アルテミス学園特殊技能科ー保土ヶ谷へ
東神奈川駅を過ぎ間もなく横浜というところで雨が降ってきた。
「神奈川駅で少し雨宿りをしましょう」
リサ先輩がボクたちの前に回り込んでそう言った。
「もう少しで横浜ですよ。このくらいの雨なら平気ですよ。行きましょう」
ヤジロウははりきっているところを先輩に見せようとそんなことを言ったが
「おそらくゲリラ豪雨になる。雨宿りが必要だ」
大神がそう言うならそうなるってことは間違いない。昨日の夜の出来事を思い出した。
「輝也が言うならそうするよ」
くるっと向きを変えて自転車をこぎ出した。そこはさすがヤジロウだった。アオイもアカネもそれに続いた。神奈川駅に着くと駅構内に自転車ごと入っていった。運航停止の張り紙だけがボクたちを待ち受けていてほとんど人影もいなかった。
リサ先輩は柱の陰に隠れて何かしているようだ。ボクはそっと覗いてみると空間に天気図のようなものが浮かんでいた。
「リサ先輩、そのウインドウはどうしたんです」
ぎくりと驚いてボクの顔を見る。
「あなたこれが見えるの」
「パパが同じことをしているのよく見ているから」
ホッとしたような表情を浮かべ
「もっと早く気がついていないとあなた八雲先生の娘さん」
「パパが先生?」
「あら知らなかったのアルテミス学園で特別講習をしてくださっていたのよう。陰陽道の授業を」
ボクの学校にそんな授業があるなんて知らなかった。
「そんな授業があるんですか」
「高等部には特殊技能科があるでしょ」
そう言えば普通科と体育科とそんな変な科があったな。そんなことをしている科なんだ。初めて知ったアオイなら知っているかもしれないけど
「天気を卦で見ていたの台風が近づいているのかな線状降水帯が出来ている。小一時間で抜けそうなのでその時再出発しましょ」
陰陽師って便利だなスマホがいらないんだ。気が付くとヤジロウがいないどこに行ったのかな?
「パンもらったよ。ここに入るときに開いてそうな店を見つけたんでもしかしてと思って行ってみたらあったんだよ」
紙袋にいっぱいの焼き立てのパンを得意げに見せる。
「おじさんに神戸に帰る途中だって言ったらがんばれよってただでくれたんだ」
すごく優しい店主さんだ。自分の店も大変なのにいち早く店を開けて復興に向かっているんだ。
「喜多屋君、すごいわね。ありがたくいただきましょう」
先輩に褒められてめちゃくちゃ喜んでいた。やがて豪雨になっていき構内にも雨水が流れ込んできた。あのまま走っていたらびしょぬれになっていた。
先輩の卦の通りそれからすぐに雨が止み晴れ間が見えてきた。
「行くよ花の二区だよ」
花の二区?なんのことだ。
「ヤジロウ二区ってなんだ」
「アオイ、正月に駅伝見ないの鶴見でタスキがつながれて戸塚までだよ」
そうか箱根駅伝か東海道はコースだ。さすが陸上部そんなとこも抜け目ないというより箱根駅伝が本当の目的か。
「そよね、今日は保土ヶ谷で宿泊しましょう」
「戸塚まで行きましょうよリサ先輩」
「あなた駅伝詳しんでしょ、権太坂忘れてない」
「ああそうだ」
「ヤジロウ何があるの」
「上り下りの繰り返しが待ち受けているんだこれまで平坦だったけど大変だよ。準備して臨まなくっちゃ」
ボクたちは横浜、神奈川宿を過ぎ保土ヶ谷にたどり着こうとしていた。ヤジロウは駅伝に気がいっていて神奈川宿のうんちくを忘れていた。保土ヶ谷に着いたら聞いてみよう。なんだかんだ言って東海道五十三次にボクもはまっていったのだった。