、また会話が止まる。
何かを話そうと思っても、茅野の顔を見て、明るい話も、詮索もできなかった。
しばらくして、茅野はまたメモ帳に文字を書き出した。
『ちょっとだけ、お話聞いてくれますか?』
「もちろん……俺でよければ」
そうして茅野はメモ帳に文字を書き始める。
しかし、その手は徐々に震え始めて、止まった。
茅野を見てみれば、涙を一滴、二滴、メモ帳に垂らしていた。
メモ帳の紙は濡れて、その跡は徐々に増えていく。
「……茅野、大丈夫か?」
メモ帳をチラリと見てみれば『昨日の夜、お母さんが』とだけ書かれていた。
やがて茅野は悠里の服の裾を引っ張る。
茅野はポツポツと涙を流しながらぎゅっと掴んでいた。
そして茅野は自身の額を悠里の肩に押し付ける。
悠里はそんな茅野を見て、何かしてあげたかった。
何があったのかは知らない。
ただ、いつも明るい茅野が泣いている姿は悠里としても耐えられなかった。
「……抱きしめた方がいい……か?」
悠里はそう聞いてみる。
ただ、言ってみて悠里は自分で自分に引いてしまう。
「ああ、いや、やっぱり何でもない、今のは忘れて……」
しかし、茅野は顔を見せないまま、小さく頷いた。
悠里はそんな茅野を自身の腕の中に収めた。
茅野の鼻水を啜る声が聞こえるたびに、悠里は茅野の背中を優しくさすった。
それからしばらくして、茅野は落ち着き、悠里から離れる。
目は真っ赤だったが『ありがとうございます』と書いたメモをはにかみながら見せる。
「落ち着いたか?」
『もう大丈夫です。ありがとうございます』
茅野は息を整えると、ことの顛末を説明し始める。
『昨日の夜、お母さんが倒れたんです。それで不安で不安で、どうしたらいいかわからなくなって、雨を眺めていました』
「その……お母さんは?」
『病院のベットです。まだ目を覚ましていません』
「そっか」
『泣くつもりじゃなかったんですけどね。すみません』
茅野は笑って誤魔化す。
しかし、そんな取り繕った笑顔を見て悠里の心は痛んだ。
親が倒れて、目を覚まさないのだ。
茅野からしたら不安で仕方がないだろう。
『今から見舞いに行くつもりなんですけど、正直行くのが怖くて』
茅野は言葉を続ける。
『お母さんの顔見たら、また泣いちゃいそうで』
茅野はぎゅっと拳を握るが、すぐに力を弱めた。
落ち着いても、まだ茅野の不安は残っている。
悠里は言葉をかけてあげることができなかった。
どう言葉をかけたらいいか、わからなかった。
「……そっか」
好きどうこう関係なく、友達として茅野を助けたい。
だからできることがあれば何でも……。
『悠里くん、よければお見舞いについてきてくれませんか?』
***
「……」
病院の屋上、悠里と茅野はフェンス越しに街の景色を見ていた。
茅野の母の見舞いに行くと、まだ目を覚ましていない状態でベッドで眠っていた。
そしてその間、茅野はずっと悠里の小指を握りしめていた。
やがて外の空気が吸いたいとなって、今はこうして病院の屋上にいる。
『ねえ、悠里くん』
「どうした?」
『私の秘密、言っていいですか?』
「秘密?」
『秘密です、絶対誰にも言わないでください』
「ああ、誰にも言わない」
『二人だけの秘密ですからね』
茅野はニコッと笑った。
そんな笑みに悠里の鼓動は一瞬ドキッと跳ね上がった。
二人だけの秘密。
それだけ悠里が信頼されているということだろう。
にしても改めて秘密とは何だろうか。
『実は私、本当は喋れるんですよ』
「……え?」
『喋れないのは、単に喋り方を忘れたからなんです』
「病気とかで喋れないわけじゃなくて?」
『ある意味病気ですけどね』
本当は喋れるとはどういうことだろうか。
茅野と接してきて、茅野の笑い声すら聞いたことがない。
だから茅野は病気でしゃべれないものと思っていたわけなのだが、違うのだろうか。
そう疑問に思っていると茅野は続ける。
『実は私、小さい頃に父親を事故で亡くしてるんです。私の目の前でなくなりました』
「……まじか」
『私を庇って、トラックに轢かれました』
強く、冷たい風が二人の間に吹く。
茅野は微笑みながら話していたがその目は笑っていなかった。
『多分、ショックでしょうね。その時から、声の出し方を忘れて、しゃべれなくなっていました』
「……」
『だから今回、お母さんが倒れて、今もまだ目を覚まさなくて』
茅野の手はだんだんと震えて、書くスピードも早くなっていく。
そしてそれに伴って、文字も汚くなっていった。
『お母さんには私が声が出せないばかりに迷惑ばかりかけて、私のために一人頑張ってくれているのに倒れて』
茅野はまた感情的になっていた。
文字を綴ろうとしたが、悠里はそれを止める。
そして何も言わずに、ただ抱きしめた。
「……辛かった……な」
気の利いたことは言えなかった。
ただそれだけしか言えなかった。
「茅野は頑張ってる、頑張ってるから、自分を責めなくていい」
「……」
鼻水を啜る音が聞こえる。
また、泣いているのだろう。
悠里は茅野の気持ちはわからない。
しかし、茅野が今辛い思いをしていることだけはわかる。
だから悠里はそれを支えたかった。
「辛かったら俺にいつでも言ってくれ、支えになる。そばに居るから」
悠里がそう言うと茅野は悠里から離れる。
その頬は少し赤かった。
『なんか告白みたいですね』
「あっ、い、いや、別にそう言うわけじゃ……」
『わかっていますよ、冗談です』
そんな会話をしたあと、寒くなった悠里と茅野は病室に戻った。
病室に戻って、また会話して、三十分後のことだった。
茅野の母が目を覚ました。
また泣き出して、茅野は母に抱きついた。
***
私は隣の席の悠里くんのことが好きだ。
転校してきたこの学校で、みんなが私によくしてくれた中、彼は少し無愛想だった。
あまり表情を変えないので何を考えて居るかよくわからなかったし、正直怖かった。
けれど、私が傘を忘れて立ち往生した時、自己犠牲してまで貸してくれたのは悠里くんだった。
それが悠里くんとの出会い。
色々あって、仲良くなって、友達になって。
私は自分で言うのも何だけど容姿がいい。
だからよくトラブルに巻き込まれる。
けれどしゃべれないから、なかなか自分で解決できない。
そんな時に助けてくれるのはいつも悠里くんだった。
母が倒れた時も、泣いていた時も、支えてくれたのは悠里くんだった。
彼と接するたびに彼への好感度は上がっていて、気づいたら好きになっていた。
悠里くんは誰が好きなのかな。
最近、一緒にいてくれるけど私のこと好きなのかな。
悠里くんは私が声が出せない、そんな私のことを好きになってくれるかな。
声が出せない私は「好き」の二文字すら言えない。
私が声が出せないのは精神的なもの。
だから本当は出せるはずなのだ。
……ただ、声の出し方を忘れてしまった。
声を出そうと毎日頑張ってみて、口をぱくぱくするだけ。
まだ私は過去を克服できていない。
母親はゆっくりでいいから、焦らなくていいから、と言ってくれる。
けどもうそんなことは通用しない。
悠里くんに「好き」ってちゃんと自分の言葉で言いたい。
一年生が終わるまでに告白しないと、距離が遠くなって、多分卒業までに告白できない。
今頑張らないと、頑張らないといけない。
それなのに……。
「……」
私は鏡の前に立って喋る練習をしてみる。
ただ、やはり声が出ない。
なんで、なんで……。
焦って、声を出そうとして、喋れるかも……そう思ったとき。
急に父親が轢かれる映像がフラッシュバックして、胃から食べ物が逆流してきそうになる。
私はそれを押さえ込んで、どうにもならないのに涙を流した。
好きって言いたい。
その二文字だけ、二文字だけでいい。
私は悠里くんに、いつかちゃんと自分の気持ちを言いたい。
***
「悪いな、茅野、掃除当番手伝ってもらっちゃって」
放課後の教室内、悠里がそう言うと、茅野は親指でグッドマークを作った。
風邪が流行っているようで、教室の掃除当番三人のうち、二人が休んでいたのだ。
一人で頑張るしかないかと思っていたところ、それを見かねた茅野が手伝ってくれている。
教室で茅野と二人きり、そんな状況に悠里の心臓は音を立てている。
ただ、悠里は自分の煩悩を必死に頭を振って打ち消す。
「よし、掃除終わり、じゃあ帰るか」
二人で掃除すること十分、教室の掃除がすべて終わった。
教室のゴミ袋を交換して、それを捨て場に捨てて、掃除当番の役割は終わりである。
『途中まで一緒に帰りませんか?』
「そうだな」
二人はそうして放課後の道を共に歩いていく。
基本的に茅野と歩くときは無言だ。
歩きながらメモ帳に文字なんて書けないので、会話することはない。
イエスかノーで答えられる質問ならすることはあるが、それでも必要な時だけ。
「……」
「……」
けれど、そんな無言の空間が心地よくて、無駄にドキドキとしてしまっていた。
心地いい、そう感じるのは茅野のおかげだ。
ドキドキとしてしまっているのは茅野のせいだ。
やがて、車もあまり通らず、人もいないような道に入って、悠里は立ち止まった。
それに気づいた茅野も悠里の少し先で立ち止まる。
「なあ、茅野」
関係が壊れてしまうかもしれない。
それでもこれ以上悠里は自分の気持ちが我慢できなかった。
悠里は息をいつもより多く吸ってから、言った。
「俺、茅野のことが好きだ」
冷たい風が大きく吹いて、けれど、熱くなっている自分の体を冷やすには不十分だった。
「……」
茅野は目を見開いた。
「だからさ、俺と付き合って……ください」
少し、急すぎただろうか。
しかし、やっぱりなし、言ってしまった以上そうは言えない。
茅野はしばらく、悠里を見ていた。
どんな反応をするかドキドキとしていた、が、茅野はニコッと笑った。
何かをメモ帳に書くとそれを悠里に見せる。
『一回しか言わないから、よく聞いてくださいよ』
そして茅野は悠里に近づいて、耳元で囁く。
「……好き、悠里くんっ!」
初めて聞いた彼女の声は、透き通った声で、可愛らしくて。
悠里が呆然としていると、茅野は頬を赤くしながらはにかんで笑う。
そして茅野は背伸びをして、悠里の頬に口付けをした。